ケニア山(ケニアさん、スワヒリ語: Mlima Kenya, 英語: Mount Kenya)は、ケニア共和国中央にそびえる同国最高峰の山である。
標高は5,199 mで、タンザニアのキリマンジャロに次ぐ、アフリカ大陸第2位の高さを誇る。赤道直下に位置するにもかかわらず、山頂部には氷河を戴いている。
標高の3,350メートル以上がケニア山国立公園としてユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。
山域には、バティアン (Batian, 5,199メートル)、ネリオン (Nelion, 5,189メートル)、ポイント・トムソン (Point Thompson, 4,955メートル)、レナナ(Lenana, 4,985メートル)などのピークが存在する。
「ケニア山」は後世になってこの土地を征服したヨーロッパ人が命名したものであり、このあたりの原住民族であるキクユ人の間ではこの山を「神の山」という意味のキリニャガ(Kirinyaga)あるいはケレニャガ(キクユ語: Kĩrĩnyaga)[2]と呼んでいた。これは、この山の頂上にはエンカイ(英語版)(マサイ語: Enkai[要曖昧さ回避])あるいはンガイ(英語版)(ヌガイとも; キクユ語: Ngai)と呼ばれる神が黄金の玉座に座っているという、キクユ人やマサイ人の言い伝えに由来する。
成層火山であるケニア山が活動した時期は鮮新世から更新世にかけてである。当時の高さは6,000メートルに達していたが、火山活動停止後の氷河期に氷河により2度削られた。これは氷河堆石が標高3,300メートル地帯に残っていることから推定される。また北東の寄生火山も氷河に覆われたため平坦な頂上になったと考えられている。山体をつくる岩石は玄武岩、響岩、粗面岩などである。標高3,950メートルから4,800メートルの間には多数の氷河湖とモレーンがあり、他にはU字谷もある[3]。
カブダチソテツジュロ(英語版)(ただし写真はタンザニアの群落)。
ケニアで採取された
アカキア・ドレパノロビウム(
トゥールーズ博物館(英語版)蔵)。
オリーブの亜種の
Olea europaea subsp.
cuspidata(ただし写真は
南アフリカ共和国の
テーブル山の個体)。
プロセラビャクシン(英語版)(ただし写真は
ツァボ・イースト国立公園(英語版)の個体)。
ケニア山南東部
チョゴリア(英語版)・ルート(Chogoria Route)上、
ユシャニア・アルピナ(英語版)のものと見られる竹林。
クロトン・メガロカルパス(英語版)(ただし写真は
ライキピア県ナニュキ(英語版) (Nanyuki) の個体)。
カロデンドラム・カペンセ(ただし写真は南アフリカ共和国
ケープタウンの
カーステンボッシュ国立植物園(英語版)の個体)。
ケニア山の標高約2,900メートル地点、チョゴリア・ゲート直下の
グラディオルス・ワトソニオイデス(英語版)。
ケニア山の標高約2,750メートル地点、チョゴリア・ルート上の
グィゾティア・ジャクソニイ(英語版)。
グニディア・グラウカ(スウェーデン語版)(ただし写真は
インドの
マハーラーシュトラ州アーンボリー(英語版) (
आंबोली) の個体)。
ケニア山の標高2,950メートル地帯の
コソノキ(英語版)。
ケニア山のチョゴリア・ルート沿い、標高約3,000メートル地帯の
ヒペリクム・レウォルツム(英語版)。
ケニア山の標高約3,300メートル地点、チョゴリア・ルート沿いの
デンドロセネキオ・バッティスコンベイ(英語版)。
ロベリア・アベルダリカ(英語版)(ただし写真は
カリフォルニア大学植物園(英語版)の個体)。
ケニア山の標高3,900メートル地帯に生育する
デンドロセネキオ・ケニエンシス(英語版)。ケニア山の固有種。
ケニア山の標高4,300メートル地帯に生育する
デンドロセネキオ・ケニオデンドロン(英語版)。
ケニア山の標高4,300メートル地帯に生育する
Lobelia gregoriana(スウェーデン語版)。ケニア山の固有種。
ケニア山の標高4,300メートル地帯に生育する
ロベリア・テレキイ(英語版)。
エイジュ(ただし写真は
スペインの
シエラ・マドロナ(英語版)の個体)。
ケニア山のオーストリアン・ハット(
Austrian Hut)上に生育する
セネキオ・ケニオフィトゥム(英語版)。ケニア山の固有種。
ケニア山に生育する植物には以下のようなものがあり、ケニア山のみに見られる固有種も数種存在する。また、ケニア山の西麓や南麓の現地語であるキクユ語名の存在する種は伝統的に有用植物として知られている傾向がある[注 1]。キクユ語での名称は基本的には Benson (1964) によるが、それ以外の文献による場合は個別に出典を示した。標高が高いところになると、巨大なキキョウ科ミゾカクシ属の植物(通称: ジャイアントロベリア (giant lobelia))やキク科デンドロセネキオ属(英語版)の植物(通称: ジャイアントグラウンドセル (giant groundsel)[注 2] またはジャイアントセネシオ)が見られるようになる。なお、ジャイアントロベリアにはケニア山に生育する以下4種のほかにも様々なものが知られており(参照: ミゾカクシ属#ジャイアントロベリア)、ジャイアントセネシオに関してもタンザニアのキリマンジャロに生育する Dendrosenecio johnstonii (Oliv.) B.Nord. subsp. johnstonii(シノニム: Senecio johnstonii Oliv.)[注 3]が存在する[4]。
標高約1,200-2,000メートル:
標高約2,000-3,000メートル:
標高約2,000-4,000メートル:
標高約3,000-4,000メートル:
- カレックス・モノスタキア(英語版)(Carex monostachya A.Rich.)[5]- カヤツリグサ科スゲ属。海抜2,700-4,400メートル地帯に見られる[23]。
- デンドロセネキオ・ケニエンシス(英語版)(Dendrosenecio keniensis (Baker f.) Mabb.; シノニム: デンドロセネキオ・ブラッシカ Dendrosenecio brassica (R.E.Fr. & T.C.E.Fr.) B. Nord.[5]、セネシオ・ブラシカ Senecio brassica R.E.Fr. & T.C.E.Fr.)- キク科デンドロセネキオ属(英語版)。ケニア山の固有種である[24][25]。別名: キャベツセネキオ[26]。
- デンドロセネキオ・ケニオデンドロン(英語版)(Dendrosenecio keniodendron (R.E.Fr. & T.C.E.Fr.) B.Nord.)[5]- キク科デンドロセネキオ属。ジャイアントセネシオの1つ[27]。ケニア山では西側と北側の標高3,650-4,350メートル地帯において見られる[28]。
- Lobelia gregoriana(スウェーデン語版) Baker f.(シノニム: L. deckenii subsp. keniensis、L. keniensis R.E.Fr. & T.C.E.Fr. (en) [5])- キキョウ科ミゾカクシ属。ジャイアントロベリアの一つ[22][29]で、ケニア山の固有種[30]。この種が生育する環境は気温が氷点下となることもあるが、数百枚の苞葉が積み重なって塔状となり、奥の子房を守る[29]。
- ロベリア・テレキイ(英語版)(Lobelia telekii Schweinf.)- キキョウ科ミゾカクシ属。ジャイアントロベリアの一つで[22]、葉を密生することにより昼夜の激しい温度差に耐えることができるようになっている[31]。標高4,500メートル以上の地帯にも見られる[5]。
- エイジュ(Erica arborea L. エリカ・アルボレア)[5]- ツツジ科エリカ属。キクユ語名: mũthithinda。
標高約4,000-5,000メートル:
- Carduus schimperi Sch.Bip.(シノニム: C. chamaecephalus (Vatke) Oliv. & Hiern カルドゥウス・カマエケファルス)- キク科ヒレアザミ属(英語版)。標高4,500メートル以上の地帯で見られる[5]。
- フェスツカ・アビシニカ(英語版)(Festuca abyssinica A.Rich.)- イネ科ウシノケグサ属。標高4,500メートル以上の地帯で見られる[5]。
- Festuca pilgeri St.-Yves[5] - イネ科ウシノケグサ属。標高4,500メートル以上の地帯に繁茂している[5]。
- セネキオ・ケニオフィトゥム(英語版)(Senecio keniophytum R.E.Fr.)- キク科キオン属。標高4,500メートル以上の地帯に生育する[5]ケニア山の固有種である[32]。氷河が溶けた場所で真っ先に生育することが可能な先駆種(英語版)(先駆植物、パイオニア植物)である[27]。
- キク科ヘリクリサム属の植物(Helichrysum spp.)[5]
- Helichrysum citrispinum Delile - 2006年までティンダル・ターン(英語: Tyndall Tarn)という池の北端より斜面上方には見られなかったが、2009年にはより上方の側堆石(ラテラルモレーン)上で32株の分布が確認された[27]。
標高不明:
- カルドゥウス・ケニエンシス(Carduus keniensis R.E.Fr.)- キク科ヒレアザミ属。高山帯の草原やヒース原に見られる多年草[33]。
- デンドロセネキオ・バッティスコンベイ(英語版)(Dendrosenecio battiscombei (R.E.Fr. & T.C.E.Fr.) E.B.Knox)- キク科デンドロセネキオ属。ケニア山ではヒース原の岩肌が露出した部分などのみに見られる(Knox 2005)。
- グラディオルス・ワトソニオイデス(英語版)(Gladiolus watsonioides Baker) - アヤメ科グラジオラス属。高山帯のエリカ類が繁茂する斜面に見られる球根植物[34]。
- グィゾティア・ジャクソニイ(英語版)(Guizotia jacksonii (S.Moore) J.Baagøe; シノニム: グィゾティア・レプタンス G. reptans Hutch.)- キク科キバナタカサブロウ属(英語版)。山地の攪乱地や、低い芝地において見られる多年草[35]。
- ヘリクリスム・ブロウネイ(Helichrysum brownei S.Moore)- キク科ヘリクリサム属。ヒース原地帯に見られる常緑低木で[33]山の北側と西側に見られるが、対照的に乾燥する傾向のある東側では全く記録がない[36]。
- ロベリア・ドゥリプラティイ(スウェーデン語版)(Lobelia duriprati T.C.E.Fr.) - キキョウ科ミゾカクシ属。山地の湿った芝地に生育する多年草[30]。
- ロムレア・コンゴエンシス(スウェーデン語版)(Romulea congoensis Bég.; シノニム: ロムレア・ケニエンシス Romulea keniensis Hedb.)- アヤメ科ロムレア属(英語版)。高山帯の石の多い湿った場所に生育する球根植物[35]。
最高峰バティアンへの初登頂は1899年9月13日にイギリス人地理学者のハルフォード・マッキンダーによって果たされ、第二峰ネリオン初登頂は1929年にイギリスの登山家パーシー・ウィン・ハリスとエリック・シプトンによって果たされた。
人を寄せ付けない厳しい気象環境として知られ、昼間は30度を超え、夜になると厳しい寒さとなり、氷点下5度までに下がる。
通常の登山ではレナナ峰の頂上でケニア山登頂となる。他のピークに登るには、高度なクライミング技術が必要となる。
レナナ峰は第二次世界大戦中に3人のイタリア人によって初登頂された[37]。彼らはイギリス軍の捕虜だったが捕虜収容所からケニア山を眺めているうちに登りたくなり、半年がかりで食料、物資を集め収容所を脱走、登頂に成功した。3人は下山後に収容所へ戻った。脱走の罰は3人とも28日の独房暮らしだった。
3人のうちの1人であるFelice Benuzzi(イタリア語版)が、この出来事について『No Picnic on Mount Kenya(英語版)』というタイトルの著書を出版している。この本に基づいて1994年に映画「The Ascent (1994年の映画)(英語版)」が制作された。
ケニア山の夜明け
最大のルイス氷河
ナイロビとケニア山周囲の部族名
注釈
詳細については Leakey (1977) や Maundu & Tengnäs (2005) を参照。
この2つを正名とシノニムの関係にあるとするのは Hassler (2018) であるが、The Plant List (2013) は両者とも独立種としている。
出典
Maundu & Tengnäs (2005:437).
Maundu & Tengnäs (2005:260).
英語:
- Beentje, H.J. (1994). Kenya Trees, Shrubs and Lianas. Nairobi, Kenya: National Museum of Kenya. ISBN 9966-9861-0-3. http://www.nzdl.org/gsdlmod?e=d-00000-00---off-0unescoen--00-0----0-10-0---0---0direct-10---4-------0-1l--11-en-50---20-about---00-0-1-00-0--4----0-0-11-10-0utfZz-8-00&a=d&c=unescoen&cl=CL1.6&d=HASH01b88f73433d5003648dbf5b
- Benson, T.G. (1964). Kikuyu-English dictionary. Oxford: Clarendon Press. NCID BA19787203
- Bussmann, Rainer W. (2006). “Vegetation zonation and nomenclature of Africa Mountains - An overview”. Lyonia 11 (1): 41–66. https://www.researchgate.net/publication/267569096_Vegetation_zonation_and_nomenclature_of_African_Mountains_-_An_overview.
- Coe, M.J. (1989). "Biogeographic affinities of the high mountains of tropical Africa." In William C. Mahaney (ed.) Quaternary and Environmental Research on East African Mountains, pp. 257–278. Rotterdam: A. A. Balkema. NCID BA06898303
- Hassler, M. (2018). World Plants: Synonymic Checklists of the Vascular Plants of the World (version Apr 2018). In: Roskov Y., Abucay L., Orrell T., Nicolson D., Bailly N., Kirk P.M., Bourgoin T., DeWalt R.E., Decock W., De Wever A., Nieukerken E. van, Zarucchi J., Penev L., eds. (2018). Species 2000 & ITIS Catalogue of Life, 30th June 2018. Digital resource at http://www.catalogueoflife.org/col. Species 2000: Naturalis, Leiden, the Netherlands. ISSN 2405-8858.
- Kamau, Loice Njeri et al. (2016). "Ethnobotanical survey and threats to medicinal plants traditionally used for the management of human diseases in Nyeri County, Kenya". TANG 6(3).
- Leakey, L. S. B. (1977). The Southern Kikuyu before 1903, v. III. London and New York: Academic Press. ISBN 0-12-439903-7 NCID BA10346810
- Maundu, Patrick and Bo Tengnäs (eds.) (2005). Useful Trees and Shrubs for Kenya. Nairobi, Kenya: World Agroforestry Centre—Eastern and Central Africa Regional Programme (ICRAF-ECA). ISBN 9966-896-70-8 Accessed online 7 July 2018 via http://www.worldagroforestry.org/usefultrees
- The Plant List (2013). Version 1.1. Published on the Internet; http://www.theplantlist.org/ (accessed 9th July).(植物の正名とシノニムの関係については、主にこれに拠った。)
- Schmitt, Klaus (1991). “The vegetation of the Abedare National Park Kenya”. Hochgebirgsforschung 7: 1–250. https://books.google.co.jp/books?id=U2R-AAAAMAAJ&q=mucinjigiri+Gnidia&dq=mucinjigiri+Gnidia&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwih7_Du7tTcAhXIwrwKHSmZB14Q6AEIJzAA.
日本語:
- Hedberg, O. (1951). “Vegetation belts of East African Mountains”. Svensk Botanisk Tidskrift 45: 140–202. NCID AA00854282
- Knox, E.B. (2005). "Dendrosenecio." In: H.J. Beentje and S.A.Ghazanfar (eds.), Flora of Tropical East Africa, Compositae, Part 3, pp. 548–563. Kew, London: Royal Botanic Gardens.
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