Loading AI tools
ウィキペディアから
時間外労働(じかんがいろうどう)とは、労働基準法等において、法定労働時間を超える労働のことをいう[注釈 1]。同じ意味の言葉に、残業(ざんぎょう)、超過勤務(ちょうかきんむ)、超勤(ちょうきん)がある。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
平成31年4月の改正法施行により、内容及び手続きが大幅に改められた。長時間労働は、健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっている。これに対し、長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。こうしたことから、時間外労働の上限について、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号。以下「限度基準告示」という。)に基づく指導ではなく、これまで上限無く時間外労働が可能となっていた臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意した場合であっても、上回ることのできない上限を法律に規定し、これを罰則により担保するものである(平成30年9月7日基発0907第1号)。
日本の法令において、時間外労働が許されるのは以下の3つのうちのいずれかに当てはまる場合に限られる。
労働者の自発的な時間外労働は、使用者の指示・命令によってなされたものとはいえないので、労働基準法上の時間外労働とは認められない(東京地判昭和58年8月5日)。ただし、使用者の指示した仕事が客観的にみて正規の時間内ではなされえないと認められる場合のように、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えた場合には時間外労働となる(昭和25年9月14日基収2983号)。 終業後の研修の参加も、会社から命じられたり、昇進に関わり事実上断れない場合は、時間外労働となり、残業代支払いの対象になる[1]。
いわゆる「管理監督者」等の第41条該当者については、第33条、第36条等の時間外労働に関する規定は適用されないので、これらの手続きによることなく時間外労働をさせることができ、当該時間外労働に対する割増賃金の支払いも必要ない。
第三十三条 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
2 前項ただし書の規定による届出があつた場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる。
「災害その他避けることができない事由」とは、災害発生が客観的に予見される場合をも含む(昭和33年2月13日基発90号)。ILO第1号条約の第3条(現に災害あり若は其の虞ある場合)にそのまま対応する。
具体的な判断は個別の事情によるが、第33条1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるからその臨時の必要の限度において厳格に運用すべきものであって、その許可又は事後の承認は、概ね次の基準によって取り扱うこと(令和元年6月7日基発0607第1号)。
許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれること。具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれること。1.〜4.はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合」となることもあり得ること。例えば、4.においては、「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について規定しているところであるが、これは、国や地方公共団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため、例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者へ物資を緊急輸送する業務は対象となるものであること(令和元年6月7日基監発0607第1号)。
第33条1項による事後届出があった場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる(第33条2項)。この場合、休業手当を支払う必要はない(昭和23年6月16日基収1935号)。なお、派遣労働者については、事前許可・事後届出を行う義務を負うのは、派遣先の使用者である(昭和61年6月6日基発333号)。
三六協定による時間外労働時間を、災害等の事由によりさらに延長しても差支えない(昭和23年7月27日基収2622号)。
第三十三条 3 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。
第33条第3項は、労働基準法の適用がある一部の国家公務員及び地方公務員についてのみの条文である。
「公務のために臨時の必要がある」か否かについての認定は、一応使用者たる行政官庁に委ねられており、広く公務のための臨時の必要を含むものである(昭和23年9月20日基収3352号)。
災害等の場合と異なり、事前許可・事後届出は不要である。また非現業官公署においては三六協定は不要である(昭和23年7月5日基収1685号)。
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
第36条は時間外・休日労働を無制限に認める趣旨ではなく、時間外・休日労働は本来臨時的なものとして必要最小限にとどめられるべきものであり、第36条は労使がこのことを十分意識したうえで三六協定を締結することを期待しているものである(昭和63年3月14日基発150号)。法改正を受けて、日本労働組合総連合会(連合)は三六協定の適切な締結を唱えるプロジェクト"Action!36"をスタートさせ、平成31年より3月6日を「36(サブロク)の日」として日本記念日協会に記念日登録をした[2]。
三六協定には、以下の事項を定めなければならない(第36条2項)。平成31年4月の改正法施行により、それまで施行規則で定めていた事項を法本則で定めることとなった。
三六協定は労使協定であるので、使用者と、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は事業場の労働者の過半数の代表者)とが時間外労働、休日労働について書面で締結しなければならない。また、労使協定は一般に締結した段階で効力が発生するものであるが、三六協定については行政官庁に届出なければ効力は発生しない。法定の協定項目について協定されている限り、労使が合意すれば任意の事項を付け加えることも可能である(昭和28年7月14日基収2843号)。
事業場に管理監督者しかいない場合は、割増賃金率の記載のみで足りる(管理監督者であっても深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要なため)。
更新も可能であり、その旨の協定を届出ることで三六協定の届出に代えることができる(施行規則第17条2項)。協定に自動更新規定がある場合は、労使双方から異議の申し出がなかった旨の書面を届出れば足りる(昭和29年6月29日基発355号)。協定の更新拒否が業務の正常な運営を阻害する行為に該当する場合は、争議行為に該当する(昭和32年9月9日法制局一第22号)。
労使委員会が設置されている事業場(第38条の4第1項)においては、その委員会の5分の4以上の多数による決議によって、三六協定に規定する事項について決議が行われた場合において、これを行政官庁に届け出た場合は、当該決議は三六協定と同様の効果を持つ(第38条の4第5項)。
三六協定を締結していても、それだけでは監督官庁からの免罰効果しかなく、時間外労働をさせるには、就業規則や労働契約等に、所定労働時間を超えて働かせる旨の合理的な内容の記述があって初めて業務指揮の根拠となる(労働契約法第7条、最判平成3年11月28日)。さらに、三六協定を締結していない場合には、第33条第1項・第3項に該当する場合にのみ時間外労働が許される。こういった諸要件を具備した上で、指揮命令をうけた労働者が正当な事由なく時間外労働を拒否した場合、多くの企業の就業規則では当該労働者を懲戒に処する旨を規定している。なお派遣労働者を三六協定によって時間外・休日労働させるには、派遣元の事業場においてその旨の協定を締結しておかなければならない。
行政官庁への届出は、所定の様式(様式第9号)が用意されていて、届出時に必要事項を記入する。実際には様式第9号の労働組合又は労働者の過半数代表の欄に労働組合の押印や労働者自身に署名、又は記名押印させて、そのまま三六協定の書面としても使用することが多い[注釈 2]。
なお、時間外労働が離職の日の属する月の前6月間において「いずれか連続する3か月で45時間」「いずれか1か月で100時間」又は「いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間」を超える時間外労働が行われたことにより離職した労働者は、雇用保険における基本手当の受給において「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる(雇用保険法第23条、雇用保険法施行規則第36条5号イ)。また特定受給資格者を発生させた事業主には、雇用保険法上の各種の雇い入れ関係の助成金が当分の間支給されなくなる。
厚生労働省「平成25年度労働時間等総合実態調査」によれば、三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では46.8%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また延長時間は、限度基準上限(月45時間・年360時間)に集中化する傾向がある。また、特別条項付きの三六協定を締結している事業場は、301人以上の事業場では96.1%であるのに対し、10人未満の事業場では35.7%となっていて、事業場規模が小さくなるほど締結率が低い傾向となっている。また月80時間超の延長時間を定めている事業場は、301人以上の事業場では34.7%、10人未満の事業場でも21.5%となっている。月100時間超の延長時間を定めている事業場となると、301人以上の事業場では10.6%、10人未満の事業場でも5.5%となっている。概して、延長時間数は実労働時間数と比べても相当長めに設定されている。
日を超える期間 | 通常 | 1年単位の 変形労働時間制 (3か月を超える期間) |
---|---|---|
1か月 | 45 | 42 |
1年 | 360 | 320 |
※適用除外・猶予業務を除く |
第三十六条 4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
三六協定で「対象期間における1日、1か月及び1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間」を定めるに当たっては、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限るものとした。その時間数は、1か月について45時間及び1年について360時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は、1か月について42時間及び1年について320時間)であること(第36条3項、4項、平成30年9月7日基発0907第1号)。これが原則的な時間外労働の上限となる。
これまで「限度基準告示」に定めてきた限度時間を、平成31年4月の改正法施行により、法本則に規定することとした。また「限度基準告示」では2か月、3か月の限度時間を定めていたが、改正法では1か月と1年のみ、限度時間として定めることとなった[注釈 3]。三六協定で対象期間として定められた1年間の中に、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の対象期間が3か月を超えて含まれている場合には、限度時間は月42時間及び年320時間となる(平成30年12月28日基発1228第15号)。
これらの事項は、いずれも法律において定められた要件であり、これらの要件を満たしていない三六協定は全体として無効である(平成30年12月28日基発1228第15号)。
三六協定においては、上記に掲げる事項のほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間を定めることができる。この場合において、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間については、三六協定に定めた時間を含め100時間未満の範囲内としなければならず、1年について労働時間を延長して労働させることができる時間については、三六協定に定めた時間を含め720時間を超えない範囲内としなければならないものであること。さらに、対象期間において労働時間を延長して労働させることができる時間が1か月について45時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は42時間)を超えることができる月数を1年について6か月以内の範囲で定めなければならないものであること。(第36条5項、平成30年9月7日基発0907第1号)。これが例外的な時間外労働の上限となる。これまで「限度基準告示」に定めてきた特別条項を、平成31年4月の改正法施行により、厳格化したうえで法本則に規定することとした。また「限度基準告示」では2か月、3か月の限度時間を定めていたが、改正法では1か月と1年のみ、限度時間として定めることとなった。なお「100時間未満」については休日労働の時間を含めて判断するが、「720時間を超えない」については休日労働の時間を含めずに判断する。
「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」とは、全体として1年の半分を超えない一定の限られた時期において一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある場合をいうものであり、「通常予見することのできない業務量の増加」とは、こうした状況の一つの例として規定されたものである。その上で、具体的にどのような場合を協定するかについては、労使当事者が事業又は業務の態様等に即して自主的に協議し、可能な限り具体的に定める必要があること。なお、第33条の非常災害時等の時間外労働に該当する場合はこれに含まれないこと(平成30年12月28日基発1228第15号)。
これらの事項は、いずれも法律において定められた要件であり、これらの要件を満たしていない三六協定は全体として無効である(平成30年12月28日基発1228第15号)。
第36条4項に規定する限度時間及び5項に規定する1年についての延長時間の上限は、事業場における三六協定の内容を規制するものであり、特定の労働者が転勤した場合は通算されない(平成30年12月28日基発1228第15号)。
新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務の特殊性が存在する。このため、限度時間、三六協定に特別条項を設ける場合の要件、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の上限についての規定は、当該業務については適用しない(第36条11項)。
以下の事業・業務には、その性格から直ちに時間外労働の上限規制を適用することになじまないため、猶予措置を設けたものであること(第139〜142条、施行規則第69条、71条、平成30年9月7日基発0907第1号)。労働者派遣事業を営む事業主が、これらの事業又は業務に労働者を派遣する場合、派遣先の事業又は業務について適用されることとなり、派遣元の使用者においては、派遣先における事業・業務の内容を踏まえて三六協定を締結する必要がある(平成30年12月28日基発1228第15号)。
中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。以下同じ。)の事業に係る三六協定(第139条2項に規定する事業、第140条2項に規定する業務、第141条4項に規定する者及び第142条に規定する事業に係るものを除く。)については、令和2年4月1日から改正法による第36条の規定を適用する(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律第3条)。
改正法の規定(第139条2項、第140条2項、第141条4項及び第142条の規定により読み替えて適用する場合を含む。)は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めている三六協定について適用する。平成31年3月31日を含む期間を定めている三六協定については、当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日までの間については、なお従前の例によることとし、改正前の第36条、労働基準法施行規則及び限度基準告示等が適用される(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律第2条)。
厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、三六協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる(第36条7項)。これに基づき、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」が告示されている(平成30年9月7日厚生労働省告示323号)。労使とも、三六協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容がこの指針に適合したものとなるようにしなければならず(第36条8項)、行政官庁はこの指針に関し、三六協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる(第36条9項)。この助言及び指導を行うに当たっては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない(第36条10項)。
指針は、三六協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項を定めることにより、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとすることを目的とする(指針第1条、平成30年9月7日基発0907第1号)。指針は、時間外・休日労働を適正なものとするために留意すべき事項等を定めたものであり、法定要件を満たしているが、指針に適合しない三六協定は直ちには無効とはならない。なお、指針に適合しない三六協定は、第36条9項の規定に基づく助言及び指導の対象となるものである(平成30年12月28日基発1228第15号)。
三六協定を締結した場合であっても、実際の時間外・休日労働は、以下の要件を満たすものとしなければならない。
- ◆多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ◆ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- ◆土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- ◆異常気圧下における業務
- 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激なる業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- ◆鉛、水銀、クロム、砒素、黄リン、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
- 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
1947年(昭和22年)の労働基準法施行時は、女性労働者について、1日について2時間、1週間について6時間、1年について150時間を超える時間外労働を禁止していた(施行当時の第61条)。その後1952年(昭和27年)の改正において「決算のための書類の作成、計算」「棚卸し」の業務については時間外労働の制限を「2週間について12時間」と変更し、さらに男女雇用機会均等法の制定による労働基準法の改正で「1日2時間」の枠が撤廃、一定の指揮命令者・専門業務従事者については、時間外労働、休日労働の制限をすべて解除した。そして1999年の改正で満18歳以上の女性はすべて時間外労働の制限が解除された。代わってこのときに育児介護休業法に、育児・介護を行う者についての時間外労働の制限規定が制定された。
就業規則、労働協約で定められた各事業所の労働時間(法定労働時間を超えない所定労働時間)を超えて行われる時間外労働は、法定労働時間を超える時間外労働と一致しないことがあり、そのうち法定労働時間の枠内で行われる時間外労働については三六協定を必要とせず(昭和23年4月28日基収1497号)、また、割増賃金の支払いも義務付けられていない(昭和22年12月15日基発501号、昭和63年3月14日基発150号)。しかし、日において超えていなくても、週において、あるいは、変形労働時間制にあっては変形期間において、法定労働時間を超過していないか、確認する必要がある。割増義務のない所定時間外労働における賃金の支払い根拠は労働協約・就業規則他に定めるところによる(昭和23年11月4日基発1592号)。
労働者が遅刻をした場合に、その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、時間外労働は発生しない(昭和29年12月1日基収6143号)。また交通機関のストライキ等のために始終業時刻を繰上げ・繰下げすることは、実働8時間の範囲内であれば時間外労働の問題は生じない(昭和26年10月11日基発696号、昭和63年3月14日基発150号)。またこれらの場合に割増賃金の支給も不要である。
休日 | 労働日 | |||
---|---|---|---|---|
就業規則・労働契約等の定めにより 当初から労務提供義務のない日 | 労働者が雇用契約に 従い労務に服する日 | |||
所定休日(広義) | 代休 | 休暇 | ||
法定休日 | 法定外休日 所定休日(狭義) | 休日労働の後に その代替として労働日の中から 日を指定して 労働者を休ませること | 労働日の中から 日を指定して 労働者が休むこと | |
原則:毎週1回(週休制) 例外:4週4日(変形休日制) | 法定以上に 付与される休日 | |||
0時から24時までの 労働に対し休日 割増賃金の対象 | 法定労働時間を超えた 部分が時間外割増 賃金の支払い対象 | 有給か無給(賃金控除) かは就業規則による | 年次有給休暇は有給 (算出方法は就業規則 の定めによる) |
所定休日のうち、週1回または4週4日(変形週休制)の法定休日における労働時間は時間外労働に含まれず休日割増賃金の対象となる。法定以上に付与する法定外休日における労働時間は、休日割増賃金相当の額が支払われても休日労働とはならず、法定労働時間内か時間外労働にあたるかの判断の対象となる。ただし、4週4日の休日制度を採用していれば、休日出勤を4週で4日までは法定休日出勤として時間外労働から除外することができる。
法定休日が就業規則等に特定されていなくとも、所定休日労働における3割5分増し以上の賃金を払うとした対象日のうち、週の最後の1回または4週の最後の4日をもって法定休日と定めたものとして扱われる(平成6年1月4日労働省基発第1号)。
事業者は、月80時間超の時間外労働により疲労の蓄積が認められる労働者(算定期日前1月以内に面接指導を受けた労働者その他面接指導の必要がないと医師が認めた者を除く)に対し、当該労働者の申出により、医師による面接指導を行わなければならない(労働安全衛生法第66条の8)。事業者は面接指導が行われた後、遅滞なく(おおむね1月以内。緊急に就業上の措置を講ずべき必要がある場合には可能な限り速やかに)当該医師から意見を聴かなければならない。事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
労働災害の認定にあたってはその基準が時間外労働の時間数で例示されていて、過労死を引き起こす脳・心臓疾患の場合、発症前1か月に100時間を超える時間外労働、あるいは直近の2〜6か月間の平均で80時間を超える時間外労働をしている場合には、その業務と発症の関連性が強いと判断され、労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる(平成22年5月7日基発0507第3号)。うつ病などの精神障害の場合、発症前2か月間につき120時間以上、あるいは発症前3か月間に月100時間以上の時間外労働がある場合、強い心理的負荷(ストレス)があったと判断され、やはり労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる(平成23年12月26日基発1226第1号)。
労働基準監督官による臨検(強制立入調査、第101条以下)が行われた場合、三六協定が未締結であったり、三六協定に定める限度時間を超えて時間外労働をさせている、三六協定の労働者代表の選任方法が妥当ではない等の事実が認められると、36条違反を是正するよう指導される。世間の求めに応じ、近年監督実施件数は増加傾向にある。原則として臨検を拒否することは出来ず、監督官の臨検を拒んだり、妨げたり、尋問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたり、帳簿・書類(法定帳簿・書類のみならず、第109条でいう「その他労働関係に関する重要な書類」を含み[5]、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録も含まれる(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン))を提出しなかったり、虚偽の帳簿・書類を提出した場合は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。○3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
労働基準法における労働時間に関する規定の多くは、その長さに関する規制について定めている(ことぶき事件、最判平成21年12月28日)。使用者が労働時間を延長した場合、通常の労働時間(休日労働の場合は、労働日)の賃金の、時間外労働については2割5分以上、休日労働については3割5分以上の割増賃金を支払わなければならない(第37条1項、平成12年6月7日政令第309号)。第33条・第36条に定める手続を取らずに時間外・休日労働をさせたとしても、割増賃金の支払い義務は生じる(昭和63年3月14日基発150号)。第37条は強行規定であるので、割増賃金を支払わない旨の労使合意は無効である(昭和24年1月10日基収68号)。
また、使用者が午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働させた場合においては、通常の労働時間における賃金の計算額の2割5分以上(時間外労働が深夜に及ぶ場合は5割以上、休日労働が深夜に及ぶ場合は6割以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(第37条第3項、労働基準法施行規則第20条)。なお、休日労働とされる日に時間外労働という考えはなく、休日労働が深夜に及ばない限り、何時間労働しても休日労働としての割増賃金を支払えばよい(昭和22年11月21日基発366号、昭和33年2月13日基発90号)。
時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合、たとえ暦日を異にする場合であっても一勤務として取り扱い、その勤務は始業時刻の属する日の「1日」の労働とされる。したがって、時間外労働の割増賃金は、翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して支払えばよい(昭和26年2月26日基収3406号)。一方、翌日が法定休日であった場合は、翌日の午前0時以降の部分は休日労働としての割増賃金を支払わなければならない(昭和23年11月9日基収2968号)。どちらの場合においても、深夜時間帯については、深夜労働に対する割増賃金を合わせて支払わなければならない。
1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることとすることは、事務を簡便にするという考えから第24条・第37条違反として取扱わない。また1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合や、1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることも同様に第24条・第37条違反とはしない(昭和63年3月14日基発第150号)。
年俸制の場合でも同法では時間外労働をした場合には年俸とは別に時間外手当を支給しなければならないことになっている。しかし、あらかじめ時間外の割増賃金を年俸に含めて支給することもできる(例:1か月に45時間の時間外労働を含めて年俸制で支給する)。実際に時間外労働が発生しなくても支払われるこの制度を「固定残業制」などと呼び、割増賃金を「みなし残業手当」などと呼ぶこともある。この場合でも、その決定明記した時間外労働時数を超えて時間外労働をした場合については、毎月払いの原則があるため、その差額をその月の給与に加算して支払わなければならない。
国際労働機関1号条約(工業的企業に於ける労働時間を1日8時間かつ1週48時間に制限する条約、日本は未批准)では、例外規定はあるが「家内労働者を除いた工業におけるすべての労働者の労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならない」と決められている[6]。なお労使合意もしくは政府認可がある場合、一日8時間に満たない日の残り時間を、一日8時間を超える日の超過時間と相殺することが可能(第2条(b))。
日本など残業文化のある国では、労働時間が長い人こそが評価される。これは過労死にも繋がる[7]。日本では長時間労働による過労死などの問題で、残業非推奨もしくが残業させない企業が増えているものの[8]、ホワイト企業でさえも、ある種の「残業文化」があるため、与えられた仕事を早く終わらせられる「有能な定時帰宅な人」よりも、意図的にダラダラ残業や付き合い残業している人の方が評価される矛盾が起きている[9][10][11][12]。
労働者が、成果よりも労働時間の長さが評価されるため発生する「ダラダラ残業[13][14]」、仕事が終わっても周囲を気にして帰れない「付き合い残業[注釈 4][15]」、企業が上記のような理由で発生する、多額の残業代予算確保のために基本給の賃上げを抑えるために、一部の労働者がする悪循環になっている「生活残業[13]」 が蔓延している。 その結果として、日本はG7の中で非製造業での最低の労働生産性となっている[注釈 5][16][17][18]。
公正労働基準法に規定。exempt対象者でない限り、週40時間を超える労働に対しては、1.5倍の割増賃金を払う義務がある(2009年)[19]。16歳以上の従業員である場合、残業可能時間に上限はない[19]。
ドイツでは時間外労働を後の勤務時間へ振り分ける制度があり、自動車産業のように繁忙期と閑散期の差が大きい業種においてバッファとして使われている[20]。
2018年、ハンガリーは、時間外労働の上限時間を年間250時間から400時間に引き上げることなどを柱とする改正労働法を成立させた。2010年代の欧州において時間外労働の制限を大きく緩和させることは稀であるが、ハンガリー政府は、労働力不足対策や長時間勤務を希望する労働者にも恩恵をもたらすとしたほか、アーデル・ヤーノシュ大統領は、欧州連合加盟国の残業に関する法律に類似しており、労働者の権利は弱められていないと主張した[21]。
2023年の北京市高級人民法院(裁判所)の活動報告で、退社後にSNSを利用して仕事をする隐形加班の問題が指摘された。北京市の人民法院は、これらの問題に対して残業であると指摘し残業代として3万元を支払うよう命令した[22][23]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.