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北方四島交流事業(ほっぽうよんとうこうりゅうじぎょう)は、内閣府北方対策本部の補助のもと、北方四島交流北海道推進委員会並びに北方領土問題対策協会が実施していた、日本人と色丹島、国後島及び択捉島(以下、北方四島)に居住するロシア人との交流事業。一般的にはビザなし交流と呼ばれている。
北方四島交流事業は、日本人が北方四島を訪れる訪問事業と、北方四島在住のロシア人を日本の各都市に招く受入事業の二つに分けられる。 なお、歯舞群島に対する訪問事業は、一般市民の居住者がいないので実施されていない。
日本人と北方四島在住ロシア人が相互に理解を深め、四島返還による北方領土問題解決のための環境作りを行う事が、事業の目的として定義されている。
具体的には、日本人が北方四島を訪問する事によりその風土や在住ロシア人の考え方に直接触れ、その体験を地域や職域などでの返還運動の啓発に活用する事が参加者に求められている。同時に、在住ロシア人との対話を通じて日本における北方領土問題の捉え方を伝え、日本や日本人に対する誤解や偏見を解消する事も目的として挙げられる。
また、在住ロシア人が日本を訪問する事により、日本の文化や社会の仕組み、日本人社会の利便性を実際に体験し、返還に伴う不安や障害の除去・軽減に資するとされている。
日本人と北方四島在住ロシア人との人的交流はビザなし交流が唯一ではない。日本人が北方地域を訪問する手段としては、パスポート持参の上、ロシア連邦の査証と通行許可証を取得し、サハリン経由で「入国」する方法もある(下記)。逆に在住ロシア人が日本のビザを取得して日本に渡ることも可能で、根室など道東の港に魚介類を水揚げする在住ロシア人漁師もいる。しかしこの事業はこれらの渡航とは区別すべきで、在住ロシア人の受入事業は「観光旅行化している」という指摘は従来からあるものの、ビザなし交流は単なる北方地域への旅行の斡旋ではないという点に注意すべきである。
訪問事業に参加できるのは、総務省・外務省告示に基づき以下の条件を有する者とされている。また、訪問は原則として団体で行われる。
以上のほか、ロシア側との連絡折衝のために外務省及び内閣府の政府職員が同行する。また、通訳、医師など内閣総理大臣及び外務大臣が適当と認める者も同行できる。
訪問する者は以下の窓口団体を通じて、計画の概要を内閣府を経由して外務省に提出する。
ただし、実際は年度ごとに計画や訪問者数の枠組みを北方四島交流北海道推進委員会と、北方領土問題対策協会内に置かれた「北方四島交流全国推進協議会」(都道府県民会議・北連協・千島歯舞諸島居住者連盟の各代表者及び有識者で構成)で協議し、決まった枠組みの中で各構成団体ごとに調整している。また、稀に北連協の加盟団体が単独で計画、実施する場合もある(最近では2005年に日本労働組合総連合会が実施)
計画に基づき外務省はロシア政府当局と協議し、ロシア政府が了承した場合に訪問は実施される。この時、外務省において訪問団の各個人に身分証明書が交付される。そのために訪問する者は顔写真と戸籍抄本を窓口団体を通じて外務省に提出しなければならない。
当然の事ながら、現在北方四島に居住しているロシア人が対象となる。サハリン(樺太)など、それ以外に居住するロシア人は参加できない。なお、回数には制限がないため複数回参加している在住ロシア人も少なくない。
北海道における受入事業は北方四島交流北海道推進委員会が、青森県以南の各地の受入事業は北方領土問題対策協会がそれぞれ実施している。青森県以南の受入事業の開催場所は、年一回開催される都道府県推進委員全国会議に諮り決定され、その決定を受けて都道府県民会議が主管して行われる。
訪問事業に関しては、2012年現在で259回実施され、延べ10,422人の日本人が北方四島に渡っている。また受入事業に関しては2012年現在で179回実施され、延べ7,653人の在住ロシア人を受け入れた。
在住ロシア人の訪問先(2012年現在)としては北海道のほか、青森県、宮城県、岩手県、秋田県、茨城県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、長野県、富山県、石川県、福井県、愛知県、静岡県、滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、広島県、鳥取県、徳島県、愛媛県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県がある。
現状において日本人が北方四島に渡る手段は、「ビザなし交流」しかないわけではない。
ロシアの査証を取得し、まずサハリン(樺太)に渡り、ユジノサハリンスク(豊原)で北方四島のいずれかまたは全部の島に有効な通行許可証を取得(現地旅行代理店が代行してくれる)したのち、サハリン航空の飛行機または、コルサコフ(大泊)からサハリンクリル海運の定期船に乗船することによって、誰でも国後島、択捉島を訪問できる。色丹島には空港がないので、船でしか行く手段がない。歯舞群島には民間人がいないので、船便もなく、公共交通では行くことが出来ない。
定期船は、3月から12月まで週2回コルサコフを出帆している。飛行機は現地空港が霧の場合欠航するので信頼がおけないが、船の運航は比較的正確。パスポート、ビザと通行許可証さえあれば日本人を含む外国人はだれでも乗船できる。コルサコフからユジノクリリスク(古釜布)への片道料金は、3等約3000ループル。
なおこの方法は、内閣が1989年に自粛要請を出しているため発覚すれば行政指導を受ける事になるが、罰則規定等は無いので、ロシア側の手続きさえきちんと踏めば、海外旅行と同じ感覚で行うことが出来る。
元島民及びその親族による、北方領土にある先祖の墓所へのお参り。北海道が年三回実施しており、ビザなし交流同様、外務省発行の身分証明書によって行われる。
最初の北方墓参はビザなし交流に先立つ1964年(昭和39年)に北海道が主体となり実施された。しかし、1971年(昭和46年)から1973年(昭和48年)までの間はソ連側の了承が得られず、また、1976年(昭和51年)から1985年(昭和60年)までの間はソ連側が旅券の携行と査証の取得を要求してきたため日本側の判断でそれぞれ中断された。 2005年現在で延べ3,265人が墓参を果たしている。
元島民並びにその配偶者及び子を対象に、北方領土問題対策協会が委託する形で千島歯舞諸島居住者連盟が主体となって実施している訪問事業。こちらも外務省発行の身分証明書によって行われる。
1998年(平成10年)のモスクワ宣言(日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言)に基づき、元島民の「ふるさと訪問」として1999年(平成11年)から実施されている。「自由訪問」と呼ばれてはいるが、数次訪問用の身分証明書の発行など、ビザなし交流より手続きが簡易化されただけで、「いつでも自由に訪問できる」という意味ではない。 2005年現在で延べ1,099人が参加している。
北方四島交流事業によって在住ロシア人にも北方領土問題における日本の主張が知られるようになった。特にソ連崩壊に伴うロシアの混乱期や、1994年(平成6年)に発生した北海道東方沖地震によって北方四島が壊滅的打撃を受けた際には、一部の在住ロシア人から四島返還を容認する発言が出た事もあった。しかし現在はロシアの経済成長が著しい事を背景にロシアへの帰属意識が強まり、再び四島返還には否定的になっている。
北方四島を実効支配しているロシアのサハリン州政府は、この交流事業が「四島返還による北方領土問題解決のための環境作り」の手段であるという認識を日本側とまったく共有していない。フランス人がビザなしでベルギーを訪問できるのと同様、国境を接する2国が、国境地域に居住する住民の短期相互訪問を容易にするための便宜的手段であるとの認識のほうが強い。すなわち、ビザなし訪問を許すことによって日本人がロシア領北方四島に観光旅行することを促進し、もって北方四島の経済振興を図るというのが、ロシア側の基本的姿勢と思われる。事実、北方四島交流事業では、日本側がロシア側現地の受け入れ機関に高額のサービス料金を支払っており、国後島の「友好の家」(ムネオハウス)の裏手には交流に参加する日本人を対象にしていると思しき商店が軒を並べているし、「ビザなし交流」に参加するロシア人にとって日本訪問は、日本製耐久消費財を購入する貴重な機会となっているから、このロシア側の認識もあながち誤りといえない。
一向に領土問題の進展が見えない中、国費を使って従来のようなビザなし交流を際限なく続ける事を疑問視し、事業のあり方や方法を見直すべきとの声もある。2006年8月に歯舞群島・貝殻島沖で発生した第31吉進丸事件の際には、地元・根室市が内閣府と外務省に対して北方四島交流事業の中止を求める文書を送付した。また、第31吉進丸事件の2日後に行われた訪問事業では、予定していた64名中10名が参加を取りやめた。なお、この時の訪問事業には前原誠司・元民主党代表が参加している。
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