Loading AI tools
ウィキペディアから
『ナラタージュ』は、島本理生による日本の恋愛小説。2017年秋、映画作品が公開された[1]。
ナラタージュ Narratage | ||
---|---|---|
著者 | 島本理生 | |
イラスト | 片岡忠彦 | |
発行日 | 2005年2月28日 | |
発行元 | 角川書店 | |
ジャンル | 恋愛小説 | |
国 | 日本 | |
形態 | 単行本 | |
ページ数 | 373 | |
公式サイト | ナラタージュ: 文庫: 島本理生 | |
コード |
ISBN 978-4048735902 ISBN 978-4043885015(文庫本) | |
ウィキポータル 文学 | ||
|
島本にとって初めて文芸誌などでの発表を介さない書き下ろしの作品発表(単行本発行)であった。2005年2月28日に単行本が発行されると、「この恋愛小説がすごい! 2006年版」(宝島社)第1位[2]「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、2006年の本屋大賞で第6位[3]に選出されるなど注目を集めた。
第十八回山本周五郎賞候補[4]。2016年7月時点で累計40万部のセールスを記録しており[5]、島本が個人のTwitterでファンに好きな作品をアンケートした所、ダントツの1位となるなど名実ともに島本を代表する作品として知られている[6]。
2005年当時『ViVi』に連載されていた島本のエッセイによると、原稿用紙換算で700枚強になる長編に仕上がり読者か最後まで読んでくれるかたいそう不安だったと語っている[7]。同エッセイが『CHICAライフ』として単行本化された際の書き下ろし部分では、この作品の執筆当時は大学に通っていたが、執筆に入れ込み、時間を執筆のために費やして、その後も仕事を優先したため、大学を4年で卒業できる見込みがなくなったため大学を中退したと語っている[8]。
島本は2006年の『WEB本の雑誌』のインタビューで本作のタイトルの由来、本作が回想劇であることについては「主人公は今を生きているけれど、同時に、過ぎた過去をいつも現在に重ねているところがある。そのときにちょうど映画用語でナラタージュ[注釈 1]という言葉を見つけて」とのことで、この言葉と意味が作品名と物語の描き方にほぼそのまま取り入れられたと回答している[9]。
また、2015年の『本の話WEB』のインタビューでは「(本作)1年くらいかけて書きました」[10]と答えてそれまでの自身の作品のとは異なる長い時間をかけて執筆したと話しており、また「本当に恋愛小説のつもりで書きました」と回答し、自身の作品で初めてストレートな恋愛小説を書いたとも話している[11]。
2007年に『野性時代』で島本の特集記事が企画され刊行済み(2007年時点での単行本上梓分)の自書を解説をした際には「2人の出会い、雨の日の廊下ですれ違う、という場面を思った時、単純だけどじゃあ先生だろう、と」と思い、まず先生と生徒の恋愛物語というプロットが決まったと話している[12]。また作中の柚子の設定については「柚子ちゃんの悲しい事件は、当初から決めていました。(中略)あのエピソードだけは書き残した感があり、次回作以降の重要なテーマとなっていきます」と記し、島本の以降の作品(『大きな熊が来る前に、おやすみ。』など)で性と暴力というテーマに取りかかって行くひとつのきっかけになったとも発言している[12]。
2010年に文芸誌『文藝』にて島本の特集記事が企画された際に収録されたインタビューでは、「(『生まれる森』が)芥川賞をとれなくて、『私ももっとちゃんと腰を据えて書かなければ』と思い取り組んだ作品(が本作)」と答えている[13]。また、原稿の枚数については特に規定はなく、前半の300枚ほど書き上げた段階で島本の方から「これまだ全然終わりません」と担当編集者に告げた所、「好きなだけ書いてください」と回答されたとのことで、最終的に原稿量換算で740枚ほど書き提出したとのこと。そして「本作を書いていったん空っぽになってしまった」とのことで、しばらくは次の作品に取り組むことができなかったという。なお余談であるが本作の執筆に集中し過ぎて腱鞘炎になったとも話している[13]。
また、山本周五郎賞の候補になったことについては内心「今回はいけるかも」と思い自信があったそうであるが(後述の#評価の項で引用した選評文なども参照されたいが)落選し、その各委員の選評文を読み「大衆小説(エンターテイメント小説)として求められるものがこれまで(純文学)とはまったく異なるということに気づいた」と語っており、以降の作品執筆に(特にエンターテイメント小説を執筆していくことに)向けて「修行をしなきゃ」と思ったとのことである[13]。
主人公工藤泉は、職場で出会った男性との結婚を控えていたが、彼女の心の中には今でもとある恋の思い出が残っていた。そんな彼女を丸ごと受け入れてくれた婚約者と新居を見に行った帰り道、一人の男性と過ごした学生時代を回想する。
大学二年生となった泉の元に、高校時代の部活の顧問である葉山貴司から突然電話がかかってきた。葉山の話によると、演劇部の部員が減少して公演を行うことが難しくなってしまったため、三年生の引退公演を手伝ってくれそうなOB(OG)を探しており、思い当たる面々に連絡してみたのだという。後日、泉と、高校の同級生の黒川博文と山田志緒、そして黒川の大学の友人である小野玲二が協力することになった。週に一度、高校で稽古をすることが決まり、泉は再び葉山と関われる喜びに戸惑いながらも次第に距離を詰めていく。
泉は高校三年生の時クラスメイトから陰湿ないじめを受けており、唯一庇ってくれた葉山は恩師であり、同時に強く心惹かれた男性でもあった。新任教師だった葉山は学校に居場所のない泉を心配し自身が顧問を務める演劇部に誘っており、本やDVDを貸し借りするなどかなり打ち解けていた。彼は以前結婚しており、自身の母親と元妻の関係悪化が原因で離婚していた。彼にとっても泉の存在は心の拠り所で、卒業式の日にキスをするがその後音沙汰は無く、交際に発展することはなかった。
稽古が進んだある日、泉は小野から交際を申し込まれるが、未だに葉山への想いを断ち切れていないことに気づき、告白を断る。不完全燃焼だった高校時代の気持ちに火がつき葉山への想いは深まっていくが、彼は妻とは離婚しておらず長らく別居中で、籍を入れたままにしていることを知り激しいショックを受けオーバードースをしてしまう。心と身体のバランスを崩した泉は、葉山との接触を断つ。
演劇部の公演を終えた後、泉は小野から実家に来ないかと誘われ、田舎で久しぶりに心休まるひと時を過ごす。別れ際にあらためて交際を申し込まれ、安らぎと安心を与えてくれる小野に惹かれていた泉は彼からの告白を受け入れた。周りから見ても兄妹のように雰囲気の似ている二人の交際は順調に進み、高校時代から葉山への想いに気づいていた志緒からも祝福される。
しかし、泉の気持ちを知りつつ交際を申し込んだ小野だったが次第に葉山への嫉妬が抑えられなくなり、泉の手帳を盗み見するなど葉山との仲を疑うようになる。そして二人の関係は、小野による強引な性交渉の強要により徐々に破綻していく。そんな中、演劇部の後輩である塚本柚子が歩道橋から飛び降り自殺を図ったとの連絡が来る。すぐさま泉は小野と共に病院に駆けつけるが、葉山と鉢合わせしてしまい気まずい空気が流れる。病院を後にした後、泉は小野に別れを切り出す。別れを了承しようとしない彼からは激しく責められるが、泉の心は決まっていた。
小野と別れた泉は葉山の元に戻り、柚子の自殺を止められなかったと苦しむ彼に寄り添う。葉山は、泉のことを大事に思っており好きだと告白するも、別居中だった妻とやり直すことに決めたと話す。葉山の告白を受けた泉は、最後に彼と極限まで愛し合うも心の奥底で違和感を感じ、私を壊せないのなら二度と姿を見せずどこか遠くで幸せになってほしいと懇願する。葉山は泉の気持ちを受け入れ、お互い全く知らない場所で幸せになることを約束して別れた。
大学卒業後、会社に就職した泉は仕事を通じて葉山の友人に出会う。彼は泉の顔に見覚えがあると言い、数年前に葉山が語ったある想いを伝える。
第18回(平成16年/2004年度)山本周五郎賞の選評で以下のような評価を受けた[34][35]。以下は『小説新潮』掲載の選評からの引用である。
行定勲が監督を勤める映画作品が2017年10月7日に公開された。主演は、松本潤と有村架純[1]。制作の背景には、監督の行定勲の念願がかない制作が決定したとのことである[37]。全国289スクリーンで公開され[38]、映画の興行収入は12億8000万円を記録[36]。
原作出版からほどなくの頃より監督の行定勲は映画化の構想を練っていたというが[39]、原作者である島本の「映画化はすごくしてほしかったけれど、ベストな形がいいので無理に決めなくていいと思っていた」という意見と[39]、葉山貴司のイメージに合う俳優がなかなか見つからなかったことが背景にあり[40]、映画化は難航していた。しかし、ある時プロデューサーを勤める小川真司が行定に「葉山役に松本潤はどうか?」と提案したことから行定は松本を葉山役にすることを検討し、長年の懸念材料だった葉山役に収まる人物が決まり話が進んで行ったとのこと[40]。
行定と松本潤が『ぴあ』の増刊号で対談した際には、行定は葉山と泉の「どうしようもなく断ち切れない関係」に成瀬巳喜男の『浮雲』とのつながりを感じたとも述べている[41]、なお『浮雲』は本作(映画版)の中にも登場する[42]。
2017年の『小説 野性時代』に掲載の松本潤と島本の対談において松本は、葉山という人物を演じるにあたり「『(ヒロインである)泉の回想の物語』だと解釈していた」、「泉にとってどう見えているかが大切だと思っていました」と答え[43]、あくまでも泉の視線から葉山という人物がどう見えているかが重要である事を意識して葉山役を演じたと回答している[43]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.