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自衛隊の救難・多用途ヘリコプター ウィキペディアから
この項目ではUH-60 ブラックホークヘリコプターの日本向け仕様であり、航空自衛隊に配備されているUH-60Jと陸上自衛隊向けのUH-60JAについて述べる。
UH-60Jは、アメリカ合衆国のシコルスキー・エアクラフトが開発したUH-60 ブラックホークを日本が救難目的に独自改良した救難ヘリコプター[1]。三菱重工業がライセンス生産を行っている[1]。隊員からはロクマルという通称で呼ばれている。UH-60JAは、陸上自衛隊向けの多用途ヘリコプターであり、UH-60Jと同様に三菱重工業がライセンス生産している[2]。
型式名 | 運用者 | 用途 | 運用開始年 | ベース機 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
UH-60J | 航空自衛隊 | 捜索救難 | 1991年 | UH-60A/S-70A-12 | 後期生産機は空中給油プローブ有 |
UH-60J | 海上自衛隊 | 捜索救難 | 1991年 | UH-60A/S-70A-12 | 2024年運用終了 |
UH-60JA | 陸上自衛隊 | 汎用 | 1998年 | UH-60L | |
UH-60JII | 航空自衛隊 | 捜索救難 | 2016年 | UH-60J | UH-60Jの改良型 |
航空自衛隊向けの機体は、1988年(昭和63年)度予算から調達を開始し2021年(令和3年)度予算までに67機の予算を計上している。2024年(令和6年)3月末時点の航空自衛隊の保有数は38機[3]。
航空自衛隊では、1985年(昭和60年)3月14日、救難隊のKV-107の後継となる新救難救助機の運用要求書および要求性能書を決定し、1986年(昭和61年)8月にUH-60Jの採用を決定した[4]。これはUH-60Aをベースとすることになっていたが[4]、当時はアメリカ空軍でもHH-60G ペイブホークの試作機が完成していたのみで、UH-60シリーズの全天候型救難ヘリコプターの実用機は存在しなかったことから、システム開発には試行錯誤を繰り返すことも多かった[5]。航空救難団司令部防衛部にUH-60J準備室が設置されて開発に当たっており、航空自衛隊からの要望事項の多さに不満を表明したメーカー側に対して、空自の救難機運用の厳しさの一端を体験してもらうため、メーカーのテストパイロットを同乗させて剱岳山頂へのアプローチを体験させたこともあるとされる[6]。
初号機の機体は1990年(平成2年)12月7日にシコルスキーから納入されたのち、航空自衛隊や三菱重工業による検査や評価を受けて、1991年(平成3年)2月28日に納入された[6]。ミッションシステムは、HH-60Gの前に試作されていたHH-60Aをベースに改良し[1]、機首に熱線映像装置(FLIR)や航法気象レーダー[1]、機体両側面に捜索用バブルウインドウ(半球状に膨らんだ形の窓)や大型の増槽を装備している[7]。空自側が作成した研究開発報告書の別紙に盛り込まれた改修点は約360項目に及んでおり、1991年(平成3年)に初号機が部隊配備されるまでに反映できたのは10ー20か所程度に留まったが、それ以外の点も配備後に順次に改修されていった[6]。2005年(平成17年)に配備された579号機以降はSP(Self Protection)仕様とされており、乗員が暗視装置(NVG)を装着した場合に対応してコクピットパネルの輝度調整が可能になったが、これも最初期から要望されていた事項であった[6]。またSP仕様機ではチャフ/フレア・ディスペンサーやミサイル警報装置(MWS)も装備されているほか[8]、2009年(平成21年)に配備された588号機からは空中給油用の受油プローブが装備されている[1]。また、自衛用の5.56mm機関銃MINIMIの装備も開始されている。なお長らく救難隊用に白と黄色の塗装であったが、2005年(平成17年)生産分からダークブルーの洋上迷彩塗装に切り替えられ、既存の機体も順次変更されている。
2011年(平成23年)度予算から航空自衛隊のUH-60J後継機の調達が予定されていたため[9]、提案要求書に基づき川崎重工業、三菱重工業、ユーロコプタージャパンが提案書を提出した。2010年(平成22年)11月5日、防衛省は、三菱重工のUH-60Jの能力向上型「UH-60J(近代化)」を選定したと発表した[10][11]。費用は約40機分の機体と20年間の維持経費などで約1,900億円としている。
2016年(平成28年)から配備が開始された593号機以降は同仕様に切り替わっており、部内では非公式にUH-60JIIと通称される[12]。UH-60Jからの主な改修点は、エンジンのT700-IHI-701Dへの換装とHIRSS(Hover Infrared Suppressor Subsystem:赤外線排出抑制装置)の装備、ホイストのデュアル化、MWSのAN/AAR-60(V)への変更、FLIRの小型化されたTalonへの変更、ワイヤーカッターの装備である。特に赤外線排出抑制装置の装備は、上記の別紙で既に提起されていた事項であった[6]。
海上自衛隊向けの機体は、1989年(平成元年)度予算から調達を開始し2001年(平成13年)度予算までに19機の予算を計上した。2019年(平成31年)3月末時点の海上自衛隊の保有数は12機[13]。最終的には硫黄島航空分遣隊の3機になる見込みである[13]。
S-61AHの後継として導入。航空自衛隊の機体とほぼ同じだが[14]、海上自衛隊独自の装備があるために全備重量が若干増えているほか、増槽のパイロンがHH-60用の物に変更されている。主に救難機として利用されるため塗装は白とレッドオレンジである。
海上自衛隊ではUH-60Jのほか、哨戒ヘリコプターとしてSH-60Jも103機採用し、同機の後継としてSH-60Kを導入中である。なお、2020年(令和2年)度予算でSH-60K 2機[15]、2021年(令和3年)度予算で1機[16]、2022年(令和4年)度予算で2機[17]を救難仕様に改修する予算を計上しており、2023年(令和5年)11月、SH-60K(救難仕様)が第21航空群第21航空隊に配備された[18]。
2022年(令和4年)2月14日、館山航空基地所在の第21航空群第21航空隊及び大村航空基地所在の第22航空群第22航空隊が保有するUH-60Jが除籍[19][20]。2023年(令和5年)1月16日、第22航空群が保有していた最後のUH-60Jが除籍[21][注 1]。2024年(令和6年)12月6日、第21航空隊硫黄島航空分遣隊所属の8979号機が除籍され、海上自衛隊での当機の運用を終了した[23][24]。
1995年(平成7年)度予算から調達を開始し2013年(平成25年)度補正予算までに40機の予算を計上している。2024年(令和6年)3月末時点の保有機数は39機[3]。
航空輸送を始めとする各種任務に使用されることから、赤外線暗視装置(FLIR)、航法気象レーダー、GPSや慣性航法装置による自動操縦機能に加えて、エンジンの排気口へ装着された赤外線排出抑制装置(HIRSS)やワイヤー・カッター(進路を妨げる電線やワイヤートラップなどを切断する)、チャフ・ディスペンサー、IRジャマーを追加装備し、燃料容量を増加して航続距離を1,295キロメートルに延長している。装備や燃料は増えたが、全備重量は9トンと削減されている。UH-60Jから変更点が多く、三菱重工ではUH-60Jとは別ページで紹介している。
フライトデータレコーダーについては、UH-60Jでは機体外部右側面に自動分離・浮上式のものが装備されているのに対し、UH-60JAでは機体内部後方への設置となっている[25][26]
当初、現在使用中であるUH-1Hの後継機として置き換える計画だったが、UH-60JA(約37億円)が大変高価なためにUH-1J(約12億円)とハイローミックスする計画に変更した。
武装に関してはアメリカ陸軍同様に、対戦車ミサイルランチャー、ロケット弾ポッド、ガンポッドなどを装備する計画だったが、予算の関係で見送られ増槽装備のみに止まる。状況に応じてキャビンドアに12.7mm重機関銃M2を、5.56mm機関銃MINIMIをキャビンドアとガナーズドアに搭載し、ドアガンとして運用することができる。2008年(平成20年)3月、キャビン内左右に機関銃を固定装備化した「ドアガン飛龍」(「飛龍」は陸上自衛隊におけるUH-60JAのコールサイン)が第1ヘリコプター団に登場した。
公式愛称はブラックホークであるが、海空と同じくロクマルの通称で呼ばれることが多い。
予算計上年度 | 陸自 | 海自 | 空自 |
---|---|---|---|
昭和63年度(1988年) | - | - | 3機 |
平成元年度(1989年) | - | 3機 | 2機 |
平成2年度(1990年) | - | 0機 | 2機 |
平成3年度(1991年) | - | 3機 | 4機 |
平成4年度(1992年) | - | 2機 | 2機 |
平成5年度(1993年) | - | 2機 | 1機 |
平成6年度(1994年) | - | 1機 | 2機 |
平成7年度(1995年) | 2機 | 1機 | 2機 |
平成8年度(1996年) | 4機 | 2機 | 1機 |
平成9年度(1997年) | 4機 | 2機 | 3機 |
平成10年度(1998年) | 5機 | 2機 | 2機 |
平成11年度(1999年) | 3機 | 0機 | 2機 |
平成12年度(2000年) | 3機 | 0機 | 2機 |
平成13年度(2001年) | 2機 | 1機 | 2機 |
平成14年度(2002年) | 2機 | - | 1機 |
平成15年度(2003年) | 1機 | - | 2機 |
平成16年度(2004年) | 1機 | - | 2機 |
平成17年度(2005年) | 1機 | - | 2機 |
平成18年度(2006年) | 1機 | - | 2機 |
平成19年度(2007年) | 0機 | - | 2機 |
平成20年度(2008年) | 1機 | - | 1機 |
平成21年度(2009年) | 1機 | - | 0機 |
平成22年度(2010年) | 3機 | - | 0機 |
平成23年度(2011年) | 2機 | - | 3機[注 2]+1機[注 3] |
平成24年度(2012年) | 1+1機[注 3] | - | 0+2機[注 3] |
平成25年度(2013年) | 1+1機[注 3] | - | 0機 |
平成26年度(2014年) | 0機 | - | 3機 |
平成27年度(2015年) | 0機 | - | 1機 |
平成28年度(2016年) | 0機 | - | 8機 |
平成29年度(2017年) | 0機 | - | 0機 |
平成30年度(2018年) | 0機 | - | 0機 |
平成31年度(2019年) | 0機 | - | 0機 |
令和2年度(2020年) | 0機 | (2機)[注 4] | 3機 |
令和3年度(2021年) | 0機 | (1機)[注 4] | 5機 |
令和4年度(2022年) | 0機 | (2機)[注 4] | 0機 |
令和5年度(2023年) | 0機 | 0機 | 12機 |
合計 | 40機 | 19機 | 79機 |
出典: 特記以外は航空自衛隊公式ウェブサイト[7]
諸元
性能
武装
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