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調剤、医薬品の供給、その他薬事衛生を司る医療従事者 ウィキペディアから
薬剤師(やくざいし、英: Pharmacist, Chemist)とは、調剤、医薬品の供給、その他薬事衛生を司る医療従事者である。近代的な医療制度では、医療を施す医師・歯科医師と、医薬品を専門とした薬剤師を分離独立させた資格制度をとっている。
薬剤師 | |
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基本情報 | |
職域 | 医療, 健康科学 |
詳細情報 | |
関連職業 | 医師, 歯科医師, ファーマシー・テクニシャン, 毒性学者, 化学者, ファーマシー・アシスタントなど |
アメリカ合衆国等では Pharmacist という名称が用いられるが、イギリスを初めとする英連邦諸国では伝統的に Chemist あるいは、Dispensing chemist という名称が用いられる。薬剤師は一般薬局と病院で勤務することがほとんどであり、法規に従って品目数対比一定比率の製造薬剤師を確保しなければならない製薬会社への進出も可能である。 また、薬の流通および生産に必要な業務を監視、指導および教育する薬務関連公務員として進出することもできるし、大学院研究科に進学した後、関連研究所に進出して薬品開発研究、特許審査などより専門性が要求される職責でも勤めることが多い。[1]
日本では1874年(明治7年)の「医制」の公布より、近代的な医療制度が初めて導入された。薬剤師は、医師が作成した処方箋に基づいて、医薬品を調剤、また供給することができる。近年では、コ・メディカルの提唱によって、チーム医療の導入が重要視されており、薬剤師もファーマシューティカルケアの概念から業務を行っている。薬剤師は一般用医薬品、要指導医薬品、医療用医薬品の全てを販売又は調剤できる薬のスペシャリストであり、セルフメディケーションとしての医薬品と処方箋による医薬品の両方を扱えるのは薬剤師のみである。また、薬剤師は医師・歯科医師・獣医師の出す処方箋に対し、疑義照会をすることができる唯一の職種である。
東洋では、薬が医療の中心であったため、「薬師如来」としてあるように医師と薬剤師の区別はなかった。
一方で、西洋では1240年頃フリードリヒ2世によって医師が薬局を持つことを禁止した5ヵ条の法律が制定され、医師と薬剤師の人的、物理的分離、医師が薬局を所有することの禁止などの条項が定められた。これが医薬分業と薬剤師の起源とされている。これは処方と調剤を分離し、自己の暗殺を防止することが目的であったという説が有力である。これは現在においても、医師の過剰処方による患者の薬漬けや処方ミスの防止を目的に世界的に行われている。
日本では古来からの医薬同一の医療体制を近代化するため、ドイツの医療制度を翻案し1874年(明治7年)8月「医制」が公布され、近代的な医療制度が初めて導入された。これにより「医師たる者は自ら薬をひさぐことを禁ず」とされ、医師開業試験と薬舗開業試験が規定された。薬舗を開業するものは薬舗主とされ、これが日本の薬剤師の原形となった。さらに1889年(明治22年)には薬品営業並薬品取扱規則(薬律)が公布され、「薬舗」は薬局、「薬舗主」は薬剤師と定義された。
薬剤師 | |
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英名 | Pharmacist |
実施国 | 日本 |
資格種類 | 国家資格 |
分野 | 福祉・医療 |
試験形式 | 薬剤師国家試験(マークシート) |
認定団体 | 厚生労働省 |
等級・称号 | 薬剤師 |
根拠法令 | 薬剤師法 |
ウィキプロジェクト 資格 ウィキポータル 資格 |
日本において、薬剤師とは、「調剤、医薬品の供給その他薬事衛生を司る事によって、公衆衛生の向上および増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保する」ものであり(薬剤師法第1条)、医薬関係者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第1条の5)、医療の担い手である(医療法第1条の2第1項)。
日本では医師・歯科医師に薬における権限が集中しすぎていて、諸外国と比較して薬剤師は諸権限がない場合が多く、戦後徐々に諸外国並みの権限を持つようになってきているが、現状先進国の薬剤師制度から遅れており薬剤師後進国と言える。ただし、一部の病院・診療所では医師が診察、診断し薬剤師が処方を設計しそれを提案するという「薬物療法の担い手」として活躍している。医師は一般的に自分の専門とする科の薬物には詳しいが、他科の薬まで把握するには時間も労力も必要とするため、薬剤師に専門家としての意見を求める医師も増えてきた。医師が診断のスペシャリストであるのに対して、薬剤師は薬のスペシャリストであり、6年間にわたって薬の作用機序や副作用、薬物動態、相互作用および禁忌などを学んでいる。薬剤師ならではの薬物動態・薬力学的観点での医師への薬物療法の提案や、化学的思考での相互作用については医師にはない知識である。薬物の体内での相互作用や、医薬品の混合の際の化学変化についての予測や対応は、有機化学や物理化学などの知識に長けている薬剤師の力が発揮される場面である。特に抗がん剤、抗生物質、精神科薬の分野では薬剤師が薬学的知識を生かして積極的にチーム医療薬物治療にかかわっている。
日本で薬剤師になるには、薬剤師国家試験に合格しなければならない。その後、厚生労働省内に備えられる薬剤師名簿に登録申請し厚生労働大臣より薬剤師の免許が与えられる(薬剤師法第2条、第3条、第6条、第12条)。日本の大学における薬学の正規の課程は、2005年以前に入学した者は4年制、2006年以降に入学した者は6年制である。未成年者には免許は与えられず(絶対的欠格事由、第4条)、以下の者については免許が与えられないことがある(相対的欠格事由、第5条)。なお成年被後見人又は被保佐人を欠格条項とする規定については、令和元年6月14日に公布された「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」によって削除され、心身の故障等の状況を個別的、実質的に審査し、必要な能力の有無を判断することとなった。
薬剤師は、2年ごとの年(西暦の偶数年)の12月31日現在における氏名、住所その他厚生労働省令で定める事項を、当該年の翌年1月15日までに、その住所地の都道府県知事を経由して厚生労働大臣に届け出なければならない、とされ(薬剤師法第9条)、有資格者は、厚生労働省の「薬剤師資格確認検索システム」にて氏名を確認できる[2]。
この他に薬学部における一定の単位の取得により受験資格が得られる資格もある(甲種危険物取扱者など)。また認定薬剤師、専門薬剤師の分野として薬剤師認定制度がある。
薬剤師の業務は多肢に渡る。なかでも薬剤師法で一番にあげられる「調剤」は基本的な薬剤師の業務である。薬局等における医療用医薬品の処方監査・投薬業務のほか、一般用医薬品(OTCや漢方薬など)の購入相談業務など内科医的な側面も併せ持つ。
一方で、病院・診療所勤務の薬剤師は、医師の指示のもとに業務を行うコ・メディカルとしての側面ももつ。特に2010年からチーム医療が推進され、医療の質および医療安全の確保から、積極的に薬学の専門家として薬物療法に参加し[3]、医薬品に起因する問題を防止することがより一層求められている[4][5][6]。
保険薬局において健康保険をはじめとする公的医療保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた薬剤師(「保険薬剤師」)でなければならないとされ(健康保険法第64条)、日本の公的医療保険制度は国民皆保険であるため、必然的に医療機関・薬局に勤務する薬剤師の大半は保険薬剤師となり、保険者が決めたルール(保険適用)の中で調剤を行っている。基本的に一部例外的に医師に認められている以外は薬剤師でなければ調剤することはできない。海外で導入されている例があるテクニシャン制度も日本にはない。
薬機法および薬剤師法では、「薬剤師法人」「製薬法人」など、社員を薬剤師に限定する合名会社に準じた特別の法人形態の設置を認めていないため、下記に記す薬局・製薬業は株式会社形態により設置されるケースが多い。他の医療資格や、いわゆる「士業」とは異なり、有資格者の大半が株式会社の従業員・役員として業務に従事している点が特徴でもある。
なお、薬局や製薬会社などで薬事業務に従事する薬剤師は独立した専門職である。例えば、薬局等の管理者は薬剤師でなければならず製薬会社や医薬品卸売販売業にも管理薬剤師を置かなくてはならない(薬機法第7条第2項:医師等他の資格ではできない)。独立した医療系資格の医師、歯科医師、薬剤師を医療3師と呼ぶこともある。
「医薬品の供給」に関する業務においては、開発・製造から、流通、販売におけるまでほぼすべての分野で関与している。また「その他薬事衛生」に関する業務においては、医薬品以外でも世界各国で推進されているセルフメディケーションに関与する唯一の国家資格者としての責任を負っている。
以下、厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査[7] (薬剤師#統計)での薬剤師従事者分類に準拠して薬剤師業務の概要を述べる。
病院内で働く薬剤師は医師の指示の下で働くのでコ・メディカルに分類される場合もある。病院内で処方箋に基づき調剤を行なう。薬局と異なり、注射剤などの調剤も多い。このほか、感染制御チーム、治験審査委員会、栄養サポートチームなどのメンバーとしての活動を行なうこともある。一定数の専属の薬剤師を配置しなければ原則として特定機能病院を開設することはできない(医療法第22条の2第1号)。医療法等により病院等には医薬品の適正使用のために医薬品安全管理責任者の設置が義務づけられている。なお、医療法第18条本文および医療法施行規則第6条の6の規定により、病院または医師が常時3人以上勤務する診療所には専属の薬剤師を配置する必要があるが、都道府県知事の許可を受けた場合はこの限りではない例外規定がある。
現在の薬は、薬効が強く出るため用量調節が難しいことがあるうえ、一昔前であれば、死亡していた重篤な疾患(腎不全、肝不全など)を合併している患者への投与が必要になることがある。このような場合には、薬物動態理論や臨床薬理に関する膨大かつ専門的な知識が必要となる。このため、薬を処方するためだけの専門家が必要になりつつある。米国では、すでに、日本型(旧来型)の薬剤師の養成は中止しており、変わりにen:Pharm.D. と呼ばれる新たな薬剤師を薬学部が養成して、医師とほぼ同じ給与で病院に送り込み、医師の負担を大幅に軽減している。これは、時代の流れと共に、内科医が呼吸器科や循環器に分かれてきた流れと同じである[疑問点] 。内閣府の特別の機関である日本学術会議は、日本の薬剤師も現在の役割だけでなく、将来は医師の処方を補助する専門家にもなるべきであると結論を出している[11]。
学校保健安全法の定めにより大学を除く学校に置くことが義務づけられている。専任の場合はほとんどなく、薬局などの薬剤師が兼務している。水質・照度・空気の検査や給食施設の衛生管理等を行うほか、薬物乱用防止教育などを行う場合もある。
以下の職種の場合は、博士(薬学)の学位取得者の条件の場合が少なくない。
なお、薬学部六年制導入で四年制学部が研究という記述もあるが六年制薬学部も大学院課程があり六年制、四年制どちらにも道は開かれている分野である。
前述のように政府は医師による調剤を禁止して欧米式の完全な医薬分業へ移行しようとした。しかし急激な移行は薬剤師の不足からうまくいかず、医師の自己調剤を認めざるを得なくなった。これにより日本では医師より薬剤を交付されることが当然のこととなり、国民は他の先進国では当たり前の医薬分業の意義を知らずにきた。院内処方を受けた方が利便性が高い上、自己負担が低いために過剰に薬剤を処方されても薬剤料に対する負担感が希薄で、一般用医薬品を購入するより安く済むことすらあることも医薬分業が浸透しなかった一因である。
しかし現在のユニバーサルヘルスケア制度のもとでは高齢化社会の到来により国民全体の医療費増大が懸念されるため、薬剤の過剰な処方を防ぐためにも処方箋料の増額、かかりつけ薬局制度の推進などで金銭面から医薬分業への誘導が進められ、現在の医薬分業率は60%を超えている[15]。
医療技術の高度化に伴い薬学的側面から処方の提案や監査が必要となり、病棟で医師、看護師と一緒に医療チームとして働く病棟薬剤師が配属されるようになり、入院患者に対する指導料も大幅に増額となった。こうした変化に対応するため、他の先進国並の薬学部6年制が導入され、薬剤師認定制度の充実も進んでいる。 さらに薬局においても、後発医薬品・スイッチOTCの普及が推進されているため、医薬品適正使用に関する専門知識が求められる場面が増えている。
そのための基本的な情報源として、最新の添付文書や医薬品インタビューフォームは重要であり[3]、それ以外にも最新のエビデンスレベルの高い情報を提供することが求められている[3]。
2010年厚生労働省は医療スタッフの協働・連携の在り方等について検討した報告書 [16]を元に、「チーム医療において薬剤の専門家である薬剤師が主体的に薬物療法に参加する」ため現行法令により実施可能な薬剤師業務として下記の9点をあげ都道府県知事に周知方通達した(医政発0430第1号)[17]。
従来の「調剤」「服薬指導」「薬学管理」のみならず、事前プロトコールに基づく独自の「処方設計の実施」、あるいは提案権に基づいた「処方設計の提案」まで言及する内容となっている。
ハイリスク薬の情報提供や副作用の状況を把握した際の診療報酬加算も追加され、仕組みのレベルからチーム医療への参加が求められ薬剤師法第19条の規定により、原則的に薬剤師でない者は、販売または授与の目的で調剤してはならないこととされている。ただし例外として以下の場合における医師・歯科医師や、獣医師は、自己の処方箋により自ら調剤を行うことができることとされている。
この規定の一方で、「患者が申し出ていないにもかかわらず、医師等から薬剤を交付される」「診察を受けた医師等とは違う医師等から薬剤を交付される」「看護師や事務員より服用方法を指導される」「歯科医院で会計の時、鎮痛剤や抗菌薬を手渡しされる」といった例外規定を逸脱した行為が行われている場合がある[18]。
なお、医師・歯科医師は、医師法第22条・歯科医師法第21条の規定により、投薬の必要があるときは、患者等が交付を必要としない旨を申し出た場合や、上述の例外規定による自己の処方箋により自ら調剤する場合を除き、処方箋の交付をしなければならない。これにも罰則も設けられている。
薬剤師法では、2年ごとの年に薬剤師届出(薬剤師名簿登録番号、氏名、住所その他厚生労働省令で定める事項の届出)が義務づけられている。平成28年現在の届出薬剤師数の概数は次の通り[7]。なおこの調査は医師、歯科医師についても同時に行われており、人口10万対薬剤師数は237.4人、医師数は251.7人、歯科医師数は82.4人となっている[7]。
調査年 | 薬剤師数 | 薬剤師数における 業種別割合(%) | |||||
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総数 | 男 | 女 | 薬局 | 病院・ 診療所 | 医薬品製販 ・製造業 | ||
1955(昭和30年) | 52,418 | 35,504 | 16,914 | 39.0 | 15.3 | - | |
1960(昭和35年) | 60,257 | 37,867 | 22,390 | 38.7 | 15.9 | - | |
1965(昭和40年) | 68,674 | 40,040 | 28,634 | 35.2 | 16.5 | - | |
1970(昭和45年) | 79,393 | 42,327 | 37,066 | 34.9 | 18.4 | - | |
1975(昭和50年) | 94,362 | 46,373 | 47,989 | 32.3 | 20.6 | 10.6 | |
1980(昭和55年) | 116,056 | 52,678 | 63,378 | 31.6 | 23.3 | 9.6 | |
1984(昭和59年) | 129,700 | 56,862 | 72,838 | 32.5 | 25.1 | 9.7 | |
1986(昭和61年) | 135,990 | 59,220 | 76,770 | 32.2 | 25.6 | 10.4 | |
1988(昭和63年) | 143,429 | 61,109 | 82,320 | 32.0 | 26.7 | 10.6 | |
1990(平成2年) | 150,627 | 62,901 | 87,726 | 32.4 | 27.4 | 11.2 | |
1992(平成4年) | 162,021 | 67,089 | 94,932 | 32.2 | 26.8 | 12.8 | |
1994(平成6年) | 176,871 | 72,461 | 104,410 | 34.4 | 25.8 | 14.8 | |
1996(平成8年) | 194,300 | 79,069 | 115,231 | 36.0 | 25.2 | 15.2 | |
1998(平成10年) | 205,953 | 82,950 | 123,003 | 39.4 | 23.8 | 14.3 | |
2000(平成12年) | 217,477 | 86,357 | 131,120 | 43.6 | 22.1 | 13.1 | |
2002(平成14年) | 229,744 | 90,827 | 138,917 | 46.5 | 20.7 | 12.9 | |
2004(平成16年) | 241,369 | 94,794 | 146,575 | 48.2 | 19.9 | 12.4 | |
2006(平成18年) | 252,533 | 98,802 | 153,731 | 49.6 | 19.4 | 11.9 | |
2008(平成20年) | 267,751 | 104,578 | 163,173 | 50.7 | 18.8 | 11.5 | |
2010(平成22年) | 276,517 | 108,068 | 168,449 | 52.7 | 18.8 | 11.5 | |
2012(平成24年) | 280,052 | 109,264 | 170,788 | 54.6 | 18.8 | 11.2 | |
2014(平成26年) | 288,151 | 112,494 | 175,657 | 55.9 | 19.0 | 10.7 | |
2016(平成28年) | 301,323 | 116,826 | 184,497 | 57.1 | 19.3 | 10.0 |
医薬分業の進展により薬局等での需要が増えているが、医薬分業率は70から80%で頭打ちになると予想されること、2009年の登録販売者制度の導入により第二類および第三類一般用医薬品を販売するには登録販売者がいれば薬剤師の常駐が不要となること、等から薬剤師の需要は頭打ちになるのではないかとの意見がある。もともと、人口1,000人あたりの薬剤師数は1.21と、先進国中では最も高い[19]。厚生労働省は「薬剤師問題検討会」を組織し2002年に「薬剤師需給の予測について」の報告書をとりまとめた[20]。その報告書中では「平成19年度以降に各年の新規参入薬剤師が段階的に減少し、最終的に20%程度減少することが、薬剤師免許を取得したにもかかわらずその専門性を活用できないという状況を防ぎ、薬剤師の適正数を保ちつつ薬剤師全体の資質向上を図り、患者により質の高い安心・安全な医療を提供するために、重要であると結論を得た」としていた。また、その後の「粗い試算」によれば、2027年には薬剤師は40万人となるが、需要は29万人として11万人の余剰が出ると予測されている[21]。
一方、実際の薬剤師養成の定員の流れは総合規制改革会議の2001年(第一次答申)、2002年(第二次答申)を受け、2003年に大学学部・学科の設置基準が緩和され就実大学と九州保健福祉大学が約20年ぶりに薬学部を開設、その後も学生数を確保するため薬学部を新設する大学が相次ぎ、2007年までに新たに26大学・学部が新設された結果、入学定員は12,010人となり、5年間で5,000人以上と短期間で急増加した [22]。厚生労働省では「薬剤師需給の将来動向に関する検討会」[23]を組織しているが、こうした現状に関係者から懸念が表明されている。同様に文部科学省においても2011年6月に行われた検討会の報告書「薬学系人材養成の在り方に関する検討会(第7回)での主な意見(入学に関する事項)」においても委員のほとんどが規制緩和によって増えた定員数に危機感を持っていると報告している。2015年2月の同検討会(第17回)においても入学者の質の低下への言及が多くされており文部科学省が改善計画を立てさせ指導した大学の中には「実際の入学定員173名のうち薬剤師国家試験の合格者数が11名」を問題視した委員がいた。[24] 2014年の薬剤師国家試験では合格率は前年より18.26ポイント下がり60.84 %であったものの、2016年には76.85%と2013年以前の平均的な合格率に復し受験者数が過去最大であったため合格者数は過去最大の11,488名まで増加した。[25] 薬学部の新設はその後も続いており2018年度開学の山陽小野田市立山口東京理科大学を合わせ国公立18校、私立56校57学部の全国計74校75学部にまで増加しているが、さらに近年中の設置予定も既に公私立数校で具体化している。しかし、2016年度の在地方の新設私立薬学部入試状況を見れば受験者数、合格者数は定員数を上回っていても実際の入学者数が定員数の半数近い大学も数校(65%以下が5学部、85%以下が10学部(各6年制のみ))出ており、大学が薬学部の開設や薬科大学の開学を断念した例(郡山市、筑西市、上田市)も見られる。
労働者である薬剤師の賃金は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると2013年現在で、月給(きまって支給する現金給与額)は37万600円、賞与(年間賞与その他特別給与額)は87万9400円である(企業規模10人以上計、平均年齢39.1歳)[26]。一般労働者は月給32万4000円、賞与80万1300円(42.0歳)なので、年収換算で比較すると60万円以上高いが、アメリカ、韓国およびマレーシアなど諸外国と比較すると労働者一般との賃金較差は小さい。企業規模別にみると、1000人以上で月給37万7600円、賞与91万4200円、100人~999人で月給33万1300円、賞与85万5000円、10人~99人で月給41万7100円、賞与87万2600円などとなっている。また性別では、男性が月給39万2200円、特別給91万7900円(平均年齢37.8歳)なのに対し、女性は36万1100円、86万2500円(39.6歳)となっており、男性の方が高い。
一方、人事院の「職種別民間給与実態調査」によると2014年4月の月例給は薬局長(部下に薬剤師2人以上)は49万4,533円、一般の薬剤師は34万8,091円となっている[27]。また、新卒薬剤師の初任給は22万1088円である。国家公務員の薬剤師の初任給は医療職俸給表(二)の2級15号俸と格付けされており、金額は2011年度以降は20万800円となっている(人事院規則九―八 ワ 医療職俸給表(二)初任給基準表)。
2009年施行の改正薬事法により薬剤師以外の医薬品販売者として登録販売者の資格が設けられた。登録販売者は一般用医薬品のうち比較的リスクの低い第二類医薬品および第三類医薬品を販売できる。なお、第一類医薬品の販売および授与は薬剤師の管理・指導の下で可能である。この改正に伴い従前の薬種商販売業の資格は消滅し、一般販売業と薬種商販売業は店舗販売業に統合された[28]。
1900年頃までは薬局や薬剤師の助手からキャリアをスタートし、薬剤師の監督の下で調剤などの実務を担当し、見習いを終えると調剤や販売の許可が得られる制度があった。これは一部の国で調剤技師や調剤助手という下位の資格として残っている。
古くからヨーロッパでの資格が共通化されており、アンリ・ネスレは1836年にドイツの薬局で4年間の見習い期間を終えたが、スイスに移住した後の1839年に化学実験、薬剤師、医薬品販売の許可を得ている。
英国では医薬品法で薬事の専門職として認められているのは薬剤師のみであり、病気の治療と健康管理への貢献から最も国民に身近な医療人として位置づけられている[29]。英国王立薬剤師会に登録された薬剤師には、薬剤師自身の判断で独立して処方を行うことができる[30]。
12世紀ごろから続く徒弟制度により、古くから薬剤師の助手制度があった。アガサ・クリスティは第一次世界大戦中に薬剤師のアシスタントとして働いたことで、ミステリー小説に使われる毒物の知識を得た。現在では薬剤師の下位の国家資格として、ファーマシー・テクニシャン(pharmacy technician, 調剤技師)およびファーマシー・アシスタント(Pharmacy assistant, 調剤助手)として整理されており、前者は患者とのカウンセリングを行えるが後者は行えない。病院薬剤部では、アシスタントが調剤や混注業務を行い、薬剤師はその業務の最終監査を行う[29]。医薬品は可能な限り28錠や30錠の小包装で販売され、散剤や軟膏剤、水剤の混合は禁止されているが、そのことによって調剤ミスを防いでおり、アシスタントによる調剤を可能としている[29]。
薬剤師資格は4年制の薬学教育と1年の必須実務研修の計5年を終了し薬剤師免許国家試験を通過した者に与えられる[29]。実務実習は学部生としてではなく登録前の薬剤師(Pre-registration pharmacist、通称「プレ・レジ」)としての雇用関係の中で行われ、学生の希望を考慮して地域薬局や病院で行う[29]。薬剤師となるためは実務実習の間にアシスタントのすべての業務を習得する必要があり、これを実務実習の前半6か月で行う[29]。プレ・レジの指導は先輩の薬剤師のみならずアシスタントも行う[29]。実務実習の後半は病棟での研修を行い、実習の10か月目に当たる6月には薬剤師免許国家試験を受験する[29]。なお、この国家試験に不合格でも9月に再度試験を受験できるが、2回不合格となった場合には3回目の受験までに6か月の実習が求められる[29]。実習の最後の2か月は病棟で担当を持ち病棟薬剤師監督下で業務を行うとともに、研修の仕上げとして調剤業務でも監査練習を行う[29]。また、1年間の実務実習中には、月に1-2回、プレ・レジ勉強会に出席する必要がある[29]。この勉強会は、実務に役立つ知識から国家試験対策まで多岐にわたる学習を行い、国家試験模試の受験もある[29]。さらには、研究プロジェクトに参加し、薬剤部から与えられたテーマについて情報収集およびレポートを行い発表する必要がある[29]。
フランスでも医薬分業の制度は13世紀の時代に取り入れられ、現在まで徹底して行われている。医師よりも給料が高い場合もあり薬剤師の信頼度も高い[31]。薬局薬剤師の仕事も多岐に及ぶ。薬局は市民の健康相談の場でもあり、薬剤師の課程には薬草やキノコ学も含まれており、フランスでは薬局薬剤師がキノコの鑑定も行う。
2002年から医師が商品名ではなく成分名で処方箋を書いてもよいことになり、同じ成分の商品の中から薬剤師が選んだ薬を患者に渡すことができるようになった。フランスの薬剤師は特別な場合を除き、医師に許可を取ることなく医師の処方した薬をジェネリック医薬品に替える権利も有している[32]。リフィル処方箋制度も導入されていて権限が大きい。
薬剤師課程は1987年法律が制定され、6年制であるが病院薬剤師や研究者を目指す場合9年の勉強が必要である[33]。薬学部に入学するためにはバカロレアに合格が必要である。政府が厳格に管理しており薬学部の2年時進級の際に選抜試験があり合格すると2カ月現場での研修を行う。その後4年目までに理論や実技の課程を積む。5年時進級の際に実務研修のための国家試験が行われる。5年次はハーフタイムの大学病院研修を行う。6年次は薬局・産業薬剤師希望者は論文を書き、薬剤師国家免許を取得する。病院薬剤師と研究希望者はさらに3年間進学をし9年次に論文を書き、専門薬剤師国家免許を取得する[34]。フランスの薬学部の薬剤師養成課程はは国費で賄われている場合が多い。
イタリアでは医薬分業は保守的であり薬剤師(farmacista)は古典的な薬剤師業務を主としている。近年まで市販薬の取り扱いがない薬局もあり薬剤師は医療における医薬品の供給に重きを置いていた時代が長く、医薬品供給は医師の手から離れ、すべて薬剤師が関わるものだという意識が強い。医師と薬剤師の職域を完全に分けており外来だけではなく病院調剤も受託できる大規模薬局も地域に存在している。近年の取り組みとして行政機関が行っていた医療機関の受診申し込みを薬局で行える取り組みがなされている[35]。
薬剤師の資格を取得するためには大学の薬学部(Chimiche e Tecnologie Farmaceutiche: CTF)に進み、大学院(Laurea magistrale)を修了する必要がある。薬学の単科大学はない。薬学部在学中に6か月の現場での研修が必要であり大学で学位を取得し国家試験を経て薬剤師会(Albo professionale)に登録することにより薬剤師として勤務することができる。薬剤師資格取得後の専門課程として病院薬剤師や化粧品科学などの専門課程を設ける大学も存在する[36]。
米国においても身近な医療人として位置づけられ、社会的地位が高い。公的保険制度が乏しいため薬局でまず相談するということが一般的である。セルフメディケーションの相談を行う他、州によっては予防接種を行ったりもする。
米国での調剤業務は薬剤師 (Pharmacists) と調剤に関する実務を簡単なトレーニングを受けたファーマシー・テクニシャンが行う[37]。テクニシャンがいる場合はテクニシャンが処方箋に従って薬を用意し薬剤師が監督することが一般的であり、監査業務に関しては薬剤師が行うことが義務となっている[37]。またリフィル処方箋制度があり一度医師が処方した処方箋を有効期限内であれば薬剤師の判断のもと再度調剤することが可能となっている[30]。
米国で薬剤師の資格を取得するためには4年間の学位(一般教養課程+専門知識)の取得と2年ほどの実務課程の計6年の専門教育を修了し職業学位であるDoctor of Pharmacy (PharmD) の学位を取得した後、薬剤師試験に合格することが必要となる[37]。資格は州単位で交付される。年収は平均年収:11万6583ドル、時給:65ドルと被雇用者平均より高額となっており、高所得の職業の一つである。
ブラジルで薬剤師になるためには、5年の大学教育と実務研修期間が必要となっている。ブラジルでは完全に医薬分業制をとっているため医薬品は薬局で購入する。ブラジルにおいて薬を扱う店はファルマシアと呼ばれる薬局とドロガリアと呼ばれる薬店がありどちらも責任者は薬剤師でなくてはならず、営業時間内は常駐していなくてはならない。処方箋調剤はファルマシアでのみ行う。医薬品は薬剤師がいるカウンターの後ろに陳列され薬剤師が相談に乗ったうえで購入される。ブラジルでは公的医療保険に当たる統一保健医療システムがあり公立病院で無料診療を受けることができるが混雑する。また私立病院では保険が使えない。そのため、軽症の症状であれば薬剤師に相談して市販薬で済ませることが一般的である。
韓国でも医薬分業制をとっている。韓国では西洋薬を扱う薬剤師と、漢方薬を扱う韓薬師と資格が細分化されている。平均年収は日本円換算で約600万円と平均的な被雇用者の年収より高い。
マレーシアで薬学部に入るためには高校生の上位15パーセントに入らなくてはならない。薬剤師の年収も高校教員の3~4倍である[38]。テクニシャン制度があり、薬剤師は主に調剤された薬の処方監査や服薬指導といった専門的な仕事を重点的に行っている[39]。
臨床薬剤師は、アメリカでは、患者に投与する薬の量や服薬のタイミングを計画・提案したり、それによってどのような効果が期待できるかを推測する[40]。
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