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フグ目フグ科の魚 ウィキペディアから
アベニー・パファー(学名: Carinotetraodon travancoricus, 英語: Dwarf pufferfish)は、フグ目フグ科に属する魚。インド南西部、ケララ州およびカルナータカ州原産である。明るい色と小さな体つきからアクアリウムで人気である。全長は最大でも 3.5 cm ほどであり、世界最小級のフグである。近縁種のマラバールフグ(学名: Carinotetraodon imitator)と酷似しており、見分けるのは困難である。C. imitator は1999年まで同種とされてきた。
アベニー・パファー | ||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||
VULNERABLE (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Carinotetraodon travancoricus (Hora & K.K. Nair, 1941)[2] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム[1][2] | ||||||||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||||||||
Dwarf pufferfish |
アベニーパファーは植生の生い茂る水路の底近くに棲み、小動物を捕食する。他のフグとは異なり、野生化で大きな群れを形成する。1年のほとんどの時期で繁殖し、1-4日を置いて1-5個の卵を産卵する。生息地破壊やアクアリウム目的での乱獲によって野生個体は危機に瀕している。
アベニーパファーは1941年、スンデル・ラール・ホラおよび K.K. Nair によって Tetraodon (Monotretus) travancoricus として、「トラヴァンコール中部・パンバ川」をタイプ生息地として記載された[3][4][2]。括弧で括られた Monotretus は Tetraodon の亜属であると示している。1978年に J.C. Tyler がソンポンフグに関する論文で有効な属として扱い、1993年の M. Kottelat et al. や1995年の K.K.P. Lim and M. Kottelat が同様の立場を取るまで Carinotetraodon は Tetraodon のシノニムとして扱われてきた[4]。Carinotetraodon travancoricus は1999年に R. Britz と M. Kottelat によって近縁種マラバールフグ(かつて誤ってアベニーパファーの同種とされてきた)を独立種として分類し直す際に初めて用いられた。Carinotetraodon はラテン語で殻を表す「carina」、ギリシア語で4を表す「tetra」および歯を意味する「odous」から取られた[5]。Carinotetraodon 属への移動は主に骨学的根拠に基づいており、同属他種で認められていた尾柄の存在を根拠としていなかったが、尾柄は1年後に当種にも存在することが報告されている[6] 。具体的には同属他種と同様の椎骨修飾および総椎骨数の減少が見られるほか、小型化や性的二形などの特徴も共通している[4]。
下に示すクラドグラムは分子的根拠に基づくもので、Carinotetraodon 属の多系統性を示す[7][8]。多系統属に属す種どうしはある特徴を共有しているものの、必ずしも共通祖先を有する訳ではなく、その分類は実証的な証拠ではなく、共通の特徴に基づいている。"Carinotetraodon" は多系統群であることを示すための引用符で括られている。淡水棲種は「FW」と示されている[7][8]。下のクラドグラムはミトコンドリアゲノムの解析が未完了の C. imitator などの情報を欠いており、不完全なものとなっている。
フグ科 Tetraodontidae |
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最大記録は全長3.5 cm (1.4 in) で[9]、平均的な個体は全長2.5 cm (0.98 in) 未満であり[5]、フグの中でも最小級である[8][10]。雌雄ともに黄緑色で、暗い緑色から黒茶色の暈色模様が脇腹から背中にかけて存在する。模様パターンと色調は個体によって異なる。胸鰭は短く扇形であり、先端がわずかにへこんでいる。背鰭・臀鰭は後方に向かって向かい合わせにあり、どちらも短く丸い。尾鰭は他の鰭より大きく、末端に垂直状の縁がある。体は楕円形である[2][11]。成魚には同属他種と同様に性的二形がみられ、雄の体色は雌より明るく[10]、腹面が黄色くなる[12]。雄はまた淡い腹の中央に暗い縞模様があり、雌にはない虹色の青い「目のしわ」模様を持つ場合もある。雌は雄よりも丸みを帯び、大きくなりがちであり、大きな黒い模様の間に小さな斑点をもちうる。腹部は白く、喉に黄色い斑点がしばしば存在する[12]。
すべてのフグは大量の水(あるいは必要な時は空気)を高度に柔軟な胃へ吸い込むことで体を急速に膨らませることができる[13][14]。膨らみ状態の負荷は大きく、捕食されるリスクの増加を招く[14]。鱗を欠く他のフグと同様、アベニーパファーは体表のほとんどに針毛を持つ[4][6][15]。針毛は体を膨らませる際に起立する。これらの特徴は飲み込まれたり、かまれたりするのを防ぐ捕食回避である。このような特徴はフグの遊泳速度が遅さを補うために進化したと考えられる[13]。
多くの淡水フグは特定種の藍藻を捕食し、器官内にサキシトキシンを蓄えるが、アベニーパファーがこの種の神経毒を有するかについての研究は未だ発表されていない[12]。
マラバールフグ(学名: Carinotetraodon imitator)はアベニーパファーの近縁種であり、サイズ、体型、模様や色合いが酷似している。両種ともに同じ地域に生息しており、同所性の可能性があり同一水系に生息しているかもしれない。1999年まで C. imitator はアベニーパファーと同種だと誤って見なされており、両種ともにアクアリウムで見られ、国際的に広く商業取引されており、dwarf pufferfish の名称で販売されてきた。マラバールフグは同属他種のアベニーパファーと比較してより小さく、かすかな斑点があり、針毛も少ない。オスのアベニーパファーはより暗い黄色の色合いをしており、またオスのマラバールフグにはない暈色の皺を目に持つことで区別される[4]。
海棲フグと近縁にもかかわらず海水域には生息しておらず、海での発見報告は誤定に基づくものである[17]。アベニーパファーはフグ科のうち27種しかない既知淡水フグの1種である[18]。河川回遊種であり[19]、淡水水系内を回遊する[20]。南インド・西ガーツ山脈のケララ州およびカルナータカ州南部の河川、湖及び三角江原産で[21][1][22][3]、pH7.5から8.3、水温22–28 °C (72–82 °F) の水域に生息する[5]。植生の生い茂った、水底に岩石や砂利、あるいはシルトや砂を含むロームのある水域に生息し[21]、ケララ州にある13の河川[23]、ヴェンバナード湖などの湖[24] 、ニランブールの湊[22]、ネイヤール野生動物保護区のカラール川などに生息する[21]。バーラタプザ川[25]やニルギリ生物圏保存地域でもわずかに報告されている[26]。またプトゥッカードでは洪水後のレンガ工場で見つかったほか[27]、溝、池、灌漑水路や田の溜池や休耕田でも見られる。孤立した小水域の個体は水鳥によって非意図的に拡散したものと推測される[28]。
複数の学者によって絶滅の危機に瀕していると見なされているが、根拠は示されていない[29][30][31]。IUCN版レッドリストではダム建設、農業目的の無差別森林破壊、廃水による汚染、そして最大の要因としてアクアリウム取引での乱獲によって危急種に指定されている[1][23]。2010年には、2005年から2015年までの間で個体数が30–40%減少するとの推定が発表された一方で[1][29]、2005年から2010年までの間で既に同程度の減少が起きたとの推定も存在する[32]。
アベニーパファーは様々な動物を餌とする肉食動物である[33]。昆虫の幼虫を好むが、不足時には甲殻類や環形動物なども捕食する。餌は主にミジンコ類、輪形動物、カイアシ類、貝虫などの小動物や、トンボ、カメムシ目、カゲロウ、ハエ目の幼虫であり、それに加えて珪藻や緑藻など植物質の餌も摂る[21][33]。底生性の小動物を捕食する際に誤飲した砂やデトリタスも腸内から見つかる[21][33]。
飼育下では小型のスネール、エビや冷凍のムール貝や他のシェルフィッシュなどの餌を食べる。また、カのボウフラや他の野生化で餌となる小動物も捕食する[34]。アベニーパファーはしばしばハゴロモモ属と一緒に飼育され、実際に水草の存在下では死亡率が低下することが示されている[23]。
アベニーパファーは遊泳速度が遅い底魚である[28][5]。基本的に単独で過ごし、同種他個体に対ししばしば攻撃的な他のほとんどのフグと異なり[35]、アベニーパファーは大きな(しばしば何百個体からなる)群れを形成する[27]。群れは夏(1月から5月)にかけて主に見られ、雨季にはほとんど出現しない[27]。群れの中にいる個体を単独あるいは余りにも小規模な集団内に置くとストレスを感じたり体重の減少が見られる[36][37]。
野生下では、生殖腺が熟したオスは12月・1月を除き年中見られ、繁殖のピークは南西モンスーンの時期と重なる[38]。パンバ川では、集団の半数が性成熟を迎える最小の大きさは約1.83 cm (0.72 in) である。環境及び食性条件が個体の成熟速度に影響するかもしれない[38]。
繁殖期にはオスの背中側と腹部中央の皮膚の隆起が褐色になる。メスは腹が膨らみ、求愛中のオスは頻繁にメスを追いかけ、その腹をかじる。その後、メスは産卵に適した場所を探す一方でオスは他のオスを追い払う[18]。水槽内ではしばしばジャワモスなどの植物や、それに隠れている基盤に産卵する[39]。メスは平均して直径1.43 mm (0.056 in) の卵をおよそ1から5個ほど産む。卵は粘着性を持ち、透明で丸く、中に小さな油滴が多数ある。産卵後、オスが体外受精する[18]。産卵は夕方に見られ、産卵場所で休むメスにオスがゆっくりと近づく。産卵後、両親はその場を離れるが、オスはすぐに卵を保護しに戻る[18]。他のオスがひそかに受精する場合もある[18]。1から4日間隔で複数回産卵することがある[18]。
卵は水温27 °C (81 °F) で産卵5日後に孵化し、稚魚・仔魚は孵化後1週間ほどでインフゾリアやツボワムシ属(輪形動物)、冷凍アカムシやブラインシュリンプなどを食べるようになる[39][10]。孵化した仔魚は平均で全長3.15 mm (0.124 in) ほど、赤茶色の体に未発達の目を持つ。卵黄嚢は4日で消費され、6日目に泳ぎだし、その時点で目の発達が完了している[18]。
1941年に初記載された際、K. Nair は子供たちに人気で、捕まえられておもちゃにされていると述べている[2]。地元の漁師からは「カエルのオタマジャクシ」だと認識されており[27]、ほとんど意識されていなかった。食用にならず、水産業からの関心はなく[9]、もっぱら観賞魚としてのみ注目される[40][1]。その魅力的な色、小さな体つき、「子犬のような目つき」や飼育の容易さからアクアリウムで人気がある[10][33]。またアクアリウムの魚としては珍しく小型の生きたスネールを日常的に捕食することから、個体数抑制に役立つ[11]。
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