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太陽系第四惑星 ウィキペディアから
火星(かせい、羅: Mars、マールス、英: Mars、マーズ、希: Άρης、アレース)は、太陽系の太陽に近い方から4番目の惑星で、太陽系内では水星より大きく2番目に小さい惑星である。英語では火星はローマ神話の軍神の名を持ち、しばしば「赤い惑星(Red Planet)」と呼ばれる[3] [4]。
火星 Mars | |||||||
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仮符号・別名 | 炎星、災星、夏日星、熒惑 | ||||||
分類 | 地球型惑星 | ||||||
軌道の種類 | 外惑星 | ||||||
発見 | |||||||
発見年 | 有史以前 | ||||||
発見方法 | 目視 | ||||||
軌道要素と性質 元期:J2000.0[1] | |||||||
平均公転半径 | 227,920,000 km[1] | ||||||
近日点距離 (q) | 1.381 au (206,650,000 km[1]) | ||||||
遠日点距離 (Q) | 1.666 au (249,261,000 km[1]) | ||||||
離心率 (e) | 0.09341233[1] | ||||||
公転周期 (P) | 686.980 日[1] (1.881 年[1]) | ||||||
会合周期 | 779.94 日[1] | ||||||
平均軌道速度 | 24.07 km/s[1] | ||||||
軌道傾斜角 (i) | 1.85061°[1] | ||||||
近日点黄経 () | 336.04084°[1] | ||||||
昇交点黄経 (Ω) | 49.57854°[1] | ||||||
平均黄経 (L) | 355.45332°[1] | ||||||
太陽の惑星 | |||||||
衛星の数 | 2(フォボス、ダイモス) | ||||||
物理的性質 | |||||||
赤道面での直径 | 6,794.4 km | ||||||
赤道半径 | 3,396.2 km[1] | ||||||
極半径 | 3,376.2 km[1] | ||||||
表面積 | 1.44×108 km2 | ||||||
体積 | 1.6318×1011 km3[1] | ||||||
質量 | 6.4171×1023 kg[1] | ||||||
地球との相対質量 | 0.10745[2] | ||||||
平均密度 | 3.933 g/cm3[1] | ||||||
表面重力 | 3.71 m/s2[1] | ||||||
脱出速度 | 5.03 km/s[1] | ||||||
自転周期 | 24.6597 時間[1] (1.027 日)[1] | ||||||
アルベド(反射能) | 0.250[1] | ||||||
赤道傾斜角 | 25.19°[1] | ||||||
表面温度 |
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大気の性質 | |||||||
大気圧 | 0.7-0.9 kPa | ||||||
二酸化炭素 | 95.32%[1] | ||||||
窒素 | 2.7%[1] | ||||||
アルゴン | 1.6%[1] | ||||||
酸素 | 0.13%[1] | ||||||
一酸化炭素 | 0.08%[1] | ||||||
水蒸気 一酸化窒素 ネオン クリプトン キセノン オゾン |
微量[1] | ||||||
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
火星は大気の薄い地球型惑星で、月の衝突クレーターや地球の谷、砂漠、極地の氷冠を思わせるような表面形状をしている。別名の赤い惑星とは、火星の表面に存在する酸化鉄の影響で、肉眼で見える天体の中でも独特の赤みを帯びた外観を持つことを指す。
また、自転周期や黄道面に対する回転軸の傾きが似ているため、1日の長さ(火星日)や季節は地球と同等である。火星には、太陽系最大の火山であり、最も高い山として知られるオリンポス山や、太陽系最大の峡谷のひとつであるマリネリス峡谷がある。北半球にある滑らかなボレアリス盆地は、火星の40%を占めており、巨大な衝突現象の可能性がある。火星にはフォボスとダイモスという2つの衛星があり、小さくて不規則な形をしている。これらは、火星のトロヤ群である「5261 エウレカ」と同様に、捕獲された小惑星である可能性がある[5] [6]。
火星はいくつかの無人探査機によって探査されている。1964年11月28日にNASAによって打ち上げられたマリナー4号は、1965年7月15日に火星に最接近した、火星を訪れた最初の宇宙船である。マリナー4号は、地球の約0.1%という弱い火星の放射線帯を検出し、深宇宙から他の惑星を撮影した最初の画像となった[7]。ソ連の火星探査機「マルス3号」は着陸船を搭載し、1971年12月にソフトランディングを果たしたが、タッチダウンの数秒後に連絡が途絶えた[8]。1976年7月20日、「バイキング1号」が火星表面への着陸に初めて成功した[9]。1997年7月4日、火星探査機「マーズ・パスファインダー」が火星に着陸し、7月5日には火星で活動した初のロボットローバー「ソジャーナー」を放出した[10]。2003年12月25日には、欧州宇宙機関(ESA)が初めて火星を訪れた探査機「マーズ・エクスプレス」が軌道上に到着した[11]。2004年1月には、スピリットとオポチュニティと名付けられたNASAのマーズ・エクスプロレーション・ローバーがともに火星に着陸し、スピリットは2010年3月22日まで、オポチュニティは2018年6月10日まで活動した[12]。NASAは2012年8月6日、火星の気候と地質を調査する「マーズ・サイエンス・ラボラトリー(MSL)」ミッションの一環として、探査機「キュリオシティ」を着陸させた[13]。2014年9月24日、インド宇宙研究機関(ISRO)は、初の惑星間ミッションである探査機「マーズ・オービター・ミッション」が軌道上に到着し、火星を訪れた4番目の宇宙機関となった[14]。アラブ首長国連邦は、2021年2月9日に火星探査機を火星の大気圏に投入し、火星へのミッションを成功させた5番目の宇宙機関となった[15]。また、NASAのローバー「パーサヴィアランス」が2021年2月18日に火星への着陸に成功した。
火星の過去の居住性や現存する生命の可能性を評価する調査が行われている。欧州宇宙機関のロザリンド・フランクリン・ローバーのようなアストロバイオロジー・ミッションが計画されている[16] [17] [18] [19]。火星の気圧は地球の1%以下と低いため、火星の地表に液体の水は存在しない[20]。2つの極地の氷冠は、大部分が水でできているとされる。南極の氷冠に含まれる水の氷の量は、もし溶けた場合、惑星の表面を11メートルの深さまで覆うのに十分である。2016年11月、NASAはユートピア平原領域で大量の地下氷を発見したことを報告した。検出された水の量は、スペリオル湖の水の量に相当すると推定されている[21] [22] [23]。
火星は、その赤みを帯びた色合いのように、地球から肉眼で簡単に見ることができる。火星の見かけの等級は-2.94で、これは金星、月、太陽に次ぐ明るさである。地上の光学望遠鏡では、地球の大気の影響を受けるため、地球と火星が最も接近したときに、300km程度の大きさのものしか見ることができない。
火星は地球型惑星に分類される、いわゆる硬い岩石の地表を持った惑星である。火星には海が無く、酸化鉄(赤さび)を大量に含む赤い地表が広がっている。半径は地球の約2分の1、質量は地球の約10分の1であり、火星の地表での重力の強さは、地球の40パーセントほどである。火星の表面積は、地球の表面積の約4分の1であるが、これは地球の陸地の面積(約1.5億平方キロメートル)とほぼ等しい。火星の自転周期は地球のそれと非常に近く、火星の1日(1火星太陽日、1sol)は、24時間39分35.244秒である。また、地球と同じように太陽に対して自転軸を傾けたまま公転しているため、火星には季節が存在する。
地球や金星と比べて火星の質量は小さい[24]。太陽系の惑星移動のモデルであるグランド・タック・モデルによると、木星は火星形成前に一度火星軌道程度まで太陽に近づき、のちに現在の軌道に落ち着いたとしている[24]。その際、火星軌道付近の微惑星がはじき飛ばされ枯渇してしまったため、火星が大きく成長できなかった可能性を示唆している[24]。
火星の大気は希薄で、地表での大気圧は約750Paと地球での平均値の約0.75パーセントに過ぎない。逆に大気の厚さを示すスケールハイトは約11キロに達し、およそ6キロである地球よりも高い。これらはいずれも、火星の重力が地球よりも弱いことに起因している。大気が希薄なために熱を保持する作用が弱く、表面温度は最高でも約20℃である。大気の組成は二酸化炭素が95パーセント、窒素が3パーセント、アルゴンが1.6パーセントで、ほかに酸素や水蒸気などの微量成分を含む。ただし、火星の大気の上層部は太陽風の影響を受けて宇宙空間へと流出していることが、ソビエト連邦の無人火星探査機のフォボス2号によって観測されている。したがって上記の火星の大気圧や大気組成は、長い目で見ると変化している可能性、そして今後も変化していく可能性が指摘されている。
2003年に地球からの望遠鏡による観測で大気にメタンが含まれている可能性が浮上し、2004年3月のマーズ・エクスプレス探査機の調査による大気の解析でメタンの存在が確認された。現在観測されているメタンの量の平均値は体積比で約11±4 ppbである。
火星の環境下では不安定な気体であるメタンの存在は、火星にメタンのガス源が存在する(または、少なくとも最近100年以内には存在していた)という興味深い事実を示唆している。ガスの生成源としては火山活動や彗星の衝突、あるいはメタン菌のような微生物の形で生命が存在するなどの可能性が考えられているが、いずれも未確認である。地球の海では、生物によってメタンが生成される際には同時にエタンも生成される傾向がある。一方、火山活動から放出されるメタンには二酸化硫黄が付随する。メタンは火星表面のところどころに局所的に存在しているように見えることから、発生したメタンは大気中に一様に分布するよりも短時間で分解されていることがうかがえる。それゆえ、おそらく持続的に大気中に放出されているとも推測される。発生源に関する仮説でどれがもっとも有力かを推定するために、メタンと同時に放出される別の気体を検出する計画も現在進められている。
火星大気には大きく変化する面もある。冬の数か月間に極地方で夜が続くと、地表は非常に低温になり、大気全体の25パーセントもが凝固して厚さ数メートルに達する二酸化炭素の氷(ドライアイス)の層をつくる。やがて、極に再び日光が当たる季節になると二酸化炭素の氷は昇華して、極地方に吹き付ける時速400キロに達する強い風が発生する。これらの季節的活動によって大量の塵や水蒸気が運ばれ、地球と似た霜や大規模な巻雲が生じる。このような水の氷からなる雲の写真が2004年にオポチュニティによって撮影されている(NASA撮影画像へのリンク)。また、南極で二酸化炭素が爆発的に噴出した跡がマーズ・オデッセイによって撮影されている[27]。
火星は短い時間尺度では温暖化していることを示唆する証拠も発見されている[28]。しかし21世紀初頭の火星は1970年代よりは寒冷である[29]。 火星の質量は地球の11%で、地球より太陽からの距離が離れているが、気候変動、観測可能な気候パターンなど、気候面では重要な共通点を持っている[30]。
火星の有効温度は氷点下56℃であり、実際の温度の氷点下53℃とほとんど変わらないのは、二酸化炭素が0.006気圧であり水蒸気もほとんど存在せず温室効果が弱いからである[31]。
火星の表面は主として玄武岩と安山岩からなっている。いずれも地球上ではマグマが地表近くで固まって生成する岩石であり、含まれる二酸化ケイ素(SiO2)の量で区別される。火星では多くの場所が、厚さ数メートルあるいはそれ以上の滑石粉のような細かい塵で覆われている。
マーズ・グローバル・サーベイヤー探査機による火星の磁場の観測から、火星の地殻が向きの反転を繰り返すバンド状に磁化されていることが分かっている。この磁化バンドは、典型的には幅160キロ、長さ1,000キロにわたっている。このような磁化のパターンは地球の海底に見られるものと似ている。1999年に発表された興味深い説によると、これらのバンドは過去の火星のプレートテクトニクス作用の証拠かもしれないと考えられている。しかし、そのようなプレート活動があった証拠はまだ確認されていない[32]。2005年10月に発表された新たな発見は上記の説を支持するもので、地球で発見されている海底拡大によるテクトニクス活動と同様の活動が太古の火星にあったことを示している[33]。もしこれらが正しければ、これらの活動によって炭素の豊富な岩石が地表に運ばれることによって地球に近い大気が維持され、一方で磁場の存在によって火星表面が宇宙放射線から守られることになったかもしれない。またこれらとは別の理論的説明も提案されている。
オポチュニティによる発見の中に、メリディアニ平原で採取した岩石から小さな球形の赤鉄鉱(ヘマタイト)が発見された。この球体は直径わずか数ミリしかなく、数十億年前に水の多い環境の下で堆積岩として作られたものと考えられている。ほかにも鉄ミョウバン石など、硫黄、鉄、臭素を含む鉱物が発見されている。これらを含む多くの証拠から、学術誌『サイエンス』 2004年12月9日号において50名の研究者からなる研究グループは、「火星表面のメリディアニ平原では過去に液体の水が断続的に存在し、地表の下が水で満たされていた時代が何回かあった。液体の水は生命にとって鍵となる必要条件であるため、我々は火星の歴史の中でメリディアニでは生命の存在可能な環境が何度か作られていたと推測している」と結論している。メリディアニの反対側の火星表面では、コロンビア・ヒルズにおいてスピリットが針鉄鉱を発見している。これは(赤鉄鉱とは異なり)水が存在する環境で「のみ」作られる鉱物である。スピリットはほかにも水の存在を示す証拠を発見している。
マーズ・グローバル・サーベイヤーが2006年に撮影した写真から、クレーター内壁の斜面を液体が流れた痕跡が見つかったが、1999年に同じ場所を撮影した写真には写っておらず、それ以降にできたものと思われる。
1996年、火星起源であると考えられている隕石「ALH84001」を調査していた研究者が、火星の生命によって残されたと思われる微小化石がこの隕石に含まれていることを報告した。2005年現在、この解釈についてはいまだに議論があり、合意は得られていない。
火星の地形は大きく2通りに分かれており、特徴的である。北半球は溶岩流によって平らに均された平原(北部平原の成因としては大量の水による侵食説もある)が広がっており、一方、南半球は太古の隕石衝突による窪地やクレーターが存在する高地が多い。地球から見た火星表面もこのために2種類の地域に分けられ、両者は光の反射率であるアルベドが異なっている。明るく見える平原は赤い酸化鉄を多く含む塵と砂に覆われており、かつては火星の大陸と見立てられてアラビア大陸(Arabia Terra)やアマゾニス平原(Amazonis Planitia)などと命名されている。暗い模様は海と考えられ、エリトリア海(Mare Erythraeum)、シレーヌス(セイレーンたち)の海(Mare Sirenum)、オーロラ湾(Aurorae Sinus)などと名づけられている。地球から見えるもっとも大きな暗い模様は大シルチス(Syrtis Major)である。
火星には水と二酸化炭素の氷からなる極冠があり、火星の季節によって変化する。二酸化炭素の氷は夏には昇華して岩石からなる表面が現れ、冬には再び氷ができる。楯状火山であるオリンポス山は標高27キロの太陽系最高の山である[34]。この山はタルシス高地と呼ばれる広大な高地にあり、この地方にはいくつかの大きな火山がある。火星には太陽系最大の峡谷であるマリネリス峡谷も存在する。この峡谷は全長4,000キロ、深さ7キロに達する。火星には多くのクレーターも存在する。最大のものはヘラス盆地で、明るい赤色の砂で覆われている。
火星の最高地点と最低地点の標高差は約31キロである。オリンポス山の山頂 27キロがもっとも高く、ヘラス盆地の底部、標高基準面の約4キロ下がもっとも低い。これと比べて地球の最高点と最低点(エベレストとマリアナ海溝)の差は19.7キロに過ぎない。両惑星の半径の差を考えると、火星が地球よりもおよそ3倍も凸凹であることを示している。
21世紀初頭現在では、国際天文学連合(IAU)の惑星系命名ワーキンググループが火星表面の地形名の命名を担当している。
火星には海がないため海抜という定義は使えない。したがって高度0の面、すなわち平均重力面を選ぶ必要がある。火星の基準測地系は4階4次の球面調和関数重力場で定義され、高度0は温度273.16Kでの大気圧が610.5Pa(地球の約0.6パーセント)となる面として定義されている。この圧力と温度は水の三重点に対応している。
火星の赤道はその自転から定義されているが、基準子午線の位置は地球の場合と同様に任意の点が選ばれ、後世の観測者によって受け入れられていった。ドイツの天文学者ヴィルヘルム・ベーアとヨハン・ハインリッヒ・メドラーは1830年から32年にかけて最初の火星の体系的な地図を作成した際に、ある小さな円形の模様を基準点とした。彼らの選択した基準点は1877年に、イタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリが有名な火星図の作成を始めた際に基準子午線として採用された。1972年に探査機マリナー9号が火星の広範囲の画像を撮影したあと、子午線の湾のベーアとメドラーの子午線上にある小さなクレーター(のちにエアリー0と呼ばれる)がアメリカ、RAND社のメルトン・デーヴィスによって、惑星撮影時の制御点ネットワークを決める際により正確な経度0.0度の定義として採用された。
火星にはかつて生命が存在したという考えのために、火星は人類の想像の世界の中で重要な位置を占めている。こういった考えはおもに19世紀に多くの人々によって行われ、特にパーシヴァル・ローウェルやジョヴァンニ・スキアパレッリによる火星観測から生まれ、一般に知られるようになった、スキアパレッリは観測された模様をイタリア語: canali(溝)という語で記述した。これが英語: canal(運河)と誤訳され、ここから「火星の運河」という説が始まった[35]。これらの火星表面の模様は「人工的な」直線状の模様のように見えたために運河であると主張された。またある領域の明るさが季節によって変化するのは植物の成長によるものだと考えられた。
当初の観測時点でも自然地形とみなされたものが、翻訳(誤訳)によって「運河」と表現されたことで、人工物的な意味合いが付与されてしまった。そこから火星人に関連した多くの話が生まれた。だが火星探査が進むと、運河は無い(=人工物ではなく自然地形である・知的生命体はいない・火星人の文明はない)ことがわかる。先述の色の変化は塵の嵐のためであると考えられている。
火星にはフォボスとダイモスの2つの衛星が存在する[36]。ともに1877年にアサフ・ホールによって発見され、ギリシア神話で軍神アレースの戦いに同行した息子のフォボス(「狼狽」の意)、ダイモス(「恐怖」の意)から名付けられた。アレースはローマ神話では戦争の神マルスとして知られている。
火星の地表や気候、地形を研究するために、ソ連、アメリカ、ヨーロッパ、日本によって今までに軌道探査機、着陸機、ローバーなどの多くの探査機が火星に送り込まれた。火星を目指した探査機のうち、約3分の1がミッション完了前に、またはミッション開始直後に何らかの失敗を起こしており、失敗率が高い。原因は技術上の問題によるものと考えられるが、また一方で原因不明の失敗や交信途絶も多くあり、研究者の中には冗談半分に地球・火星間の「バミューダトライアングル」と呼んだり、火星探査機を食べて暮らしている宇宙悪霊がいると言ったり、火星の呪いと言う人もいる。
もっとも成功したミッションとしては、ソ連の火星探査機計画やアメリカのマリナー計画、バイキング計画、マーズ・グローバル・サーベイヤー、マーズ・パスファインダー、2001マーズ・オデッセイなどがある。グローバル・サーベイヤーは峡谷や土石流の写真を撮影し、帯水層と同様の液体の水が流れる水源が火星の地表または地表近くに存在する可能性を示唆した。2001マーズ・オデッセイは、火星の南緯60度以南の南極地方の地下約3メートル以内の表土には大量の水の氷が堆積していることを明らかにした。
2003年、欧州宇宙機関(ESA)はマーズ・エクスプレス・オービタと着陸機ビーグル2からなるマーズ・エクスプレス探査機を打ち上げた。マーズ・エクスプレス・オービタは火星の南極に水と二酸化炭素の氷が存在することを確認した。NASA はそれ以前に北極について、同様の氷が存在することを確認していた。ビーグル2との交信には失敗し、2004年2月初旬にビーグル2が失われたことが宣言された。
同じ2003年に NASA はスピリット(MER-A)、オポチュニティ(MER-B)と命名された2機のマーズ・エクスプロレーション・ローバーを打ち上げた。2機とも2004年1月に無事に着陸し、すべての探査目標を調査した。当初計画されたミッションは90日間だったが、ミッションは数回延長され、いくつかの機械的トラブルは起きたものの、2007年現在もなお科学的成果を地球に送り続けている。最大の科学的成果は、両方の着陸地点で過去のある時期に液体の水が存在した証拠を発見したことである。また、火星の地上で撮影された旋風(dust devil)が火星の地表を動いていく様子がスピリットによって検出された。この旋風はマーズ・パスファインダーで初めて撮影されていた。
2012年にマーズ・サイエンス・ラボラトリーが火星に到着し、キュリオシティー着陸の過程を撮影した720p10fpsの高精細な動画が地球に送られた。キュリオシティーには、過去火星に投入された探査機の中では最高の解像度(1600×1200)のカメラが搭載されており、次々に高精細なパノラマ画像が送られている。
2018年には、インサイトがエリシウム平原に着陸。搭載した地震計により、最初の15か月間の観測だけでも火星の地震(火震)活動を数百回観測。地球や月と同レベルの「生きた天体」であることが確認された[37]。
ヴェルナー・フォン・ブラウンをはじめ、多くの人々が有人月探査の次のステップは、有人火星探査であると考えてきた。有人探査の賛同者は、人間は無人探査機よりも幾分優れており、有人探査を進めるべきだと主張している。
アメリカ合衆国のブッシュ大統領(父)は1989年に月および火星の有人探査構想を明らかにしたが、多額の予算を必要とするために断念された。また、ブッシュ大統領(息子)も2004年1月14日に「宇宙探査の将来」と題した新たな計画を発表した。これによると、アメリカは2015年までにもう一度月に有人探査機を送り、その後有人での火星探査の可能性を探ることとなっていた(コンステレーション計画)。また、ロシアも将来的に有人火星探査を行うことを予定しており、技術的・経済的に判断して2025年までには実現可能であるとしている。さらにESAも、2030年までに人間を火星に送る「オーロラ・プログラム」と呼ばれる長期計画を持っている。
特にネックとなるのは、火星への往復と滞在期間の合計で1年強から3年弱という、月探査とは比較にならない長期間のミッションであることと、運ばなければならない物資の量である。このため、火星の大気から帰還用燃料を製造する無人工場を先行して送り込み、有人宇宙船は往路分のみの燃料で火星に到達し、探査後に無人工場で製造されていた燃料で帰還するというプラン「マーズ・ダイレクト」なども提案されている。
2010年、オバマ大統領はコンステレーション計画の中止を表明したが、同時に予算を新型のロケットエンジン開発などの将来性の高い新技術開発に振り向けるとしており、より短期間で火星に到達できる航行手段が実用化されることが期待される。また、同計画の代わりにオバマ大統領は、2030年代半ばを目標にした新たな有人火星探査計画も発表している。
火星探査は近年根強く実施されているが、前述のように探査計画の約3分の1が失敗に終わるうえに、莫大な予算がかかるとして批判する声も大きい。「火星に水がかつてあった。それがどうした。我々の生活に関係あるのか?予算を地球のために使うべきだ」というようなものである。実際には(アメリカ合衆国を例に取れば)国防費の20分の1以下のNASAの予算の、さらにごく一部が火星探査に割り当てられているに過ぎないのだが、こうした声を無視することもできず、探査計画の低コスト化が進められている。
16世紀デンマークの天文学者ティコ・ブラーエは、地球を中心に太陽(火星など惑星は太陽の周りを回る)が回る変則的な天動説をとっていたが、肉眼によるものではもっとも精密に火星の軌道を観測した。ティコ(慣習として姓でなく名を通称とする)の助手であったヨハネス・ケプラーは師の死後、観測データを解析することで惑星の軌道が円ではなく楕円であること、さらに火星の軌道からほかの惑星の軌道も楕円でありケプラーの法則に従うという地動説を主張した。公転速度が速く観測しやすい火星の軌道離心率が冥王星や水星に次いで大きい0.0934であったことも幸運であった。
1877年の火星大接近とスキアパレッリの発表に始まった火星運河説に重大な疑問を投げかけたのが、エッジワース・カイパーベルトの提唱者の1人であるカイパーである。1947年、火星を赤外線帯で観測し、大気の成分が二酸化炭素であると主張した。地球大気の重要な成分である窒素、酸素、水蒸気の痕跡は見当たらず、文明を持つ火星人の存在はほぼ否定された。
地球は780日(2年と7週間と1日)ごとに火星を追い越し、そのときの距離は約8000万キロ(約4光分)まで接近する。しかし、火星軌道が楕円であるために最接近時の距離は変化する。火星の近日点付近で接近すれば接近距離は5600万キロ程度となるが、遠日点付近で接近すれば1億キロ程度と2倍近く距離が異なる。肉眼で観測していると、火星は通常、ほかの星とはっきり異なる黄色あるいはオレンジ色や赤っぽい色に見え、軌道を公転するにつれて地球から見るほかのどの惑星よりも大きく明るさが変化する。これは、火星が地球からもっとも離れるときにはもっとも近づいたときの7倍以上も距離が離れるためである。なお、太陽と同じ方向にある合前後の数か月間は太陽の光で見えなくなることもある。もっとも観測に適した時期は32年ごとに2回、15年と17年をおいて交互にやってきて「大接近」と呼ばれる。この時期は常に7月終わりから9月終わりの間になる。この時期に火星を望遠鏡で見ると表面のさまざまな様子を詳細に見ることができる。低倍率でも見える特に目立つ特徴は極冠である。
2003年8月27日9時51分13秒(世界時)に火星は過去60,000年でもっとも近く、5,575万8,006キロまで地球に接近した(惑星光行差補正なしでの値)。この大接近は火星の近日点通過の3日後が火星の衝の翌日と重なったために生じたもので、地球から火星を特に見やすくなった。これ以前にもっとも近く接近したのは紀元前57617年9月12日と計算されている[38]。太陽系の重力計算の詳細な解析から、2287年には2003年よりも近い接近が起こると計算されている。しかし正確に見ていくと、この記録的な大接近は284年ごとに4回起きている別の大接近よりもごくわずかに近いだけであることが分かる。たとえば、2003年8月27日の最接近距離が0.37271auであるのに対して1924年8月22日の最接近距離は0.37284auであり、2208年8月24日の接近は0.37278auである。
2084年11月10日には火星から見て地球の太陽面通過が起こる。このときには太陽と地球、火星が一直線上に並ぶ。同様に火星から見た水星や金星の太陽面通過も起こる。火星の衛星であるダイモスは火星から見た角直径が太陽のそれより充分に小さいため、ダイモスによる部分日食も太陽面通過とみなせる。
1590年10月13日には過去唯一の金星による火星食が起こり[39]、ドイツのハイデルベルクでメストリンによって観測された。
地球上で発見されたもののうち、確実に隕石であり、かつ火星に起源を持つと思われる岩石がいくつか知られている。これらの隕石のうち2つからは古代の細菌の活動の痕跡かもしれない特徴が見つかっている。1996年8月6日、NASAは火星起源と考えられている「ALH84001」隕石の分析から、単細胞生命体の化石の可能性がある特徴が発見されたと発表した。しかしこの解釈にはいまだに議論の余地がある。
『Solar System Research』2004年3月号(38, p.97)に掲載された論文では、イエメンで発見されたカイドゥン隕石が火星の衛星フォボスに起源を持つ可能性があると示唆している。
2004年4月14日にNASAは、オポチュニティによって調査された"Bounce"という名前の岩石が、1979年に南極で発見された隕石「EETA79001-B」と似た組成を持っていることを明らかにした[40]。この岩石はこの隕石と同じクレーターから飛散したか、あるいは火星表面の同じ地域にある別々のクレーターから飛ばされた可能性がある。
2005年7月29日、BBCは火星の北極地方のクレーターで氷の湖が発見されたと報じた[41]。ESAのマーズ・エクスプレス探査機に搭載された高解像度ステレオカメラで撮影されたこのクレーターの画像には、北緯70.5度、東経103度に位置し、火星北極域の大半を占めるボレアリス平野にある無名のクレーターの底に平らな氷が広がっている様子がはっきりと写っている。このクレーターは直径35キロ、深さ約2キロである。
BBCの報道ではやや誇張されているが、もともとのESAの発表ではこれが湖であるとは主張していない[42]。火星の数多くのほかの場所に見られるものと同様に、この円板状の氷は暗く低温の砂丘の頂上(高度約200メートル)に薄い層状の霜が凝結してクレーターの底に広がったものである。報じられたこの氷が特に珍しいのは、霜のいくらかが1年中残りうるほどこの場所が高緯度にあるという点だけである。赤道付近は日中20℃を越すこともあり、高緯度でなければ氷は存在できない[注 1]。また、液体の水も、火星の大気は希薄、すなわち大気中の水蒸気圧が小さいため、火星表面のほとんどの地域ではすぐ蒸発してしまうため存在できない。液体の水が存在できるのはヘラス盆地など限られた場所のみである。
かつての火星は現在よりも確実に生命に適した環境だったという証拠は存在するが、実際に生命がいたかどうかについては確定できていない。
火星の名称(Mars/マーズ)は、ローマ神話の神マルス(ギリシア神話の軍神アレース)から名付けられた。メソポタミアの民は赤い惑星に戦火と血を連想して彼らの戦神ネルガルの名を冠して以来、火星には各々の地でその地の戦神の名がつけられている(ほかの惑星名についてもほぼ同様の継承が認められる)。
火星は五行説に基づく呼び名であり(五行説は東洋医学の基礎理論でもある)、学問上(天文史料)では
火星がさそり座のアンタレス(黄道の近くに位置しているため)付近にとどまること(地球から観測する場合、火星は順行から逆行に切り替える数日間、天球上の同じ場所に止まるように見える)を熒惑守心(熒惑心を守る)といい、不吉の前兆とされた。「心」とは、アンタレスが所属する星官(中国の星座)心宿のこと[44]。
火星は七曜・九曜のひとつで、10大天体のひとつである。西洋占星術では白羊宮(おひつじ座)の守護惑星で、天蠍宮(さそり座)の副守護惑星であり、凶星(マレフィック)である。男性的なエネルギーを表し、ひとつの星座に約2ヶ月弱ほど滞在するため、毎月の健康運や恋愛運、勝負のタイミングなどを占う際に重要なヒントを与えてくれるとされ、象徴するキーワードは「肉体的な活力やエネルギー」「情熱」「挑戦」「勝利」「冒険」「リーダーシップ」「攻撃性」「征服欲」「短期」「暴力的」「障害やトラブル」「緊張」などで、象徴する人物は「若い男性」「運動選手(アスリート)」「軍人」「体を使う職業の人」などがある[45][46]。
火星の惑星記号はマルスを象徴する盾と槍を図案化したものが、占星術・天文学を通して用いられる。これを雌雄の表記に転用したのはカール・フォン・リンネであり、生殖器の図案ではない。
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