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ゆがけ(弓懸、弽、韘[1])は日本の弓道・弓術において使用される弓を引くための道具。鹿革製の手袋状のもので、右手にはめ、弦から右手親指を保護するために使う。製作する職人は『かけ師』(ちなみに、弓は『弓師』、矢は『矢師』)と呼ばれる。鷹狩で使用されるものも同様にゆがけ(鞢・餌掛け)と呼ぶが、こちらは形状が多少異なり左手にはめる。
ゆがけは、和弓の登場時から親指に弦を掛けて弓を引く「蒙古式(右図Fig.3)」の取り掛けをする、日本の射法に合わせて独自に発展した道具である。時代ごとの流派や射術、弓射のあり方の変遷に伴い、ゆがけもその時代ごとに改良が重ねられ、現在の形に至る。今日使われているゆがけは中世に武士が使用していたものとは基本的な作りから異なり、一般的には「三ツガケ」あるいは「四ツガケ」と呼ばれる親指(帽子)と手首(控え)が固めてあるものが使用されている。
ゆがけをはめることを、「ゆがけを挿す」という。原則として「正座をしてゆがけを挿す・外す」「弓射以外の作業を行う際は必ずゆがけを外す」ことが基本的な作法である。ゆがけを挿す際、下に「下ガケ」と呼ばれる木綿等の薄い生地でできた肌着のようなものを付けるが、これは手汗を吸い取り湿気からゆがけを保護するためのもので、手汗をかいた場合はこまめに取り替えるのが好ましい。
三ツガケは親指・人差指・中指、四ツガケは親指から薬指までを覆い、親指には木(あるいは水牛等の角)を指筒状にくり抜いたものが親指全体を覆うように仕込まれている。さらに親指根から手首部分が固めてあり、ゆがけを挿してカケ紐で手首を適度に巻き締めることにより、手首から親指までは動きの自由度がほとんどなくなる。このため、ゆがけを挿したままでは物をつかむなどの行為が困難になるため、弓射以外の作業を行う際はゆがけを外すことになっている。
ゆがけの親指根には弦が引っかかる程度の浅い段差(弦枕)が付けられており、ここに弦を掛けて三ツガケは中指、四ツガケなら薬指を親指先に掛け、手首に適度なひねりを加えることによって弦は保持される。滑り止めに「ギリ粉(ぎりこ:松脂を煮詰めて乾燥、粉末状に砕いたもの)」を中指から人指し指まで、または薬指から人指し指までと親指先にまぶし、なじませて使用する。
弓射において、ユガケの作りの良し悪しは行射の良し悪しに直接関わる極めて重要な要素であるとともに、長年使い込まれて射手の手になじんだゆがけは簡単に新調できるものではない。良い作りのユガケは、適切な手入れを行っていれば一生涯もつと言われている。これらのことから、ゆがけは大切に扱うことが大事であるとされるうえ、(言語学的根拠に乏しいが)「カケ、変え」から転じて「かけがえのない」という言葉の語源だと、弓道家の間でしばしば言われている。
ゆがけの親指には指筒状にくりぬかれた木、または水牛等の角(総称して「角」と呼ばれる)が入り、控え(手首部分)には牛革が固めのために入っている。親指を角に入れ固めることによって、弦の圧力から親指を保護し、控えを固めることによって手首の負担を軽減、また控えによって機械的なばねの効果を持たせ“離れ”の際に有利に働くようになっている。
革には原則として鹿革が使用される。これは柔軟性・吸湿性・耐久性・きめが細かく肌触りがよいという点から鹿革が最も適しているためである。まれに装飾目的で別の革が使用される場合もあるが、装飾においても多くは印伝等の鹿革由来のものが使われる。
鹿革は「燻革(ふすべかわ)」に加工したものを使う。これはなめした鹿革を藁を燃した煙でいぶしヤニを付ける(いぶし染め)ことによって茶色に染めたものだが、いぶし染めを施すことで防菌、防虫効果を高め、また革を柔らかくしている。鹿革をその他の色に染める場合も、いぶし染めを施してから染められている。ゆがけの縫い目は一般的な縫製品に比べ非常に細かく、特に名人とされる弓懸師・弽師(ゆがけし・かけし)の手縫いは精緻を極める。
鹿革には「大唐(おおとう)」「中唐(ちゅうとう)」「小唐(ことう)」「チビ小唐(ちびことう)」といったグレード分けがされており、大唐は大人、小唐は子鹿と言ったように鹿の年齢からなる。若い革の方がきめが細かく柔らかいためゆがけには最適だが、高価である。1枚の鹿の革の中で最適な厚みやきめ、傷の有無など、一番良い所から革を取るため、鹿一頭からはゆがけ1つ分の革しか取れない。鹿革はすべて中国等外国からの輸入品であるが、近年養鹿業は採算が合わないとして数が減りつつあり、将来的な供給が危ぶまれている。
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