ドロップキック(英語: dropkick)は、プロレスにおける攻撃の技である。蹴り技および飛び技に分類される。メキシコではパターダ・ボラドーラ(patada voladora、意味は飛び蹴り)と呼ばれている。
レスラーが飛び上がり、両方の足の裏を使って相手を蹴る攻撃と定義される。飛ぶ時に体をひねって、相手に当たる時に横向きとなり、体の横側あるいは前側で着地するやり方と[1]、体が仰向けになるように飛んで、相手を蹴った後に背中で受け身をとるやり方がある。
最も基本的なドロップキックは"ジャンピング・ジョー"・サボルディが初めて使用したスタンディングドロップキックである。レスラーは立った状態からのドロップキックを、立った状態あるいは走って向かってくる相手に当てる。ノートルダム大学でアメリカンフットボールのランニングバックとして全米選抜にも選ばれたサボルディは、自身とアメリカンフットボールのつながりからこの技を「drop-kick」と名付け[2]、マスコミも「フライング・ドロップキック(flying dropkick)」と呼んだ[3]。
現在の形のドロップキックの元祖はおそらく "ジャンピング・ジョー"・サボルディであると考えられていたが[4]、プロレスラーのエイブ・コールマンも足から飛んで相手の胴体を蹴る技を行っていた。身長160センチメートルのコールマンはこの技を「カンガルーキック」と呼び[5]、1930年のオーストラリア巡業で見たカンガルーから着想したものだと主張した[6]。サボルディが1933年に「ドロップ」キックを行った時には、マスコミはコールマンの十八番である「カンガルー」キックの別名であると単に報道した[3]。
かけ方
両膝を折り畳むようにジャンプして鋭く突き出した両足の裏で相手の胸板を蹴り飛ばす。
- 技を出すタイミングの例
- 立っている相手に対して、その場で跳び上がって蹴る。
- 立っている相手に向かって走って、その勢いで蹴る。
- 走ってくる相手に対してカウンターで蹴る。
- コーナー最上段から跳びかかってくる相手を蹴る。
- コーナー最上段に登ろうとしている相手を蹴る。
- エプロンサイドに立った相手をロープ越しに蹴る。
種類
- 正面飛び式
- 仰向けに飛び上がり、ヒット後は、そのまま後ろ受け身をとる。ドロップキックの原型といえる形であり、吉村道明が、このタイプを使用[7]。力道山の時代は、これが主流であった。
- スクリュー式
- 正面飛び式を改良したもので捻り式とも言う。両足で相手を蹴り付けた後に空中でうつ伏せになるように体勢を変えて前受け身をとる。着地から素早く立ち上がり連発で放つことが可能。現在は、この形が主流になっている。
- 1回転式
- 相手にキックを当てた後、後方に1回転して前受け身を取る。跳躍力と身軽さをアピールするのに絶好の技。旋回式とも呼ばれるダグ・ファーナスがバク宙するような縦回転式を三沢光晴が横回転式を得意技としている[8]。
- 低空式
- 立っている相手の下半身や四つんばいになっている相手の顔面を狙うドロップキック。元祖は渕正信だが(横飛び式)[8]、この技を有名にしたのは武藤敬司である(正面飛び式)[8]。彼の得意とする足殺しや、そこからの足4の字固め、シャイニング・ウィザードに持っていくまでのつなぎ技となっている。
- 串刺し式
- コーナーにもたれかかっている相手に走って勢いをつけて放つ。
- 32文人間ロケット砲
- ジャイアント馬場の繰り出すスクリュー式ドロップキック。全盛期でも1年に1度くらいしか披露しなかったが、1968年6月27日に日本プロレスの蔵前国技館大会で行われたインターナショナル・ヘビー級選手権試合の対ボボ・ブラジル戦では三連発で放ち、フォール勝ちで王座を奪回した(1つの試合で複数回放ったのは、この時と1970年12月3日の対ジン・キニスキー戦で2回放ったのみ)。名称は馬場のカウンターキックを16文キックと呼ぶところから来ている。また、馬場は全日本プロレス中継の解説時にドロップキックという言葉は使わず「飛び蹴り」と表現していた。馬場は体重があるため受け身が痛く、客受けはするがあまり出さなかったようである。
- カンガルーキック
- 背後から羽交い締めを繰り出してきた相手などに対して体を前転させながらジャンプして両足を揃えて蹴る変型の正面飛びドロップキック。派生技にチャパリータASARIのコーナーに振った相手に対しロンダートで近づいた後にカンガルーキックを見舞うロンダート・カンガルーキックがある。また、アントニオ猪木がアンドレ・ザ・ジャイアントにサーフボード・ストレッチで捕えられた際に、この技で脱出する場面が度々見られた。
- 打ち上げ式
- コーナートップの相手へのドロップキック。雪崩式ドロップキックとも呼ばれるが正式名称はない。コーナートップに座らせた(登った)相手に対して、その場跳びでドロップキックを放って場外へ転落させる。
- ジョン・ウー
- 正面飛び式低空ドロップキック。主な使用者はSUWA(ジョン・ウーの名称で使用)[7]。神田裕之、フィン・ベイラー、オカダ・カズチカ。名称は喰らった相手が吹き飛ぶさまをジョン・ウー監督作品のアクションシーンで見られる演出になぞらえたもの。
- ミッキーブーメラン
- トップロープとセカンドロープを掴み回転して反転。相手の顔面にドロップキックを放つ。主な使用者はMIKAMI(ロープ近くに長座した相手に放つ原型)、レイ・ミステリオ(セカンドロープに外向きでもたれた相手に放つタイプを619の名称で使用)。
- クレイモア
- ランニングしながらジャンプと同時に片足で相手の顔面を打ち抜くシングル・ドロップ・キック。
- シック・キック
- 座り込んでいる相手に、走りこんで顔面へ放つ強力な片足ドロップキック。
使い手
ペドロ・モラレス、パット・オコーナー、アントニオ・ロッカがドロップキック3人男として名手と呼ばれていた。
日本では遠藤幸吉、吉村道明が名手として名をあげて藤波辰爾もジュニアヘビー級時代に連発式で繰り出していた[7]。木戸修も、かつては名手として評価されていた1人である。
三沢光晴は1回転ドロップキックをヘビー級選手で本格的に使用した第一人者である。現在では田口隆祐がこだわりを持って使用していてドロップキックの空中姿勢に定評があったことから「ドロップキックマスター」という異名を付与されて、この技のみで獣神サンダー・ライガーを秒殺したことがある。また、オカダ・カズチカも高い打点で繰り出す他、鈴木みのるは50歳を超えた2019年現在でも綺麗なフォームでこの技を繰り出す。チェンジ・オブ・ペースの1つとして用いられる。
女子レスラーでは豊田真奈美が正面飛び式を得意技としており、相手が起き上がったところで間髪入れずに打ち込んで2度3度とぶっとばして2ndコーナー(ときにはトップコーナー)からのミサイルキックへと繋ぐムーブメントをみせていた。また、相手に組み付かれて上に投げられた反動を利用して至近距離からの一撃も披露している。豊田から、お墨付きを受けている藤本つかさと、つくしのタッグチームは「ドロップ・キッカーズ」と呼ばれている[9]。主な使用者はAJスタイルズ、エッジ、ランディ・オートン、ハードコア・ホーリー、マーク・ジンドラック。
ミサイルキック
ミサイルキック(Missilekick)は、コーナー最上段からジャンプして放つドロップキック。海外ではミサイル・ドロップキック(Missile Dropkick)と呼ばれる。
使い手
日本では国際プロレスに来日したエドワード・カーペンティアが初公開した後(『週刊プロレス』ビデオ増刊号のレトロ編1に収録されている)、1975年に全日本プロレスに来日したリッキー・ギブソン(ロックンロール・エクスプレスのロバート・ギブソンの実兄)が公開して話題となった[10]。テネシー地区でギブソンのライバルだったココ・B・ウェアも得意技としていた。ダイナマイト・キッドやジョニー・スミスは、着地した後にヘッド・スプリングの要領で、すっと立ち上がるスタイルを取った。
日本人選手では、この技をギブソンに受けたジャンボ鶴田が[8]、ウルトラC・ドロップキック、ジャンボ・ミサイルキックの名称で若手時代の切り札にしていた。高野拳磁は2メートルの巨体から、この技を繰り出して「人間バズーカ」の異名をとった。また、森嶋猛のミサイルキックはスカッド・ミサイルキックと呼ばれた(この技を喰らった丸藤正道が、その威力の凄まじさから実在のミサイル兵器をイメージして命名[8])。そのほかに高田延彦も使用[8]。
種類
派生技
- ライダーキック
- 特撮テレビドラマ『仮面ライダー』のライダーキックから着想された片足でのミサイルキック。主な使用者はスーパーライダー。ザ・グレート・サスケは、この技をリング外に向けて放っていたが受け身に失敗して負傷して以来、封印している。他にもアキバプロレスで「仮面ライダーの主役オーディションを七回受けた」と語った美月凛音など何人かの使用者がいる。
- 福岡晶が使用していた同名の技は相手の後頭部へ放つ前方一回宙返り式ミサイルキックである。紫雷イオが福岡から直接指導を受けて、この技を受け継いでいる。
- コーナー・トゥー・コーナー・ドロップキック
- 相手をコーナーに宙づり状態にして固定して自分は反対側のコーナーに立ち、主に相手の頭部を狙って放つミサイルキック。元祖はロブ・ヴァン・ダムのヴァン・ターミネーターでCIMAはトカレフの名称で使用。非レスラーであるシェイン・マクマホンはポスト下で座っている相手にブリキのゴミ箱を持たせてのコーナー・トゥ・コーナーをコースト・トゥ・コーストの名称で使用。丸藤正道はスワンダイブ式によるfrom コーナー to コーナーの名称ので使用[8]。
エピソード
脚注
参考文献
関連項目
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