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プレートテクトニクス(英: plate tectonics)は、1960年代後半以降に発展した地球科学の学説。地球の表面が、右図に示したような何枚かの固い岩盤(「プレート」と呼ぶ)で構成されており、このプレートが互いに動くことで大陸移動などが引き起こされると説明するもの。従来の大陸移動説・マントル対流説・海洋底拡大説などを基礎として、「プレート」という概念を用いることでさらに体系化した理論で、地球科学に一大転換をもたらした[1]。プレート理論とも呼ばれる。
なぜ、太陽系の天体で地球にのみプレートテクトニクスがみられるのか?プレート運動はどのようにして始まったのか? |
地球は、半径約6,400キロメートルであるが、その内部構造を物質的に分類すると、外から順に下記のようになる[2]。
地殻とマントルは岩石で構成されており、核は金属質である。マントルを構成する岩石は、地震波に対しては固体として振舞うが、長い時間単位で見れば流動性を有する。その流動性は、深さによって著しく変化し、上部マントルの最上部(深さ約100キロメートルまで)は固くてほとんど流れず、約100 - 400キロメートルまでの間は比較的流動性がある。地殻と上部マントル上端の固い部分を合わせてリソスフェア(岩石圏)と呼び、その下の流動性のある部分をアセノスフェア(岩流圏)と呼んで分類する。この厚さ約100キロメートルの固いリソスフェアが地表を覆っているわけであるが、リソスフェアはいくつかの「プレート」という巨大な板に分かれている[2]。
地球表面が2種類のプレート群からなっていることは、地球表面の高度や深度の分布の割合にもあらわれている。地球表面は、大陸と大陸棚からなる高度1,500メートル - 深度500メートルの部分と、深度2,000 - 6,000メートルの海洋底と呼ばれる部分が多く、その中間である深度500 - 2,000メートルの海底は割合が少なくなっている。
プレートは大きく見ると十数枚に分けることができ、それぞれ固有の方向へ年に数センチメートルの速さで動かされることになる。大型のプレートとしては、ユーラシア大陸主要部や西日本などを含むユーラシアプレート、北アメリカ大陸やグリーンランド、東日本などの北アメリカプレート、太平洋底の大部分を占める太平洋プレート、インドとオーストラリア大陸を乗せたインド・オーストラリアプレート、アフリカ大陸を中心とするアフリカプレート、南アメリカ大陸を乗せた南アメリカプレート、南極大陸と周辺海域を含む南極プレートがある。このほか、アラビア半島のアラビアプレートやアメリカ・カリフォルニア沖にあるファンデフカプレート、中米の太平洋側に存在するココスプレート、カリブ海のカリブプレート、ペルー沖のナスカプレート、フィリピン海を中心に伊豆諸島・小笠原諸島・伊豆半島付近まで伸びるフィリピン海プレート、南米大陸と南極海の間のスコシア海に広がるスコシアプレートなどのような小規模なプレートもいくつか存在する。
プレートは大陸部分と海洋部分の双方を持っていることが多いが、大陸部分や海洋部分がそれぞれ大部分を占めているプレートも存在する[3]。異なるプレートの海洋部分と大陸部分が衝突した場合、主に花崗岩からなる比重の軽い大陸部分が浮き上がり、主に玄武岩からなる比重の重い海洋部分が沈み込むこととなる[4]。プレートの起源は古く、少なくとも38億年前には現在のようなプレートが存在していたと考えられている[5]。プレートの移動に伴い各地に造山帯が成立し、これによって成立した小地塊が衝突して徐々に拡大していき、やがて大陸規模の陸地が各地に出現した[6]。
プレートは海嶺で生まれ、ゆっくりとベルトコンベアのように動いて海溝へ沈み込む。大陸はプレートの動きに伴い離合集散を繰り返しており、しばしば地球上のすべての大陸が統合された超大陸が出現した。ツゾー・ウィルソンは、この大陸の離合集散がおよそ3億年ごとに一つのサイクルをなしていることを提唱し、これはウィルソンサイクルと呼ばれるようになった[7]。
プレートが動く原因には、プレートが自らの重みで海溝に沈み込む説と、下のマントルの動きに合わせてプレートも動いていくという説の、2つの説が存在する。従来は前者の説が有力説であった[8]が、2014年に日本の海洋研究開発機構の調査によって、北海道南東沖でマントルの動きに伴って地殻の動いた痕跡が発見され、後者の説にも有力な根拠が生じた[9]。
プレートは新たに生まれることがあるほか、古いプレートは海溝の下に沈み込んで消滅することがある。一例として、かつて北西太平洋に存在したイザナギプレートは、約2500万年前に消滅している[9]。プレート内部、特にマントルの部分をそのまま観察することは不可能であるが、かつての海洋プレートの残骸であるオフィオライトは世界各地に存在しており、ここから観察をすることが可能である。なかでもオマーン北部のハジャル山地には世界最大のオフィオライト層が広がっており、盛んに調査が行われている[10]。
プレートテクトニクスは地球内部の温度低下によっていずれ確実に終了するとされているものの、その時期についてはさまざまな説が存在する[11]。
プレートは、その下にあるアセノスフェアの動きに乗って、おのおの固有な運動を行っている。アセノスフェアを含むマントルは、定常的に対流しており、一定の場所で上昇・移動・沈降している。プレートは、その動きに乗って移動しているが、プレート境界部では、造山運動、火山、断層、地震等の種々の地殻変動が発生している。プレートテクトニクスは、これらの現象に明確な説明を与えた[12]。
大局的なプレートの運動は、すべて簡単な球面上の幾何学によって表される。また、局地的なプレート運動は平面上の幾何学でも十分に説明しうる。3つのプレートが集合する点(三重会合点)は、それらを形成するプレート境界の種類(発散型・収束型・トランスフォーム型)によって16種類に分類されるが、いずれも初等幾何学で、その安定性や移動速度・方向を完全に記述することができる。
一般に、プレートの運動は、隣接する2プレート間での相対運動でしか表されない。しかし、隣接するプレートの相対運動を次々と求めることで、地球上の任意の2プレート間の相対運動を記述することができる。近年では、準星の観測を応用した超長基線電波干渉法 (VLBI) と呼ばれる方法や、グローバル・ポジショニング・システム (GPS) などの「全地球衛星測位航法システム、(GNSS:Global Navigation Satellite System)」によって、プレートの絶対運動を直接観測することが可能となった[13]。
マントルの上昇部に相当し、上の冒頭図では太平洋東部や大西洋中央を南北に走る境界線に相当する。この境界部は、毎年数cmずつ東西に拡大している。開いた割れ目には、地下から玄武岩質マグマが供給され、新しく地殻が作られている。この部分は、海洋底からかなり盛り上がっており、海嶺と呼ばれている[14]。海嶺の拡大速度はそれぞれ異なり、拡大速度の遅い海嶺の中心部は深い渓谷をなしている[15]。また、海嶺付近にはチムニーと呼ばれる熱水の噴出口も多数見つかっている[16]。
発散型境界はほとんどが深海底に存在するが、まれに陸上にも存在するものもある。アイスランドは大西洋中央海嶺が海面上に姿を現した部分であり、活発な火山活動が起きている[17]。また、アフリカ東部にある大地溝帯は中軸部の深い渓谷と周辺の高山の列からなっており、大西洋中央海嶺と地形が類似していて[18]、ホット・プルームによってアフリカプレートが引き裂かれつつある部分と考えられている[19]。
収束型境界ではプレートどうしが衝突し圧縮されるが、衝突するプレートの特性によって起きる現象が異なる。ただしどちらの境界においても造山運動が起き、造山帯を形成している[20]。
すれ違う境界同士の間では、明瞭な横ずれ断層(トランスフォーム断層)が形成される。アメリカ西部のサンアンドレアス断層や、トルコの北アナトリア断層などが有名で、非常に活発に活動している。サンアンドレアス断層は大陸上にあるが、一連の海嶺の列(大西洋中央海嶺や東太平洋海嶺など)の間で、個々の海嶺と海嶺をつなぐものが多数を占める[38]。理論上は、2プレート間の相対運動軸を通る大円に直交し、海嶺とも直交する[39]。また、トランスフォーム型境界においても巨大な地震が発生しやすい[39]。
1912年に、ドイツのアルフレート・ヴェーゲナーが提唱した大陸移動説は、かつて地球上にはパンゲア大陸と呼ばれる一つの超大陸のみが存在し、これが中生代末より分離・移動し、現在のような大陸の分布になったとするものである。その証拠として、大西洋をはさんだ北アメリカ大陸・南アメリカ大陸とヨーロッパ・アフリカ大陸の海岸線が相似である上、両岸で発掘された古生物の化石も一致することなどから、元は一つの大陸であったとする仮説であった[40]。それまで古生物学の通説は、古生代までアフリカ大陸と南アメリカ大陸との間には狭い陸地が存在するとした陸橋説であったが、これをヴェーゲナーはアイソスタシー理論によって否定した[41]。
古生物や地質、氷河分布などさまざまな証拠のあった大陸移動説であるが、当時の人には、大陸が動くこと自体が考えられないことであり、さらにヴェーゲナーの大陸移動説では、大陸が移動する原動力を地球の自転による遠心力と潮汐力に求め、その結果、赤道方向と西方へ動くものとしていたが[42]、この説明には無理があったため激しい攻撃を受け、ヴェーゲナーが生存している間は注目される説ではなかった[43]。
一方、アレクサンダー・デュ・トワやアーサー・ホームズのように大陸移動説を支持する学者も少数ながら存在し、なかでも1944年にアーサー・ホームズが発表したマントル対流説は、大陸移動の原動力を地球内部の熱対流に求めることを可能とした[44]。1950年代に入ると古地磁気学分野での研究が進展し、各大陸の岩石に残る古地磁気を比較することで磁北移動の軌跡が導き出されたが、その軌跡は大陸ごとに異なっていた。しかし大陸が移動すると考えることで合理的な説明が可能となり、ここに大陸移動説は復活した[45]。
同時期、海洋底の研究が進む中で、1961年から1962年にかけてハリー・ハモンド・ヘスやロバート・ディーツが海洋底拡大説を唱え、海洋地殻は海嶺で生み出され海溝で消滅すると唱えた[46]。海嶺周辺の地磁気の調査によって数万年毎に発生する地磁気の逆転現象が、海嶺の左右で全く対称に記録されていることは知られていたが、1963年にフレデリック・ヴァインとドラモンド・マシューズによってテープレコーダーモデルとして理論化され[47]、海嶺を中心として地殻が新しく生産されている証拠とされた[48]。さらに1965年には、ツゾー・ウィルソンによってトランスフォーム断層の概念が提唱された[49]。
こうして前提となる理論が出そろったところで、地震の発生がほぼ海嶺や海溝、トランスフォーム断層に限られていることが発見され、さらに地震のほぼ起きない安定した部分を取り巻くように地震発生地域が存在することが明らかとなった。この安定岩盤はプレートと呼ばれ、これがそれぞれ移動していることが発見されたことで、ツゾー・ウィルソンやダン・マッケンジー、ウィリアム・ジェイソン・モーガン、グザヴィエ・ル・ピションといった複数の学者によって1968年にプレートテクトニクス理論が完成した[50][51]。
プレートテクトニクスの概念は西側諸国では速やかに普及し、1970年までにはおおむね受け入れられ地学にパラダイムシフトを起こした。一方で東側諸国は、理論構築に大きくかかわったのが北米や西欧といった西側であったため、この理論を帝国主義的思想として受け止め、完全に受け入れられるのはソ連が崩壊する90年代まで要した。日本では、1973年から高校の地学の教科書でプレートテクトニクスが導入された[注釈 1]ことや、同年のベストセラーである小松左京の『日本沈没』でプレートテクトニクスが用いられていることもあり、一般社会に普及した[52]。日本の地質学界ではマルクス主義思想が強かったことや、ソ連が推す地向斜造山論に傾倒していたことなども重なり、センメルヴェイス反射状の反応を起こし、学会で受け入れられるまでには一般社会で普及してから10年以上を要した[53]。
岩石を主体とする地球型惑星や一部の衛星には内部が高熱となっているものが存在し、火山が存在するものもあるが、プレートテクトニクスの存在は確認されておらず、現在判明している中では地球がプレートテクトニクスの存在する唯一の天体となっている[54]。例えば火星にはかつて火山活動が存在したものの、プレート移動が起きなかったため火山がホットスポット上から移動せず、噴出した溶岩が同じ場所に堆積し続けた[55]。このため火星のオリンポス山は標高27kmにも達する太陽系最大の火山となっているほか、ほかにもアルシア山(標高19km)やアスクレウス山(標高18km)、パボニス山(標高14km)といった巨大火山が点在する[56]。金星にもプレートテクトニクスによって発生する地形上の特徴は見られず、プレートテクトニクスは存在しないと考えられている[57]。金星は92気圧の濃い大気により地形が激しく風化するが、それでも標高11kmのマクスウェル山が存在する。
なお、2014年には木星の衛星であるエウロパにおいて、画像の精査により氷地殻の沈み込み帯と思われる地形が発見され、プレートテクトニクスが存在する可能性があるとの論文が発表されている。この場合、エウロパの地殻を構成する氷が地球における岩石と同様の動きを示し、内部のより高温の氷の上に乗った地表の氷地殻が沈み込みを起こすと推測されている[58]。
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