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欧州の著作権に関連する訴訟事件などの一覧 ウィキペディアから
欧州の著作権法に関する判例 (おうしゅうのちょさくけんほうにかんするはんれい) では、欧州連合 (EU) 加盟国、欧州自由貿易連合 (EFTA) 加盟国の欧州経済領域 (EEA) ないし欧州評議会 (CoE) 加盟国の著作権を巡る主な訴訟事件、または行政による制裁措置を扱う。EUを離脱したイギリスも解説の対象に含めている。事件は多数存在するが、法学者や著作権に精通する弁護士などの識者が言及したものに絞って本項では取り上げ、事件名の右に特筆性を示す出典を付記する。
このページは「アイディア・表現二分論#欧州連合」、「DSM著作権指令#関連判例・事件例」との間で記事内容の一部転記が提案されています。 議論は「ノート:著作権法 (欧州連合)#【第2弾】判例パートの転記・集約」を参照してください。(2025年1月) |
判例を読むにあたって前提となる基礎情報を、本項の末尾で参考までに概説している。「#管轄」の節では、EUの国際裁判所であるCJEU (ECJと一般裁判所の総称) や欧州評議会の国際裁判所である欧州人権裁判所 (ECtHR) の仕組みについて解説しており、これら裁判所の決定がおよぶ国・地域の範囲を示している。「先決裁定」や「直接訴訟」などの専門用語も解説している。また著作権法とその上位法との関係については「#対象法令」の節で解説している。
事件の英語名をクリックすると、当ページ内の争点別詳細解説のセクションに遷移する。事件の英語名は文献によって表記揺れがあり、日本語の文献でもそのまま英語表記することも多く、当表に記述した英語・日本語の事件名は参考情報の扱いとされたい[注 1]。
国内訴訟が欧州連合司法裁判所 (CJEU) に先決裁定が付託された場合、あるいは欧州評議会 (CoE) 加盟国を対象とした欧州人権裁判所 (ECtHR) に持ち込まれた場合は、国内裁判所の欄に (右上矢印) の記号を付記する。
事件番号をクリックすると、裁判所公式ないし官報公式判決文の英語版に遷移する。ただしCJEUの作業言語 (英: working language) はフランス語であり、CJEU裁判官の判決はフランス語が用いられており、英語版は翻訳版である点に注意されたい[1][注 2]。一方、欧州人権裁判所は公用語として英語とフランス語を併用している[2]。
事件名通称 | 国内裁判所 | 判決年月 (事件番号)[注 3] | 争点 | 著作物 | 判旨・その他備考 | 特筆性 |
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William Eden v Whistler (イーデン対ウィスラー) | フランス | 1900/03 (D.1900.1.497) | 著作者人格権 (公表権) | 美術 | 出来映えに不満との理由で肖像画の発注主に引渡拒否できるか。 | [3][4][5] |
Camoin v Carco (カモワン対カルコ) | フランス | 1931/03 (DP.1931.2.88) | 著作者人格権 (公表権) | 美術 | 画家が自らゴミ箱に捨てた絵画が復元されて販売された事件。 | [6][7][8] |
Rouault v Vollard (ルオー対ヴォラール) | フランス | 1947/03 (D.1949.20) | 著作者人格権 (修正・撤回権) | 美術 | 遺作807点を未完成とみなして画商へ引渡拒否できるか。 | [6][7][8] |
Joy Music v Sunday Pictorial Newspapers (ジョイ・ミュージック対サンデー・ピクトリアル紙) | イギリス | 1960 (2 QB 60) | パロディ | 楽曲 | 女王エリザベス2世の夫エディンバラ公爵フィリップを揶揄したもじり歌詞はパロディか。 | [9][10][11] |
SACEM v Société Hôtel Lutetia (SACEM対ホテル・ルテシア) | フランス | 1961/03 | 公衆伝達権 | テレビ番組 | 有料コイン式のホテル室内テレビを巡る事件。 | [12] |
Buffet v Fersing (ビュッフェ対フェルシン) | フランス | 1965/07 (1965.2.126) | 著作者人格権 (尊重権) | 美術 | 冷蔵庫に描いた絵画を冷蔵庫から分離して売却できるか。 | [13][14][15] |
Deutsche Grammophon v Metro (ドイツ・グラモフォン対メトロ) | ドイツ | 1971/06 (78-70) | EU法と国内法 | 楽曲 | 安価な輸入盤の流入は国内著作権法で阻止できるか。 | [16][17] |
Rundfunksprecher case (放送アナウンサー事件) | ドイツ | 1975/07 (LG Hamburg GRUR 1976, 151) | 著作隣接権 | 実演家 | 「実演芸術家」の権利保護要件をドイツで初めて示した重要判例。 | [18] |
Ciné-Vog Films v Coditel (シネフォグ・フィルムズ対コディテル) | ベルギー | 1980/03 (62/79) & 1982/10 (262/81) | EU法と国内法 | 映画 | 同一事件の2回ECJ判決。ドイツのテレビで放送された映画を隣国ベルギーでケーブル放送。 | [19][20] |
GEMA v Membran/K-tel (GEMA対メンブラン/K-tel) | ドイツ | 1981/01 (55/80 & 57/80) | 頒布権 | 楽曲 | 特許や商標と同様に著作権も産業的な財産権であるとEECで初めて認められた事件。 | [16][21] |
J.-Philippe Dubuffet v Régie Renault (デュビュッフェ対ルノー) | フランス | 1983/03 (81-14.454) | 著作者人格権 (尊重権) | 美術 | モニュメント制作者に無断で完成前に発注者ルノーが破壊。 | [22][23][14] |
Schweppes v Wellingtons (シュウェップス対ウェリントン) | イギリス | 1984 (FSR 210 (Ch)) | パロディ | 商品ラベル | 炭酸水ブランドのラベルデザイン模造は著作権侵害か。 | [10]:412[24] |
Pachot v Babolat Maillot Witt (パショ対BMW) | フランス | 1986/03 (83-10.477) | 著作物性 | プログラム | フランスで初めてプログラムに著作権を認めた判決。 | [25][26] |
Williamson Music v Pearson Partnership (ウィリアムソン・ミュージック対ピアソン・パートナーシップ) | イギリス | 1987 (FSR 97 (Ch)) | パロディ | 楽曲 | ミュージカル楽曲の同一歌詞に別メロディを付けてテレビCMに流された事件。 | [10]:410[27] |
Salabert v Le Luron (サラベール対ル・ルロン) | フランス | 1988/01 (85-18.787) | パロディ | 楽曲 | 茶化した歌の物まねは著作権侵害か。 | [28] |
Warner Brothers and Metronome Video v Erik Viuff Christiansen (ワーナー・ブラザース対クリスティアンセン) | デンマーク | 1988/05 (Case 158/86) | EU法と国内法、貸与権 | 映画 | イギリスで購入した映画のビデオをデンマークのレンタル店で貸与。 | [29] |
Samuel Beckett's "En attendant Godot" (サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』事件) | オランダ、フランス、イタリア | 1988、1992、2006 | 著作者人格権 (尊重権) | 演劇 | 劇作家の意に反して主人公の性別を変更した演劇上演は可能か。 | [14][30] |
EMI Electrola v Patricia Im- und Export (EMI対パトリツィア輸出入) | ドイツ | 1989/01 (Case 341/87) | EU法と国内法、著作権の保護期間 | 楽曲 | デンマークとドイツの保護期間の差が着目された楽曲輸入盤の事件。 | [29] |
Chappell v UK[注 4] (チャペル対イギリス政府) | イギリス | 1989/03 (No 10461/83) | 法執行 (差押) | 映画 | 海賊版取締目的の家宅捜索は人権侵害か。 | [31] |
Gerber Scientific Products v Isernatic France (ガーバー対イゼルマルティック) | フランス | 1991/04 (89-21.071) | 著作物性 | プログラム | フランスでプログラムの著作権保護の要件定義を発展させた判決。 | [32] |
Huston v Turner Entertainment/La Cinq (ヒューストン対ターナー・エンターテインメント/フランス5) | フランス | 1991/05 (89-19.522 89-19.725) | 著作者人格権 (尊重権) | 映画 | 白黒映画を監督に無断でカラー化してテレビ放送できるか。 | [33][34][35] |
Observer and Guardian v the United Kingdom (ガーディアン紙対英国政府政府) | イギリス | 1991/11 (No 13585/88) | 法執行 (差止) | 報道出版物 | 諜報機関MI5の内情暴露本『スパイキャッチャー』関連の出版差止は違法。 | [36][37] |
La Mode en Image v BY[注 4] (エッフェル塔のライトアップ事件) | フランス | 1992/03 (90-18.081) | 著作物性 | 照明演出 | エッフェル塔のライトアップは著作権保護の対象。 | [38] |
Phil Collins v Imtrat Handelsgesellschaft (コリンズ対イムトラット貿易) | ドイツ | 1993/01 (C-92/92 & C-326/92) | EU法と国内法、外国籍の権利保護 | 楽曲 | 2件併合判決。英国歌手フィル・コリンズはドイツ国内法で別扱いされるべきか。 | [39] |
SMD v Aréo et l'office du tourisme de Villeneuve-Loubet (SMD対アレオ) | フランス | 1993/03 (91-16.543) | 集合著作物 | 写真 | 「集合著作物の推定」法理の重要判例。 | [40][41][42] |
Performer in Russians (『ラシアンズ』ミュージックビデオ出演者事件) | フランス | 1999/07 (97-40.572) | 著作隣接権 | 実演家 | 英国歌手スティングのビデオ助演は権利保護の対象者か。 | [43][44] |
X v Le Berry[注 5] (X対Le Berry出版) | フランス | 2001/01 (98-17926) | 職務著作 | 報道出版物 | 他紙に新聞記事が転載された場合も職務著作の範疇か。 | [45] |
The British Horseracing Board v William Hill Organization (英国競馬公社対ウィリアムヒル) | イギリス | 2004/11 (C-203/02) | 著作物性 | データベース | 競馬レース情報DBを賭け屋が流用。 | [46][47][48] |
X v SEM[注 5] (X対SEM) | フランス | 2005/04 (03-21.095) | 職務著作 | 報道出版物 | 退職後も報道写真が転載利用された場合も職務著作の範疇か。 | [45] |
Melnychuk v Ukraine (メルニチェック対ウクライナ政府) | ウクライナ | 2005/07 (No 885/12) | 著作者人格権 | 書籍 | 書籍・詩を酷評する書評の新聞掲載は人権侵害か。 | [36] |
SGAE v Rafael Hoteles (SGAE対ラファエル・ホテル) | スペイン | 2005/12 (C-306/05) | 公衆伝達権 | テレビ番組 | 情報社会指令の「公衆」の定義解釈を示した2000年代を代表する判例の一つ。 | [49][50] |
X v Nestlé[注 5] (X対ネスレ) | フランス | 2006/07 (05-15.472) | 権利譲渡 | 写真 | 市に譲渡した写真が飲料水「ヴィッテル」の広告に無断流用。 | [51] |
Auteurs dans les arts graphiques et plastiques (ADAGP) v Editions Fernand Hazan (ADAGP対アザン出版) | フランス | 2007/02 (04-12.138) | 著作権の保護期間 (戦時加算) | 美術 | 画家クロード・モネ作品の著作権期間延伸は認められるか。 | [52] |
Cassina v Peek & Cloppenburg (カッシーナ対ピーク&クロッペンブルク) | ドイツ | 2008/04 (C-456/06) | 頒布権、消尽論 | 実用品 (椅子) | ル・コルビュジエのデザインした高級チェアの模造品を巡る訴訟。 | [53] |
Précom, Ouest France Multimedia v Direct Annonces (プレコム対ディレクタノンセ) | フランス | 2009/03 (07-19.734 07-19.735) | 著作物性 | データベース | ECJ判決を受け、フランスで初めてDBの「実質的投資」要件が支持された事件。 | [54] |
Danske Dagblades Forening v Infopaq (DDF対インフォパック) | デンマーク | 2009/07 (C-5/08) | 著作物性 | 報道出版物 | アイディア・表現二分論のリーディングケース。 | [55][56][57] |
Sociedad General de Autores y Editores de España v Padawan (SGAE対パダワン) | スペイン | 2010/10 (C-467/08) | 複製権 | デジタル全般 | 私的録音録画補償金制度のリーディングケース。 | [58] |
Moulinsart v Arconsil (ムーランサール対アルコンシーユ) | フランス | 2011/02 (n°09/19272) | パロディ | 書籍 | 漫画『タンタンの冒険』シリーズを巡るフランスのパロディ主要判決の一つ。 | [11] |
Football Association Premier League v QC Leisure and Karen Murphy v Media Protection Services (プレミアリーグ対QCレジャー) | イギリス | 2011/10 (C-403/08 and C-429/08) | 競争法 | テレビ番組 | 英国サッカーの試合をギリシャ衛星放送経由でデコーダーを使用して英国内視聴。 | [59][60] |
Painer v Standard Verlags (ペイナー対シュタンダルト新聞) | オーストリア | 2011/12 (C-145/10) | 著作物性 | 写真 | 誘拐事件の被害者顔写真の無断使用は防犯目的なら許容されるのか。 | [61] |
SABAM v Netlog (SABAM対Netlog) | ベルギー | 2012/02 (C-360/10) | プロバイダー責任 | デジタル全般 | ベルギー版Facebookに課された一般的監視義務 (事前防止策) の是非。 | [62][63] |
SAS Institute v World Programming (SAS対ワールド・プログラミング) | イギリス | 2012/05 (C‑406/10) | 著作物性 | プログラム | 英国・米国で訴訟に発展。システム機能は著作権保護対象か。 | [64] |
Oracle v UsedSoft (オラクル対UsedSoft) | ドイツ | 2012/07 (C‑128/11) | 頒布権、消尽論 | プログラム | ソフトウェアの利用ライセンスを中古販売すると著作権侵害か。 | [65][66] |
Maki v Serisud (マキ対スリスッド) | フランス | 2012/11 (11-20.531) | 国際準拠法、集合著作物 | 商品デザイン | マダガスカルで係争中の事件をフランス法でも著作権と商標権侵害で裁けるか。 | [41] |
X v ABC News[注 5] (X対ABCニュース) | フランス | 2013/04 (11-12.508) | 国際準拠法 | 報道出版物 | 米系企業フランス駐在時の著作物は米国とフランス法どちらが適用されるか。 | [67] |
Vandersteen v Deckmyn (ヴァンダースティーン対デックメイン) | ベルギー | 2014/09 (C-201/13) | パロディ | イラスト | EU著作権法のパロディ関連のリーディングケース。 | [68][69] |
A Malka v Peter K[注 6] (マルカ対ピーター) | フランス | 2015/05 (13-27.391) | パロディ、著作者人格権 | 写真 | 元ネタの品位を貶める作風は著作者人格権侵害か表現の自由の範疇か。 | [11] |
Mc Fadden v Sony Music Entertainment (メクファデン対ソニー・ミュージック)[注 7] | ドイツ | 2016/09 (C-484/14) | プロバイダー責任 | 音楽 | 無料Wi-Fi接続提供者は著作権侵害コンテンツ拡散の責任を負うか。 | [70][71] |
Soulier and Doke v Premier ministre (スリエー対フランス首相) | フランス | 2016/11 (C-301/15) | 利用許諾 | 書籍 | 20世紀絶版書籍の半強制デジタル再頒布制度は違憲か。 | [72][73] |
Renckhoff v Land Nordrhein-Westfalen (レンコフ対ノルトライン=ヴェストファーレン州) | ドイツ | 2018/08 (C-161/17) | 例外・制限規定 (教育) | 写真 | 学生の課題論文に他者の写真が取り込まれて学校ウェブサイトで拡散。 | [74][75] |
Bastei Lübbe v Strotzer (バスタイ・ルブー対ストロッツァー) | ドイツ | 2018/10 (C-149/17) | プロバイダー責任 (開示請求) | 書籍 | 基本権憲章の「家庭生活の尊重権」は開示拒否の根拠になるか。 | [76][71] |
Levola Hengelo v Smilde Foods (レイヴォラ対スミルデ食品) | オランダ | 2018/11 (C-310/17) | 著作物性 | 食品 | 味覚は主観的であり、著作権保護の対象外と判示。 | [77][78] |
Kraftwerk v Pelham (クラフトヴェルク対ぺラム) | ドイツ | 2019/07 (C-476/17) | 複製権 | 音楽 | 約2秒のリズム流用はサンプルであり複製権侵害に当たらない。 | [79][80][81] |
G-Star v Cofemel (G-Star対クフェメル) | ポルトガル | 2019/09 (C-683/17) | 著作物性 | 実用品 (アパレル) | Tシャツやジーンズ製造・販売業者同士のデザイン盗用を巡る事件。 | [82][83] |
Glawischnig-Piesczek v Facebook (グラヴィシュニク対Facebook) | オーストリア | 2019/10 (C‑18/18) | プロバイダー責任 | 投稿コメント | 政治家に対する誹謗中傷コメントとシェア拡散削除命令は国外にもおよぶか。 | [84][85] |
Nederlands Uitgeversverbond v Tom Kabinet (オランダ出版社協会対トムカビネット) | オランダ | 2019/12 (C-263/18) | 頒布権、消尽論 | 電子書籍 | 電子書籍の再販は著作権侵害か。 | [86] |
SI and Brompton Bicycle v Chedech/Get2Get (ブロンプトン対チェデック) | ベルギー | 2020/06 (C-833/18) | 著作物性 | 実用品 (自転車) | 折り畳み自転車の技術デザインは著作権と意匠で二重保護されるか。 | [87][88] |
Constantin Film v YouTube (コンスタンティン・フィルム対YouTube) | ドイツ | 2020/07 (C-264/19) | プロバイダー責任 (開示請求) | 映画 | 権利侵害ユーザーの情報開示対象にEメールや電話番号なども含めるか。 | [89] |
SABAM v Tomorrowland and Wecandance (SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件) | ベルギー | 2020/11 (C-360/10) | 競争法 | 音楽 | 音楽イベントの売上ベースで利用料を課すのは優越的地位の濫用か。 | [90] |
UCMR-ADA v Suflet de Român (UCMR-ADA対ルーマニアの魂) | ルーマニア | 2021/02 (C-501/19) | 集中管理団体 | 音楽 | 集中管理団体は付加価値税 (VAT) 納税主体か。 | [91] |
CV-Online v Melons (CV-Online対Melons) | ラトビア | 2021/06 (C-762/19) | 実質的投資 | データベース (求人広告) | 求人広告まとめサイトはリンクだけでも著作権侵害か。 | [92] |
Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando (ピーターソン対YouTube、エルゼビア対Cyando) | ドイツ | 2021/06 (C-682/18 & C-683/18) | プロバイダー責任 | 音楽、書籍 | 2件併合判決。YouTubeなどは一次侵害責任を負うか。 | [93] |
Sanctions against Google's AI (GoogleのAIに対する制裁措置) | フランス | 2021/07 (Decision 21-D-17) and 2024/03 | 競争法 | 報道出版物 | 人工知能の学習データに他社ニュース記事を無償利用し、計7億5千万ユーロの罰金。 | [94] |
Top System v Belgian State (トップ・システム対ベルギー政府) | ベルギー | 2021/10 (C-13/20) | 複製権 | プログラム | エラー修正目的の逆コンパイルは許諾を要するか。 | [95] |
Austro-Mechana v Strato (アオストロ・メヒャナ対ストラート) | オーストリア | 2022/03 (C-433/20) | 複製権 | デジタル全般 | クラウド保存は複製料支払の対象か。 | [96] |
Safarov v Azerbaijan (セフェロフ対アゼルバイジャン政府) | アゼルバイジャン | 2022/09 (No 885/12) | 例外・制限規定 (教育)、消尽論 | 書籍 | 非営利団体による無許諾の書籍デジタル化の違法性。 | [97] |
RTL Television v Grupo Pestana (RTLテレビ対ペスタナ) | ポルトガル | 2022/09 (C-716/20) | 公衆伝達権 | テレビ番組 | 無料番組をケーブルでホテル個室のテレビに流すのは「再配信」か。 | [98][99] |
MPLC v Citadines Betriebs (MPLC対シタディーン) | ドイツ | 2024/04 (C‑723/22) | 公衆伝達権 | テレビ番組 | 個室にテレビセットを設置したホテルは公衆伝達権侵害か。 | [100][101] |
Poland v European Parliament and Council of the European Union (ポーランド政府対欧州議会・欧州連合理事会) | n.a. (直接訴訟) | 2022/04 (C-401/19) | 立法無効 | デジタル全般 | DSM著作権指令の第17条 (通称「アップロードフィルター条項」) は合法立法であると判断。 | [102][103] |
AMETIC v Administración General del Estado (AMETIC対スペイン政府) | スペイン | 2022/09 (C-263/21) | 集中管理団体 | デジタル全般 | 私的複製にかかる利用料徴収の法令無効化請求。 | [104][105] |
Koch Media v FU[注 4] (コッホ・メディア対FU) | ドイツ | 2024/04 (C-559/20) | 公衆伝達権 | ゲーム | 提訴前に発生した弁護士費用も著作権侵害者負担にできるか。 | [106][107] |
Seven.One Entertainment Group v Corint Media (セブン・ワン対コーリント・メディア) | ドイツ | 2023/11 (C-260/22) | 複製権 | テレビ番組 | 私的複製分の利用料をテレビ局に分配すべきか。 | [108] |
Kopiosto v Telia Finland (コーピオスト対テリア) | フィンランド | 2023/11 (C‑201/22) | 集中管理団体 | テレビ番組 | 著作権侵害で集中管理団体に提訴資格はあるか。 | [109] |
Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission (PRO対欧州委員会) | n.a. (直接訴訟) | 2024/05 (C-588/21 P) | 著作物性 | 公的文書 | 民間団体作成の欧州規格関連文書に情報公開義務は生じるか。 | [110] |
Liberi editori e autori (LEA) v Jamendo (LEA対ジャメンド) | イタリア | 2024/05 (C-10/22) | 競争法 | 音楽 | 外資系著作権管理団体のイタリア市場参入規制は違法。 | [111][112] |
GEMA v GL (GEMA対GL) | ドイツ | 2024/06 (C-135/23) | 公衆伝達権 | テレビ番組 | マンションに屋内アンテナを設置した不動産管理会社は公衆伝達権侵害か。 | [113] |
Kneschke v LAION (クネシュケ対LAION) | ドイツ | 2024年 (係争中) | 例外・制限規定 (TDM) | 写真 | 写真をAI学習データに無断・無償流用できるか。 | [114] |
EUおよびその前身の欧州諸共同体 (EC) や欧州経済共同体 (EEC) 時代を含め、著作権法の観点では3フェーズに分類でき[115]、CJEUの下した判決の意義づけが異なる。
ある作品が著作権保護の対象となるのかが問われた事件を「著作物性」関連のトピックで以下にまとめる。
著作権では創作的な表現を保護し、その表現の大元となるアイディア (事実・発見・概念などを含む) は保護の対象外とする法律上の原理原則がアイディア・表現二分論である[118]。どこまでを著作権法で保護するのかが問われた判例は以下のとおりである。特に2009年の通称「Infopaq判決」がこの分野でのリーディングケースとして知られている[55][56][119]。
画像外部リンク | |
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ナターシャのポートレート (ECJに証拠提出された画像で、エヴァ・マリア・ペイナー撮影作品が無断加工されている。学術出版社Wolters Kluwerが画像転載。) |
画像外部リンク | |
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G-StarとCofemelのデザイン対比 - www.sgcr.pt および www.aippi.org からの転載 |
EUではデータベースを「内容物」(コンテンツ) と「データ構造」に分類の上、前者はスイ・ジェネリス権で、後者は狭義の著作権 (著作者本人の権利) でそれぞれ別個に保護すると定めている[154][155][156]。スイ・ジェネリス権とは、狭義の著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利であり[157]、ラテン語のスイ・ジェネリス (Sui generis) には「他の分類に属しない、それ単体でユニークな」の意味がある[158]。データベースが狭義の著作権で保護されるには、知的な「創作性」(英: originality) が要件として求められる一方[注 12]、スイ・ジェネリス・データベース権は保護に値するだけの「実質的投資」(英: substantial investment) があるかが問われる (データベース指令 第7条第1項)[156]。
複数人で創作された著作物のうち、何を「集合著作物」や「共同著作物」と呼ぶか、国・地域によって異なる。集合著作物の例として定期刊行物、選集、百科事典などが挙げられている国もある (例: 米国著作権法)[163]。一方、フランスでは集合著作物と共同著作物との境界線が曖昧である[164]。映画などの視聴覚著作物に関し、フランスの判例では集合著作物ではなく共同著作物として扱われている[165]。しかし個々のジャーナリストの寄稿を集めた新聞や雑誌はフランスでは集合著作物に区分されている (フランス著作権法 L132条-35からL132条-45)[45]。これは個々の寄稿とは別に、集合著作物として新聞・雑誌に著作権が発生するためである[45]。
フランスにおける集合著作物の場合、個々の創作との間に上下関係があり (例: 新聞全体と個々の記事の関係)、かつ特定の者が創作を指示していることが要件として挙げられる。この指示者には企業・団体も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる[166]。本項では「著作物性」のセクション下で集合著作物・共同著作物の判例を扱っているが、集合著作物として別途著作権が発生しているのか (著作物性の問題) だけでなく、集合著作物の権利者は誰なのか (著作権の帰属の問題) も問われうる。
映像外部リンク | |
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Kraftwerk "Metall auf Metall" - Kraftwerk公式YouTubeより | |
Sabrina Setlur歌唱楽曲 "Nur mir" - プロデューサーMoses Pelhamの音楽レーベル "3pTV" 公式YouTubeより |
画像外部リンク | |
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ゲームのスクリーンショット画像 - メーカー公式ウェブサイト掲載 |
2000年代のEU著作権法の公衆伝達権に関する代表的判例の一つとして、特に「SGAE判決」が知られている[119]。これはホテル個室に設置されたテレビに番組が配信された事件であるが[186]、フランス国内ではこれよりも古く1960年代には類似の判例が見られる。フランスでは「公衆伝達権」ではなく「演奏・上演権」(仏: droit de représentation) の呼称が用いられるが、伝達手段は問わないことからライブ実演だけでなく、音楽レコードやテレビ番組、インターネット送信など幅広い公衆伝達を含む概念である[187][188][注 16]。
日本の著作権法では「公衆送信権」(伝達ではなく送信) と呼ばれ、送信技術の多様化に伴って改正が行われてきている[190]。公衆伝達権を明文化したEUの情報社会指令制定[191]も日本の著作権法改正も[190]、デジタル著作物に関する国際条約であるWIPO著作権条約 (WCT) の国内批准に合わせた動きである。このように権利の呼称は国・地域で異なるが、WCTの公衆伝達権の範疇に属する判例を当セクションで取り上げる。
EU著作権法における頒布権 (Distribution right または Right of distribution) は、部分的に他の指令で補完はされているものの、根幹部分は2001年成立の情報社会指令 (英通称: InfoSoc Directive[117]) 第4条で定められている[191]。EU域外も多く批准している著作権法の国際条約の一つであるWIPO著作権条約 (WCT) をEU著作権法に取り込む目的で、情報社会指令が成立していることから[191]、同指令の法廷での解釈は国際条約の条文の解釈とも密接に関係する[199]。WCTにおける頒布とは、販売や譲渡などの手段を通じて、著作物の原物または複製品の所有権を他者に移転させ、利用可能にする行為を指す。そして頒布権とは、著作権者が自身の著作物を頒布するか否か、許諾を与える独占的な権利を指す[200]。
この文脈における消尽とは、ひとたび譲渡などを行うと、著作権者の独占的な権利が消え尽きることを意味する[201]。特にデジタル化した現代社会においては、電子書籍やソフトウェアといったデジタル著作物の中古売買や、ウェブサイトからダウンロードした複製物の再販といった取引行為の適法性が問われ、著作権者の頒布権が消尽しているのか判断が求められる[注 18]。日本の著作権法でも2002年の最高裁判決・通称「中古ゲームソフト大阪事件」(最判平成14年4月25日、民集 第56巻4号808頁) がデジタル消尽の主要判例として知られており[204][205]、EU著作権法との国際比較の対象となっている[199]。
さらに中古・再販だけでなく、レンタルに関する貸与権も、著作物の購入者の用途を拘束できるかが問われる。フランス著作権法のように頒布権と貸与権を「用途指定権」(仏: droit de destination) の名称で包括的な概念として扱う国もあることから[206]、当セクションでは消尽が争点となる貸与権の判例も含めて紹介する。
なお、情報社会指令の第3条「公衆伝達権」が消尽しないのに対し[207]、同指令の第4条「頒布権」は一定の条件を満たすと消尽する違いがある[208]。
ベルギーからECJに付託された2014年「#デックメイン判決」が他者著作物のパロディ利用のリーディングケースとして知られており[68]、この判決前後でフランスでは法廷におけるパロディの定義や法的保護の要件解釈に変化が生じたと言われている[11]。ディックメイン判決でECJはユーモアの要素をパロディに求めているが、当判決以前のフランスではユーモアは必須でないとし、逆に原著作者の人格を傷つけるようなパロディであってはならないと定義していた。また「混同」の観点が取り入れられており、パロディの商用利用は問題ないものの、原著作物と市場で競合するような宣伝目的は禁じられていた[11]。
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原告ヴァンダースティーンの原画 - ECJへの提出資料より[222] |
著作者人格権はEUレベルでは平準化を行っていないことから[229]、主に国内著作権法に基づく判例を以下に紹介する。
フランスでは著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する「尊重権」が著作者人格権の一つとして認められており[233][234]、他国の著作権法で一般的な「同一性保持権」よりも保護範囲の広い概念である[注 24]。フランスで尊重権の概念が初めて判決で認められたのは1814年と歴史は古く[240]、その後も多数の訴訟で尊重権を扱われてきた[233]。
実演家 (歌手、俳優など) は著作物 (歌詞・メロディ、脚本など) を伝達する者として著作隣接権がローマ条約 (別通称: 実演家等保護条約。ECC条約のローマ条約とは異なる) などで認められている[252]。このような実演家は、労働組合 (労組) や著作権管理団体 (集中管理団体) を通じて労働・雇用契約の改善や法的保護を求める慣行も一部の国・地域に見られる。たとえばイギリスでは俳優が労組の "Equity" に加入するのが一般的であり、出演した作品の二次利用なども組合との労働協約が関係してくる[253]。ドイツではGVL (Gesellschaft zur Verwertung von Leistungsschutzrechten、直訳すると「著作隣接権利用協会」) が実演作品の二次利用を管理しており、音楽家、歌手、ダンサーなどが対象に入ってくる。GVLからの分配金に不服の実演家はドイツ国内の地裁に提訴することとなる[254]。
著作物の権利保護期間はベルヌ条約などに基づいて最低年数が定められており、著作者死亡日を起点に計算されることから[259]、国のために戦争で早くに命を落とした著作者 (および遺族) には不利に働く。また戦争中は平時のように著作物を利用できないことで不利益を被る[260]。これらの特殊事情を考慮して、戦時加算の制度を追加で設けている国がある。欧州ではフランス、ドイツ、イタリアなどが挙げられる[260]。この結果、一度著作権が切れた著作物に戦時加算が適用され、後に権利復活する可能性がある[259]。
以下に詳述する判例上では、SNS (ソーシャルメディア) やYouTubeなどのオンライン・コンテンツ共有サービス事業者 (online content-sharing service providers、略称: OCSSPs)、Wi-Fi接続サービス提供者などがプロバイダーとしての責任を問われている。
著作権侵害事件では、プロバイダーの「二次侵害」ないし「間接侵害」責任が問われることがあり、これは他者の著作物を不法に利用した一般ユーザー (つまり「直接」の権利侵害者) に対し、権利侵害の場や手段を提供した者に「間接」的に発生する権利侵害の責任である[268]。2000年成立の電子商取引指令 (略称: ECD) は第12条から第14条が、プロバイダーに適用されるいわゆるセーフハーバー条項 (免責条項) となっており、違法コンテンツの通信・拡散にデジタル・プラットフォームが利用された際に事業者の二次侵害責任を免除する条件を規定している。電子商取引指令は著作権侵害以外のデジタル上での不法行為全般を広範にカバーし、著作権に特化した2019年のDSM著作権指令とは補完関係にある[269][270]。
法執行では、著作権侵害を起こしている海賊版の差押など、強制力を持たせた法律上の手続・措置に関する判例を以下に紹介する。
EUの一次法と国内著作権法の矛盾が問われた事件について以下にまとめる。
EUの基本条約や欧州連合基本権憲章といった一次法 (基本法) に基づき、EUの立法機関 (欧州議会および欧州連合理事会) は指令などの二次法 (派生法) を採択している[310]:192。時として、こうした派生法が基本法と矛盾することがあり、派生法の立法取消 (無効確認) を求めてECJに提起されることがある[310]:203。
また派生法たる指令の国内法化に伴って改正・制定されたEU加盟国の法令 (さらなる派生法) が、指令や各国の憲法などの上位法と矛盾し、違憲立法審査が行われることがある。
DSM著作権指令では、他者著作物の利用に際して、デジタル・プラットフォーム事業者に適正な利益分配を義務付けている[312]:81–82。Googleに代表されるこうした事業者は大規模にサービス展開し、市場における優越的地位を濫用して、利益を著作権者に十分還元していない事案があり、欧州連合競争法と著作権法が近接する分野である。また著作権管理団体 (CMO) が優越的地位を濫用して多額の利用料を請求するケースもある。
一般的に著作権に関する訴訟は欧州各国の国内著作権法に基づき、国内裁判所で取り扱われる (例: フランス著作権法に基づき、フランス破毀院ないし下級審で審理)。しかし欧州における著作権訴訟の一部は、国際裁判所である欧州連合司法裁判所 (英略称: CJEU) や欧州人権裁判所 (英略称: ECtHR) に持ち込まれることがある。本項では国内レベルの判例、および欧州レベルの国際判例の両方を取り扱う。
欧州連合司法裁判所 (CJEU) は、欧州連合 (EU) が制定したEU著作権法などのEU法 (二次法ないし派生法と呼ばれる[331])、そしてその上位法である欧州連合基本権憲章や欧州連合機能条約 (一次法と呼ばれる[331]) などに基づいて判決を下すEUの国際裁判所である[332]。EU加盟各国の国内著作権法とEU著作権法の間で矛盾する場合は、EU著作権法が優先される[注 36]。
欧州連合司法裁判所 (公式英略称: CJEU) は総称であり、
から構成されている[333][342]。訴訟は「先決裁定」と「直接訴訟」に分類され[343]、CJEU内の管轄 (役割分担) が異なる。
まず先決裁定手続 (英: preliminary ruling procedure) であるが、EU著作権法を含むEU法全般の条文解釈や効力について疑義が生じた場合は、国内裁判所がいったん国内訴訟の審理を中断させて、CJEUに解釈を付託する[344][345] (つまり原告・被告ではなく、国内裁判所がCJEUに事件を持ち込んでいる)。こうしてCJEUから下された先決裁定の判決は、当事国以外のEU加盟国の判決にも後々影響をおよぼすこととなる[注 38]。先決裁定はECJのみが扱ってきたが、2024年10月より6分野に限定して一般裁判所 (EGC) が担当することとなった。ただしこの6分野には著作権などの知的財産権関連は含まれていない[347]。
一方の「直接訴訟」であるが、国内裁判所ではなく国際裁判所の一般裁判所に訴訟当事者から直接持ち込まれ[348]、判決に不服の場合は上級審であるECJに上訴される場合もある[349] (例: #PRO対欧州委員会事件)。
欧州共同体 (EC) から欧州連合 (EU) へと完全移行させたリスボン条約が2009年12月に発効する以前は、CJEUは欧州共同体司法裁判所 (英: The Court of Justice of the European Communities、略称: CJEC) の正式名称で呼ばれていた[350]。1988年[注 39]以前は第一審裁判所 (現: 一般裁判所) が未設立であったことから単一組織の裁判所であり[349]、CJEUの前身は1952年に発足した欧州石炭鉄鋼共同体 (ECSC) に限定した司法裁判所にまで遡ることができる[352][334]。ECSC司法裁判所の非公式名称として欧州司法裁判所 (英: European Court of Justice、略称: ECJ) が用いられていた[335]。したがって本項では1988年以前の単一組織時代は "ECJ" を略称で用いることとする。
なお、EU著作権法の一部は欧州経済領域 (EEA) にも拡大適用される[注 40]。2024年12月現在、EU加盟国は27か国、EEA加盟国は30か国となっている[355]。差分3か国のアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインはEU未加盟であるものの、EEAには加盟しているため[355]、この3か国は「部分的に」EU著作権法とCJEUの判決に拘束される。
2020年12月31日をもってイギリスはEUから完全に離脱しており (いわゆるBrexit)、2021年1月1日以降のCJEUの判決はイギリスに全く法的拘束力がおよばなくなり、またそれ以前の判決も後にイギリス国内で覆される可能性がある[356]。
欧州人権裁判所 (ECtHR) は欧州評議会 (英略称: CoE) 加盟国を対象とした国際裁判所である[357][358]。2024年12月時点でCoE加盟は計46か国に上り[359]、うちEUやEEAには未加盟であるもののCoEにのみ加盟している国は16ある (例: スイス、トルコ、ウクライナ、アゼルバイジャンなど)[359][355]。上述のとおりイギリスはEUを離脱しているが[356]、以降もCoEには継続加盟している[359][355]。ロシアは26年間CoEに加盟していたが、ウクライナ侵攻を受けて2022年3月に除名処分となっており[360][361]、以降は欧州人権裁判所の法的拘束を受けない。
CoE加盟国は欧州人権条約 (英略称: ECHR) を遵守する法的義務があり[357][358]、著作権は表現の自由など人権の一部でもあることから[362]、同条約に反した国内著作権法をCoE加盟国が制定・運用すると、欧州人権裁判所 (ECtHR) に提訴されるケースがある (例: #セフェロフ対アゼルバイジャン政府事件)。
EUおよびEEA加盟国はすべてCoEにも加盟しているため[359][355]、欧州人権裁判所の著作権に関する判例はEUおよびEEA加盟国にも後々影響をおよぼす。このような背景もあり、EUの知的財産権を扱う欧州連合知的財産庁 (EUIPO) では、欧州人権裁判所の主要判例も収集・分析対象に含めている[97]。
EU著作権法が具体的にどの法令を指すのかは確固たる定義が存在しない状況である。EUでは著作権に関する法令はほとんどが指令の形をとり[363]、単発で提案されて都度採択され、それぞれが並存・補完し合っている。日本国著作権法やアメリカ合衆国著作権法のように一つの法律に体系的にまとまった (法典化した) 形にはなっていない[364]。
EU加盟各国は発令された各種著作権指令に基づいて、国内の著作権法やその関連法を改正する、あるいは新法を成立させるなどして、指令の内容に則した法整備を行う (これを国内法化と呼ぶ)[365][277]。よって、本項ではEU加盟各国の国内著作権法も判例解説の対象に含めている。
各種著作権指令の上位法も著作権関連の訴訟で参照されることがある。例えば欧州連合基本権憲章の第11条 (表現の自由) や第8条 (個人情報保護) である。これは過度な著作権保護が時として、著作物を利用する第三者の表現の自由や、その表現を伝達するデジタル・プラットフォーム事業者の企業活動の自由を抑圧しかねず、常に利害バランスの調整が求められるためである (例: #SABAM対Netlog事件)。また欧州連合機能条約の第102条は優越的地位の濫用を禁じており (日本の独占禁止法に相当する欧州連合競争法の一部) 、多数の著作物の利用許諾を一手に引き受ける著作権管理団体がこれに抵触することがある (例: #SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件)。著作物利用の対価を十分に支払わない大規模デジタル・プラットフォーム事業者に対し、優越的地位の濫用で行政当局が制裁金を科すこともある (例: #GoogleのAIに対する制裁措置)。こうした訴訟以外の制裁措置も本項の対象としている。
著作権保護を主たる目的とはしない一般的なEU法令のうち、著作権にも一部関連しうるものがあり、こうした法令についても本項で取り扱う。例えばAI法 (別称: AI規則) は人工知能 (AI) の包括的な規制法であり、AIモデルの開発に用いられる学習データに他者の著作物が含まれることがあることから、著作権保護とも関連する (例: #クネシュケ対LAION事件)。
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