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膜翅目ミツバチ科の昆虫 ウィキペディアから
ミツバチ(蜜蜂)とは、ハチ目(膜翅目)・ミツバチ科(Apidae)・ミツバチ属(Apis アピス[1])に属する昆虫の一群で、花の蜜を加工して巣に蓄え蜂蜜とすることで知られている。現生種はアジアからヨーロッパ、アフリカにかけて1属9種が知られ、元来アメリカ大陸には分布していなかった。しかし、とくにセイヨウミツバチは全世界で養蜂に用いられており、逸出したものがアメリカ大陸でも定着し、野生化している。日本にはトウヨウミツバチの亜種ニホンミツバチのみが本州から琉球列島の奄美大島にかけて自然分布している[2]が、小笠原諸島や沖縄など一部地域ではセイヨウミツバチが野生化し問題となっている。
日本ではニホンミツバチ、セイヨウミツバチの2種が飼育(養蜂)され蜜の採取が行われている。また作物の受粉にも広く用いられるが、トマトやピーマンなどのナス科の果菜類は蜜を出さず特殊な振動採粉を行うためミツバチではなくマルハナバチ(ミツバチ科マルハナバチ属)が使われる。セイヨウミツバチの養蜂においては規格化された巣箱を用いて大規模な採蜜が行われる一方、ニホンミツバチの場合は一部の養蜂家がハニカム人工巣を用いた養蜂を行っている[3]が、多くは野生集団を捕獲して飼育し採蜜の際は巣を破壊して搾り取ると言う伝統的な手法が主であり、蜂蜜の流通量も少ない。
日本では2012年6月に養蜂振興法(昭和30年8月27日法律第180号)が改正され、原則として蜜蜂を飼育する場合には都道府県知事への飼育届の提出が必要となった[4]。
ミツバチ属 Apis は現生種ではコミツバチ亜属 Micrapis、オオミツバチ亜属 Megapis、およびミツバチ亜属 Apis の3亜属、合計9種に分類される[5]。そのいずれもが、真社会性の昆虫で、餌に花蜜や花粉を集める[6]。コミツバチ亜属及びオオミツバチ亜属の種は、開放空間に営巣しその巣板は1枚である[6]。ミツバチ亜属では樹洞のような閉鎖空間に営巣し、複数の巣板を作る[6]。
コミツバチ亜属には次の2種が属し、その体の大きさはミツバチ属中で最も小さく、現生種のうちで最も祖先的な群である[7]。
オオミツバチ亜属には次の2種が属し[5]、体の大きさはミツバチ属中で最も大きい[9]。オオミツバチには基亜種のほかに2亜種が知られている[10]。
ミツバチ亜属には次の5種が属している[5]。
ミツバチ属現生種の系統関係については、働き蜂の形態形質やミトコンドリアあるいは核DNAの塩基配列の解析から、そのいずれにおいても比較的類似した結果が示されている[20]。
コミツバチ亜属、オオミツバチ亜属、ミツバチ亜属のいずれも単系統群で、コミツバチ亜属が最も基部で分岐し、オオミツバチ亜属とミツバチ亜属は姉妹群の関係にある。ミツバチ亜属の中ではセイヨウミツバチとサバミツバチがそれぞれ分岐し、残ったトウヨウミツバチ、キナバルヤマミツバチ、クロオビミツバチがクレードを形成する[20]。
コミツバチ亜属とオオミツバチ亜属がいずれも開放空間に一枚巣板を作ることから、この習性がミツバチ属の共有原始形質であり、ミツバチ亜属の閉鎖空間に複数巣板を作る形質は派生形質であると考えられている[20]。
化石種は1976年に17種が記録されたが、2005年に3亜属8種に整理された(3亜属のうち1亜属は現生種と同じオオミツバチ亜属である。)[21]。その後アメリカ合衆国ネバダ州で発見された中新世中期の化石がミツバチ属のものであることが 2009年に発表され、Apis nearctica と命名された[22]。これは新世界で初めて発見されたミツバチ属の化石となった[22]。
ムカシミツバチ亜属 Cascapis は次の1種とされていた[21]が、2009年に1種追加され2種となった[22]。
アケボノミツバチ亜属 Synapis は次の6種となっている[21]。
オオミツバチ亜属 Megapis
新世代の女王蜂の羽化を目前とした巣では群の分割(分封)が起こり、旧世代の女王蜂は働きバチを引き連れ巣を出て新しい巣を探しに出る。この際、旧世代の女王蜂を護って働きバチが塊のようになる分封蜂球(ぶんぽうほうきゅう)を作る。
ミツバチの働きバチは受精卵から発生する2倍体(2n)であり全てメスである。通常メスの幼虫は主に花粉と蜂蜜を食べて育ち働きバチとなるが、働きバチの頭部から分泌されるローヤルゼリーのみで育てられたメスは交尾産卵能力を有する女王バチとなる。オスは未受精卵から発生する1倍体(1n)であるが、巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしない。働きバチに比べて体が大きく、働きバチや女王バチよりも複眼と単眼が非常に発達していることが外見上の特徴である[23]。
オスは女王バチと交尾するため、晴天の日を選んで外に飛び立つ。オスバチは空中を集団で飛行し、その群れの中へ女王バチが飛び込んできて交尾を行う。オスバチは交尾の為の射精後に速やかに死亡し、新女王蜂はこの死体をぶら下げてしばらく飛翔するがやがて交尾器がちぎれて雄蜂の死体は落下する。新女王蜂は体内に残った交尾器を排除して再び雄蜂の群れに向かい交尾を行う。この配偶行動が幾度か繰り返されて新女王蜂の体内に一生の間で使用されるだけの精子が蓄えられると巣に帰還し産卵を開始する。アリ科やスズメバチ科の社会性昆虫の多くで生涯交尾回数が一度だけで一個体の雄としか交尾しないのと好対照である。交尾できなかったオスも巣に戻るが、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出されるなどして死に絶える。
毒物への耐性は弱く、ショウジョウバエの半分程度という[24]。
セイヨウミツバチの成虫の寿命は、女王蜂が1-3年(最長8年)、働き蜂が最盛期で15-38日、中間期は30-60日、越冬期が140日、雄蜂は21-32日である[25]。
受精卵からはメス(女王蜂または働き蜂)が生まれるが、卵が受精せずに発生した場合はオスとして生まれる。オスはメスの半分の染色体数を持ち、それはすべて母親(女王蜂)に由来する。このためオスは母親の持つ遺伝情報の半分(ゲノムに相当)を受け継ぎ、メスは母親の持つ遺伝情報の半分と半数体の父親の遺伝情報すべてを受け継ぐことになる。
ミツバチは蜜源を見つけると巣内の垂直な巣板の上でダンスを行い、仲間に蜜源の方向と距離を伝える。これは本能行動の例としてたびたび使われる。ミツバチのダンスは蜜源の場所という具体的な情報をダンスという抽象的な情報に変換して伝達が行われるため、記号的コミュニケーションであると考えられている。ミツバチのダンスコミュニケーションを発見したカール・フォン・フリッシュは高次なコミュニケーション能力が昆虫にもあるという発見が評価され、ニコ・ティンバーゲン、コンラート・ローレンツと共に1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
蜜源が近い場合には、体を振りながら左右に交互に円形を描く「円形ダンス」をおこなう。
蜜源が遠い場合(50m〜)は「尻を振りながら直進 - 右回りして元の位置へ - 尻を振りながら直進 - 左回りして元の位置へ」という、いわゆる「8の字ダンス(尻振りダンス)」を繰り返す。このとき尻を振りながら直進する角度が太陽と蜜源のなす角度を示しており、真上が太陽を示す。つまり巣板上で右手水平方向に向かって尻を振るような8の字を描いた場合、「太陽を左90°に見ながら飛べ」という合図になる。また、ダンスの時の尻を振る速度が蜜源までの距離を表す。すなわち尻振りの速度が大きいときは蜜源までの距離が近く、速度が低いときには距離が遠い。花粉や水の採集、分封時の新たな巣の場所決定に際しても、同様のダンスによるコミュニケーションが行われる。
蜜を持ち帰った働きバチは、貯蔵係のハチに蜜を渡すが、そのとき貯蔵係は糖度の高い蜜を優先して受け取り、糖度の低い蜜を持ったハチは待たされる。このことによって、よりよい蜜源へ働きバチを集中的に動員できる。
自然の状態では、ミツバチの巣は巣板と呼ばれる鉛直方向に伸びる平面状の構造のみからなる。ミツバチが利用した空間の形状によっては巣板が傾いていることもある。巣板の数はミツバチの種によって異なる。養蜂に用いるニホンミツバチやセイヨウミツバチは複数枚の巣板を形成し、自然の状態でも10枚以上にのぼることがある。コミツバチなどは巣板を1枚しか作らないため、養蜂には向かない。
ミツバチは巣板を防御する構造物を自ら作り出すことはせず家屋の隙間や床下、木のウロなどもともと存在する外壁を利用する。都市部では巣板がむき出しになった巣も存在する。
巣板は中空の六角柱が平面状に数千個接続した構造である。このような構造をハニカム構造と呼ぶ。強度に優れ、材料が最少で済むという特徴がある。六角柱は厚さ約0.1mmの壁でできており、奥行きは10〜15mmある。底部は三角錐である。巣板の材料はミツバチの腹部にある蝋腺から分泌された蜜蝋である。幼虫を育てるために使用する穴の奥行きは10〜15mmであるが、蜜を貯蔵するために使用する穴の奥行きはバラツキが大きく20mm程度に成る場合もある。
ミツバチの天敵としてアジアだけに生息するオオスズメバチがいるが、アジアで進化したトウヨウミツバチはオオスズメバチへの対抗手段を獲得した。巣の中に侵入したスズメバチを大勢のミツバチが取り囲み蜂球(ほうきゅう)とよばれる塊をつくり、飛翔筋を激しく震わせることによって内部の温度を上昇させ、スズメバチを蒸し殺す(熱殺蜂球)。蜂球形成後、およそ5分で内部は最高温度の平均46℃、CO2濃度4%、相対湿度90%に達し[26]、オオスズメバチは10分以内で熱死した[26]。50%の個体が死ぬ致死温度 TL50を調べたところ、オオスズメバチでは大気条件で 47.5℃であったが、蜂球内に近いCO2濃度3.7%では 45.4℃と2℃ほど低くなり、相対湿度90%(温度46℃の場合)の混合気体では 44℃とさらに1℃の低下が観測されている[26]。ミツバチの運動により温度、CO2濃度、湿度が高まり、酸素欠乏ではなく体表の気化熱で冷やすことができなくなり、高温により死んだと考えられる[26][27]。一方で、ミツバチの10分間の致死温度 TL50は蜂球内と同等のCO2濃度でもほぼ変わらず50℃以上であり、このためミツバチが蜂球の熱で死ぬことはない[26][28](前述のように巣から女王が移動する場合も「分封蜂球」という蜂球を作る)。ただし、蜂球を一度経験した個体(15から20日齢)の寿命を追跡調査した結果、余命が1/4ほどに短くなることが報告されている[29]。また、蜂球経験済みの個体は次に蜂球を形成する際、返り討ちに遭いやすく危険な蜂球の中心部に集中することが観測された[29]。
セイヨウミツバチは、大群でモンスズメバチの腹の周りを圧迫し、呼吸を不可能にして約1時間かけて窒息死させるという対抗手段を持っているケースが報告された。これをasphyxia-balling(窒息スクラム)と呼ぶ[30][31]。また、従来、セイヨウミツバチは蜂球を作らないと考えられていたが、2・3回、スズメバチを提示すると、蜂球を形成することが実験で確認された[27]。トウヨウミツバチとセイヨウミツバチの共通祖先がすでに蜂球行動をしていた可能性がある[27]。
古くから使われていたニホンミツバチに比べより多くの蜜を採集するセイヨウミツバチが1877年に導入された[32]。セイヨウミツバチは繁殖力も旺盛なことから野生化しニホンミツバチを駆逐してしまうのではないかと懸念された。実際に北米では養蜂のために導入した後、野生化している。しかし、日本では現在まで一部の地域を除いて野生化は確認されていない。これは天敵オオスズメバチの存在によると考えられている。セイヨウミツバチの窒息スクラムはモンスズメバチ以下の小型種しか対応できず、大型で体力があるオオスズメバチの襲撃を受けると容易に巣を全滅させられるためと説明される。
一方、近年になって都市部で野生のニホンミツバチの観測が増える傾向にある。住宅街はもちろん、自動車の排気ガスや鉄道の騒音に晒されるような都心部に巣作りしていることも多々ある。都心部では天敵のスズメバチが人間によって駆除される為、山間部より比較的安全であるからと推測されている。
巣に寄生し、巣の基材(巣板)を食べるハチノスツヅリガ [33]、ノゼマ病を引き起こすミツバチ微胞子虫( Nosema apis )、バロア病を引き起こすミツバチヘギイタダニ( Varroa destructor )、アカリンダニ症を引き起こすアカリンダニ ( Acarapis woodi )、ミツバチトゲダニ症を引き起こすミツバチトゲダニ( Tropilaelaps clareae )[34]、ケーニガーミツバチトゲダニ( T. koenigerum )、幼虫が蜜や花粉を食べ、排泄物により巣を崩壊させるハチノスムクゲケシキスイ(Aethina tumida)などが報告されている[35]。
直接ミツバチを襲うわけではないが、養蜂家からスムシ(巣虫)と呼ばれ嫌われるハチノスツヅリガ( Galleria mellonella )等の蛾の幼虫は、蝋を原料とした巣を食べて成長する(蜂児をも捕食することがある。)[36]。多くのスムシに寄生された巣の蜂群は逃去することもある[36][37]。オオミツバチでもハチノスツヅリガの食害があるが、ヒマラヤオオミツバチでは知られていない[38]。コミツバチでも同様にハチノスツヅリガの食害を受け、これが蜂群の逃去の原因となっている[39]。
アカリンダニは日本の届出伝染病に指定され[40]、ミツバチ成虫の気管内に寄生して体液を吸汁するダニ。寄生されたセイヨウミツバチ群では、採餌能力、育児能力の低下を引き起こし、冬期に群が崩壊することが知られている[41]。
現在、セイヨウミツバチの蜂群がアメリカ合衆国をはじめ世界的に激減しつつあり、蜂群崩壊症候群と呼ばれる。原因としては特定のダニ、病原体、電磁波、ネオニコチノイド系農薬、長距離移送によるストレス(アメリカ合衆国)、冬期に餌として与えられる異性化糖、果ては地球温暖化が疑われているがはっきりとはしていない。
ミツバチとマルハナバチは知的な生き物であることが示されている。彼らは無(零・ゼロ)の概念を理解し、簡単な計算を行うことができ、人間の顔(そしておそらく蜂の顔も)を区別することができる。採食に成功しているときは楽観的だが、捕食者のクモに一瞬でも引っかかると気分が落ち込み、クモから逃れたあとでもミツバチの態度は一変し、その後数日間はどの花にも怯えるようになる[42]。
人間は、主に下記の物をミツバチの生活環から得て利用をしている。
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