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すいそ ふろんてぃあとは、川崎重工業が製造した世界初の液体水素運搬船である。
すいそ ふろんてぃあ(SUISO FRONTIER) | |
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基本情報 | |
船種 | 液化水素運搬船(技術実証船) |
船籍 | 日本 |
所有者 | 技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構「HySTRA」 |
運用者 | Shell International Trading and Shipping Company |
建造所 | 川崎重工神戸工場(第1740番船) |
母港 | 神戸 |
航行区域 | 遠洋区域(国際航海) |
船級 | NK |
船舶番号 | 143697 |
信号符字 | 7KGB (無線局免許情報) |
IMO番号 | 9860154 |
MMSI番号 | 431874000 (インマルサット有) |
経歴 | |
進水 | 2019年12月11日 |
要目 | |
総トン数 | 7,849トン |
載貨重量 | 2,272トン |
全長 | 116.00m |
型幅 | 19.00m |
型深さ | 10.60m |
満載喫水 | 4.518m |
機関方式 | ディーゼル・エレクトリック方式 |
主機関 |
ダイハツ DE-23 ×3基 電気モーター ×2基 |
推進器 |
可変ピッチプロペラ バウスラスタ |
出力 | 6,680 kW |
速力 | 約13.0ノット |
乗組員 | 25名 |
積載能力 | 1,253㎥(約88トン) |
日本政府とオーストラリア政府の支援を受け、ビクトリア州ラトロブバレー産褐炭を原料に水素を製造、日本に輸送する「未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業」における実証船として建造された。
2020年東京オリンピック・パラリンピックにおいて水素を輸送・供給し、日本における水素エネルギーの活用イメージを世界にアピールする一環として、2017年に建造計画が本格的にスタートした[1][2]。なお計画の遅れから、本船による同大会への水素輸送・供給は実現しなかった。
2019年(令和元年)12月11日進水[3]。マイナス253℃に冷却し、体積が気体の800分の1となった液体水素(液化水素)を安全かつ大量に長距離海上輸送するための技術実証実験を行う。川崎重工は同船による液体水素輸送実証実験の結果をもとに、160,000立方メートル容量の大型液体水素運搬船の建造と商用輸送の確立を目指している[4][5]。また同船は日本船舶海洋工学会のシップ・オブ・ザ・イヤー2021[6]、および日刊工業新聞社主催の第51回日本産業技術大賞の内閣総理大臣賞に選ばれた[7]。
2022年1月25日の夜、ヘイスティングス港に停泊中の同船でガス制御装置の故障が発生した。
オーストラリア運輸安全局の調査で、船の気化ガス燃焼装置の空気ファン排気ダンパーの駆動部にボルト数の異なる不適切な型の電磁弁が取り付けられていたため、運転中に弁が損傷したことが判明した。この故障によりファンのダンパーが閉じ、空気の流入不足によってガス燃焼装置内が過熱。内部の水素炎が不安定になり、排気塔から高さ1mの炎が出た。また、ガス燃焼装置の制御システムにはこのような運転中の予期せぬ弁の閉鎖を検出する機能が備わっておらず、自動安全制御が効果的でなかったことも判明した。
排気塔からの炎を見た船員からの無線、及び排気温度上昇アラームを受け、三等航海士がガス燃焼装置への水素供給バルブを閉じ、迅速にガス燃焼装置をシャットダウンした。火災の被害はなかった。当時船にはインド人、クロアチア人、イギリス人、フィリピン人、合わせて24人の乗組員が乗っていたが、いずれも怪我はなかった。
オーストラリア運輸安全局はこの事象について重大インシデントと認定した[47]。
未利用褐炭由来水素大規模海上輸送について、オーストラリアから輸送する水素は褐炭由来を予定しており、褐炭のガス化の副産物として発生する二酸化炭素の処理については、水素輸送の本格的事業化の暁には地下貯留を想定している[56]。このことについて、二酸化炭素排出量の面から見ると、石油燃料や天然ガスよりむしろ排出量は多いという批判を受けている[8]。
なお一度目の日豪往復試験航海について、オーストラリアで積載した水素の全体量、及び航海期間中のボイルオフ損失を差し引いた、日本に輸送できた水素の実容量については公式な発表はなかったが、オーストラリアの現地報道ではすいそ ふろんてぃあに積載した液体水素は2.6トンで、うち褐炭由来は1トンのみであり、残りの1.6トンについてはプロジェクトパートナー企業のCoregas社が提供した天然ガス由来のものであるとしている[57][58]。
2022年、川崎重工業の本井達哉執行役員(船舶海洋ディビジョン副ディビジョン長)は、(現在は約100円/Nm3である)水素の供給コストを2030年までに30円/Nm3にすることを目標とし、更に供給拡大によって2050年には20円/Nm3までコストを低減させることが可能だとした。同役員は「LNG(2022年時点で約13.3円/Nm3)や石油と同じレベルまでコストを下げることが可能だと考えている」と語っている[5]。またNEDOのグリーンイノベーション基金における経済産業省発行資料でも同様の目標を掲げている[38]。
しかし、水素は重量あたりエネルギー量には優れるものの体積あたりのエネルギー量は少なく、天然ガスや石油と比較すると軽くてかさばる燃料である。このため大型輸送船によって供給を拡大してコストを低減し、気体の単位体積あたり価格が天然ガスに近づいたとしても、単位エネルギーあたりのコストでは依然として天然ガスの数倍になるという指摘がある[59]。
水素のエネルギー密度は天然ガスの約4割であるため、水素の単位エネルギーあたりコストを天然ガスと同等にするためには、理論上約5.3円/Nm3までコストを下げることが必要となる。
川崎重工はこのコスト問題について、水素供給でも電気料金や水道料金のように総括原価方式を導入し、経済産業省の「水素政策小委員会」が現在検討中の、炭素税を財源とした天然ガスと水素の価格のギャップを埋める値差支援策(補助金)でカバーすることを想定している[60][61]。また経済産業省では2023年12月に、脱炭素・経済成長・エネルギー安定供給の3つを目指すGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた分野別投資戦略において、水素と天然ガスなど既存燃料との価格差を補う支援として15年間で3兆円規模を投じることを決定した[62][63]。
NEDOでは本船の未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業のほかに、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合[注釈 4]とともに、トルエンを水素キャリアとして、有機化合物のかたちで水素を輸送する「有機ケミカルハイドライド法」を用いた国際間水素サプライチェーン構築の実証実験を行っている[64][65]。
海外では、韓国の現代自動車グループの韓国造船海洋エンジニアリングが大型液化水素運搬船の開発を目指しており、2020年に韓国船級協会およびリベリア国際船籍・会社登録業務会社のLISCRから設計基本承認を取得した[66]。また西アフリカのオフショア企業であるGlobal Energy Venturesが、カナダの造船会社Capilano Maritime Designと連携し、2022年から圧縮水素運搬船の開発プログラムを開始している[67]。ノルウェーの海運・海洋開発企業ウィルヘルムセングループのTopekaでは、ゼロ・エミッション水素動力液体水素運搬船の開発を目指す[68]。
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