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インドの料理あるいは食文化 ウィキペディアから
インド料理(インドりょうり)は、インドに起源を持つ料理。特徴としては、様々なスパイスやハーブを多用することであるが、インドは広大であり、地域や民族、宗教、階層などにより、その食文化はきわめて多様である[1]。
インド各地の食文化の多様な例として、コルカタなどのベンガル地方およびムンバイ以南の沿岸各地における魚介料理、パンジャーブ地方やデリー周辺地域におけるタンドリーチキンをはじめとする肉料理が挙げられる[1]。また、南インドはインド国内でも特にヒンドゥー教徒の数が多く、グジャラート州ではジャイナ教がさかんであることから野菜料理にもそれぞれ特徴的なものがある[1][2]。
インド料理は、民族や宗教によって料理も変化し、その食文化はきわめて多様であるが、基本的にはスパイスを多く用い、乳製品や油脂も多用される[2]。伝統食には、北インド料理、南インド料理、ベンガル料理、ゴア料理がある[2]。
北インドの料理はイランやアフガニスタンなど中東の食文化の影響を強く受けている。小麦産地であることを反映してナーン (ヒンディー語: नान) 、チャパーティー (ヒンディー語: चपाती) 、ローティー (ヒンディー語: रोटी) といったパンを主食とすることが多い[2]。牛乳やダヒー(ヒンディー語: दही:ヨーグルト)、パニール(ヒンディー語: पनीर:フレッシュチーズ)、ギー(ヒンディー語: घी:澄ましバター)などの乳製品を用い、スパイスとしてクミン、コリアンダー、シナモン、カルダモンおよびこれらを配合したガラムマサラなどを多用する。米は香り高いバースマティー種が好まれる。ムルグ・タンドゥーリーなど、タンドゥールを用いた調理法も北インド料理の特徴の1つである[2]。菜食主義者は南部インドよりは少なく、北部は南部よりも平均気温が5℃前後低いためもあって、体温維持のために脂肪分の多い食事が好まれる[2]。
インド国外のインド料理レストランは、パンジャーブ料理とムガル帝国の宮廷料理(ムグライ料理(en))を提供する北インド料理店がほとんどである。
南インドの料理は米飯が主食となっており、乳製品よりもココナッツミルク (ヒンディー語: नारियल का रस) を多用する[2]。またスパイスも北インドのクミン (ヒンディー語: ज़ीला) の代わりにクロガラシ(ヒンディー語: सरसों)の種やカレーリーフ(オオバゲッキツの葉)を好んで用いる。油はギーよりもマスタードオイルやごま油が多く使われる。菜食主義者が多いため野菜や豆の料理が発達しているが、一方で魚を使った料理も多い[2]。北インドで長粒種(インディカ種)が使われるのに対し、南インドの米は丸く、外見は短粒種(ジャポニカ種)に似ている。しかし粘り気は少なく、粘り気を抑えた炊飯法が好まれる[2]。北インドほど油脂を使わないため、料理は比較的あっさりしている[2]。
正餐(ミールス)は、バナナの葉を皿がわりにし、飯、サンバール、ラッサム、ヨーグルト、アチャール、チャトゥニー等を盛りつけ、手で混ぜて食べる[2]。
東インドのベンガル地方およびバングラデシュで食べられている料理であり、米が主食とされる[2]。フェンネルシード、ニオイクロタネソウの種[注 1]、フェヌグリーク、クロガラシの種、クミンを合わせたパンチ・ポロンという配合香辛料を風味づけによく用いる。その他、白いケシの実(ポスト、posto)をしばしば煮込み料理やチャトゥニーなどに用いるのが特徴である。淡水魚はカーストを問わず非常に人気があり、ジョル (jhol)というスープにしたり、ダール(去皮して二つに割った小粒の豆類)と一緒に煮込んだりする。他の名物に、苦味のある野菜の煮物「シュクト」 (shukto) または「シュクタ」 (shukta) とチェナー(छेना, chhena)を用いた菓子類(チャムチャム /ベンガル語: চম চম、 ラショゴッラ /ベンガル語: রসগোল্লা、シャンデーシュ /ベンガル語: সন্দেশ 他)などがある。カレーに魚を入れるベンガルフィッシュカレーもベンガル料理特有のものである[2]。
ゴアのカトリック教徒の料理は、旧宗主国ポルトガルの料理の影響を強く受けている。米を主食とし、魚介も好まれる[2]。魚とココナッツをスパイスで煮込んだゴアフィッシュカレーが知られる[2]。
インドでは珍しく豚肉の消費が盛んで、リングィーサなども食べられる。ゴア料理では、肉を酢とニンニクで煮込んだヴィンダルー(vindaloo)がよく知られ[2]、鶏肉や羊肉の煮込み料理シャクティ(xacuti)、豚や羊のもつを煮込んだサラパテル(sarapatel)、鼓型をしたパン、ポイー(poee)、ケーキとプディングの中間のようなデザート、ベビンカ(bebinka)などがある。
戒律を理由として、ヒンドゥー教徒の上位カーストの者やジャイナ教の菜食主義のための料理が古くから発達している。その他にも、ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教、シク教など菜食をする宗教が多い。イード・アル=アドハーなど肉の消費が宗教儀礼の中で重要な位置を占めるイスラム教では肉食が肯定される。また、屠畜業に携わるダリット(不可触民)の社会では、肉を食事に取り入れてきた長い伝統がある。このように、インドの菜食と非菜食の伝統は宗教やカーストとの関係が深く、街のレストランでは菜食主義者と非菜食主義者の席は明確に分けられており、両者が同席することはない。
インドの菜食料理では、脂やゼラチンなどを含む一切の動物の肉や動物を原料とする食材を使用せず、卵も使用しない。しかし動物を傷つけずに得られる乳製品はよく使用され、インドの菜食主義者のほとんどは乳菜食主義者(ラクトヴェジタリアン)である。さらに各種の豆類、穀類、ナッツなども使用する為、栄養学的に肉食は必要ともされていない。ヒンドゥー教やシーク教の寺院で参拝者に無料でふるまわれる聖餐は菜食料理である。
ジャイナの中でも最も敬虔な信者は、植物であっても葉、茎、豆だけを食べ、ニンジン (ヒンディー語: ग़ाजल) や大根 (ヒンディー語: मूली) 、ニンニク (ヒンディー語: लहसुन) 、タマネギ (ヒンディー語: प्याज़) 、芋などの根の部分を食べない。これは「土中の虫などの生き物を殺さないため」ということが理由の一つである。さらに「その部分が“体”にあたる」という考え、つまり枝葉ではなく本体部分を殺すことにつながるとの考えから、できる限り植物さえも殺生することを避けることによる。同様に、ハチを殺す危険の大きい蜂蜜なども摂らない。タマネギやニンニクなど五葷の摂取を避ける習慣はバラモンにも見られる。一方、西ベンガル州やアッサム州など東インドの菜食主義者は魚も食べるペスクタリアンであることが多い。
非菜食の料理にも多くの種類があり、中央アジアからムスリムの征服者によって伝えられたものが多い。戒律上、全てのヒンドゥーは牛を聖なるものとして食べず、全てのムスリムは豚を汚れているものとして食べないので、一般にそれら由来の物は使われず、鶏肉、羊肉、山羊肉、魚介類などが非菜食料理の主な食材となる。最もよく食べられる肉は比較的値段の安い山羊肉で、インドではマトンと英訳される慣例があるが羊の肉ではない。鶏肉は比較的値段が高い。インド国民の所得が増加するに従い、食肉の消費量は増加している[3]。
インドにおける「カレー」(「カリー」)という言葉は、外来語である。インドの人たちにとって、香辛料を使った煮込み料理は数多くあり、それぞれをそれぞれの料理名で呼ぶものである。香辛料を多用するインドの料理を全て「カレー」と呼ぶのは、日本料理で言えば醤油を使ったおかずを全て同じ名前で呼ぶような乱暴な呼び方である。カレーの語源には諸説あるが、タミル語で「食事」を意味する「kaRi」という説が有力である[要出典]。
そういう状況をよく知っている人間[誰?]は、逆に「インドに『カレー』はない」と述べる場合もある。ただし旧支配国のイギリスが、一部のインド料理をカレーという名前でイギリス料理に取り入れたことにより、世界中に普及したのも事実である。インド人自身も、インド以外の国の人々向けにわかりやすく説明する上で、この「カレー」という言葉を使うようになっており、内外のインド料理店で「具材+カレー」とメニューに表記している例は多い。例えばラース・ビハーリー・ボースは、当時の日本のカレーを元来のインドのカレーとは違うとして、本格的な「インドカレー」を伝えた人物であるが、「カレーという呼称は間違っている」とはしなかった。
カレー粉もイギリス人による発明品である(詳細は該当項目参照)。南インドにはほかにカリー・ポディという配合香辛料があり、「カレー粉」と英訳されることがあるが、味も原料も異なる。
一般的なインド人の感覚として、右手は「浄」、左手は「不浄」のものとされる。そこで食事中に直接料理に触れるのはきれいに洗った右手のみであり、調理された食材の触感を楽しむため、また、本当に清潔であるものかどうかが不明であるため、スプーン・フォーク・ナイフなどの使用は基本的に嫌う。左手はトイレで用を足した際の処理をするためにも使われるため、せいぜい皿や水のグラスの外側に触れる程度に限られる。伝統的な作法ではスプーンなどを使わず、右手で直接パン類をちぎって汁物に浸すか、御飯を汁と混ぜて口に運ぶことになる。その際、親指・人差し指、中指までの指先の第二関節までを使うのがより上品とされる。ただし西洋の習慣に慣れた都会の人はスプーンやナイフを使うのにも抵抗がない傾向にある。また、ゆで卵の殻をむくときなど、どうしても両手を使わざるを得ない場合は両手を使う場合もある[要検証]。
浄・不浄の感覚は、他にも徹底されており、揚げたり炒めたりする料理が多いのもインド料理の特徴である。これは、油で調理することで食品が浄化されるという観念に基づく。また食器に磁器・陶器よりも金属製のものが好んで使われるのも、土からできた前者よりも後者のほうが、より清浄であるとの考えからである。他者が手をつけた食べ物は穢れると考えられる。
さらにヒンドゥー教では、伝統的に「浄」と「不浄」の概念がカーストの概念に結びついている。下位カーストに属する人が触れた水や水分の多い食物は穢れると考えられ、かつては高位のカーストと下位のカーストに属する人同士が同じ席で食事をとることはおろか、水を受け渡すことすら忌避された。職業料理人には伝統的にバラモン出身者が多く、行楽や旅行に手作りの弁当を持参する習慣が根強く、家族が家で作った弁当を職場に配達するダッバーワーラーという業種が成立するのもこうした理由からである。近年でこそダリットの女性たちによるケータリング事業が成功した例もあるが、カースト差別が違法となった今日でも食にまつわる差別は報告されている[4]。
インドの中華料理はコルカタに住む中国人によって紹介されたのが始まりといわれる。インドでの中華料理の人気は高く、特に大都市でよく普及している。クミンやコリアンダー、ターメリックなどでインド人好みの味付けがされており、豚肉や牛肉はほとんど使われず、逆にパニールなどインド料理の食材が用いられる例がある。インドの中華料理店では炒飯や炒麺、春巻き、チャプスイ、酢鶏、モモなどが食べられる。ドーサに炒麺など中華料理をはさむ例も見られる。
インド系移民と在外インド人の活動の結果として、インド料理は世界各地に定着している。特にイギリスや旧イギリス領のマレーシア、シンガポール、フィジー、ペルシア湾岸、ケニア、南アフリカ、トリニダード・トバゴ、ガイアナなどでは、インド料理が地元の食文化に溶け込んでいる。一例を挙げると、チキンティッカマサラはイギリス生まれのインド料理で、イギリスの国民食の1つと呼ばれている。ゴア料理はポルトガルとその植民地に伝播し、マカオ料理などに影響を与えた。また、カレー粉の普及により世界各地にカレー料理が生まれている。インドを発祥とするムルタバは、貿易を通して東南アジアに伝わり、現在では同地域やアラビア半島で食べられている。
日本では、中村屋のボースやイギリス海軍の影響になどにより、学校給食でカレーが取り入れられるなど、ラーメンと並びカレーライスが国民食となっている。全国各地では、その土地ならではの味付けや食材、コンセプトを用いた「ご当地カレー」も登場しており、日本独自の食文化となりつつある。
同じ南アジアであるネパール料理やスリランカ料理やモルディブ料理、かつてイギリス領インド帝国だったパキスタン料理、バングラデシュ料理でもスパイスを大量に使ったカレー状の料理が見られる。
日本では、大都会に伝統的な比較的高級なインド料理店がある一方、2010年代以降、各地に大衆向けのインド料理店が急増している[6]。こうした店のなかには出稼ぎまたは定住したネパール人が経営・料理・サービスに従事していることが少なくない[6]。
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