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ナス科トウガラシ属の果実または香辛料 ウィキペディアから
唐辛子(とうがらし、唐芥子、蕃椒)は、中南米を原産とする、ナス科トウガラシ属 (Capsicum) の果実あるいは、それから作られる辛味のある香辛料である。栽培種だけでなく、野生種が香辛料として利用されることもある。
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トウガラシ属の代表的な種であるトウガラシには様々な品種があり、ピーマン、シシトウガラシ(シシトウ)、パプリカなど辛味がないかほとんどない甘味種(甘唐辛子・あまとうがらし)も含まれるが、ここでは辛味のある品種から作られる香辛料について述べる。
トウガラシ属は中南米が原産地であり、メキシコでの歴史は紀元前6000年に遡るほど非常に古い。しかし、世界各国へ広がるのは15世紀になってからである[1]。トウガラシ属が自生している南米では、ウルピカなどの野生種も香辛料として使われる。
唐辛子の辛味成分はカプサイシン類であり、痛みを与える[2]。この痛みが「辛味」の正体であるが、唐辛子の場合は刺激が強く、人により好みが分かれる。粘膜を傷つけるため、適量を超えて過剰に摂取すれば胃腸等に問題を起こすこともある。皮膚の弱い部分に附着すると激しい痛みを引き起こすことが多い。唐辛子の収穫や加工、料理のため唐辛子を触った手で粘膜に触れた場合、強い刺激を受ける。
「火を噴くような」と形容される唐辛子の辛さは激辛料理という料理ジャンルを生んだ。極端な例では唐辛子から抽出したカプサイシンの結晶も販売されている[3]。
トウガラシ属には数十種が属するが、そのうち栽培種は次の5種である。
原産国・地域 | 品種名 | 辛さ(スコヴィル値) |
---|---|---|
アメリカ合衆国 | ペッパーX | 318万[4] |
ウェールズ | ドラゴンズ・ブレス | 248万[5] |
アメリカ合衆国 | キャロライナ・リーパー | 220万[6] |
トリニダード・トバゴ | トリニダード・スコーピオン・モルガ | 200万[7] |
インド | ブート・ジョロキア | 158万[8] |
トリニダード・トバゴ | トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー | 146万3000[9] |
イングランド | ナーガ・ヴァイパー | 140万[10] |
イングランド | インフィニティ・チリ | 120万[11] |
ユカタン半島 | ハバネロ | 35万–85万5000[12] |
西アフリカ | スコッチボネット | 35万–85万5000[12] |
タイ王国 | バード・アイ | 35万–85万5000[12] |
日本 | 熊鷹 | 35万–85万5000[12] |
日本 | 八房 | 10万–35万[12] |
フランス(ギアナ) | カイエンペッパー | 5万–10万 |
日本 | 三鷹 | 5万–10万[12] |
メキシコ | ハラペーニョ | 3500-1万 |
アメリカ合衆国 | フレズノ・ペッパー | 3500-1万 |
カプサイシン受容体TRPV1は痛み関連受容体に分類されており[13]、唐辛子の辛味は口内の「痛覚」である[14]。
鳥類はカプサイシンを感じ取るレセプターが存在せず、唐辛子の辛みを感じないと考えられており、種子の散布戦略としてこのような進化をしたと考えられる。野生の哺乳類などは一般的にカプサイシンの辛みを好まないが、マウスに少量ずつカプサイシン入りの餌を与えると逆にカプサイシンの入った餌を好むと言った実験結果も存在する[15]。
「唐辛子」の漢字は「唐から伝わった辛子」の意味であるが、歴史的に、この「唐」は漠然と「外国」を指す語とされる。同様に南蛮辛子(なんばんがらし)、略した南蛮という呼び方もある。
「鷹の爪」は唐辛子の総称ではなくて、一栽培品種の名である[16]。
九州の一部や長野県北部地域などでは唐辛子を「胡椒」と呼ぶことがある(「柚子胡椒」の「胡椒」も唐辛子のことである)。「外来の」という意味で南蛮胡椒、高麗胡椒とも呼ばれ、沖縄県では「コーレーグス」という方言で呼ばれる。一説には大陸(唐土)との交易で潤っていた地域では「唐枯らし」に音が通ずる「トウガラシ」の呼び名を避けたためともいわれる。また他地域で言うところの「胡椒」を、区別のため「洋胡椒」と呼ぶことがある。
英語では、産品としては「レッド・ペッパー (red pepper)」あるいは「チリ・ペッパー (chili pepper)」、植物名としては「カプシカム・ペッパー (Capsicum peppers)」と呼ばれる[17]。胡椒(コショウ科コショウ属)とは関係が無いにもかかわらずpepperと呼ばれている理由は、胡椒と同様に辛い香辛料だからである[18]。
英語での一名「チリ」(chili, chile, chilli, chille)はメキシコのナワトル語での唐辛子の呼称chilliに由来する。南米西側の地名・国名「チリ (Chile)」とは語源が異なる[19]。
胡椒と同様、料理に辛みをつけるために使われる。また、健胃薬、凍瘡・凍傷の治療、育毛など薬としても利用される。果実は緑のままでも食べることが出来る。一般に、緑色のものは青唐辛子、熟した赤いものは赤唐辛子と呼ばれる。果実を鑑賞するためのトウガラシの品種もある。
生のまま食べる場合と、乾燥した後に使う場合とがある。チポトレのように燻煙してから使う場合もある。
醤油や酢、食用油、泡盛などに漬け込むと、それらに辛味を与えるので通常とは違った風味の調味料とすることができる。漬かった状態の唐辛子は、取り出して刻みサラダなどに利用することもできる。
日本では1960年代には年間7000トン程度が生産され、輸出もされていた。2018年には逆に輸入品が主で、輸入量1万4000トンに対して国産はその1%程度である。市町村別では「栃木三鷹(さんたか)」を生産する栃木県大田原市がほとんどの年で首位を占めている[20]。料理に唐辛子が多く使われるようになったのは比較的最近のことである。1980年代以降、エスニック料理が浸透し、「激辛ブーム」が起こる以前には、薬味や香り付けに一味唐辛子や日本特有の七味唐辛子が少量使われる程度であり、市販のカレーも辛口の商品に関しては少数に留まっていた。今も年配の層には唐辛子の辛味を苦手とする人は多い[要出典]。
インド料理やタイ料理、朝鮮料理などの唐辛子が日常的に使われる地域では、小さい子供の頃から徐々に辛い味に慣らしていき、舌や胃腸を刺激に対して強くしている。一方で日常的に使う習慣のない場合は、味覚としての辛味というよりも「痛み」として認識され、敬遠される。 このことからも、痛みを味覚として好むということ自体、多分に社会文化的条件付けによるものと言える。これらの国が唐辛子を積極的に摂取するのは、メキシコや西アフリカ、中国の四川省・湖南省など夏に暑い地域が多く、食欲を増進し発汗を促し暑さ負けを防ぐためであると言われる。ただし、台湾、沖縄など暑い季節が長いにもかかわらずさほど唐辛子を好まない地域がある一方、韓国、ブータンなどそれほど暑くない地域(韓国も大陸性の気候の影響が強く夏は暑くなるが、高温になる季節は長くはない)で唐辛子を特に好む食文化もあり、唐辛子の嗜好は単なる気候的要因ではなく文化的要因によるものが強いことがうかがえる[要出典]。
フィリピンや中国などアジア圏では葉(葉唐辛子)を青菜と同様に炒めて食べたり、汁物の実としたりすることもある。日本でも葉唐辛子を炒めて食べたり、佃煮にしたりすることもある。
ごく少量含まれる辛み成分のカプサイシンには、唾液分泌量を増やして食欲を増進する効果がある[21]ほか、末梢の血管を拡張させて血流量を増やして体を温める効果、副腎ホルモンの一つエピネフリン(別名:アドレナリン)の分泌量を増やして脂肪の燃焼効率を高める効果などがあり、さまざまな機能性が注目されている[22]。またカプサイシンが食事の食塩の使用量を減らしても物足りなさ感じることがなくなり満足感を得やすいので、食塩摂取量を減少する効果が得られる[22]。
カロテン(体内でビタミンAに変化)とビタミンCが豊富なことから、夏バテの防止に効果が高く[要出典]、特に暑い地域で多く使われている。除虫の効果もあり、食物の保存に利用されたりすることもあるが、サルモネラ菌や大腸菌などの食中毒の原因菌を殺菌する作用は無く[23]、食中毒を防ぐことはできない。
ハーバード大学公衆衛生学部の研究によると、唐辛子をほぼ毎日食べた人は、死亡のリスクが14%低いことがわかった。研究著者のLu Qiによると、他の研究からのいくつかの証拠は、カプサイシンなどの唐辛子の生物活性成分が「悪玉」コレステロールとトリグリセリドを低下させ、炎症を改善する可能性があることを示唆している[24]。
唐辛子を多く摂る国は胃癌や食道癌の発癌率が高いといわれている。唐辛子の過剰摂取と発癌の関連性が指摘されている[25][26][27][28][29]が、国際がん研究機関 (IARC) による発がん性の可能性がある物質とは認められていないため、カプサイシン単体が発癌性をもつわけではない。
原産地はメキシコが栽培の起源地と考えられており、最も古いものはメキシコ中部で紀元前6500 - 5000年ごろの栽培型の出土が確認されている[33]。アメリカ大陸の各地では、紀元前ころから栽培されていたとみられ、1世紀ごろのペルーの遺跡からは唐辛子模様の織物が発見されている[33]。現在世界中の国で多く使われているが、アメリカ大陸以外においては歴史的に新しい物で、正確な伝来年とヨーロッパ内での伝播についての詳細は不明である。クリストファー・コロンブスが1493年にスペインへ最初の唐辛子を持ち帰った[33]。以降、ヨーロッパ全域に広まっていった[33]。
現代の中華料理はトウガラシ(辣椒)を多用し、とくに長江中流域の四川料理、湖南料理、湖北料理、貴州料理、陝南料理(陝西省南部)は辛いことで知られる[34]。しかしトウガラシの伝来については不明な点が多い。3つのルートが推測されている[35]。
李時珍『本草綱目』(1578年完成)にはまだトウガラシは見えず、文献上は明末の高濂(1620年没)の『草花譜』および『遵生八牋』(1591年刊)[36]、および清初の陳淏子『花鏡』(1688年刊)[37]に「番椒」の名で見えるものが古い。初期においては主に観賞用であったらしい[34]。四川料理で使われるようになったのはさらに時代が遅れる。乾隆年間(18世紀)の李化楠・李調元『醒園録』は四川料理に関するもっとも古い書物だが、まだトウガラシは使われておらず、嘉慶年間(1796年 - 1820年)になって初めて四川でトウガラシを栽培したという記録が見られる[34]。したがって、長江中流域の料理が辛くなったのは19世紀初めと考えられる。
日本への伝来には諸説ある[38]。日本に伝来した初期は食用として用いられず、観賞用や毒薬、足袋のつま先に入れて霜焼け止めとして用いられた[要出典]。
コセウノタネ尊識房ヨリ来。茄子タネフエル時分ニ植トアル間、今日植了。茄子種ノ様ニ少ク平キ也、惚ノ皮アカキ袋也。其内ニタネ数多在也。赤皮ノカラサ消肝了。コセウノ味ニテモ無之、辛事無類。—長実房英俊、『多聞院日誌』[45]
1592年の朝鮮出兵の際、武器(目潰しや毒薬)または血流増進作用による凍傷予防薬として日本からの兵(加藤清正)が持ち込んだものである。1614年の『芝峯類説』では「南蛮椒には大毒があり、倭国からはじめてきたので俗に倭芥子(倭辛子)といい、近ごろこれを植えているのを見かける」と書かれており、イ・ソンウ(이성우、李盛雨)が『高麗以前の韓国食生活史研究』(1978年)[46]で日本からの伝来説を示して以降、通説となっている。
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