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本項目では、食肉(しょくにく、英語: Meat)のうち、食用にする肉[1]について述べる。主に鳥類を含む動物の肉、畜産動物または野生動物を食肉加工したものについて解説する[2]。
『広辞苑』の「食肉」の項目では、説明の1番目に「魚鳥獣などの肉を食うこと」とあり、説明の2番目に「食用とする鳥獣の肉」を挙げており、本記事は後者についてである。
日本で食肉と言う場合、鳥類(主に鶏肉)または獣の肉を指していることが多く、日常語としては単に「肉」と呼ばれる。鳥獣と同じ動物である魚類はしばしば除いて、それは「魚(さかな)」と別枠でとらえる習慣がある。魚の食用となる部分をあえて指す時は「魚の身」と呼ぶほか、「魚肉(ぎょにく)」と表現されることもある。
英語では食用の肉は英: meatと呼んでいる。英語では魚のそれを「fish meat」「fish flesh」などと呼んで指すこともある。
昆虫食の対象となるイナゴ、ハチ(はちのこが食用される)なども通常は肉と呼ばれないが、『日本食品標準成分表』においては「肉類」に分類される。
屠畜直後の筋肉は、死後硬直のため硬い食感となり、そのまま食用に供することはできない。このため一定の熟成(後述)を経て解硬させてから食用とする。このように熟成による解硬プロセスを経たものについて、生体内の筋肉と区別する意味で特に食肉と呼ぶ場合がある。
食肉に付随する組織を食肉と呼ぶかについて、通常は骨格筋中の血管および神経組織や、骨格筋に付随する皮下脂肪組織および筋間脂肪組織も、狭義の「食肉」に含むものとして取り扱われる。精肉の段階で骨がついている場合(骨付きの鶏もも肉やスペアリブなど)もあるが、このような場合の定義づけについては判然としない。
肉として流通する部位、また骨格筋と皮以外の産物を畜産副生物と呼ぶが、このうち食用のものを可食臓器類と呼ぶ。いわゆる臓物、略称でモツ(モツ肉)と伝統的に呼ばれてきたものである。実際には頭肉や横隔膜(ハラミ・サガリ)のように骨格筋でありながら、これまでの商慣行で内臓の一部とされてきたことから臓物・副生物に分類されているものもある。このような部位は、科学的には食肉に分類されるが、商取引上は可食副生物として流通する。
一般に家畜化された哺乳類を肉畜と呼ぶ。牛、豚、羊、山羊(やぎ)、馬、トナカイ、スイギュウ(水牛)、ヤク、犬、ラクダ、ロバ、ラバ、ウサギなどが用いられる。その肉の詳細はそれぞれの記事(牛肉、豚肉、羊肉(綿羊肉)、山羊肉、馬肉、トナカイ、スイギュウ、ヤク、犬肉、猫肉、ウサギ肉)を参照。
主に消費されるのは豚肉と牛肉で、それ以外では羊肉の消費が牛肉の数分の一程度あるくらいで、微々たるものである。
食用に供する家禽(飼育鳥)を食鳥と呼ぶ。一般的に鶏、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウ、ガチョウ、ウズラ、カワラバトなどを指す。だがその他の家禽であっても、食用に供する場合は食鳥と定義される。
食鳥肉の中では鶏肉の消費が飛びぬけて多く、牛や豚とともに世界で最も消費される食肉のひとつである。それ以外の食鳥肉では、七面鳥の消費量が米国でクリスマスの時期に極端に伸びるのを除き、鶏肉に比べれば微々たるものである。
肉畜に分類されない動物でも、イノブタ、ダチョウ、大型小型を問わないネズミ類など、食肉を得ることを目的として肥育される場合がある。
野生動物の食肉としては、イノシシやシカ、クマ、ウサギなどがあり、狩猟されて食される。また、家禽でない鳥類も狩猟により捕獲して食用に供される。フランスなどヨーロッパではこれら野生動物の肉をジビエと呼んで愛好してきた伝統があり、日本でも獣害対策の一環として商品開発と消費の促進が進められている[3]。
野生のさまざまな鳥類が、世界ではハンターによって狩られ、供給されている。フランスでは野生の鳥類の肉も「ジビエ」と呼び愛好する。
マガモ、アヒル、ヤマウズラ、キジ、ライチョウ、カラス、ハトなどである。日本では江戸時代は(牛肉や豚肉が全然食べられていなかったので)鴨(カモ)の肉「鴨肉」が食べられ、鴨肉に一定の評価があり、鴨鍋(かもなべ)が高級店で提供されたり、鴨蕎麦(かもそば)が老舗そば店などで提供されている。
本項では食肉の主な成分と、それらが栄養や味および香り、さらに健康機能などにおよぼす影響を述べる。
生食をすれば、その鳥獣の種類や飼育環境、鮮度によっては寄生虫や食中毒の危険性がある[4]。
食肉の主な成分は水であり、他にタンパク質、脂質、無機質、ビタミンなどで構成される。
家禽(鳥)や魚は含まない、牛豚羊馬ヤギの肉である赤肉については、摂取量が多いと結腸直腸がん、心臓疾患、糖尿病のリスクの高まりから、鳥魚豆よりも健康を保つのに最適な食事ではないとされる[5]。肉に含まれるヘム鉄は、発がん性物質のN-ニトロソ化合物(ニトロソアミンなど)の生成を促す[5]。
霜降りの多い食肉は脂肪の含量が多すぎることから、健康状態(運動不足など)によっては極端に脂肪の多い食肉を摂取しないよう指導する場合もある。動物性脂肪の摂取のし過ぎは生活習慣病との関連から問題視されている。
豚肉は日本人に欠乏しがちなビタミンB1の優れた給源である。
味や香り、見た目といった食肉の官能特性は、含まれる成分によりもたらされるものである。
食肉を機能性食品として取り扱う例はあまり多くないが、前述の鉄の吸収が良い点などを機能性として紹介する例がある。
21世紀初頭では、主に畜産によって生育させられた動物は、屠畜場(食肉工場)へ送られ、屠殺(屠畜、屠鳥)され解体され、食肉が製造される[10]。そして必要に応じて熟成を施したり、ハムなど加工肉の原料となる。
ジビエ(野生動物の狩猟による肉)の料理を提供するレストランのシェフのもとに直接に届けられることも多かったが、ジビエ類の解体・熟成を専門に行う業者もいる。
肥育とは、食肉を得ることを目的として家畜を飼養管理することである。誕生直後から肥育を行うことはあまり無く、一般的に肥育に適する月齢まで育成したものを肥育に供する。肥育期においては、肉が十分つくだけでなく、肉質が十分高まるような管理が行われる。牛肉1キロを得るためには、その10倍の穀物が必要とされている[11]。
もともと乳牛であったものがその用途に適さなくなり、食肉として出荷する廃用牛であっても、そのまま出荷せずに一定期間の肥育を行ってから食用とされることがある。
肉質は遺伝的因子や飼料成分、および飼養環境などにより変動する。
熟成は、死後硬直したままの肉では食用に供せないため行われる製造工程である。硬直中の肉はさらに低温で保存すると、再び軟らかくなり(解硬)風味が増す。これは筋肉細胞に残存するタンパク質分解酵素プロテアーゼにより筋源繊維が小片化するためであると考えられているが、その他にも筋肉中のCa2+イオンが関与しているとする説もある[12]。熟成は基本的に枝肉の段階で行われる。
熟成に要する期間は畜種ごとに異なる。2〜5℃で貯蔵した場合、牛は7〜10日、豚は3〜5日、鶏は半日ほどで解硬される。ウシなどの場合は、解硬のみならず、熟成によって生じる独特な香気を十分に発生させるため、十分解硬した後もさらに長期に熟成させることもある[13]。
食肉の流通形態は、大きく屠体、枝肉、部分肉、精肉に分けられる。また、加工品として流通する場合もある。
食肉の輸送は、生体のままで輸送する場合、枝肉や部分肉の状態でチルドで輸送する場合、あるいは凍結で輸送する場合がある。部分肉は真空包装で輸送されることも多い。
生体で輸送される場合は、基本的には農家から市場(屠畜場)までの輸送である。
食肉は客観的な規格により格付を受け、その結果により価格が形成される。格付規格はいくつかの国で制定されているが、そのうちアメリカ合衆国、オーストラリア、日本のものについて述べる。
米国においては農務省(USDA)による格付制度[注釈 1]が確立されており、牛肉については8段階で肉質が格付される。豚肉については日本と異なり脂肪交雑(霜降り)の基準も確立されている。
豪州においては、Meat Standard Australia(MSA)と呼ばれる規格により格付が行われる。日本や米国と異なり、枝肉ではなく、部分肉の段階で格付されるのが特徴である。
日本では、牛肉および豚肉について日本食肉格付規格[注釈 2]により格付が行われる。
加工肉と呼ばれ、食肉は、その保存性や市場価値を高めるため加工されることがある。主要な加工品はハム・ソーセージである。保存性や官能特性を高める加工法として、塩漬、加熱、燻煙、発酵、乾燥などが用いられる。
食肉は、基本的に加熱調理をし食用に供される。加熱調理は、加熱によって細菌を死滅させることで衛生を確保するとともに、食感を改善し、風味や香気を付与する。
また、加熱のほかにも食感や風味、香気の付与を目的とした調理操作がある。本記事ではこれら調理操作のうち特に食肉に特有な内容について述べる。総論については調理に記述する。
食肉の加熱調理の意義は以下のとおりである。
食肉自体にも呈味成分は含まれているが、多くの場合、味や香りの付与を目的として調味することが多い。また、一部の調味料は食感の改善をもたらす場合がある。
加熱しない場合は他の方法で細菌を殺す必要があるので、酢(殺菌作用がある)をたっぷり含んだ調味液でマリネして食べられる場合もある。
極地のイヌイットなど、農耕をせず新鮮な植物性食品から必須ビタミンを摂取できなかった地域、民族では、必須ビタミンをとるために、アザラシなどの狩りをした際に、殺した直後のアザラシの腹をその場でさばき、新鮮でまだ細菌が繁殖していないうちにその場で食べる食文化も存在する。
食肉を主食に近い形で扱っている国々では、食肉科学はひとつの分野を形成している。専門的な国際学術雑誌もいくつか発行されており(著名なものとしてはMeat Science誌[17])、また毎年国際食肉科学技術会議[18]が開催されている。
日本では小規模ながら日本食肉研究会[19]と呼ばれる学術団体が存在している。
全世界の食肉生産量は、2018年の統計では3億4100万トン[22]。
2018年の肉の種類別の生産量の内訳は次のとおり[22]。鶏肉 1億2731万トン[22]、豚肉 1億2088万トン[22]、牛肉 7161万トン[22]、羊肉・ヤギ肉 1577万トン[22]、アヒル肉 446万トン[22]、ガチョウ肉 265万トン[22]、狩猟肉(ジビエ)211万トン[22]、馬肉 79万トン[22]、ラクダ肉 55万トン[22]。
地域別の生産統計では、2018年の統計で、アジア 1億4371万トン、ヨーロッパ 6385万トン、北アメリカ 5173万トン、南アメリカ 4612万トン、アフリカ 2017万トン、中央アメリカ 889万トン、オセアニア 669万トン[22]。
国別の生産統計では、2018年の統計で、中国 8816万トン、アメリカ合衆国 4683万トン、インド 745万トン、イギリス 409万トン[22]。
日本の国内生産においては上記3種の占有率はさらに高くなり、牛肉・豚肉・鶏肉の三種類の生産量合計は全食肉生産の99.7%にのぼる。日本でもっとも生産量の多い食肉は鶏肉であり、2010年には142万トンが生産された。ついで多いものは豚肉であり、同年の生産量は129万トンだった。3番目に生産量の多いものは牛肉で、51万トンにのぼった。これ以外に日本で統計上有意な食肉生産量のあったものは多い順からウマ、ヒツジ、ヤギ、シチメンチョウの4種があったが、馬肉が6千トンの生産量があったほかはいずれも150トンから数十トンにすぎず、非常に小規模の生産にとどまっている[23]。またこのうち、ウマは九州地方の消費が飛びぬけて高く[24]、ヤギは南西諸島に消費がほぼ限定される[25]ことも特徴となっている。
主要食肉三種の生産量は2018年には豚肉が11994万トン、鶏肉が12030万トン、牛肉が7422万トンとなると予測されており、鶏が豚を抜いて最も多く生産される食肉になると予測されている[26]。1970年から2010年にかけての40年間で、牛肉生産は62.5%、豚肉生産は205%、そして鶏肉生産は545%の増産を示した[27]。どの種類も生産量はかなり増加傾向にあるが、なかでも鶏の生産は飛びぬけて急増する傾向にある。これは、牛や豚に比べ狭い場所で集中的に飼育できるうえ、この2種に比べて個体が小さいため価格が安く頭数を増やしやすいこと、食用鶏であるブロイラーは豚や牛に比べ少ない飼料で大きくなるため効率が良いこと。さらに宗教的背景として、ヒンドゥー教において禁忌とされる牛肉食やイスラム教において禁忌とされる豚肉食とは違い、鶏肉を禁忌とする宗教がほとんど存在しない[28](肉食全体を禁じる宗派を除く)ため、世界中のどの場所にも需要が存在して地域的な偏りが少ないことなどが挙げられる。
食肉生産は先進国においては需要の伸び悩みから生産量も横ばいあるいは減少傾向にあるが、発展途上国においては経済の成長と、それに伴う生活水準の向上によって食肉の消費が急拡大している。そのため食肉生産も急増を続けており、上記の食肉生産の世界的な拡大は発展途上国における生産量の増大をその主因としている。
FAOの2023年のレポートの分析によると食肉の需要は2040年頃までは高中所得国が牽引し増加し、その後2075年頃までは低所得国が牽引し増加すると予想されている。また、その後21世紀の後半では需要の減少がよそうされ、資源や環境の問題から減少の時期は更に早かる可能性もある[29]
一人当たり食肉消費の多い国には北アメリカ、西ヨーロッパならびにオセアニアの先進国が名を連ねている。これは所得水準が高く肉をふんだんに食べることができる経済的条件と、肉食を好む食文化、遺伝的な胃腸の能力などの要因がある。こうした国々においては食肉消費量は多いものの、一人当たりの消費量はほぼ上限に達しているため消費量は頭打ちとなっている。一方、新興国においては一人当たり食肉消費量は先進国に比べて少ないが、経済的な成長に合わせ食肉消費量も急増する傾向にある。
日本の食肉消費は2013年には一人当たり30kg[31]であり、他の先進国から比較して4分の1から3分の1程度の消費量しかなく、群を抜いて低いものとなっている(さらに砂糖、果物などの植物性高エネルギー食材の消費も日本は群を抜いて低い)。また、この食肉消費の内訳は、日本人一人当たりで鶏肉12kg、豚肉12kg、牛肉6kgとなっている[31]。
食肉とは食用にする動物の肉のことを指すが、世界各地においてそれぞれの地域で育まれてきた文化的伝統がある。ある地域で珍重される食肉が他の地域においては全く食べられず、食品としてすら扱われないといったことは珍しいことではない。世界で最も一般的な食肉である牛肉、豚肉、鶏肉ですら、そういった地域差が存在する。こういった差異の中で最も顕著なものは、宗教的タブーによる制限である。たとえば牛肉は世界のかなりの地域において最も好まれる肉であるが、インドにおいてはヒンドゥー教が牛を聖獣としているため全く食べない人が多いばかりでなく、牛肉の生産・流通を法的規制や暴力的手段で阻止しようとする動きすらある[32]。一方、豚肉はイスラム教では不浄の食べ物として忌み嫌われる存在であるためイスラーム圏では食肉として扱わない。
またある地域で、特定の種類の食肉が特に好まれ大量に生産されることもある。シチメンチョウは世界5位の生産量のある食肉であるが、生産及び消費は原産地でもある北アメリカ、特にアメリカ合衆国に片寄っており、2010年度の総生産量の48%がアメリカ一国で生産された[25]。羊肉はどの地域でもそれほど消費量が多い肉ではないが、例外的にオセアニア、特にニュージーランドにおいては突出して消費量が多く、牛豚鶏の三種とそれほど遜色ない消費量となっている。オーストラリアにおいてもニュージーランドほどではないものの、やはり羊肉消費は他国と比べて多い傾向にある[33]。中国人のなかの多数派(漢民族)は基本的に(イスラームやヒンドゥーでもなく)宗教的制約が無く、豚肉を好んで食べ、人口が多いので豚肉の世界消費量を押し上げている。
明治以降の日本だけに焦点をあてた場合でも、東日本では豚肉の消費量が多く、西日本では牛肉の消費量が多いとされる。ただし西日本でも、九州や沖縄では豚肉の方が消費量が多い[34]。
鳥獣の身を使わず、豆類などから食肉や肉加工品に似せた味わいを持たせた「植物肉」が開発・販売されている[35]。将来予測される食肉不足、健康志向や菜食主義から鳥獣肉を避ける消費者向けの需要を見込んでいる[36]。
こうした現代の技術で開発された加工食品だけでなく、植物性食材から肉に似せた料理を作る技術は、日本の精進料理や中華圏の素食(台湾素食など)に伝承されている[37]。
動物を殺傷せず食肉となる部位の細胞を組織培養することで、工業的に生産する培養肉の研究が行われている。しかし、大量生産技術が確立していないこと、生産コストが高いなどの理由から一般的に普及はしていない。
食肉の摂取は癌の増加につながる可能性があるが[39]、食事中の少量の炭水化物を動物性タンパク質に変換することにより、認知機能を保護することに関連している。しかし、動物性タンパク質よりも植物性タンパク質に変換する方が効果的であり[40]、食事中の動物性タンパク質から植物性タンパク質へのわずかな3%の変換でさえ、より長い寿命と関連している[41]。豚肉や牛肉よりも魚介類や鶏肉の方が健康的だが、炙り焼きなど肉を炙る調理法は、たとえ魚介類や鶏肉であっても体に非常に悪いので、避けるべきとのことである[42][43][44]。
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