デスメタル (Death Metal) は、ヘヴィメタルのジャンルの一種。
概要
現在は特定の音楽性を指した言葉として定着しているが、そもそもは死や死体、地獄などが歌詞のテーマとして多く出てくるスラッシュメタルのバンドを形容した呼称であった。「アグレッシブでよりエクストリームなスラッシュメタル」と表現されることのある音楽を展開したバンド、デスが元祖デスメタルと呼ばれるのには、このような理由がある。ルーツとしては、スラッシュメタルから派生していると言われている。
古くはナパーム・デス、近年ではナザムを筆頭とするグラインドコアはデスメタルと音楽的に近い関係にあるが、こちらはハードコア・パンクのサブジャンルであるため、破滅的ではなく社会への不満などをテーマに置いている点で異なる。ただし、ゴアグラインドは、テーマの点においても(やや指向が異なるものの)デスメタルと似通っている事が多い。アット・ザ・ゲイツやカーカス、ディスメンバーなどはいち早くデスメタルに叙情的なメロディを持ち込み、「メロディックデスメタル」と呼ばれるスタイルを開拓した。また、1990年代後半以降アメリカに出現したダイイング・フィータス、ディーズ・オブ・フレッシュなどの複雑かつキャッチーな音像を特徴とするデスメタルは「ニュースクール」と呼ばれる。これに対して、モービッド・エンジェルやディーサイドなどの古くから活動しているバンドは「オールドスクール」と呼ばれる。
特徴
主なデスメタルの特徴としては、以下のような傾向が挙げられる(ただしどの項目にも多数の例外があり、一概には言えない)
- ダウンチューニングを施したギター、ベース。
- 半音階で構成された和音やコード進行の多用。展開形やテンションコードの前衛的な利用。
- テンポの急激な変化、手数の多いドラム、複雑なギターリフ
- 複雑なリズム展開、曲展開(一般的な、ヴァース→コーラス→ヴァース……の展開に従わない)
- 高速のスラッシュビート、ブラストビートなどの特殊なドラムパターンの多用
- デスヴォイスの使用(メロディを廃し、うなり叫ぶ歌唱法)
- 歌詞のテーマは主に、死、殺人、反宗教、異教信仰、性的倒錯、社会批判、苦痛、など。
デスメタルでは各パートが一体となって形成するリフとリズムが特に重要な役割をもつ。
最も主張の強いパートはギターの場合が多い。スラッシュメタルのようにリズムを刻むリフも多くあるが、蠢くような高速の単音リフや不気味なコードワークをジャンル固有の特徴としている。単音を左右で2本重ねてコードを作るパターンを多く用いるため、ツインギター/ツインリード編成のバンドが非常に多い。生粋のデスメタルにおいてはメロディアスといえるほどに流麗なギターリフは少ないが、独自の雰囲気を持ったリードを執ることが多い。また、モービッド・エンジェルやオビチュアリーなどギターソロに独自のメロディを盛り込んで個性を持たせているバンドも数多くいる。
ベースはギターの低音域を支えるだけの単純で目立たないものも多いが、カンニバル・コープスのようにテクニカルに動き回るベースリフを入れたり、ツインギターにあわせて高音を弾いてトリプルリードのような進行を作ったりするなど、幅広く用いられている。
ヴォーカルは他の音楽ジャンルと異なり、メロディをほとんどもたず、『歌詞をともなったリズム楽器』としての役割が強い。叫ぶといってもスタイルは様々で、太い低音、掠れた低音、中音域の絶叫、嗚咽のような咆哮、ゴロゴロとした超低音(グロウル/ガテラルなどと呼ばれる)など多岐に渡る。
またそれら全てを支えるドラムは特に重要な役割をもつパートで、ドラマーの個性と音作りが曲の雰囲気を左右する事もある。デスメタル特有のギターリフは単体では決まったリズムを持たない場合が多く、そういったリフはドラムが全てを牽引することになるためである。メタルシーンにおいて著名な高いテクニックを持つドラマーは、前述のバンドメンバーを含めこのジャンルにも数多く存在している。
初期のデスメタル、特にアメリカのものは、ルーツであるスラッシュメタルの影響が大きかった。また、グラインドコアとデスメタルは、互いに影響を与えつつ発展して来たジャンルだが、最近は特にグラインドコア寄りのアプローチを示すバンドも多く、厳密に両者の区別をつけるのは難しい。グラインドコア、ファストコアに比べれば体感速度は劣るが、デスメタルのドラムプレイは他のエクストリーム・ミュージックと比べてもBPMが高いものが多い。
歴史
1980年代
デスメタルは1980年代後半頃、スラッシュメタルの影響下に生まれた。中でもカリフォルニアのポゼストは、デスメタルの成立に大きな影響をあたえている。テクニカルで複雑な展開や悪魔的な歌詞は、後にデスメタルと呼ばれる音楽の原点になっている。ポゼストの1stアルバムには、「Death Metal」というタイトルの曲も入っている。スラッシュメタルとデスメタルの架け橋となったバンドは他に、セルティック・フロスト、スローター、マスターなどがいる。また、デスメタルと直接の関係は無いものの、ソドムやスレイヤーもデスメタルのルーツとして挙げることができる。
1980年代後半に入ると、アメリカフロリダ州のタンパを中心にデス、オビチュアリーなど、第一世代のデスメタルバンドが続々と出現する。この頃のデスメタルは、デスヴォイスが既に使われているものの、まだスラッシュメタルの延長線上にあり、「スラッシュメタルと呼ぶ方が妥当だ」と感じる人もいた[要出典]。また、最初期のデスメタルはハードコア色の強いスラッシュメタルが多かったが、この時期になるとデスメタルの独自のサウンドが確立されるようになる。
日本ではHellchildがスラッシュメタルのサウンドで活動していたが、Deathからの影響を受け徐々にデスメタルへと移行[1]。同時期に活動していたグラインドコアバンドMULTIPLEXと共に、当時の日本のデスメタル/グラインドコアシーンを作り上げていく存在となる。他にもVoidd、BELETH、NECROPHILEなどのバンドが存在した。
1990年代前半
1980年代の終わりから1990年代の初め、デスやオビチュアリー、モービッド・エンジェルはアンダーグラウンドで人気を高めてゆき、デスメタルは一種のブームになる。この時期のアルバムには、アメリカフロリダ州のタンパにあるレコーディングスタジオ「モリサウンド」で録音された物が多く、フロリダはUSデスメタル・シーンの中心だった。また、ジャケットのアートワークの多くは、新進気鋭のダン・シーグレイヴがつとめていた。スコット・バーンズも、数々のデスメタルバンドのプロデュースを手掛けたことでシーンの有名人物だった。これらはこの時代のデスメタルのシンボルだとも言える。
前述のバンドに加え、ディーサイド、カンニバル・コープスなどはアンダーグラウンドに留まらない商業的成功を収める。サンライト・スタジオのあったスウェーデンもデスメタルの人気が高く、エントゥームドやディスメンバーが代表的なバンドに挙げられる。ただし、その後のスウェーデンのシーンはイエテボリのメロディックデスメタルが中核を担うようになり、純粋なデスメタルは衰退の道をたどる。ヨーロッパのデスメタルは全体的に見て、アメリカよりもディスチャージやセルティック・フロストの影響が強い。1990年代中頃になると、大手のレコード会社(特にロードランナー・レコード)がデスメタルバンドとの契約を取らないようになり、デスメタルのブームは収束の方向に向かう。
この時期はデスメタルの一般的なスタイルが定着すると共に、デスメタルのスタイルの分化も認められる。デスは4thアルバム『ヒューマン-Human』以降、変拍子や複雑なリフを主体とした曲を書くようになるが、このスタイルは一般的にテクニカルデスメタルもしくはプログレッシヴデスメタルと呼ばれている。ジャズ、フュージョンの要素を取り入れたエイシストやシニックもこのジャンルに入る。また、オートプシーはスロウパートの多さが特徴のドゥーミーなデスメタルを展開した。サフォケイションやクリプトプシーはフロリダのデスメタルより複雑なリフを特徴とし、1990年代後半のアメリカのシーンに大きな影響力を持つことになる。
1990年代後半
1990年代後半のシーンは、1990年代前半と比べて全体的にアンダーグラウンドの役割が大きい。アメリカでは、ブラストビートを主軸とし、次々とリフを変える複雑な演奏を特徴とするバンドが多く現れた[注 1]。また、ファストパートからグルーヴィなミドルパートになだれ込む、ビートダウンも多くのバンドが使うようになる。サフォケイションなどは早くからビートダウンを使っていたが、1990年代後半に入りダイイング・フィータスやディバウメントのように影響力のあるバンドがビートダウンを取り入れたことで、多くのバンドが曲中にビートダウンを入れるようになった。
独自のスタイルが確立されたテキサスやニューヨークでは、多くのデスメタルバンドが誕生した。日本ではDEFILED、VOMIT REMNANTSらが活躍した[2]。
2000年代後半
2000年代に入ってからは、アメリカ以外の国でもこれらニュースクールのバンドが出現し、今では主流のサウンドになっている。アメリカ以外では、ブラジルやインドネシア、コロンビアのバンドが独特のサウンドを持っている事で有名である。また、ポーランドも多くのデスメタルバンドを輩出している。日本ではGOREVENTやINFERNAL REVULSION、INFECTED MALIGNITY、WOUNDEEP、DISCONFORMITYなどが誕生してシーンを盛り上げている[2]。
扱うレーベル
- Amputated Vein Records(アンピュテーテッド・ヴェイン・レコード)
- Brutal Bands
- Black Mark Production(ブラック・マーク・プロダクション)
- Century Media(センチュリー・メディア)
- Deadsun Records(デッドサン・レコード)
- Earache Records(イヤーエイク・レコード)
- Konklav Records(コンクラヴ・レコード)
- Macabre Mementos Records
- Metal Blade Records(メタル・ブレイド・レコーズ)
- Nice To Eat You Records
- Nuclear Blast(ニュークリア・ブラスト)
- Obilteration Records
- Osmose Productions(オスモス・プロダクション)
- Peaceville Records(ピースヴィル・レコード)
- Relapse Records(リラプス・レコード)
- Shredded Flesh Productions(シュレッディッド・フレッシュ・プロダクション)
- TXDM Records
- Xtreem Music
- United Guttural Records
- Unique Leader Records(ユニーク・リーダー・レコード)
- Unmatched Brutality Records
主なバンド一覧
※ メロディックデスメタルのバンドは別項にて記載。詳しくはメロディックデスメタルのページへ
アメリカ
- Abiotic
- Abscess
- Acheron
- Angel Corpse
- Artery Eruption
- Atheist(エイシスト)
- Autopsy(オートプシー)
- Arsis(アーシス)
- Brain Drill(ブレイン・ドリル)
- Between The Buried And Me(ビトウィーン・ザ・バリード・アンド・ミー)
- Brodequin
- Broken Hope
- Cannibal Corpse(カンニバル・コープス)
- Carnifex
- Cattle Decapitation(キャトル・デカピテイション)
- Cinerary
- Condemned
- Cryptopsy
- Cynic(シニック)
- Dååth(ドス)
- Death(デス)
- Decrepit Birth
- Deeds of Flesh(ディーズ・オブ・フレッシュ)
- Deicide(ディーサイド)
- Derketa
- Devourment(ディヴァウアメント)
- Disgorge(ディスゴージ)
- Disincarnate
- Divine Heresy(ディヴァイン・ヘレシー)
- Dripping
- Dying Fetus(ダイイング・フィータス)
- Enmity
- Exhumed(イグジュームド)
- The Faceless(ザ・フェイスレス)
- Fleshgrind
- Goatwhore(ゴートホア)
- Goratory(ゴラトリー)
- Gorgasm
- Graves of Valor(グレイヴス・オブ・ヴァラー)
- Guttural Engorgement(ガッテュラル・エンゴージメント)
- Hate Eternal(ヘイト・エターナル)
- Hateplow(ヘイトプロウ)
- Immolation (イモレイション)
- Impending Doom(インペンディング・ドゥーム)
- Jungle Rot(ジャングル・ロット)
- Job For A Cowboy(ジョブ・フォー・ア・カウボーイ)
- Malevolent Creation(マルヴォレント・クリエイション)
- Malignancy
- Massacre(マサカー)en:massacre
- Master
- Misery Index(ミザリー・インデックス)
- Monstrosity
- Morbid Angel(モービッド・エンジェル)
- Nile(ナイル)
- Nocturnus(ノクターナス)
- Nunslaughter
- Obituary(オビチュアリー)
- Origin(オリジン)
- Six Feet Under(シックス・フィート・アンダー)
- Skinless(スキンレス)
- Splattered Entrails(スプラッタード・エントレイルズ)
- Success Will Write Apocalypse Across the Sky(サクセス・ウィル・ライト・アポカリプス・アクロス・ザ・スカイ)
- Suffocation(サフォケイション)
- Suicide Silence(スーサイド・サイレンス)
- Vital Remains(ヴァイタル・リメインズ)
- Whitechapel(ホワイトチャペル)
- Winds Of Plague(ウィンズ・オブ・プレイグ)
- With Blood Comes Cleansing
カナダ
- Beneath The Massacre
- Cryptopsy(クリプトプシー)
- Despised Icon(ディスパイズド・アイコン)
- Gorguts
- Kataklysm(カタクリズム)
- Neuraxis
メキシコ
- The Chasm en:The Chasm
ブラジル
ウルグアイ
- Inner Sanctvm
コロンビア
- Amputated Genitals
- Masacre
チリ
- Death Vomit
- Necro Dead
イギリス
- Annotations Of An Autopsy(アノテーションズ・オブ・アン・オートプシー)
- Benediction
- Bolt Thrower(ボルト・スロワー)
- Cancer
- Carcass(カーカス) ※中期
- Gorerotted(ゴアロテッド)
- My Dying Bride ※初期
- Napalm Death(ナパーム・デス)
- Paradise Lost(パラダイス・ロスト) ※初期
- Sylosis (サイロシス)
- Trigger the Bloodshed(トリガー・ザ・ブラッドシード)
ドイツ
フランス
ベルギー
- Emeth
- Aborted en:Aborted
イタリア
- Fleshgod Apocalypse (フレッシュゴッド・アポカリプス)
- Necrodeath
- Sadist (サディスト)
スウェーデン
- Bloodbath(ブラッドバス)
- Carnage(カーネイジ)
- Centinex(センティネクス)
- Ceremonial Oath(セレモニアル・オース)
- Deranged(ディランジッド)
- Dismember(ディスメンバー)
- Desultory(デサルトリー)
- Entombed(エントゥームド)
- Grave (グレイヴ)
- Hypocrisy(ヒポクリシー)※初期
- Miseration(ミザレーション)
- Necrophobic(ネクロフォビック)
- Soils of Fate
- Spawn of Possession
- Therion(セリオン)※初期
- Tiamat(ティアマット)※初期
- Unleashed(アンリーシュド)
- Opeth(オーペス)
ノルウェー
フィンランド
デンマーク
- MNEMIC
- Thorium
ニュージーランド
- In Dread Response
- Ulcelate
オーストラリア
- The Berzerker(ザ・バーザーカー)
- Disembowelment
- Mortfication
オーストリア
オランダ
- Asphyx nl:Asphyx
- Brutus
- Disavowed
- Gorefest
- Hail of Bullets(ヘイル・オブ・ブレッツ)
- Pestilence(ペスティレンス)
- Pyaemia
- Severe Torture
スペイン
- Avulsed
- Wormed
ポルトガル
- Thirdsphere
ロシア
- Abominable Putridity(アボミナブル・ピュトリディティ)
- Katalepsy
ウクライナ
- DATURA(ダトゥラ)
- 1914
ポーランド
チェコ
スロバキア
- Sanatorium
ブルガリア
- Nangilima
ギリシア
- Soul Skinner
日本
- Abort Mastication
- Amygdara
- 妖神楽 AYAKASI KAGURA
- BEREAVED
- Birth Asphyxia
- BLEEDEAD
- Blunt Force Trauma
- Death I Am
- Defiled
- Detritum
- Diclonius
- Disconformity
- Gorevent
- GxSxD
- Hydrophobia
- Infected Malignity
- Infernal Revulsion
- Inhuman Devotion
- Myocardial Infarction
- Rest In Gore
- 懺鉄
- SUBCONSCIOUS TERROR
- TotentanZ
- Vomit Remnants
- Parasitario
関連ジャンル
関連項目
- 伊藤政則
- 酒井康 - ヘヴィ・メタルが専門のロック評論家
- デトロイト・メタル・シティ - 架空のデスメタルバンド「Detroit Metal City」を主人公にした若杉公徳のギャグ漫画作品。アニメ化、映画化もされた。しかし、作中のバンドはスタイルや価値観などが正統なデスメタルとはかなり異なる[注 2]。
脚注
出典
外部リンク
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