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洗濯に用いられる機械 ウィキペディアから
洗濯機(せんたくき[注 1]、英: washing machine, laundry machine)は、洗濯に用いられる機械。
歴史的には「洗濯機」と言う言葉は様々な動力源のものを指してきた。日本では、昭和以降一部の手動洗濯機[2]を除くと「電気洗濯機」しか販売されていないので、単に「洗濯機」と言うと、事実上それを指している。
初期は人力で動かす手動式洗濯機であったが、19世紀には蒸気機関で動かすものが多く、20世紀なかばからは電動機(電気モータ)で回転させるものが広まり、20世紀後半では脱水機付きのものが登場し、さらに洗濯から脱水まで自動で行うもの(当時「全自動」と呼ばれていたもの)が大半となり、その後、洗濯・脱水だけでなく乾燥まで自動で行うものまで登場した。
洗濯とはもともと、もっぱら人の手や足で行っていたかなり手間のかかる重労働である。洗濯機は、そうした重労働を軽減する目的で開発され、家事労働の軽減に貢献してきた。
2009年、カトリック教会の半公的な新聞である L'Osservatore Romano が、洗濯機が女性を家事の苦役から解放したという意味で、女性解放における重要なマイルストーンだったと表明している[3]。
洗濯は、布をこすったり叩いたりすることで布から汚れを浮かせ(分離し)きれいにする。また布地に石鹸を浸透させ汚れを落としやすくする、ということも行われる。もともとは、川や池や泉の縁の岩などに衣類を打ち付けたり、こすったりするしていたが、その後波状の溝をつけた洗濯板が使われるようになった。古代ローマでは、"fuller" と呼ばれる人たちが発酵した尿などの入ったバケツに洗濯物を入れ、それを足で踏んで洗濯した[4]。
ドイツの野外博物館での手回し式洗濯機の実演 |
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洗濯という重労働を何とか軽減させるため、洗濯する機械が開発されてきた。また特に、ヨーロッパではペストなどの伝染病が広まった歴史があり、これを防ぐために熱湯を沸かしたかまどの中で洗濯物を木の棒でかきまわして洗う習慣が普及したが、やけどしがちな作業を避けるための機械の需要が生じた。ドイツなどで初期に考案された洗濯機は、樽などの容器を横向きにし、湯や洗濯物を入れ蓋をし、容器についたハンドルを手で回し、中身を攪拌する方式だった。
洗濯は温水を使った方が汚れが落ちやすい。石鹸の入った温水は貴重だったため、そのまま何度も再利用されていた。まず汚れの少ない衣類を洗い、徐々に汚れのひどいものを洗っていく。初期の洗濯機は木製だったが、金属製のものができると、洗濯槽を下から火で加熱できるようになった。このため、一日中洗濯しても洗濯水を暖かく保つことができた。
イングランドでは、1691年に初の洗濯機および脱水機に類する特許が成立している[5]。また、1752年1月の "The Gentlemen's Magazine" というイギリスの雑誌に初期の洗濯機の絵が掲載されている。ドイツでは Jacob Christian Schäffer が洗濯機を考案し、1767年にその設計が出版されている[6]。1782年には、イギリスで Henry Sidgier が回転ドラム式洗濯機の特許を取得している。
洗濯後、洗濯物から石鹸水を除去する工程は全く別の工程だった。元々はびしょぬれの衣類を手で絞っていた。この仕事を助けるため、2つのローラーにばねで力をかけ、そこに衣類を通してローラーを手で回すという手絞り機(または手回し脱水機)が開発された。これには1枚ずつ衣類を入れてやる必要があった。元々は独立した機械だったが、洗濯機に組み込まれるようになり、搾り取った石鹸水が洗濯槽に戻って再利用できるような構造になった。
アメリカ合衆国では1797年、ニューハンプシャー州の Nathaniel Briggs が "Clothes Washing" と題した特許を取得している。特許事務所が後に火事で焼け落ちたため、彼が具体的にどういう発明をしたのかは分かっていない。洗濯機に手絞り機を組み込んだものは、1843年セントジョンの John E. Turnbull が取得した "Clothes Washer With Wringer Rolls" という特許が最初である[7]。
蒸気機関・ガソリンエンジン等を用いてドラムを回転させるものや、撹拌棒を回転させる撹拌式洗濯機が使われるようになった。1気筒の低速なガソリンエンジンなどがよく使われていた。
電気洗濯機は20世紀初めにアメリカで登場している[9]。アルバ・ジョン・フィッシャーが1910年に電気洗濯機の特許を取得しており[10]、電気洗濯機の発明者とされることが多いが、フィッシャー以前にも電気洗濯機の特許が存在していた[11]。
電気式洗濯機は1908年[注 2]にアメリカで発明され、1908年にアメリカのHurley Machine Companyが「Thor」として販売。
電力が欧米で普及するのは1930年代である。
アメリカでの電気洗濯機の年間販売台数は1928年には913,000台に達した。しかし、世界恐慌が発生したために販売台数が減少し、1932年には出荷台数が約600,000台となっている。洗濯機の設計は1930年代に改善が進み、安全性を考慮して電動機などの機械が筐体に覆われるようになった。1940年には、アメリカの電力供給を受けている2500万戸の60%が電気洗濯機を所有していた。
第二次世界大戦中、アメリカ国内の洗濯機メーカーは軍需に徴用されたが、全自動洗濯機の開発は続けられ、戦後間もなく全自動洗濯機を発売した。ベンディックスは1947年、改良型の Bendix Deluxe(当時249.50ドル)を発売。ゼネラル・エレクトリックも同年、全自動洗濯機を発売している。他社も1950年代初めまでに次々と全自動洗濯機を発売している。中には2槽式で、洗濯槽から脱水槽に洗濯物を手で移さなければならない半自動洗濯機もあった。
電気掃除機で知られるフーバー社は、マイコン制御が登場する以前にカートリッジ式で洗濯パターンをプログラム可能な全自動洗濯機 Keymatic を製造していた。洗濯機のスロットにプラスチック製の鍵状のカートリッジを挿入すると、それにしたがって洗濯パターンを決定するものである。しかし、ダイヤル式で設定する他の洗濯機に対して特に優れているわけでもないため、成功したとは言い難い(カートリッジは失くしやすいという問題もあった)。
初期の全自動洗濯機は機械式タイマーを使い、タイマーシャフトに一連のカムがあり、様々なスイッチを時間で操作していた。1950年代、これが電子式タイマーになり、設定の自由度が格段に向上した。
ヨーロッパでは1950年代まで電気洗濯機は一般化しなかった。これは、第二次世界大戦の戦禍により、ヨーロッパの消費者市場が1950年代後半まで回復しなかったためである。当初はローラーによる手絞り機構付きの電気洗濯機が主流だった。1960年代には2槽式が主流となった。全自動洗濯機が主流となったのは1970年代になってからのことである。
日本では1930(昭和5)年に東芝の前身である東京電気株式会社がHurley Machine Companyの「Thor」(ソアー)の輸入販売を開始し、日本産(「国産」)第一号は1930年に東芝の前身である芝浦製作所から攪拌式洗濯機「Solar」(ソーラー)として販売された[注 3][12]。その後、1953年に三洋電機から現在の洗濯機の原点とも言える噴流式洗濯機が低価格で発売され[13][注 4]、一気に普及した。
戦後(第二次世界大戦後)の1950年代、日本の電器メーカーは電気洗濯機を『三種の神器』という宣伝文句で民衆に売り込んだ。その後昭和後期ころからは「白物家電」と呼ばれるようになり、現在でも家電製品の中でも代表格のひとつである。
昭和時代の日本では日本製が大半を占めたが、平成以降は他の白物家電と同様に、一部の高付加価値製品を除き生産コストの低いアジア圏で生産されたものが大半を占める状況になっている。撤退するところも多くなり、2008年10月31日を以て三菱電機は(売り上げ不振で赤字が続いたことから)洗濯機の生産より完全撤退した[14]。
日本では「電気洗濯機」として家庭用品品質表示法の適用対象となっており電気機械器具品質表示規程に定めがある[15]。また、テレビ受像機、エアコン、冷蔵庫とともに2001年より家電リサイクル法の対象となり、廃棄する場合には、適切な処理が義務付けられ、粗大ゴミとして処分できなくなった。固定資産としての法定耐用年数は6年だが、家庭での平均的な使用年数は8.4年[16]である。
一部では芋洗いや、タコのぬめり取りなどの魚介類を洗うために使われる事もある。メーカーの想定外・保証外の利用法であり、故障の原因ともなるので推奨されない利用法である[17]。
回転による脱水が一般化するのは、電動機が開発されてからである。回転で脱水するには高速で強力な回転力が必要であり、脱水機は洗濯機とは別の装置として作られた。洗濯した衣類を洗濯槽から脱水槽に移して脱水していた[注 5]。このような初期の脱水機は、中身が偏っていると脱水槽自体が危険なほど揺れるという問題があった。それでこの揺れをなんとかしようと様々な試みがなされた。まず、若干のアンバランスを吸収する緩衝フレームが考案され、さらに激しい揺れを検出して脱水機の回転を止める機構が考案された。この場合、人間の手で中身を均等にして再度脱水する。最近では[いつ?]、液体を封入した環を使い、それを脱水槽と同時に回すことで全体としてバランスが取れるようにしていることが多い[要出典]。
いわゆる全自動洗濯機は、洗濯槽と脱水槽が1つになり、水の出し入れが自動化され、洗濯から脱水まで自動的に行うようになっている。1937年、ベンディックスが初の全自動洗濯機の特許を取得し[18]、それを使った洗濯機を同年発売した[19]。この洗濯機は現代の全自動洗濯機の基本機能は全て備えていたが、サスペンション機構がなかったため、動き回らないよう床に固定する必要があった。
初期の全自動洗濯機では、洗濯槽/脱水槽の回転速度は機械的手段か電動機に供給する電力を可変抵抗器で加減することで制御していた。1970年代には上位機種から電子制御が一般化していった。1990年代になると、タイマーの代わりにマイクロコントローラを採用した機種が登場する。これが今(近年)では一般化している。ファジィ制御も洗濯機にいち早く採用されている。
最近では衣類乾燥機の機能まで1台でこなすものもあり、ボタン一つで最後までいくが、家庭用での普及よりコインランドリーで汎用されている。
21世紀頃から、より使用水量の少ない縦ドラム型の洗濯機が普及している。
槽の中に洗濯物が入った円筒のドラムを入れ、ドラムを回転させて洗濯する。ドラム式の元となった。
槽と同じ程度の高さのある大型の羽根をゆっくり反転させて水流を発生させる方式。構造的に大型となるため日本では業務用の一部に限られるが、アメリカでは現在も主流。 日本では1922年(大正11年)に初めて輸入され、1930年(昭和5年)に東芝が国産初の電気洗濯機として製造。終戦直後は日本のメーカーも進駐軍向けに製造していたが、1947年(昭和22年)に「日本人メイドの人件費が安く、しかも上手に手で洗ってくれる」という理由で納入が打ち切られた。これを契機に一般向けにも発売されたが、5万円以上(ローラー絞り器なし 当時の日本人の大卒初任給は22,000円[要検証])と非常に高価だったため普及しなかった。
洗濯槽にパルセーターと呼ばれる羽根を持ち、それを高速回転させて激しい水流を発生させて汚れを落とす方式でアジアで一般的。日本では1953年(昭和28年)8月に三洋電機が初めて製造。定価は28,500円(当時の大卒初任給は17,000円)と、比較的買いやすい値段だった。同年に出力100W以下の洗濯機が物品税の対象から外れたのを契機に、槽の側面にパルセーターがある噴流式の開発が日本で盛んになった。しかし噴流式は洗濯物がよじれて傷みやすかったり、洗濯物が多くても少なくても同じ水量が必要だったことから、1954(昭和29)年にパルセーターを底面に設置した渦巻き式が開発された。日本では渦巻き式が1960(昭和35)年から現在までの主流となっている。パルセーターが大径口で乾燥機能が付くものは、タテ型(2000(平成12)年12月に松下電器、現パナソニックが発売)と呼ばれる。ごく初期のパルセーターは小型のものが主流であったが、現在ではほぼ洗濯槽いっぱいの大きさとなっている。昭和 - 平成初期に建てられたアパートや賃貸マンションに住む者は洗面台の入り口が55cm - 59cmと狭小のため、室内にドラム式が設置できないことから、この渦巻き式を購入することが多い。
横を向いた円筒状の洗濯槽を回転させ、洗濯物が上がっては落ちを繰り返すことにより叩き洗いをすることで汚れを落とす方式。ドラムの上底面から洗濯物を出し入れする。クリーニング店・コインランドリーの洗濯機ではこの方式が良く使われている。洗濯物の傷みが少なく、水の使用量も少ない。ヨーロッパでは主流の方式。 重量が重いことを引き換えに一般に乾燥機能においてメリットがあるため、家庭用では一部メーカー[注 7]を除き、乾燥機付き洗濯機に限られる。また奥行きが大きいことから、搬入経路や置き場所の考慮も必要である。 家庭用のサイズだと高温多湿で軟水の日本では脂肪を含んだ汗や泥汚れが充分に落ちづらいという点で不利。1950年代には日本でも製造されていたが、当時は家庭用としては主流とならなかった。しかし、ポンプアップと電子制御を併用、ヒーター式乾燥機能などを追加することで2000年(平成12年)から日本でも普及し始めた。2005年(平成17年)にはパナソニックが、世界で初めて乾燥にヒートポンプ式を採用したドラム式洗濯機を発売した。ヒートポンプ式はヒートポンプの熱交換と除湿によって乾燥する方式で、高温の温風で乾燥する従来のヒーター式に比べ、低温であるため衣類の傷みが少ない方式とされており、2022年現在、中上位機種で主流の乾燥方式となっている。上位モデルはタッチパネル式で、スマートフォンをリモコンとして用いる形で外出先など離れた場所からも洗濯機操作が可能(あらかじめ当該洗濯機・スマートフォン相互間の「ペアリング」が必要)。
洗濯物が浮き上がらないように上から蓋で押さえたうえで、洗濯槽の底にある振動板を高速で振動させて汚れを落とす方式。1950年代に発売したが、汚れの落ちが悪く振動がうるさいため全く普及しなかった。
洗濯は繊維製品の性質に合わせた方法をとる必要があるため、一般に衣料品などの繊維製品には絵表示(ピクトグラム)などで取扱方法が表示されている。日本では2017年春夏向け商品からISO(国際標準化機構)に対応した絵表示(JIS L 0001:2014)に変更され表示記号は22種類から41種類とほぼ2倍になる[35][36]。洗濯表示を参照。
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