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使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除 ウィキペディアから
解雇(かいこ)とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除である[1]。解雇の理由は、主に会社側の経済的事情によるもの(余剰人員など)と、労働者個別の理由によるもの(能力不足・不祥事など)に大別される[2]。
一般的に解雇は労働者に大きな不利益をもたらす[1]。そのため特に先進諸国では雇用保護規制の対象となっており、各国の法で何が不公正解雇(Unfair Dismiss)とされるかが規制されている[3][2]。労働に関する制度は、政府による法的な規制や個人や企業間で定着し存続している行動様式(慣行)によるものがあり、解雇に関しても各国で異なる[4]。
雇用慣行の面では、米国では比較的解雇が容易とされており、不況時に解雇(レイオフ)、景気拡大期に雇用の増加がみられる[4]。日本では米国ほど解雇は容易でなく、不況時には人員削減を可能な限り避けつつ、景気拡大期には雇用の増加ではなく残業の増加で対応する雇用慣行がみられた[4]。雇用慣行の違いは統計などによる国際比較で留意点とされている[4]。
俗称については「俗称」の節を参照。
国際労働機関(ILO)の1982年の雇用終了条約(第158号)においては、会社都合による解雇の際には、解雇予告期間もしくはその期間に準する解雇手当を与えるよう規制している。さらに第5-6条では具体的な不公正解雇ケースを挙げている。
第4条 労働者の雇用は、当該労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならない。
第11条 雇用が終了されることとなる労働者は、合理的な予告期間を与えられ又は予告期間に代わる補償を受ける権利を有する。ただし、当該労働者が、重大な非行、すなわち、当該労働者を当該予告期間中引き続き雇用することを使用者に要求することが合理的でないような性質の非行を犯したとされる場合は、この限りでない。
第12条 1.雇用を終了された労働者は、国内の法令及び慣行に従つて次のいずれかのものを受ける権利を有する。
— 1982年の雇用終了条約(第158号)
- (a) 使用者により直接支払われ又は使用者の拠出により設立された基金により支払われる離職手当その他の離職給付(その額は、特に勤務期間及び賃金水準に基づくものでなければならない。)
- (b) 失業保険若しくは失業扶助又は他の形式の社会保障からの給付(例えば、老齢給付、疾病給付)。ただし、これらの給付は、当該給付の通常の条件に従う。
- (c) (a)及び(b)に規定する手当又は給付の組合せ
なお以下の者は、この158号条約より除外することが可能である(第2条2)。
欧州社会憲章においては、解雇予告期間を設けることを人権条約の一つとして定めている。さらに解雇においては、労働者個人の能力・行為に関連する正当な理由、もしくは会社都合解雇においては、雇用主の事業、施設、サービス運営上の必要性に基づく必要があると定めている。
- 第4条 公平な賃金の権利
- 4. to recognise the right of all workers to a reasonable period of notice for termination of employment
- すべての労働者が雇用の終了について合理的な通知期間を持つ権利を認めること。
— 欧州社会憲章
- 第24条 雇用終了についての保護を受ける権利
- 雇用終了におる労働者の権利保護について、実効性確保のため、締結国は以下を認めることを約す。
- a. the right of all workers not to have their employment terminated without valid reasons for such termination connected with their capacity or conduct or based on the operational requirements of the undertaking, establishment or service;
すべての労働者が、労働者個人の能力または行為に関連する正当な理由、もしくは事業、施設、サービス運営上の必要性に基づくことなく、雇用を終了させられない権利- b. the right of workers whose employment is terminated without a valid reason to adequate compensation or other appropriate relief.
正当な理由なく雇用を終了させられた労働者が、適切な補償、またはその他の適切な救済を受ける権利。
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
雇用の解除については、労働基準法の制定以前より民法で規定されていたが、民法における雇用契約は当事者の交渉力や社会的地位が対等であることを前提としており、例えば期間の定めの無い雇用契約(定年まで働くような契約のこと)では、当事者のどちらからでも一方的に解除を申し入れることができる(民法627条)。しかし使用者の方が労働者よりも強い立場にあるのが通常であるから、労働者が解雇されるに当たっては、民法による保護では十分ではない。そこで、1947年(昭和22年)、労働基準法により、解雇する場合の最低基準が制定され、さらに現在では労働契約法など各種の労働法や判例法理によって、民法の原則が全面的に修正されている。
日本においては判例上、解雇の原因によって、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇に分けられる[1]。 法務上、従業員を解雇するためには少なくとも就業規則に解雇条件を明示する必要がある。
解雇は、使用者の一方的意思表示で行うものであるが、解雇は労働者の生活の糧を得る手段を失わせるものであるから、不意打ちのような形で行われることがないよう、各種の法制で規制が設けられている(解雇規制)。
退職に関する事項(解雇の事由を含む)は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていて(89条)、使用者は解雇の事由を就業規則に記載しなければならない。また労働条件の絶対的明示事項ともされていて(15条)、使用者は労働契約締結に際して労働者に対して解雇の事由を書面で明示しなければならない。
しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効として、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情に照らして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、2004年(平成16年)1月の改正法施行により18条の2に明記され、さらに2008年(平成20年)3月に施行された労働契約法により同法16条に移された。
(解雇制限)
第19条
- 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
- 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
解雇が具体的に制限されている場合として、労働基準法では次の2つを定めている。労働者の責めに帰す事由があっても、この解雇制限は解除されないが、天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長。以下同じ)の認定を受けた上で解雇制限が解除される(施行規則7条)。
「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった」として、認定申請がなされた場合には、申請理由が「天災事変その他やむを得ない事由」と解されるだけでは充分でなく、そのために「事業の継続が不可能」になることが必要であり、また逆に「事業の継続が不可能」になってもそれが「やむを得ない事由」に起因するものでない場合には認定すべき限りでない(昭和63年3月14日基発150号)。
業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、平均賃金の1200日分の打切補償を支払えば解雇の制限は解除される(19条1項但書、81条)。この場合は行政官庁の認定は不要である。もっとも、当該傷病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、打切補償を支払ったものとみなされて解雇制限が解除されるので(労働者災害補償保険法19条)、打切補償を支払って解雇制限を解除することは極めてまれなケースに限られる。
(解雇の予告)
第20条
- 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
- 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
- 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならないと説明されるものの、これは30日分の賃金を保証する必要があるのみで結局のところ即日解雇は認められている。解雇予告は、解雇日について何年何月何日というように特定しておかなければならない。解雇の予告及び解雇予告手当の趣旨は、失職に伴う労働者の損害を緩和することを目的としたものである。
30日間は暦日で計算し、その間に休日や休業日があっても延長しない。月給・年俸制等においては民法における解除予告期間が30日より長くなる場合であっても特別法である労働基準法の規定により、解雇予告義務は30日間に短縮されるという見解もあるが、労働基準法による規定はあくまで刑事罰を伴う責任であり、民事上は就業規則等で取り決めが無い場合は30日を超える予告義務が別に存在すると解することができる。予告自体は口頭で行っても差支えないが、実際には後日の紛争を防ぐために書面を交付する場合がほとんどである。予告を郵送によって行う場合は、投函した日ではなく相手方に郵便が到着した日が予告日となる(民法97条)ため、解雇日の設定は郵便事情をも考慮して設定しなければならない。民法627条2項の規定による予告の日数が30日に満たない場合は同条2項の規定は排除される(昭和23年7月20日基収2483号)。
解雇予告は原則として取消すことはできないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には取消すことができる。同意がない場合は予告期間の満了をもって解雇されることになるため、自己退職の問題は生じない(昭和25年9月21日基収2824号、昭和33年2月13日基発90号)。
解雇予告がなされても、その予告期間が満了するまでの間は、労働関係は有効に存続する。したがって、労働者は労務提供義務があり、使用者は賃金支払義務がある(昭和25年9月21日基収2824号、昭和33年2月13日基発90号)。解雇予告と同時に休業を命じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%である休業手当(26条)しか支払わなかった場合でも、30日前に予告がなされている限り、その労働契約は予告期間の満了によって終了する(昭和24年12月27日基収1224号)。解雇予告が有効と認められ、かつその解雇の意思表示があったために予告期間中に労働者が休業した場合には、使用者は解雇が有効に成立するまでの間休業手当を支払えばよい(昭和24年7月27日基収1701号)。なお、3月31日付けでの退職届けを出していたが、それ以前、たとえば3月15日に即日解雇された場合は、解雇予告手当として30日分の平均賃金の支払いをしなければならないため、15日以降の出勤日を休業させ平均賃金の6割である休業手当を払うほうが合理的である。
解雇の予告をしたにもかかわらず、解雇予定日を過ぎても引き続き労働者を使用した場合は、同一条件で労働契約がなされたものと取り扱われるので、その解雇予告は無効となり、その後解雇しようとする場合には改めて解雇の予告が必要となる(昭和24年6月18日基発1926号)。
予告期間満了前に労働者が業務上の疾病のため休業した場合、制限期間中の解雇はできないが、休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力発生が中止されたにすぎないので、休業明けに改めて解雇予告をする必要はない(昭和26年6月25日基収2609号)。
定年に到達したことで自動的に退職する「定年退職」の場合は解雇予告の問題は生じないが(昭和26年8月9日基収3388号)、定年に達したときに解雇の意思表示を行い、それによって労働契約を終了させる「定年解雇」の場合は20条による解雇予告の規制を受ける(秋北バス事件、最判昭和43年12月25日)。定年後の再雇用の場合は、単に労働者の職制上の身分の変動であって労働関係は継続して存続するものであるから20条の問題は生じない(昭和25年1月10日基収3682号)。
30日以上前に解雇を予告できない場合には、30日に不足する日数分以上の平均賃金を支払わなければならない(労働者が解雇予告手当の受領を拒んだため法務局に供託した場合を含む(昭和63年3月14日基発150号))。例えば10日前に予告した場合は、20日分以上の平均賃金を支払わなければならない。この不足する日数分の平均賃金の支払いを解雇予告手当という。
解雇予告手当は労働基準法上の「賃金」ではないが(昭和23年8月18日基収2520号)、解雇の申渡しと同時に、賃金と同様通貨で直接支払わなければならない(昭和23年3月17日基発464号)[注 4]。よって後日請求することはできず、時効の問題も生じない(昭和27年5月17日基収1906号)。使用者が労働者に対して金銭債権を有している場合であっても、解雇予告手当と相殺することはできない(昭和24年1月8日基収54号)。また健康保険法における「報酬」にも該当しないため、解雇予告手当を受け取っても標準報酬月額は変化しない。なお、解雇予告手当は税制上では「退職所得」となるため、退職金が存在する場合は合算して退職所得とする。
労働組合専従者を会社が予告せずに解雇する場合、専従期間中も会社に在籍するものである限り、解雇予告手当を支払わなければならない(昭和24年8月19日基収1351号)。
最低年齢の規定(56条)に違反して児童を使用した場合、使用者は解雇予告手当を支払って即時に解雇しなければならない(昭和23年10月18日基収3102号)。
事業譲渡により新会社に雇用された従業員を旧会社が予告なく解雇した場合、労働条件について著しい変更がなく実質的に雇用関係における権利義務の包括承継と認められる場合は解雇の問題を生ぜず、解雇予告手当の支給義務はない(昭和33年8月27日基収4107号)。
解雇予告手当を支払わずに労働者を即時に解雇できるのは、次の事由により行政官庁の認定を受けた場合である[注 5]。認定を受ければ、解雇の効力は認定を受けた日ではなく解雇の意思表示をした日に発生する。なお使用者が認定申請を遅らせることは法違反である(昭和63年3月14日基発150号)。ただし、行政官庁の認定を受けなくても、認定申請を行わなかった20条違反による刑事上の問題はあるものの、民事的には認定を受けるだけの事由があれば即時解雇は有効で解雇予告手当の支払いは不要というのが判例の傾向である(東京高判昭和47年6月29日ほか)。
しかしながら、上記の事由を満たさないのに、解雇の予告も、解雇予告手当の支払いもないまま即時解雇を通告することがままみられる。このような解雇通告は、即時解雇としては当然無効であるが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後30日の経過後又は解雇の通知後予告手当の支払いのあったときから解雇の効力が生ずる。つまり、解雇する旨の予告として効力を有する(昭和24年5月13日基収483号、最判昭和35年3月11日)。また裁判所は、解雇予告手当を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、未払金と同一額の付加金を支払うよう命ずることができる(114条)。なお下級審の判例によれば、解雇の意思表示そのものをどのように受け取るか(解雇の意思表示を無効と主張するか、あるいは解雇が有効であるとの前提で解雇予告手当の支払いを求めるか)は労働者の選択に任されていると解される(東京地判昭和41年4月23日他)[注 6]。
実際にはシフト・出勤日数の調整による事実上の解雇や、労働者側の法的知識が無い事、訴訟費用が十分に無い事を理由に、会社側は不当解雇と分かりながら違法な即日解雇を行う事がある。また会社側から損害賠償等で社員を告訴する、家族を人質に取る旨を仄めかす等、リストラ工作のために脅迫し自主退職に追い込むケースも多々見られるが、これらのケースでは、多くは労働者が告発した場合に企業が名誉毀損による告訴を盾に元社員の口封じを行う事が日常的に行われている。労働者側は不当解雇にあわないよう、記録を日常的に取る習慣をつける事が肝要である。また、会社側も解雇を行うには解雇の正当性を説明できるように労働者の日常的な問題の記録を取る習慣をつける事が肝要である。
第21条
- 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第1号に該当する者が1か月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
- 日日雇い入れられる者
- 2か月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
- 試の使用期間中の者
20条の規定は以下の労働者には適用されない。ただし以下の適用除外は解雇予告義務違反による刑事責任を免除されるだけであり、民事上の責任(民法627条、628条、労働契約法による中途解雇制限)をも免除されるわけではない(日雇いは除く)。それぞれの期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、解雇予告の規定が適用される。
解雇予告が行われると、最長で30日後に解雇となるため、それまでの所定勤務日数に相当する年次有給休暇を保持している場合は、解雇期日まで取得が可能となり、それを超過する分は法定最低付与分である場合は無効となり、法定以上の付与の分は買取が可能となる。ただし、解雇予告手当が支払われる場合は、解雇期日を短縮されるため、年次有給休暇は無効となる日数が増える。解雇は退職と違い労働者の予期せぬことなのでよく、トラブルとなり法律での保護など、議論を呼んでいる。
(帰郷旅費)
第64条
- 満18才に満たない者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。ただし、満18才に満たない者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りでない。
64条は、解雇された年少者が、帰郷旅費を持たないために身を持ち崩すことを防ぐ趣旨であり、戦前の工場法施行令27条を引き継いだ規定である。「帰郷」とは、本人の住所地に限らず、父母その他の親族の保護を受ける場合はその者の住所に行く場合を含む。また「旅費」には就業のために移転した家族の旅費も含まれる(昭和22年9月13日発基17号)。
19条、20条の規定により「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」の行政官庁の認定を受けた場合は、帰郷旅費の支給除外についても認定を受けたものとみなされる(施行規則7条、年少者労働基準規則10条)。
なお、かつては「女子の帰郷旅費」の規定もあったが(改正前の68条)、1986年(昭和61年)4月の男女雇用機会均等法の施行により廃止されている。
雇用保険法における基本手当の受給に当たり、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く)により離職した労働者は、「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、自己都合退職等による場合に比べ、所定給付日数が多くなる(雇用保険法23条)。また以下のような事情により離職した者も解雇等による離職として同様の扱いとなる(雇用保険法施行規則36条2号~11号)。
ユニオン・ショップ協定下において事業主に対して労働者の責に帰すべき事由がないにもかかわらず労働組合から除名されたために解雇された場合は、これらの基準に該当する者として扱われる。なお労働者が、使用者に解雇してほしいと依頼した結果、解雇となった場合は自己都合退職に準じて取り扱われる。
事業主は、その雇用する高年齢者等(常時雇用する45歳以上65歳未満の者に限る。以下同じ)が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他これに類するものとして厚生労働省令で定める理由により離職する場合において、当該高年齢者等が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該高年齢者等の再就職の援助に関し必要な措置(再就職援助措置)を講ずるように努めなければならない。公共職業安定所は、この規定により事業主が講ずべき再就職援助措置について、当該事業主の求めに応じて、必要な助言その他の援助を行うものとする(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律15条)。
事業主は、その雇用する高年齢者等のうち5人以上の者が解雇等により離職する場合には、原則として当該届出に係る離職の1か月前までに、その旨を公共職業安定所長に届け出なければならない(多数離職届、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律16条)。事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、解雇等により離職することとなっている高年齢者等が希望するときは、その円滑な再就職を促進するため、当該高年齢者等の職務の経歴、職業能力その他の当該高年齢者等の再就職に資する事項(解雇等の理由を除く。)として厚生労働省令で定める事項及び事業主が講ずる再就職援助措置を明らかにする書面(求職活動支援書)を作成し、当該高年齢者等に交付しなければならない(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律17条)。
事業主は、障害者である労働者を解雇する場合(労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合又は天災事変その他やむを得ない理由のために事業の継続が不可能となったことにより解雇する場合を除く)には、速やかにその旨を公共職業安定所長に届け出なければならない。この届出があったときは、公共職業安定所は、この届出に係る障害者である労働者について、速やかに求人の開拓、職業紹介等の措置を講ずるように努めるものとする(障害者の雇用の促進等に関する法律81条)。
解雇が無効とされ、地位確認請求を認容する判決が確定しても、現実に元の職場に復帰できる労働者は多くない。労働者の法的正当性が認められていも、使用者は心理的に労働者を受け入れにくいし、労働者もまた復帰するには相当の覚悟が必要だからである。解雇訴訟が和解(多くは労働者の退職と一定の解決金の支払いを内容とする)で終了することが多い原因もここにある[8]。
欧米諸国に倣って日本でも不当解雇に直面した労働者の救済方法として、企業による一定額の補償金の支払いを条件に労働契約の解消を認める金銭解決制度の導入が特に経営側から強く求められている[9][10][11]。一方、労働側は、金銭解決ではなく労働者の就労請求権を認めることにより労働者が現職に復帰しやすい条件を整えることのほうが重要であると説く[12][13][14][15]。厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」(2017年5月に報告書を公表)[16]で議論された際には「金銭救済制度については、法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等を含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当」とされ、さらなる議論を深めるために「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(2022年4月に報告書を公表)[17]が開かれた。ただ、依然労使の意見の隔たりが大きく、現時点で制度化の目途はたっていない。
労働基準法には、解雇手続きの要件(30日以上前に予告する、または同日数分以上の平均賃金(12条)を払う)が「労働者の責に帰すべき事由」があれば免除されるとある(20条)。これを解釈すると「30日分の平均賃金を払えば、特に理由が無くても解雇できる」となる。これは当初は解雇について一般的な見解であった。これに従って、「解雇の自由」を支持する判例[注 7]が出されている。
しかし、1950年代に下級裁判所において判例を積み重ねた法体系ができあがっていく中で、裁判所は労働者に対し様々な法的保護を与えていき、この結果、「解雇の自由」は「解雇の制限」へと変わっていった[18]。 20条の解釈を巡って、裁判官の間にあった2つの説[18]。
その後、2008年の労働契約法制定において、基準が明確化された。
アメリカには日本の解雇権濫用法理にあたる法理がなく、随意雇用原則(at-will employment doctrine)が確立されてきた[19]。不況による雇用量の過剰に対してレイオフによって迅速に人員削減をするのがアメリカ企業の手法であり、解雇の立法規制や判例法理の発達は限定的である。
随意雇用原則がある一方で、伝統的には労働協約によって解雇とする正当事由を定めるなど、労働協約で組合員である被用者の解雇を規制してきた[19]。しかし、労働組合組織率の低下に伴い、労働協約による規制力が縮小し、これに呼応して1960年代以降は差別規制法制を通して解雇を含めた労働条件が規制されるようになった[19]。
随意雇用原則は差別禁止法制のほか、報復としての解雇や内部告発者に対する解雇、陪審員や兵役さらに選挙権行使を理由とする解雇などが制定法で禁止されている[19]。また、随意雇用原則は先述の労働協約に定める正当事由(just cause)のない解雇にあたる場合も制限され、労働協約による苦情処理や仲裁手続による救済を求めることができる[19]。このほか各州のコモンローによる制約がある[19]。例えば、カリフォルニア州では雇用契約は「at will」すなわち相互の自由意志に基づくものとされ、期間の定めのない雇用契約では使用者の判断で特段の理由なしにいつでも労働者を解雇できる[20]。ただし解雇予告手当に相当するものの支払いは必要とされる。
雇用関係規制の増加と複雑化に伴い、個別企業内における裁判外の代替的紛争処理(alternative dispute resolution:ADR)も発達してきている[19]。
イギリスでは、余剰人員であること(Redundancy)、および個人の能力、資格、行動に起因する解雇は公正(Fair)とされる[21]。余剰人員理由の場合には、ビジネス上解雇が避けがたいことを証明する必要はない[21]。
イタリアでは、やむを得ない経営上の理由、および従業員個人の重大な契約違反といった、正当な理由もしくは正当な動機のみFairとされる[22]。余剰人員理由の解雇の前には、敗者復活戦(社内の別ポジションに異動させる)が広く判例で求められている[22]。レイオフ者には6か月間の優先的な再雇用権がある[22]。
なお人種、宗教、性別、労働組合活動などといった、差別を反映した解雇はUnfairとされる[22]。
スペインでは法律により労働者の解雇に厳しい制約がかかっている。そのため、外国企業の投資敬遠、外国人労働者の流入といった事態を招いている、という指摘がある[23]。
オランダでは、経済的余剰人員であること、および個人の行動や能力不足を理由とした解雇はFairである[24]。経済的理由の場合は、会社の財務データと人員余剰である根拠を示す必要があり、具体的には26週間以内に別の適切なポジションを用意できないことが条件である[24]。余剰人員の選定は、社歴および年齢に基づいて行われる[24]。
個別的理由であっても、以下の条件において無期雇用を解雇することができる[24]。
また、個人の能力不足やパフォーマンス不足に起因する場合の解雇は、合理的な期間内に別のポジションを用意できない場合にのみ可能である[24]。
ドイツでは、経済的・経営的理由、および個人の資質(たとえばスキル不足や能力不足)による解雇はFairであるが、裁判所はこの決定について、恣意的・不合理ではないか審議可能である[25]。
余剰人員理由の場合には、社会的理由(社歴、年齢、扶養)を考慮する必要があり、それがない解雇はUnfairとされる[25]。解雇前には再訓練を試行する必要がある[25]。
ドイツ企業の雇用調整は、日本企業(解雇規制が極めて強い)とアメリカ企業(解雇自由の建前)の中間にあるとされてきた。ドイツでは整理解雇について日本の「整理解雇の四要件」と同様の要件が課されているが、人員整理の前提となる企業縮小や合理化措置などについては、憲法上保障された企業主としての決定の自由が強調され、それに対する司法審査は、明白な非合理性のない限りなじまないとされてきた[26]。事実上解雇ができなかった雇用制度を改革するため、ゲアハルト・シュレーダー首相の政策「アジェンダ2010」の下、法律を改め、解雇をしやすくしたところ、ドイツ企業は競争力を取り戻すために相次いで大幅な解雇を実施した。短期的には失業者が500万人を超えたが、長期的には、雇用の流動性が高まり、逆に労働市場が拡大して失業者は減った。もっともシュレーダー首相は国民の不満を一身に浴びて退陣を余儀なくされた。
ノルウェーでは、経済的理由(事業リストラ)および個別的理由による解雇がFairである[27]。 経済的理由の場合、選択は客観的に正当な形で行う必要があり、裁判所はその選択について審議可能である[27]。判例では、社歴、年齢、資格、社会的配慮が選択基準となっている。レイオフの場合は再雇用で優先権を持っており、その期間は1年間である[27]。 また個別的理由も可能であるが、雇用契約の重大な違反(不誠実,長期欠勤など)に限定される[27]。
なお対象者に別のポストが確保可能な場合には、経済的理由による解雇はUnfairである[27]。年齢、労働組合活動、兵役、妊娠、病気休暇による解雇もUnfairである[27]。
客観的な理由がない解雇はUnfairとされ、その理由は2か月以上前に存在していた理由でなければならない[28][28]。
個人に帰する理由では、業務能力の欠如、違法行為、協業上の問題、ハラスメント、労働拒否、刑事犯罪などが解雇理由となる[28]。年齢や病気などによる能力低下の場合は、雇用主は転勤、再訓練、他の仕事への異動を試みる必要がある[28]。
余剰人員理由である場合には、解雇が不可欠であることを証明する必要はないが、従業員には以前の職に優先的に再就職する権利(最長9カ月間、勤続12カ月以上の者のみ)が与えられる[28]。レイオフ人員の選択は社歴の短いものからである[28]。
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