サキシトキシン

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サキシトキシン

サキシトキシン: SaxitoxinSTX)は、主にアレクサンドリウム属Alexandrium catenella など)の赤潮を形成する有毒渦鞭毛藻がつくる麻痺性物の一種。その藻類を食べることで、通常は毒を持たない貝類などが毒化することがある。また、水の華を形成するシアノバクテリア (Anabaena circinalis) や淡水性ラン藻 (Aphanizomenon flos-aquae) などが生産するシアノトキシンの一種である[1][2]

概要 サキシトキシン, 識別情報 ...
サキシトキシン
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識別情報
CAS登録番号 35523-89-8 
PubChem 37165
KEGG C13757
特性
化学式 C10H17N7O4
モル質量 299.29 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
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サキシトキシンは1962年北米産の二枚貝学名にちなみ命名され[3]1975年にSchantzら[4]、Rapoportら[5]によって、X線結晶構造解析により構造決定された。サキシトキシンには約30種の同族体が存在する。

主な保有生物

テトロドトキシンと共にフグ毒の成分のひとつ。フグのほか麻痺性貝毒の代表的な成分で主に二枚貝のムラサキイガイマガキアサリホタテガイなどの中腸腺に蓄積される事がある。また、房総半島以南の磯周りに普通に分布するオウギガニ科(スベスベマンジュウガニ)のカニは筋肉に蓄積することがある。パナマ産のヤドクガエルの一種 (Atelopus zeteki) も保有することが報告されている[6]

毒素除去に関する研究
サキシトキシン分解能力を有するエンテロバクター属の微生物菌体を含む餌を毒素保有貝に与え、除去する研究が行われている[7]

毒性

テトロドトキシンと同様に神経などのNa+チャネルを阻害し、舌や唇などの麻痺[8]、重度の場合には呼吸困難を引き起こし、最終的には呼吸麻痺で死に至る。有効な治療法は確立されていない。

生合成

サキシトキシンの生合成経路は複雑だが、その合成能力は海産の渦鞭毛藻、淡水産の藍藻という2つのドメインの生物に跨って存在している。かつて渦鞭毛藻は藍藻との相利共生によってサキシトキシンを獲得していると考えられていたが、渦鞭毛藻自体もサキシトキシンの合成に必要な遺伝子を有していることが示唆されている[9]

サキシトキシンの生合成経路は細菌による非テルペン系アルカロイドの合成経路として最初に知られたものであるが、正確な合成機構は未だ理論モデルの段階に留まっている。基質酵素に結合する正確な機構は未だ不明であり、関与する遺伝子も最近になって同定が始められたばかりである[9][10]。以下は、藍藻においてSTX遺伝子クラスター (sxt) の関与を想定した反応モデルである[10]

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生合成経路
  1. アセチルCoAからアシルキャリアタンパク質英語版 (ACP) にアセチル基が移され、中間体1となる。
  2. SxtAによってアセチルACPがメチル化され、プロピオニルACPとなる。
  3. 別のSxtAがプロピオニルACPとアルギニンクライゼン縮合させ、ACPと中間体4を生成する。
  4. SxtGは中間体4のα-アミノ基にアルギニンのアミジノ基を移し、中間体5とする。
  5. 中間体5はSxtBCによってアルドール縮合に似た閉環反応を起こし、中間体6となる。
  6. SxtDによる二重結合形成と1,2-水素移動によって中間体7が得られる。
  7. SxtSは二重結合をエポキシ化し中間体8とする。このエポキシドは開裂してアルデヒドとなり中間体9となる。
  8. SxtUはアルデヒド基を還元し中間体10とする。
  9. SxtIJKは得られたヒドロキシ基にカルバモイル基を結合させ、中間体11とする。
  10. SxtH、SxtT、SxtV、SxtWが連携してC12位をヒドロキシル化し、サキシトキシンが得られる。

関連法規

化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律で特定物質に指定されており製造、使用、所持などが厳しく規制されている。

脚注

関連項目

外部リンク

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