Loading AI tools
手を覆う衣服 ウィキペディアから
手袋(てぶくろ)とは、人の手を熱や寒さや危険物から保護するため、もしくは装飾のために利用される、手(形態によっては腕やその一部を含む)を覆う衣服[1]である。
親指用と、他の指をまとめて入れるスペースが二つに分かれている手袋は、北海道方言でぼっこ手袋(「ぼっこ」は棒の意)、英語ではmitten[2] (ミトン)と呼ぶ[1]。それに対して5本指に分かれたものは英語では「glove グラブ(グローブ)」と呼んでいる[2]。 また、指を解放しているタイプのものもあり[1]、「オープンフィンガーグローブ」や「指抜きグローブ」などと呼ばれる。
手袋の素材は多様で、綿や羅紗、ポリエステル、ナイロン、アクリル繊維の布、毛糸、フェルト、牛や豚や羊の革・人造皮革、ゴム、ラテックス、ニトリル、金属、耐熱手袋にはアラミド繊維やシリコン樹脂も使われている。柔らかい布地で作られたウォッシンググローブ (英: washing glove) というものがあり、体を洗うのに使う。
手袋を着用する主な目的は手の保護である。冬の防寒具としては一般的であるほか、季節を問わず火傷や擦り傷、切り傷の防止、さらに汚れや素手で触ることが危険な化学物質、病原体からも手を保護する。ニトリル製、ラテックスやビニル製の使い捨て手袋は、医療従事者の間で感染症を防ぐ有効な手段として使われている。直接手に触れることで価値や有効性が減る対象物を、人間の皮脂などから保護するためにも手袋は装着される。例として各種製造過程での製品接触、美術品や骨董品の取り扱い、警察の捜査等がある。
フィンガーレスグローブは寒さから手を守る必要があり、なおかつ指先を自由に使えることが必要な状況で用いられる。手袋の中には、手首までではなく肘近くまで保護するものもあり、これらをガントレット(籠手)と呼んで区別することもある。
手を保護する必要がない場合でも、装身具として用いられることも多い。
世界中で手袋は生産されており、各家庭で編まれることも多い[注釈 1]。
フランス、イタリア、デンマーク、ハンガリーやカナダでは高価な女性用のブランド物手袋が作られている。アメリカ合衆国ニューヨーク州、特にグラバーズヴィルは手袋の産地であったことが知られているが、近年では多くの手袋が東アジアで作られている。日本では、国内製手袋の約90%が香川県東かがわ市周辺で作られている。
現存する手袋で最古のものは古代エジプトのツタンカーメン王の墓から発見されたもので、紀元前1343年 - 前1323年のものとされ、手首でむすぶタイプの麻製のものとされる[3]。
文献上では、古代ギリシア時代に遡る。ホメロスの『オデュッセイア』のいくつかの翻訳によると、オデュッセウスの父ラーエルテースは庭を歩く時に手袋をしていたとしている。しかし、他の翻訳によると、ただ袖で手を覆っただけである。紀元前440年に書かれたヘロドトスの著書『歴史』の中にレオテュキデスという人物が手袋、あるいはガントレット一杯の銀貨を賄賂として受け取った罪に問われていることが記述されている。古代ローマ人の記述の中にも、度々手袋が登場する。西暦100年前後に活躍した小プリニウスによると、大プリニウスは馬車に乗車中に口述筆記させていた速記者に冬の間は手袋を着用させ寒さの中でも文章を書けるようにしていたという。
ファッション、儀式、それに宗教のために手袋は用いられる。13世紀頃からヨーロッパでは女性の間でファッションとして手袋を着用するようになった。リネンや絹でできており、時には肘まである手袋が広まっていた。16世紀にイギリスの女王エリザベス1世が宝石や刺繍、レースで豪華に装飾されたものを着用した時に、手袋の流行は頂点に達した。オペラグローブと呼ばれる肘上から二の腕まで至る長い手袋がエリザベス1世女王、キャサリンデメディチ王妃、メアリー2世女王などの王族によって愛用された。長い手袋は貴族や王族と密接に関連しており、数千年の王族と権威の象徴とされ、多くの架空の女王、王女、貴族はドレスの一部としてそれらを身に着けているように描かれている[4]。
刺繍と宝石で装飾された手袋は皇帝や王の徽章の一部となっている。1189年にヘンリー2世が埋葬された時には、戴冠式のときに着用したローブと王冠、それに手袋とも共に埋められたと、マシュー・ペリーは記録している。1797年にイングランド王のジョンの墓を開いた時、それに1774年にエドワード1世の墓を開いた時にも、手袋が発見されている。
祭服としての手袋は、主にカトリック教会の教皇や枢機卿、僧侶たちが着用している。教義によりミサを祝う時にのみ着用を許されている。この習慣は10世紀に遡り、儀式の際に手をきれいにしておきたいという単純な欲求が始まりかも知れないが、特権階級として豊かになった聖職者たちが己の身を飾るためにつけたものが始まりかも知れない。フランク王国からローマにこの習慣は広まり、11世紀の前半にはローマでも一般的になった。
日本では、鎌倉時代に武士が身につける籠手として発達した。当時は「手覆」(ておおい)とも呼ばれた。日本の手袋は分類して、「藁手袋」と「布手袋」に別けられ、藁製は拇指と四指の二分に分かれている。民俗学の分野では、布製も「ワラテ」と呼ぶことから、布製は藁製よりのちに作られるようになったと考察される[5]。
15 - 16世紀に南蛮貿易によって西洋式の手袋が輸入され、珍重された。やがて国内生産も始まり、手袋づくりは貧乏武士の内職として盛んになっていく。手袋は俳句における冬の季語でもある。
女性皇族は常に白の手袋を携帯しているが、これは帽子と共にその貴族性を象徴する為の物である。皇室の晩餐会や儀式などの特別に改まった場面においてローブ・デコルテと併せてオペラグローブを着用し、ティアラ(小さな王冠)を付けることを基本としており、宮中ではこれを女性の最上級礼装としている[6]。
さまざまな分類法がある。
ひとつは最初に説明したように、形状で ミトン / グラブ と分類する方法である。 指が露出している形状はフィンガーレスグローブと分類し、腕まで覆うタイプをアームカバーと分類する。
ほかには使用目的で分類する方法もあり、医療用 / スポーツ用 / 作業用手袋 / 運転用手袋...といった分類がある。
スポーツ用もさらに下位分類することができ ボクシング用 / スキー用 /サッカー用 / 野球用 / ダイビング用...などと多種類ある。
なおゴルフ用や、サッカーのゴールキーパー用などは、手の保護に加えて、掴んだものを滑りにくくするグリップ性も重視している。
野球用グラブ・ミット、ボクシンググローブなど競技ごとに特化した手袋も存在する。
ただし一般的に専用の形状をしている物は手袋とは呼ばない事が多く、グローブなどと呼ぶ事が多い。
手術や鑑識の際に着用される医療用手袋の基礎となるゴム手袋は、「レジデント制度の父」と呼ばれるジョンズ・ホプキンス大学のウィリアム・スチュワート・ハルステッドが1890年に自身の恋人であった看護婦のキャロラインの為に発案した。
当時は消毒のために強力な消毒液に手を漬けて手術に挑まなければならず、手の皮膚が弱いキャロラインが消毒液による手荒れを防げるよう、ゴム手袋を発案した。殺菌性についても、既存の消毒液に手を漬けて行うものよりも強力であったために注文が殺到し、全世界の手術の現場で普及することになる[9]。
ちなみにその後、二人はこのことがきっかけで結婚することになったが、当のキャロラインはハルステッドと結婚して看護婦を引退したため、このゴム手袋を使うことは無かった。ラテックス製の手袋は、1964年にオーストラリアのアンセル社が開発した。
一般に食品産業や精密作業などで使用されるものは、100枚や50枚単位で箱に収め、ポップアップして使えるようになったものが利用されている。一方、手術用は衛生管理のため一双ずつ梱包してある。更に感染症を防ぐため滅菌処理を行っているため、価格も10倍以上違う。
2020年現在、世界で使われる医療用手袋の生産量の3/5はマレーシアで生産されている。同年3月から4月にかけて、マレーシア国内で新型コロナウイルスの感染拡大に伴いロックアウトが実施された際には、医療用手袋の供給不安を招いた[10]。
工場や農作業、工事現場での作業時には軍手をはめる場合が多い。軍手は防水性がないため、水仕事など液体を扱う時にはゴム製や合成樹脂製の手袋を、油や電動工具の研磨などを取り扱う場合は、怪我防止や粉塵に触れないために豚革や牛革の手袋を使うこともある(軍手は繊維を巻き込み危険なので使えない)。シンナーやトルエンなどを扱う時は、溶剤専用のゴム手袋を使う。
また、自動車やオートバイ、自転車などを運転する時に滑り止めや防寒や安全のために、そのほか、警備員が手旗の代わりに用いたり、タクシー等の運転手が礼装をアピールしたり手やハンドルを汚さないために用いる。
スマートフォンの操作に必要な指が発する静電気や指紋認証を妨げないように、導電性素材の使用や形状が工夫されている[11]。逆にタブレットPCで静電容量式スタイラスを用いるときに物理的にパームリジェクション機能を実現するための小指、薬指のみの絶縁体手袋もある。
イブニングドレスやウェディングドレス等の女性礼服に用いられる[12]長い手袋をイブニンググローブという。材質は革か布、色は白か黒色が多いが慶事では白色が主流である[13][14]。手袋の長さはドレスの袖の長さによって選ぶべきもので[15]、袖が短いほど手袋は長くなり、袖なし(ノースリーブ)のイブニングドレスでは肘より上までの長いものも用いる[16]。ウェディングドレスでは長い手袋ほどフォーマル性が高く、特に長いものは肘上から二の腕あたりまですっぽりと覆う長さがあり、これをオペラグローブという。
また、警察官や消防吏員も、出初式や年頭出動訓練など、礼装の際には白手袋をはめる。
神社で神職が御霊代奉戴などを行う時、手が触れないように専用の手袋を用いる。白布製で拇指と四指とに分けた仕立てで、手元の紐で手首を括るようになっている[17]。
作業用は白が多い。一部の警備会社では略して「白手」(しろて)と呼ぶ。本来は燕尾服やタキシードなど夜の正装に用いて、モーニングコートなど昼には用いなかったが現在は昼夜関係なく用いられている。色は白が幅広く用いられているが厳密には燕尾服には白、モーニングコート・フロックコートには灰色、タキシードは黒となっている(背広で代用した場合も同じ)が現在は気にせず白や灰色を用いることも多い。ウェディングドレスの場合は、手袋の色はドレスの色を乱さないよう白色が標準である。弔事には服装を問わず灰色や黒を用いる。
手袋製造のポイントは、親指の位置に起因する3次元性と、着脱時手幅と装着時手首幅の両方を受け入れる手首部分の柔軟性にある。
なお、日本では「革又は合成皮革を製品の全部又は一部に使用して製造した手袋」について、家庭用品品質表示法の適用対象となっており、雑貨工業品品質表示規程に定めがある[18]。
通常は2つで1セットとして扱われる手袋が、不注意などで片方だけ落とし物となり、路上などに放置されることがある。こうした「片手袋」に注目する人もおり、ドイツの版画家マックス・クリンガーは1880年代、こうした片手袋を女性が拾ったことから始まる連作『手袋』を制作した。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.