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国際関係についての学問 ウィキペディアから
国際関係論(こくさいかんけいろん、英語: International relations theory)は、国際関係についての学問。
国際関係論は国際社会において生起するさまざまな事象についての分析を行う研究領域である。政治学の一分野と考えられることが多い。これを既に独立した学問となっていると見なす立場からは国際関係学(こくさいかんけいがく)と呼ばれることもある。非常に総合的な社会科学としての性格を持っており、研究の方向性も社会科学的研究と地域研究に大別できる学問である。主要な研究対象は国家どうしの外交・安全保障・経済関係などだが、研究対象は必ずしも国際的な場面だけに限られるわけではなく、外交政策の決定過程などの国内問題も含まれる。また、伝統的な政治学の領域のみならず法学、経済学、社会学、心理学、歴史学、文化学、軍事学などの分野とも関連する学際的な研究分野であると言える。
国際関係論でもっとも大きな部分を占めるのが戦争の原因・過程と影響に関する研究である。最近ではゲーム理論などを応用した数理モデルを使って戦争の原理に関する理論が構築されており、定量的あるいは定性的な研究法を使った経験的な研究も盛んである。伝統的に、歴史上の影響の大きさから関心は国家間の戦争や世界戦争に向けられていたが、現在では内戦についての研究も盛んになってきている。
戦争・紛争以外の領域でも、様々な側面から国家の行動を説明しようとする試みが続けられている。その中でも、代表的なものはウォルツによる勢力均衡論である(国家戦略の類型としての勢力均衡とは別物)。突出した勢力を持つ国が現れるとそれに対抗する連合体が形成される傾向があるという仮説で、現在に至るまで修正を加えながら検討が重ねられているがはっきりと経験的に実証されてはいない。国家がどのような状況下で勢力均衡(バランシング)、追随(バンドワゴニング)、日和見(バックパシング)のような行動を取るかについては明確な結論は出ていない。
国際政治経済学(international political economy、略称:IPE)とは国家と国際市場の関係などの経済的な事象を分析する分野である。その起源は重商主義に求めることができる。これは貿易を保護しながら国富を拡大していくという考え方であり、18世紀のフランスやアメリカの国家政策でも新重商主義として採用された。またスミスやリカードなどによる正統学派の経済学は国際経済学の理論として比較優位説を構築し、政府の統制を受けない自由貿易は双方の貿易当事国に利益をもたらすことが可能であることを明らかにした。しかしマルクスの『資本論』によってマルクス主義 (Marxism) が登場し、政治学と経済学の理論的な合流を見ることができる。レーニンはマルクスの理論を発達させて資本主義が帝国主義にいたる過程を指摘してこれを非難した。この帝国論は従属論や世界システム論として発展を続けている。
日本における国際関係論は第二次世界大戦に敗北したことへの反省が出発点にある。つまり、敗戦の一因が、国際法・国際経済や各国事情を含む、広い意味での国際関係への多角的な理解を欠いていたことにあった、というものである。したがって、日本の国際関係論は少なくとも当初は広義の学際的なものとして構想された。その発祥の地である東京大学教養学部では当初、アメリカが主導するGHQの占領下という時代背景のもと、社会主義圏のソ連や中国を対象とする地域研究専攻が開設できなかった。そのため、専攻として開設できない地域についての社会科学的な研究、さらに既成の1つの社会科学分野に収まらない研究は全て国際関係論の対象となる、とされた時期もあった。しかしながら、広く解釈しても「国際的」とはいえないものまで国際関係論とすることへの違和感から、総合社会科学が派生することになった。
このような経緯から、日本において国際関係論は学際的なものであり単一の「学」ではありえない、またはあってはならない、という主張が、特に発祥の地である東京大学教養学部の国際関係論専攻出身者などに根強い。一方で広義の国際関係論にも既に相当の蓄積があり、独立した学問分野とみなしてよい、「学」となっているとみなす立場からは、「国際関係学」と呼ばれることもある。その他、一部では国際関係学を国際関係論と地域研究の総称として用いる場合もあるという。しかし広義の国際関係論には地域研究が含まれているという理解もあるので、国際関係論と国際関係学を使い分ける本質的な差とはいえない。なお、地域研究者の多くは、必ずしも国際関係論や国際関係学の一部として地域研究を行っているという認識を持ってはいない。
国際関係論では、世界をまず国家間システム=国際システム (inter-national system) と考えることが多い。国際システムは国家を基本単位とする体系であり、外交や経済などの複合的な関係性により構成されている。国家とは主権を保有する統治機構により支配された一定の領域(領土・領海・領空)と住民の総体である。住民は国家の管轄下に置かれているために国民と呼ばれる。この国民国家が並存するシステムは1648年に三十年戦争の講和条約として締結されたウェストファリア条約に基づいているためウェストファリア・システムとも呼ばれる。
また、国際関係についてのいろいろな哲学的・思想的立場も発展してきた。
リアリズム (realism) は国際政治には国内政治と異なって全システムを統制する一元的な権力機構が存在しないため、本質は無政府状態(アナーキー)であるとする思想。リアリズムは性悪説に基づく政治哲学に依拠する思想であり、理念や倫理の影響を重視せず価値判断を交えずに現実を直視して国際関係を客観視することを重視している。リアリズムは新現実主義 (neorealism)、さらに新古典現実主義 (neoclassical Realism) として発展している。
リベラリズム (liberalism) は国際法と国際制度が国家の行動や国際秩序に与える影響を重視する思想であり、リアリズムに対抗しながら発展してきた。その哲学的な基盤は多様であり、ベンサムの功利主義やカントの世界平和論などが挙げられる。最も初期のリベラリズムは理想主義 (idealism) でありその後に相互依存論、レジーム論、連邦主義、機能主義、新機能主義、交流主義などの展開を経てネオリベラル制度論 (neoliberal institutionalism) として現在でも主要な立場として位置付けられている。
コンストラクティビズム (constructivism)は理念という概念を中心とし、知識 (knowledge) や規範 (norm) などの集団的に保有される理念をもとに行為主体のアイデンティティと国益を考える立場である。コンストラクティビズムは合理主義 (rationalism) と省察主義 (reflectivism) の中間に位置する立場ともいえる。
批判的国際関係論 (critical international relations)は伝統的な主流思想であるリアリズムやリベラリズムなどを批判しながら発展してきた考え方で、フランクフルト学派による批判的社会理論を基礎としたものと、アントニオ・グラムシの思想に影響を受けたものがある。また、ポスト構造主義やフェミニズム思想からのアプローチも含まれる。
現在の国際情勢の変化を理解するため、また自国の国家政策のために活かすために研究する営みは古来より認められる。春秋時代における中国においては、国家の安全保障政策を論じた『孫子』が孫武によって記され、また古代ギリシアにおいてはペロポネソス戦争を叙述した『戦史』がトゥキディデスによって著された。さらに16世紀のイタリアにおいてはフィレンツェが生き残るためにマキャヴェリによって国家政策を論じた『君主論』が執筆され、これは国際関係論の主要な立場の一種である古典的リアリズム(現実主義)の基本的な考え方を確立した。
今日のような国際関係論が始まったのは20世紀であり、第一次世界大戦後の甚大な被害は国際秩序を構築するための研究の必要が広く認められるようになり、学問的な研究が本格化する。この研究はベンサムやカントなどの思想家たちによる政治哲学と合流した。そして従来の国家間の利害関係により左右される現実主義の立場とは別の流れを汲む世界平和を構築するための国際的な体制を構築する理想主義が出現することになる。カントは『永遠平和のために』の中で国際協調を推進する国際フォーラムの創設を論じており、これは1919年によって成立した国際連盟によって一応は実現された。この現実主義と理想主義の論争は国際関係論における第1の思想的論争として挙げられる。しかし第二次世界大戦の勃発は国際関係論における理想主義の立場を再構築させ、リベラリズムへの移行をもたらした。
1980年代には従来の二つの見方だけではなく合理主義やリフレクティビズムという立場が出現する。合理主義とは行為主体の利益最大化を基本的な原則として国際関係の因果関係や相関関係を論じる方法論である。反対にリフレクティビズムはその合理主義や実証主義に対して懐疑的な立場であり、行為主体の選好が変動することを十分に説明できないことを主張する。これは方法論を巡る第三の論争として行われ、さらに別の哲学的立場の構築をもたらすことになった。その新しい発展としてコンストラクティビズムがある。コンストラクティビズムは理念やアイデンティティなどの主観的な要素が関係性のなかで国際秩序を形成するという見方で、国益を絶対的な基準で測定することはできず視点の違いによって国益の定義は変化すると論じる。このような思想はソビエト連邦の崩壊や冷戦後の新思考外交に直面して考案されたものであり、現在の主要な哲学的立場のひとつとして位置付けられている。
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国際関係学部・国際学部を有する大学と、国際関係論が専攻可能な学部学科(国際関係学科及びそれ以外を含む)を有する大学を挙げる。国際関係学部・国際学部はもちろんのこと、政治学や国際法や学際分野を学べる大学、すなわち法学部や政治経済学部や教養学部・国際教養学部等が設置されている大学でも学ぶことができる。また、入門的な講義であれば、国際関係論(学)や国際政治学といった名前の科目は、より多くの大学で開講されているはずである。しかし、特に広義の国際関係論(学)についての理解や領域は、大学あるいは研究者の観点によって大きく異なる場合がある点に留意されたい。
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