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長時間労働
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長時間労働(ちょうじかんろうどう)とは、労働時間が本来予定されている時間数と比較して特に長いこと、またはその状態を指す。


2022年現在、OECD加盟諸国において労働時間を比較した場合、2000時間(h)/年を超える国は、上位からコロンビア、メキシコ、コスタリカとなっている[3]。かつて日本も、2000時間(h)/年を超えていたが、1992年以降は2000時間(h)/年を切り、2023年時点で1636時間(h)/年(サービス業を含む30人以上事業所を対象とした場合、1726(h)/年)となっている[2]。
ただし、パートタイム労働者を除いた場合は、2023年で1962時間(h)/年であり、平成期は2000時間(h)/年前後で推移していた。更に業種別で見た場合、建設業・運輸業、郵便業は、2019年コロナウイルス感染症流行期の2020年~2022年の間を除き2000時間(h)/年を超えている[4]。また、このデータは毎月勤労統計調査によるものであるが、あくまで企業側に認められた労働者に支払う労働時間に対する対価に対してのみであるため、不払い残業(サービス残業)や副業は含まれない。労働者(非農林業雇用者)の自己申告に基づいた労働力調査によれば、2024年は1893時間(h)/年であり、2000時間(h)/年を切ったのは、2018年以降である[5][6][7]。ただし、2020年・2021年に関しては2019年コロナウイルス感染症の流行による経済的影響により時間外労働の減少や宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数が2019年に比べて増加していることに留意する必要がある[8]。
しかし、パートタイムは世界のどの国も存在し、職種によって労働時間が異なることも世界のどの国も同じであるため、日本の労働時間が2019年基準のoecd平均よりも低いということは意味がある[9]。
労働時間は各種の法令等により上限が定められているが、実際の事業場ではこの上限を超えて使用者が労働者に労働させている例がままみられる。著しい長時間労働は、生産性の低下や、労働者の健康問題を引き起こすことから、長時間労働を規制するための法の枠組みが必要となる。
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世界
要約
視点




パートタイマーや自営業者も含めたILOのデータ[10]によれば、日本を含めた178カ国・地域の週労働49時間以上の長時間労働者の割合は以下の表のようになっている。日本は総合で178カ国・地域中92番目に少ない国であり、男性は106位、女性は71位(トケラウ除く)であり、世界的に中の中の位置にある。しかしながら、OECD諸国の中で見た場合は、総合と男性は下位、女性は中の下に位置する。
そして、世界全体の傾向としては、ヨーロッパ地域及びロシアが長時間労働者が少なく、特にロシア・東欧地域が低い傾向(ただし、ウクライナは2018年以降は、全体で10%以上の状況が続いている)がある。これをもって冷戦時代に共産主義陣営に属した影響によるものと思われるが、その陣営に属していたモンゴルやベトナムは、冷戦時代に資本主義陣営に属していた日本やタイよりも長時間労働者の割合が高いため、地域的な影響が大きい。
なお、ロシアの年間労働時間は2019年で1965.0時間、2019年コロナウイス感染症流行下の2020年は1874.0時間であり、2019年においてOECD加盟諸国で長時間労働者の割合が多い日本・韓国より下回るもののこれら2国に近い労働時間であった[1][7]。
更に、国・地域別では、ブルガリア・モーリシャスが低く、どちらの国・地域も男性が2%未満、女性が1%未満である。逆に高い国・地域は、男性の場合、高い順にブータン・インド・モーリタニア・パキスタン・バングラデシュ・ブルキナファソ・レバノン・コンゴ共和国が45%以上あり上位4位までを南アジアにある3カ国が占め、女性は、高い順にブータン・ コンゴ共和国・ モーリタニア・ アラブ首長国連邦が35%以上いる。
そして、男女差であるが、多くの国は女性より男性の方が長時間労働者の割合が多いが、東南アジアでは、男女差が少ない傾向にある。国別では、低い順にカザフスタン・フィリピン・ミクロネシア、ウォリス・フツナ、香港・ホンジュラス・東ティモールでは女性の方が多く、特にカザフスタン・フィリピン・ミクロネシアは女性の割合が男性より約1.3倍以上ある。
なお、アフガニスタンは2021年ターリバーン攻勢による混乱の影響か、週労働時間49時間以上の者が、前年(2020年)に比べ、男性は約39%、女性は約77%減少している。また、男女差もターリバーン政権による女性の就労制限の影響を一因とする長時間女性労働者数の大幅な減少で、10倍以上と最も男女差が高い国となっている。
反対にカザフスタンは2022年カザフスタン反政府デモによる混乱の影響か、2020年に比べ男性は約74%減少したが、女性は約2.5倍増加している。それにより、男性より女性の方が長時間労働者の数や割合で多くなり、割合では約4.6倍の差がある形となった。なお、男女で傾向が異なる具合的な理由は不明である。
他に、イラクは2013年から2017年まで続いたISILとの武力紛争の影響により、ナイジェリアは2016年において石油価格と生産量の低下、ニジェール・デルタ地域における石油およびガスのインフラに対する軍事攻撃、外貨の制約によって生じた1991年以来の不況[11][12]により周辺国と比べて長時間労働者の割合が少なかった。
注
- シンガポールは週労働50時間以上労働者の割合
- 日本のデータは労働力調査(基本調査)のデータ[13]である。労働者対象は、農林業や家族従事者や自営業も含む。
- 中国のデータは無いが、2017年の都市部就業者の週労働48時間以上の者は約31.0%である[14]。
OECDによる統計[15]より、非加盟国である中国(都市部)やインドを含めると、以下の表のようになる。日本は、OECD平均や中国(都市部)やアメリカより高い。また、2024年現在は労働力調査より約5.3%(15~64歳の農林業含めた労働者[家族従事者、自営業含める])であり、2015年時点でのイスラエルとほぼ同じ値である。
- 中国(都市部)は2009年、ロシアとインドネシアは2010年、インドは2011年のデータである。
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日本における状況
要約
視点
日本では、具体的にどのくらいの時間数を超えれば「長時間労働」にあてはまるかの明確な定義はないが、おおむね以下の指標が目安となる。
- 週間就業時間が60時間以上
- 総務省「労働力調査」では「雇用者のうち週間就業時間が60時間以上の従業者の割合の推移」の項目があり、長時間労働を表す指標の一つとなっている。
- 月45時間以上の時間外労働
- 三六協定による労働時間の延長の上限が月45時間となっている。これまで「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成21年5月29日厚生労働省告示316号)で上限を定めてきたが、平成31年4月1日の改正労働基準法施行により、本則に盛り込まれた。
- 月60時間以上の時間外労働
- 割増賃金の割増率が引き上げられる。また労使協定に定めることにより、代替休暇の取得が可能となる。
- 月80時間以上の時間外労働
- いわゆる過労死ラインと呼ばれる。脳・心臓疾患の場合、発症前直近の2~6ヶ月間の平均で80時間を超える時間外労働をしている場合には、その業務と発症の関連性が強いと判断され、労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる(平成22年5月7日基発0507第3号)。
- 月100時間以上の時間外労働
- 脳・心臓疾患の発症前月に100時間を超える時間外労働をしていた場合は、その業務と発症の関連性が強いと判定され、労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる。
統計による日本における長時間労働の実態

2012年以降は、平成27年版労働経済の分析にあるデータでなく、労働力調査(基本集計)よるデータである。[16][17]

2012年以降は、平成27年版労働経済の分析にあるデータでなく、労働力調査(基本集計)よるデータである。[18][17]

2000年以降(2011年除く)は、平成27年版労働経済の分析にあるデータでなく、労働力調査(基本集計)よるデータである。[16][18][19][13]






厚生労働省の「令和6年版過労死等防止対策白書」[4]及び「平成27年版労働経済の分析」[16][18]と総務省統計局の「労働力調査(基本集計)」[17]によれば、週60時間以上の長時間労働者は以下の表のようになる。
1955年以降の傾向:一橋大学経済研究所の神林龍によれば、1955年以降の週労働60時間以上の非農林業雇用者が占める割合の傾向は、20%前半代にあった1956年をピークに高度経済成長期を通じて、第1次オイルショック後の1975年には10%近くまでとなり、減少傾向にあった。しかし、1976年からバブル景気の最中にある1988年まで増加傾向となった。そして、1987年の労働基準法改正(法定労働時間を週48時間を週40時間への変更)を機に、バブル景気の最中にある1988年をピークに減少し、その後1998年~2003年の間に増加したが、2004年以降は減少した[23]。そして、2008年以降は、労働力調査より10%を切っている状況であり、2024年時点で約4.6%であり、1955年以降最も少ない割合であった。また、同じく2024年で週労働時間35時間以上労働者の内、月末週が60時間以上の者が約7.0%(男性:約8.9% 女性:約3.4%)となっている。実数では約269万人(農林業雇用者を含むと272万人)いる。更に、週労働時間49時間以上の者を含めた場合、約831万人(農林業雇用者含めた場合は約839万人)となり、約21.5%(男性:約26.2% 女性:約12.8%)となっている[24]。ただし、2020年・2021年に関しては2019年コロナウイルス感染症の流行による経済的影響により時間外労働の減少や宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数が2019年に比べて増加していることに留意する必要がある[8]。
そして、「過労死等防止対策白書」と「労働力調査(基本集計)」によれば、長時間労働者には以下の傾向がある。
性別:男性が多く、女性が約1.7%(週労働40時間以上非農林業雇用者に限った場合、約4.2%)に対して、男性は約6.9%(週労働40時間以上非農林業労働者に限った場合、約9.9%)であった。
年齢層:男性の場合、40代前半~50代前半に多く、40代後半は約9.80%(週40時間以上労働者に限った場合、約12.35%)であった。女性の場合、20代後半で週60時間以上就業している者の割合がそれぞれ2.80%(週労働40時間以上労働者に限った場合、約4.61%)と他の世代より高い傾向にある。更に、週労働40時間以上のフルタイム労働者に限った場合、70歳以上が約14%と突出して高くなる。ただし、年齢層に関しては、他と雇用された者だけでなく、自営業者や家族従事者が含まれている。
企業規模:企業規模が小さい程、高くなる傾向にある。
業種:高い順に①運輸業、郵便業(約12.07%)、②教育、学習支援業(約7.44%)、③公務員(約6.10%)の順に多い。ただし、週労働40時間以上労働者に限った場合、「宿泊業、飲食サービス業」が約15.09%となり、業種で輸業、郵便業に次ぐ高さとなる。それぞれの業種に長時間労働者の比率が多い背景には、
- ①運輸業、郵便業:出荷時に荷物が来るまで待ったり、納入時に納入するまでの間待つなどの「手持ち時間」の多さにある。特にトラックドライバーの長時間労働は問題視されており、国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果」によれば、手待ち時間の平均時間1時間45分であり、2時間超が約28.7%を占め、1時間超を含めると約55.1%であり、拘束時間が長いほど、手持ち時間が占める割合が高くなる[25]。更に、年間労働時間数は大型トラックは2604時間、中小型トラックは2484時間となっている[26]。
- ②教育、学習支援業:この業種に分類される代表的な職種は小中学校の教員である。教員の仕事は授業だけでなく、他にも仕事があり、それが多岐にわたるため、それらの業務を遂行するため、長時間労働になりやすい。更に、持ち帰り残業(風呂敷残業ともいわれる)が多いことも指摘されている。実際に、文部科学省の委託調査より、週労働時間60時間以上の教員は、2016年で小学校教員は約33.5%、中学校教員は57.6%であった。小学校と中学校で異なるのは、部活道による所が大きい[27]。
- ③公務員:労働基準法第33条第3項により「公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる」とあり、災害などの非常時には時間外労働制限が事実上なくなるようになっている。また、労働基準法以外にも条例・規則で例外が認められている。総務省の調査より2019年コロナウイルス感染症が流行した際、2021年4月~同年6月の間に2019年コロナウイルス感染者への対応などで約11万6,000人が時間外勤務の上限規制(原則月45時間・年360時間、繁忙部署の場合は月100時間未満・年720時間)を超えて長時間労働を行っている[28]。更に、2019年コロナウイルスの流行に対する対応で過労死ラインを超えて働く保健所職員が自治労の組合員調査により、2021年に調査協力した保健所に勤務している組合員の約23%がラインを超えて長時間労働をしており、労働環境のブラック化の状況が生じていた[29]。また、中央官庁の官僚だけでなく、自衛隊等も含めた国家公務員で見た場合、2024年は約65万人(休業者を除く)の内約4万人が週60時間以上労働しており、比率にして約6.2%(週労働35時間以上の者に限れば約8.2%)である。更に49時間以上の者も含めた場合、約10万人となり15.4%(週労働35時間以上の者に限れば約20.4%)となる[17]。地方公務員の場合は約181万人中約12万人が週60時間以上労働しており、比率にして約6.6%(週35時間以上雇用者に限った場合は約9.2%)であり、49時間以上の者も含めた場合、約16.6%(週労働35時間以上の者に限れば約23.1%)となり、国家公務員より高くなる傾向にあった[17]。公務員全体で見た場合、後表の業種別で見た週労働60時間以上の割合は、2007年以降微減しているものの、週労働40時間以上の労働者に限れば12%前後で推移しており、他の業種が減少している中で、時間外労働の縮減が進んでいない現状がある。また、労働者全体では2007年は9業種が公務員より長時間労働の割合が多かったが、2023年は2業種と減少しており、後述する河野太郎の言葉を借りれば、「公務員が相対的にブラック化している」現状がある。なお、官僚についても、後述の「長時間労働#日本の官僚」に記載の通り、長時間労働問題がある。
- 「宿泊業、飲食サービス業」:背景には人手不足だけでなく、非正規社員の比率が高まったことによる正社員の業務負担のしわ寄せや休日の取りづらさが背景にある。そのため、全体では業種の中でワーストとならないが、週労働40時間以上のフルタイム労働者に限れば業種の中でワースト2位となってしまっている。
であり、業種によって背景が違う[30]。また、企業規模よりも、業種による違いが大きい。
更に、業種や年齢層によって、長時間労働者の割合が違う故に、長時間労働者の多い産業や年齢層が労働短縮の恩恵に与れなかったことが、2005年前後から長時間労働が社会問題化していった要因の1つと神林龍は推測している[23]。
性別・年齢層別,企業規模別データ
日本における長時間労働の要因
長時間労働の発生する要因は、様々にあるが、その要因として以下が挙げられる[30]。
過重な時間外労働を発生させやすい法体制
最大の要因として、過重な時間外労働がある。日本における労働時間の上限は、1日につき8時間、1週間につき40時間である(労働基準法32条)。しかしながら、労働時間を延長する労使協定(いわゆる三六協定)を定めることができ(労働基準法36条)、また各種のみなし労働時間制を採用することにより、労働基準法32条にとらわれない労働時間設計が可能となっている。 時間外労働は三六協定で定めた上限時間数以内に収めなければならないが、三六協定には「特別条項」と呼ばれる例外措置が認められている。これを駆使すれば、事実上時間外労働の時間数に制限がないことが問題とされてきた。また労働者の側も、割増賃金を最初から安定収入として当てにした生活設計を描いている者も少なくない。
いわゆる「管理監督者」等、労働基準法41条に定める者については、32条、36条等労働時間に関する規制は適用されないため、一般に時間外労働やそれに伴う割増賃金の概念を考慮する必要はない。しかしながら、管理監督者であっても長時間労働が心身に著しい悪影響を及ぼすことには変わりなく、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。近年は名ばかり管理職と呼ばれ、名称だけ役職がついているが、実態は管理職としての権限も与えられておらず、本来割増賃金の支払いの適用除外とされるべきではないのに割増賃金が払われていない従業員の問題が裁判でも多く取り上げられている。
みなし労働時間制を採用すれば、対象となる労働者については実労働時間にかかわらず事前に決めたみなし時間分の賃金を払うのみでよい。しかしながら、みなし労働時間制は採用するための要件や対象となる労働者の範囲が厳格に定められていて、本来対象とならない労働者(裁量権がない、外回り中に携帯電話等で管理されている、等)をみなし労働時間制の下で労働させることはできないこととなっている[注釈 1]。厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」[31]によれば、何らかのみなし労働時間制を採用している企業は15.3%であり、適用されている労働者の割合も約9.2%にとどまっている。みなし労働時間制が適用される労働者についても、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン[32])。
日本型雇用システム(終身雇用・労使間のコミュニティ的性格)を維持するため
高度経済成長期に製造業を中心として形成された日本型雇用システムの特徴として、終身雇用がある。そのため、企業で働く労働者が、不況時でも解雇を回避しようと抑制する働きがあった。しかし好況の場合は、人員を増やさずに、残業で対応した、つまり、労働者の雇用保障する代わりに、残業を前提とした業務体制や要員配置を維持したのである。そのため、2006年まで経済の状況によって、長時間労働者の割合が増減する流れがみられることも指摘されている[33]。
また、日本の企業は労使が「雇い、雇われる」だけの関係(経済的関係)にとどまらず、共同性に基づく互助の関係(労使間のコミュニティ的性格)にある。それ故に、私生活より会社や仕事を優先するような考えが生じていった。更に、そのコミュニティ的性格により、不払い残業(サービス残業)や上司が帰るまで残業する「付き合い残業」が生じる要因の1つとなっている。
更に、日本の企業は、様々な仕事の状況に対応できるゼネラリスト的な能力が重視されつ傾向にある。そのため、労働者間の仕事範囲が明確に区分されていない。このことも、集団志向的な価値観とあいまって、仕事を切り上げにくくしている。そして、人事評価においては、業績だけでなく意欲など「働きぶり」が評価されることが少なくない。
しかし、この雇用型システムは、男性正社員を主力として長時間労働で対応する働き方は、女性の社会進出拡大とともに、時代と相容れないところが表面化している。
長時間労働に依存した業界慣行
長時間労働が生じてしまう背景に、上記の2つだけでなく、顧客・取引先との関係や業種特有の事情もある。例えば製造業・情報処理業の場合、余裕のない納期が背景にあるが、飲食業・サービス業の場合は背景が異なり人手不足だけでなく、非正規社員の比率が高まったことによる正社員の業務負担のしわ寄せや休日の取りづらさが背景にある。そして、金融業・保険業はノルマの高さであり、業種によって事情が異なっている。
そのため、企業における職場風土や労務管理の問題にとどまらず、社外(顧客等)との関係も含めて理解し、解消の努力をしなければならない。
日本における長時間労働への対策
2015年12月25日、広告代理店最大手の電通で、女性新入社員が長時間労働による過労により若くして過労自殺した。(電通は、この過労自殺事件が起こる前にも、この事件とは別に過労自殺事件を起こしている)この事件を受けて、法人としての電通及びその幹部が送検されたことが大きく報道され、長時間労働の問題が社会的に大きく注目されるようになった。
2016年12月26日に厚生労働省は「過労死等ゼロ緊急対策」[34]を発表し、企業に長時間労働対策を求めると同時に、労働基準監督署や労働局による取り締まりを強化する方針を発表した。あわせて、悪質な企業については企業名を公表するとして、その範囲も広くしている。
2017年4月に厚生労働省が発表した「平成29年度地方労働行政運営方針」においては[35]、長時間労働の抑制や過重労働による健康障害の防止がこれまで以上に強調され、労働基準監督署による臨検でも特に重視されている。
企業の側も、適切な長時間労働対策を行うことが求められている。労働時間の適切な管理や、業務の効率化・均等化はもとより、これまであった産業医による長時間労働者への面接指導の規定を改正して、2017年6月からは月100時間超の時間外労働をした労働者の労働時間等の情報を事業者が産業医へ提供することが義務化され、産業医が長時間労働者に対して面接指導を受けるよう勧奨することが、これまで以上に求められるようになった。
面接指導自体は、労働者本人の申出が起点となるものであるが、月100時間超の時間外労働をしなければならないほどの多忙な労働者が自ら申出ることは実際には考えにくいことから、企業の側から労働者の健康に対し適切に配慮することが必要となる[注釈 2]。
平成31年4月の労働基準法改正により、時間外労働の上限規制が盛り込まれ、特別条項をもってしても月100時間、年720時間を超える時間外労働をさせることはできなくなった。
日本のある職業の長時間労働の実態
日本の官僚
中央官庁で勤務する官僚は、国会対応に追われ、連日の庁舎泊まり込みや月150時間ほどの時間外労働が常態化しており[36]、残業を終えると深夜になることも珍しくないため、霞が関には午前1時でもタクシーが行列を作っている[37]。特に労働政策を所管する厚生労働省は、残業時間の長さから『強制労働省』と揶揄されていることから、長時間労働の抑制対策に乗り出している[38]。
しかしながら、2020年12月25日に河野太郎規制改革大臣による記者会見より、「霞が関がブラック化している」と危惧して2020年の10月と11月に調査した在庁時間調査[39]より、霞が関で働く国家公務員の全体の5~6%が人事院が定める超過時間の上限の月100時間を超えていた。更には、過労死ラインにあたる月80時間超えは11~12%、45時間超えは35~36%も在庁つまり時間外残業を行っていた実態が明らかとなった[39][40][41]。その要因として、内閣人事局によると、前述にもあるように国会議員の質問への対応や、政策の企画立案、予算編成作業が挙げられた[42]。
特に20代のキャリア(I 種・総合職)職員は特に深刻であり、100時間を超えた者は17~18%、80時間超えは20代キャリア職員全体の約3分の1、45時間を超えた者を含めると約3分の2を占めていた。平均在庁時間も全体で約2時間であるのに対して、20代キャリア職員は約3時間と1時間長く、若手キャリア職員に仕事の荷重が多く圧し掛かっている[39][42][41]。
そのため、在職10年未満のキャリア職員の退職が年々増加しており、2013年度の76人から2019年度の109人と約1.4倍に増加していた。特に、2018年度以降は在職10年未満のキャリア職員の退職者が100人を超えている[43]。
また、退職の意向を持っている30歳未満の国家公務員の内、長時間労働を理由としたものが男性が約34%、女性で約47%であり、規制改革大臣河野太郎は2020年11月18日に自身のブログにて、このことについて問題提起した。そしてブログ内には、国家公務員の総合職を目指す者が減少していることにも触れており、申込者のピークである1996年の45,254人から2023年には18,386人と2021年(17,411人)に底を打つ形で増加しているもののピークの約41%に減ってきており、長時間労働が公務員採用に負の影響を及ぼしている[44][45][46]。
また、2020年秋ごろに行われた在庁時間調査による結果は、以下の通りであり、30代以下と40代以上と I 種・総合職とそれ以外の職種で明確な差があった。また、この調査より、令和2年度臨時国会での全ての国会議員の質問等の終了時間に当たる最終通告時間が正規の業務終了時間を過ぎたケースが約3分の2に上ること、その内の約55%が20時過ぎとなっていることが判明している[39]。
上記の調査とは別に人事院が2024年12月25日に発表した「上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合等について(令和5年度)」[47]によれば、2023年度内に時間外勤務の上限を超えて超過勤務を命ぜられた国家公務員一般職は全体の約10%であり、霞が関(本府省)での場合は約25%と跳ね上がる。また、2023年度内に1か月100時間以上の時間外勤務を行った他律部署で働く職員は全体で約8%であり霞が関の場合は約14%となる。
日本の病院勤務医
→詳細は「医師 § 日本の医師の労働環境」を参照
厚生労働省が2016年12月に行われた「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によれば、病院勤務医の男性は41%、女性は28%が週60時間以上働いており、週80時間以上となると男性11%、女性7%となる[48]。
勤務医約24万人のうち、長時間勤務の実態にある医師の多くは病院勤務医であり、特に20代・30代の男女、40代までの男性医師が特に長時間となっている。また、診療科等では産婦人科、外科、救急科等となっている。臨床研修医も長時間になりやすい傾向にある。更に医療機関種類別では大学病院において、特に勤務時間が長くなっている。長時間労働になる要因としては、急変した患者等への緊急対応、手術や外来対応等の延長といった診療に関するもの、勉強会等への参加といった自己研鑽に関するもの等が挙げられる。更に、地域や診療科による医師の偏在があると考えられるため、医師が不足する地域や診療科においては、そのしわ寄せが個々の医師の負担を大きくさせてしまっているとも考えられる[49]。
2024年2月12日付の読売新聞によると、全国251か所の公的病院(国公立病院など)のうち、約17%の42の病院が2018年以降に、違法な長時間労働によって各地の労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、同新聞の情報公開請求によって明らかになっている。2024年4月から「医師の働き方改革」が導入されることになっているが、導入直前においても対応が進まない現状が明らかとなった[50]。
日本の弁護士
2023年版弁護士白書[51]によれば、1年間の総労働時間が3,000時間越え(1週間の労働時間に均らした場合は約57.5時間超)の弁護士の割合は13.4%であった。更に、2,500時間超え3,000時間以下(1週間の労働時間に均らした場合は約47.9時間~超57.5時間)を含めた場合は約33.9%となる。
最も多い1年間の総労働時間帯は2,000時間超え2,500時間以下(1週間の労働時間に均らした場合は約38.4時間~超47.9時間)の約27.0%であり、中央値は2,200時間(1週間の労働時間に均らした場合は約42.2時間)であり、平均値は2143.1時間(1週間の労働時間に均らした場合は約41.1時間)であった。
単純比較できないが、週60時以上労働者が占める割合において、前述の病院勤務医に比べれば少ないが、非農林業男性労働者(約8.0%、2023年)に比べれば約1.67倍多い。また、産業別で最も週60時間労働者の占める割合の多かった運輸業、郵便業の約12.9%に近い値であった。
弁護士業務における労働時間に占める割合は平均値で見た場合、2022年においては民事訴訟の紛争案件で約55.3%と半分以上を占めている。
日本の教員
2016年に文部科学省が実施した教員の時間外労働の調査では、小学校では約30%、中学校は約60%が1週間に20時間を超えており、1ヶ月では過労死ラインを超える計算となった[52]。
近年では教員の労働環境の状況が報道されるようになったこともあり、志願者数が減少している[52]。2021年に文部科学省が現役教員に対し、SNS上で教員志望者へ仕事の魅力を発信する『「#教師のバトン」プロジェクト』[53]を始めたが、労働環境の実態を訴える声や文部科学省への批判が集まり炎上したため、総合教育政策局の局長がメディア向けにプロジェクトの趣旨を説明する会見を開く事態となった[54]。
日本の建設業技術者
日本の建設業技術者の休日日数が少ない背景には、工期の問題がある。また、新国立競技場の施工管理をしていた23歳男性が月時間外労働200時間を超える長時間労働を背景に2017年3月に自死している[55]。実際に、建設現場の技術者で過労死ラインに当たる月時間外労働80時間以上の者は、2023年で約13.8%いる。60時間以上の時間外労働者を含めた場合は約31.0%であり、更に45時間以上の時間外労働の者も含めた場合、約50.7%となる[56]。
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中国における状況
近年の中華人民共和国では新興のIT企業を中心に、朝9時に出勤、夜9時に退勤、週6日働くという雇用制度「996工作制」が横行している[57]。
中国の労働法では、1日8時間まで、週平均労働時間は44時間までとなっているが[58]、996工作制の場合は72時間を超えて労働することになる。
若者の中にはこのような過度な労働を嫌い、物質的な欲求や社会競争での勝利より自分の時間を大切にする「横たわり族」も出現している[57]。996工作制は違法な労働環境で取り締まりの対象であるが、共産党では経済成長を求心力として利用していることから、成長の阻害となる思想の広まりを懸念している[57]。
韓国における状況
韓国の労働時間は、長年OECD上位グループである。2018年には労働基準法が改正され、上限引き下げが行われた。
→「大韓民国の経済 § 労働市場改革」も参照
脚注
関連項目
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