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1本の綱を両側から引き合って競うスポーツ ウィキペディアから
綱引き(つなひき)は、2つのチームが一本の綱をお互いの陣地に向けて引き合い、勝敗を競う競技である。(その表記について、日本綱引連盟は「綱引き」ではなく「綱引」を採用している。)英語では Tug of war (sports) 。
綱引きは、複数人数からなるチームで一本の綱を両側から引き合って、その移動を競う競技である。団体戦であること、ルールが単純明快であること、またチーム分けによって力量の配分などに公正化が図りやすいこともあり、世界的にも広く親しまれている競技である。その反面、高度化したものではテクニックや戦略といった要素も多分に絡み、競技としての奥深さも存在する。
オリンピックでは1920年のアントワープ大会まで正式競技であった。2020年現在、ワールドゲームズで正式競技である。2002年には国際綱引連盟 (TWIF) が国際オリンピック委員会 (IOC) に加盟し、オリンピック競技への復帰を目指している。
多くの場合において綱引きは両チームの力量・テクニック・総重量が近接しているほど盛り上がる傾向もあり、競技を純粋に楽しむ上では様々な面からチームの平均化が図られる。
この項では、競技スポーツとしての綱引きについて説明する。
競技場はレーンと呼ばれ、平坦で水平でなければならない。室内のインドアと、屋外のアウトドアがある。インドアではカーペットのマットやウレタンゴム製の専用レーンマット等を使用する。体育館の床が使用できる場合はラインテープによるマーキングでも構わない。ラインは、競技場の中央に赤いセンターラインを引き、両側2mに白いラインを引く。ラインの幅は原則として5cm。レーンの幅は90cm。
基本的に標準的なスポーツ用の服装である。ショートパンツ、襟つきの長袖シャツなどを着用する。腰を保護するためのベルトを腰に巻く場合もある。シューズはインドアでは綱引きシューズまたは滑りにくい平らなスポーツシューズを使用し、アウトドアではピンのついた綱引きブーツを使用する。素手で競技するが、滑り止めのために炭酸マグネシウムなどの使用が認められている。
長さ33.5m - 36m(小学生は28m - 30m)、外周10cm - 12.5cm(小学生は9cm - 10cm)のマニラアサでできた頑丈なロープが使われる。
ロープの中央に赤いマーキングを付け、中央から両側2m(アウトドアでは4m)の場所に白いマーキング、さらに両側0.5mの場所に青いマーキングをつける。地面にも赤と白のラインが同じ間隔で引かれている。白いマークとラインは勝敗決定に利用する。また、先頭の競技者は青いマークよりも後ろでロープを握らなければならない。各マークはロープからはがして張る位置を調整できるようになっている。
競技サイドはじゃんけんまたはコイントスで決めるが、事前に指定される場合もある。2セット目はサイドを交代し、さらに3セット目を行う場合は抽選、じゃんけん、コイントスなどでサイドを決定する。
審判による以下の号令によって競技が開始される。
以下の場合には競技が終了する。
反則を犯すと審判から指導され、直ちに改めなければならない。改めなければコーション(警告)となり、3回のコーションを宣告された場合そのチームは反則負けとなる。
など、12種類がある。
大会等で総当り戦が行われ、2チーム以上が同順位で並んだ際にはコーション数の合計において少ないチームを上位とする場合がある。
綱が切れたことによる転倒、衝突、押しつぶしなどにより幾度も多くの怪我人や死亡者が発生している[1]。場合によっては、指や手の切断に至る重大な事故にもなっている[2][3]。
また、腕に巻き付けたロープの締め付けによって、手が切断された事故も起きている[4]。
日本では、古くはカヤや藁を使った縄を使って引き合い一年を占う神事が行われている。綱を大蛇や龍などになぞらえる例もある。現在の大綱引は小正月に行われることが多く、中国の上元の綱引がルーツとも言われているが、九州や沖縄では旧盆や夏の行事として定着しており[6]、地域によって時期や由来は異なる。終わったあとは綱を川や海などに流すところもある。
秋田県や沖縄県の大綱引は、雄綱と雌綱の二本を中央で連結させて行う。
京都市右京区の高山寺に伝わる鳥獣戯画には、僧や子供たちが耳や腰に縄をかけて引っ張り合う様子が見られる。
近世期の軍記物『土佐物語』巻第五には、永禄年間(16世紀後半)の出来事として、「枕引き、首引き、手綱引き」などの各競技を行った記述が見られ、様々な引きもの競技が確認できる。
『北斎漫画』八編「無礼講」(19世紀)には、四つん這いになって背中に綱をかけて引き合う形態(背引き)や指に結んだ状態で引き合う指引きが見られる。
カンボジアの世界遺産であるアンコール・ワットの回廊には、ヒンドゥー教の世界創造神話である乳海撹拌の様子(山に巻き付けた大蛇を神々が引き合い、世界を構成するすべての要素をかき混ぜるという内容)がレリーフで描かれているが、これは綱引き本来の引き合うことで競い合うというものではない。
綱引きは民俗学的解釈では古来神事であったとされ、日本では注連縄との関連が示唆されている。日本の綱引きは競技色が強いものも盛んだが、各地方の伝統的な綱引き行事の多くは現在でも神事の一環として行なわれている。日本と同様に、吉凶を占う奉納伝統行事としての要素を残すとされる韓国・フィリピン・ベトナム・カンボジアは、無形文化財版の世界遺産であるユネスコの無形文化遺産に「Tugging rituals and games」の名称で共同申請し[19]、2015年12月2日の無形文化遺産政府間委員会で登録が認可された[20][21]。
日本の運動会などでの綱引きでは、「オーエス!」という掛け声がよく使われる。語源には諸説あるが、フランス語の「oh hisse」(「それ引け」という意味)からきているという説が有力とされている[22]。「oh hisse」は旗や帆を巻き上げる際に用いられた掛け声で[23]、明治初期に東京築地の外国人居留地でフランス人たちが綱引きをした際に掛け声としたものが「オーエス」と聞き取られ、日本で定着した[22]、などと伝えられるが、明確な証拠はない。
運動会の綱引きでは「オーエス!」のほか、呼吸を合わせるために「よいしょ、よいしょ」[22]「そーれ、そーれ」[22]「わっしょい、わっしょい」[22]「せーの、せーの」[22]などの掛け声が使われる。これらは地域や世代によってもさまざまである[22]。特に掛け声が無く、ピストルの音と同時に一斉に無言で引き始めることもある[22]。
宮崎県の運動会では「えい、えい、えいやさー」「えい、やー」といった掛け声が用いられる[22]。これは、伝統的に豊年感謝のため十五夜(旧暦8月15日)に行われた綱引き行事の掛け声が引き継がれたものという[22]。
高知県西部では、運動会や伝統行事の綱引きにおいて「さーうん」[24]や「やーのーうん」[25]「さーのーうん」[26]などの掛け声が使われる。
北海道檜山郡江差町の運動会・体育祭では、町の姥神大神宮渡御祭で山車の綱を引く際の掛け声である「エンヤ!エンヤ!」から転じて、綱引きの掛け声にも使われるのが見られる。
競技綱引きにおいては、掛け声をほとんど発せずに引き続けるのが一般的である[22]。
慣用句としては、なんらかの利害関係により複数の組織・団体が相互に圧力を掛けたり牽制したり自陣営側に有利にことが運ぶように画策したり工作しあうことを綱引きに準える場合がある。
例えば、地域的な団体がオリンピックのようなイベントから鉄道・道路など公共事業の誘致合戦を繰り広げたり、政治家ないし政党がより多くの支持者を得て発言権の拡大を目指しあったり推進する政策に自陣営側の要望を最大限盛り込もうとしたりといったものである。
英語にも似たような比喩表現があり、「tug of love」という慣用句では、離婚した両親が各々子の親権をめぐって争うことを示しているが、これはイメージとして子の腕を綱のようにして父親と母親が左右から引っ張っている状態である。
日本綱引連盟の機関誌として、「綱引マガジン」(季刊)が1990年秋季号 (1) から2007年冬季号 (66) まで、ベースボール・マガジン社から発行されていた。
ワールドゲームズ2001では記念切手が発行されている[27]。
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