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生活上のプレッシャーおよび、それを感じたときの感覚 ウィキペディアから
ストレス(英: stress)とは、生活上のプレッシャーや悪感および、それを感じたときの感覚である[1]。人間および殆どの哺乳類では、自律神経系と視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)がストレスに反応する2つの主要なシステムである[2]。
ストレスの概念は一般に、1930年代のハンス・セリエの研究に起源を持つとされる[3]。この文脈では、精神的なものだけでなく、寒さ熱さなど生体的なストレスも含む。以降、ストレスが健康に影響を与えるという研究が数多く行われてきた。近年の2012年の研究では、ストレスが健康に影響を与えると認識している群の死亡率が43%高まることが見いだされている[4]。逆に認識していない群はそうではない[4]。そのようなストレスに対する認識の影響の研究が進展している。それにもかかわらず、ハーバード大学医学部は、ストレスとさまざまな障害との関係を考えると、ストレスを軽減する方法を見つけることが健康を維持するための最も重要な分野であると主張している[5]。ストレスを和らげる方法はたくさんある:瞑想、マインドフルネス、ヨガ、週末の遊び、休暇[6]。ストレス管理には様々な方法があり、具体的な技法については「ストレス管理#技法」を参照。
オックスフォード英語辞典では、英語のstressは、中世の言葉である、苦痛や苦悩を意味するdistressが短くなった言葉と説明されている[1]。
1914年に生理学者のウォルター・キャノンは、精神的な意味に加え、酸素不足など今日使われているような意味で使っていた[3]。ストレスの研究者の中には、このキャノンを研究領域の生みの親とする意見もある[3]。
ウィーンで生まれ、当時カナダのマギル大学の研究者であったハンス・セリエは、1936年に「各種有害作因によって引き起こされる症候群」を発表し、当初ストレスという言葉が受け入れられなかったため、有害作因という用語を使ったが、次第に受け入れられていった[7]。セリエは、ストレスを引き起こしているものを、ストレッサーとして造語して区別した[7]。
セリエは、1956年に『現代社会とストレス』(The Stress of Life)を出版し一般向けに初めて概説した[7]。これは1976年に改定版が出版され、これは邦訳書も出ている[7]。また、1957年には、セリエの来日により、ストレスという言葉が流行した[8]。
『現代社会とストレス』1976年版の第1部では、全身適応症候群を提唱し、はじめに警告反応として副腎皮質、リンパ管、腸内腫瘍がの3徴候を示し、次に抵抗期では徴候が無くなり、最後に生体が崩壊するとした概念が提唱された[7]。第2部は、ストレスという用語についてであり、用語の普及と共に用語が混乱したため、「生体組織内に誘起された、あらゆる変化からなる特異的な症候群の示す状態である」と定義した[7]。また、第5部では、ストレスの研究から人生について割かれており、自分のストレスの度合いを知ることで他者を同じように愛することができ、「愛他的利己愛」の中に答えがあるとした[7]。
ストレスの原因はストレッサーと呼ばれ、その外的刺激の種類から物理的ストレッサー(寒冷、騒音、放射線など)、化学的ストレッサー(酸素、薬物など)、生物的ストレッサー(炎症、感染)、心理的ストレッサー(怒り、不安など)に分類される[9]。ストレッサーが作用した際、生体は刺激の種類に応じた特異的反応と刺激の種類とは無関係な一連の非特異的生体反応(ストレス反応)を引き起こす。
ストレス反応とはホメオスタシス(恒常性)によって一定に保たれている生体の諸バランスが崩れた状態(ストレス状態)から回復する際に生じる反応をいう。ストレスには生体的に有益である快ストレスと不利益である不快ストレスの2種類がある。これらのストレスが適度な量だけ存在しなければ本来的に有する適応性が失われてしまうために適切なストレスが必要である。しかし過剰なストレスによってバランスが失われてしまう場合があるため、様々なストレス反応が生じる。しかしストレスがある一定の限界を超えてしまうと、そのせいで身体や心に摩耗が生じる。この摩耗の事をアロスタティック負荷と呼ぶ。
ウォルター・B・キャノンは1929年に外敵に襲われるような緊急事態において生理的・心理的な反応を観察した。その研究から交感神経系によって副賢髄質から分泌されるアドレナリンの効果と一致して心拍数増加、心拍出量増加、筋肉血管拡張、呼吸数増加、気管支拡張、筋収縮力増大、血糖値増加などの緊急事態に有効なストレス反応が生じることが分かった。具体的に緊急事態において採られるべき闘争、逃走のどちらにも有効な反応である。
一般適応症候群(全身的適応症候群、汎適応症候群)とは下垂体から副賢皮質ホルモン系への反応が生じるというストレス反応についての代表的な考え方である。まずストレッサーの刺激が視床下部、下垂体に伝達し前葉副賢皮質刺激ホルモンが分泌され活性化した身体にエネルギーが供給されるように働き警告反応期(ショック相、反ショック相)、抵抗期、症憊期と段階的に発展する。
急性ストレス障害(Acute Stress Disorder, ASD)とはトラウマの体験後4週間以内に見られる急性な高血圧、消化器系の炎症、解離症状、フラッシュバック、感情鈍磨などの特異的な症状が見られるものを言う。心的外傷後ストレス障害(PTSD)とはトラウマ体験後に生じるフラッシュバック、過覚醒症状、感情鈍磨などの特定的な症状が継続するものである。
コルチゾール(Cortisol)は副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種であり、ヒドロコルチゾン(Hydrocotisone)とも呼ばれる。炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝を制御し、生体にとって必須のホルモンである。3種の糖質コルチコイドの中で最も生体内量が多く、糖質コルチコイド活性の約95%はこれによる。ストレスによっても発散される。分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。また、このホルモンは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されている[10]。
ストレスによるコルチゾールの放出による海馬の萎縮は、動物実験では可逆的であり回復につれて海馬は成長する[11]。ヒトでもクッシング症候群の研究者は、コルチゾールの濃度が改善されてから海馬の成長が起こっていることを確認している[12]。
またトンカットアリとコルチゾール量の関係について調べた研究では、トンカットアリを摂取したグループは摂取しなかったグループと比べてコルチゾールが16%減少し、さらにアンケートによって緊張・怒りの感情は共に10%以上軽減されたという研究結果も報告されている[13]。
ストレス尺度には例えば以下が存在する:
なお「知覚されたストレス尺度」が高くてもオプティミズム(楽天主義)やハーディネス(頑健性)が強ければ心理的安寧を維持できるとされ[15][16]、そのオプティミズムの尺度には Scheier の Life Orientation Test が[15]、ハーディネスの尺度には Bartoneらの Dispositional Resilience Scale が存在する[16]。
またソーシャルサポートも同様とされるが、ソーシャルサポートの尺度には Sarasonらの Social Support Questionnaire が存在する[17]。
ストレス対処(ストレスコーピング)・ストレス管理(ストレスマネジメント)とは、ストレッサーを処理するために意識的に行われる行動及び思考を言う。情報収集や問題の再検討を通じてストレッサーそのものの解消を図る問題焦点型対処と、ストレッサーに対する考え方や捉え方を変えることで情動反応を和らげていく情動焦点型対処に大別できる。
研究者は、ストレスを最もよく管理するには、その瞬間に生きるだけでなく、将来のストレスにも備えることが必要であると指摘した[18]。
具体的には下記のようなストレス対処技法があり、様々な技法を身につけるほど総合的なストレス対処力が向上するため、一つ一つの技法を身につけるためのサポートとともに、用いることができるストレス対処技法の幅を広げるためのサポートも行われる[19]。
アメリカ合衆国での、成人約30000人を対象とした8年間の追跡調査では、ストレスが健康に良くないと認識していない人の死亡率は低下していなかった[4]。健康心理学者のケリー・マクゴニガルはこうした研究を紹介し、ストレスが多いと死亡するリスクが43%増加するが、それはストレスが健康に害があると認識している場合であると説明した。また科学的にはストレスの捉え方次第でストレスに対する体の反応が変わる研究を紹介している。例えば、ストレスを感じると心臓がどきどきするが、これを体に悪いとネガティブにとらえると実際に血管が収縮し心不全などの原因となる。ところが、心臓がどきどきするのは新鮮な血液を心臓にどんどん送り込んでくれているのだと肯定的にとらえると、血管が収縮しないことが分かった。すなわちストレスは捉え方により、健康に全く害がないと主張している[21][22]。
近年のオキシトシンの研究は、動物の社会的行動におけるその役割を見出している。
動物研究では、親ネズミによる子ネズミの世話などによって、オキシトシンの分泌が高まり、同時にコルチゾールの低下が見い出されている。
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