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日本のアニメーション映画 ウィキペディアから
細田守監督による長編オリジナル作品第2作である。細田は本作で初めて自ら脚本も手がけた。物語は主人公である19歳の女子大学生と「おおかみおとこ」との出会いから、恋愛、結婚、出産、子育て、そして二人の間に生まれた"おおかみこども"の成長と自立までの13年間を描いた作品となっている[2]。
本作で細田が選んだテーマは「親子」[2][3]。「母と子」をテーマに、母子愛を描いた[4][5]。以前からずっと「お母さんを理想的に、凛とした背筋の伸びた女性に描きたい」と考えていた細田は「理想のお母さん像」を作ることにこだわり、子供たちではなく母親を主人公として前2作に続いて生き生きとしたバイタリティ溢れる作品を描きたかったと語っている[5]。
本作では、初の試みとして細田守自身が映画の原作小説の執筆に挑戦している[2]。
『ヤングエース』にて2012年5月号より優による漫画版が、『コンプティーク』にて2012年6月号より美水かがみによるスピンオフ4コマ漫画がそれぞれ連載されている(2013年12月時点)。
本作中では漢字表記の「狼」は使用されず、ひらがな・カタカナ表記のみであるため、本記事でも同様に表記する。
物語は、娘の雪が、母である花の半生を語る形で綴られる。
女子大学生の「花」は、教室で、ある男と出会い恋をする。彼は自分がニホンオオカミの末裔「おおかみおとこ」であることを告白するが、花はそれを受け入れ2人の子供を産んだ[注 1]。産まれた娘の「雪」と息子の「雨」は人間でありながらも、おおかみに変身できる「おおかみこども」であった。しかし雨の生後間もなく、突然「おおかみおとこ」は亡くなってしまう[注 2]。花は独力で「おおかみこども」としての育児に挑むが、まだ変身を自由にできず、周囲に迷惑をかけはじめたため、都会での育児を断念し、人里をはなれ、動物も多く、雨と雪が野性的になっても大丈夫という理由から田舎の古民家に移住する。
当初、蛇や猪をも恐れず活発な性格の雪に対し、弟の雨は内気で逃避的であったが、最初の冬を超えてから雨は変わり始める。雪が小学校に通い始めて友達が出来ると、自分が野獣的なことを意識して葛藤を感じ、人間の女の子として振る舞おうと決意する。一方で雨は小学校に馴染めず、学校を抜け出したり休みがちになり、山に魅かれるようになっていく。花は自給自足を目指して田畑に勤しみ、次第に村の人々と打ち解けて、学芸員として仕事も始めるようになった。
ある日、雪のクラスに草平という転校生がやってくる。雪は草平にいきなり「獣臭い」と言われて動揺し、正体の発覚を恐れて彼を避けるが、どうして自分が避けられるのか理解できない草平に執拗に追いかけられて、パニックでおおかみの姿のまま彼の耳を傷つけてしまう。負傷した草平は、雪が自分の母親やクラスメイトに責められるのを見て、おおかみがやったことだと取り繕った。しかし、その件で落ち込み学校を欠席する雪を草平は見舞い、それをきっかけに距離の近い関係となる。その頃、雨は山を統治する一匹の狐を「先生」と呼んで、彼から山で生きる術を学び始める。
ある夜、自分は人間ではなくおおかみであるという雨と、人間だからもうおおかみにならないと言い放った雪は、お互いの生き方を否定しあい大喧嘩をしてしまう。
ある大雨の日、雨は「先生」がもうすぐ死ぬことを受けて、おおかみとして先生の後を継ぎ、山を守っていくことを決意する。台風の中で山に入っていった雨を花は連れ戻そうと追いかけるのだった。
ちょうどその頃、親が迎えに来なかった雪と草平は学校で二人きりで夜を過ごしていた。教室で将来の夢を語る草平に、雪は自分が「おおかみこども」で、草平に怪我をさせたのは自分だったことを告白し、おおかみの姿に変身してみせる。草平は驚く様子も見せず、雪が「おおかみこども」であることを本当は知っていたことを打ち明け、今までも、これからも誰にも言わないことを約束する。
一方、花は雨の捜索の中で滑落してしまう。明け方、雨に運ばれ山の駐車場で意識を取り戻した花は、山へ戻ろうとするおおかみ姿の雨を呼び止めるも、雨は山奥に消える。花はその場で泣き崩れるが、山の崖から雨の上げる大きく力強い雄叫びに心をうたれ、不安を払拭し、雨に向けて「しっかり生きて」と励ます。
雪と雨は結局、最後まで和解が出来なかったが、花はそれでも二人が成長したと誇らしげに思った。中学校にあがった雪は花の勧めで寮生活を選択し、草平や友人達と共に、人間として過ごし、雨はおおかみとして山を支配していく[注 3]。
発売・販売元はバップ。
制作はそれまでのマッドハウスに代わり、本作から前年に細田守がこの作品のために設立したアニメーション映画制作会社のスタジオ地図が行なうようになった[12][13][14]。
キャラクターデザインの貞本義行など、『時をかける少女』『サマーウォーズ』と細田作品に関わってきたスタッフが製作を手がけている。脚本は『時をかける少女』から前作『サマーウォーズ』まで担当してきた奥寺佐渡子が引き続き書いているが、本作では奥寺と細田守の共同執筆となった[12]。
全国381スクリーンで公開され、公開初日と翌日の2日間で興行収入3億6514万9000円、観客動員数27万6326人を記録、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第2位となった[16]。また、公開後30日間で観客動員数240万人[17]、公開後59日間で興行収入40億円を達成した[18]。さらに同年11月末までには観客動員数341万人を突破[19]、興行収入は最終的に年内で累計42.2億円[1]。
日本での公開に続き2012年8月29日にはフランスでも公開された。公開に先駆けて6月25日(現地時間)には、パリでワールドプレミアが行われ[20]、「細田守アートワーク展」も開催された[21]。フランスでは「ディズニーやピクサー作品とは一線を画すアニメーション映画だ」とも評価されており、フランスで公開される日本映画としては北野武の『アウトレイジ ビヨンド』や、『おくりびと』と並ぶ公開規模であり[20]、世界34の国と地域での公開も決定[16]。最終的には90を超える国と地域で配給された[4]。
ロサンゼルスで開催されている「LA EigaFest 2012」にて招待作品として上映されている。
2013年12月20日に地上波初放送。放送枠を25分拡大し、本編ノーカットで放送された。副音声では解説放送も行われた。また、細田直筆のキャラクターイラスト入りサイン色紙などのプレゼント企画も実施された。視聴率は関東地区で15.4%を記録した(ビデオリサーチ調べ)。
2015年7月10日には『バケモノの子』公開記念3週連続スペシャルの第2弾として放送された。前回と同様に25分拡大して放送した。視聴率は関東地区で13.6%を記録した(ビデオリサーチ調べ)。
2017年3月24日に3度目の放送。前々回と同様に25分拡大した。視聴率は関東地区で11.3%を記録した(ビデオリサーチ調べ)[22]。
細田が本作について、取り組みの動機のひとつが自分の周囲の人間が子育てを始めたことであり、「親になった彼らが輝いて見えた」からであるとのべている。
2013年の2月の「アニメ!アニメ!」のインタビューでは、細田は、子育てものであるにもかかわらず、「おおかみこども」という設定にした理由について、「子供が育っていったり子供を育てることは世間一般に当たり前のことと思われている。しかし当人たちにとっては全然当たり前ではない。その感覚を観客が共有するためには、誰もしていない経験(おおかみおとこの子どもを育てること)をみんなで共有すればいいと考えたからだ」と述べている[23]。
『ファミ通.com』のインタビューでは、細田は「人が子供をつくるのは、当たり前のことと簡単に思ってきた。しかし結婚してからは、都会で子供を育てるのは公的な支援など環境面で苦労があり、だからと言って田舎暮らしで楽ということもなく同世代がいないという苦労があることに気づかされるようになった。そのがんばりを映画にしたかったのだ」と述べている。(ヒトの)子育ては全くの孤立無援では成り立たず、今回オオカミという素材を選んだ理由は、「オオカミはとても家族的であって、リーダーがいて群れを統率し、全体のことを考えながら生きている律儀な動物だから」と答えている[24]。
『週プレNEWS』のインタビューでは、裏テーマとして「エロス」を掲げ、「主人公の花が子供を授かったのは、“そういうコト”があったからでしょう」「エロスという視点でもう一度、映画を観てください」とし、人間とオオカミの中間がマイノリティの比喩という意見に対しては「僕はマイノリティを描いたつもりはないですね。だいたい、マイノリティ、マジョリティっていう区別をする人自体が僕は信用ならない」と否定している[25]。
物語序盤の舞台である「東京のはずれにある国立大学」は、東京都国立市の一橋大学がモデルとなっている[26][27]。
また、移住先の田舎は富山県の里山をモデルとしている[28]。本作の背景には細田の出身地である富山県中新川郡上市町と隣の立山町の景観が描かれており、上市町の伊藤尚志町長からも「町をモデルにした映画を」と、監督に打診があったことが明かされている[29]。花の家のモデルとなった古民家は築130年で、上市町に居住していた山崎正男の親族の所有する個人宅である。映画が公開される5年前の2007年に前の所有者であった山崎正男が亡くなり、以降は登山客やハイキング客向けの休憩所として開放されていた。一時は取り壊しが検討されていたが、2010年に偶然訪れた細田が気に入り、花の住む家のモデルとして採用され、その後に映画が大ヒットしたことから、公開後の2012年に持ち主(山崎正男の親族)と有志(NPO法人「おおかみこどもの花の家」)により公開されている[30][31]。2022年7月9日には10万人目の来場者が訪れ、記念行事が行われた[32]。2024年7月19日には、住宅と土蔵について、文化審議会が登録有形文化財(建造物)にするよう盛山正仁文部科学大臣に答申している[33]。
雨と雪が通った小学校は滑川市立田中小学校がモデルとなっている(現在は北側校舎部分と体育館のみ現存)[31]。作中に出てくるタレを後付する焼き鳥は、監督の妻の実家がある長野県上田市の郷土料理、おいだれ焼き鳥である。
作品の公開終了後も上市町は「おおかみこどもの雨と雪の町」のPRした町づくりを継続しており、「おおかみこどもプロジェクト」と名付けられた地方創生総合戦略を実施している。
2012年10月5日放送のラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』において、細田と親交のある鈴木敏夫は、「この手の作品(家族の交流もの)はかつての日本映画が得意としたジャンルであったのだけれども、男はつらいよシリーズが終わってから、絶えて久しかったという情況があり、当作品について久しぶりである」とコメントしている。また対談の中で「サマーウォーズ完成の後に監督が母を失くしていること、細田が孝行息子ではなかったことから考えても、この作品がなくした母への贖罪の意味があったのだろう」と言及されている。また鈴木は、「幼少期にさんざん手をかけさせておいて、成長したら親孝行もなしで、山に入っていってしまった『雨』は細田本人がモデルに違いない」と述べている[34]。
アニメーション監督の富野由悠季は、『「おおかみこどもの雨と雪」の衝撃』と題したコメントの中で本作について「絶賛」している。変身ものや恋愛ものといった従来の作品ジャンルを超えた作品であるとし、その描写について冷静・リアルだと指摘、「新しい時代を作った」「本作の前では、もはや過去の映画などは、ただ時代にあわせた手法をなぞっているだけのものに見えてしまうだろう」と述べている[35]。
映画評論家の吉田広明は、細田のこれまでの作品、『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』第40話『どれみと魔女をやめた魔女』や、『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』、『時をかける少女』、『サマーウォーズ』について、いずれも主人公たちの選択を焦点に描いてきたと述べたうえで、本作では子供らの選択よりも、むしろ母親である花がそのいずれをも受容し祝福するという「大いなる肯定」を表現しているとし、「ほぼ同世代の映画作家が人間として一回り大きくなったのを目撃したのはこれが初めてのように思う。」と結んでいる[36]。
主人公の花の母親としての描かれ方には「理想の母親」とする視点もあるが、ライターの青柳美帆子は本作を分析して花が理想の母親像のロールモデルを持たずに孤独に育ち、母としてのふるまいを必死に「勉強」している人間であるといい、それは理想の家族像に外側からの視点で憧れを抱く細田自身の姿に重なると述べた[37]。またライターの西森路代は、水無田気流の著書『シングルマザーの貧困』の書評で本作を取りあげ、子育ての困難にぶつかっても公的な制度を利用したりそのために充分な金銭を得ようとすることもなく、図書館の本を読んで自分で解決する花の、美化された母としての姿に疑問を抱く声が公開時にあったことを指摘し、(2014年頃の)現実のシングルマザーの現状とはかけ離れた、宗教意識の希薄な日本における「信仰」の対象の如き「母性」の理想像として紹介している[38]。
2012年に細田守自身による原作小説が発表されている。アナザーストーリーではなく、映画の物語が忠実に描かれている[2]。
2012年、「月刊少年エース5月号」(KADOKAWA)にて優によるコミカライズ作品の連載がスタート[55]。単行本は角川コミック・エースより全3巻で発行された。
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