『白鯨 』 ( はくげい 、( 英 : Moby-Dick; or, The Whale ) は、アメリカ の小説家 ・ハーマン・メルヴィル の長編小説 。
概要 白鯨 Moby-Dick; or, The Whale, 著者 ...
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本作は実際に捕鯨船 に乗船して捕鯨 に従事したメルヴィルの体験をもとに創作され、1851年に発表された。アメリカ文学 を代表する名作、世界の十大小説 の一つとも称される。たびたび映画 化されている。原題は初版(1851年)の英国版が『The Whale 』、米国版が『Moby-Dick; or, The Whale 』であるが、その後『Moby-Dick; or The White Whale 』とする普及版が多く刊行されており、日本では『白鯨』の題が定着している。
本作品は、沈没した悲運の捕鯨船でただ一人だけ生き残った乗組員が書き残した、白いマッコウクジラ 「モビィ・ディック」を巡る、数奇な体験手記の形式をとる。
本作品は大長編である上に、難解かつ全体の雰囲気が暗鬱で、読み通すことが難しいことでも名高い。鯨 に関する当時の知識の叙述や、当時の捕鯨技術の描写などストーリー外の脱線が多く、またイシュメイル やエイハブ など人名が旧約聖書 から象徴的に引用されていることなどが、名前が知られているほど愛読されていない理由の一つである[注 1] 。
『白鯨』原書(1892年刊)のイラスト。Augustus Burnham Shute (1851–1906)
アメリカ の捕鯨船団が世界の海洋に進出し、さかんに捕鯨を行っていた19世紀後半、当時の大捕鯨基地・アメリカ東部のナンタケット にやってきた語り手のイシュメイルは、港の木賃宿 で同宿した、南太平洋 出身の巨漢の銛 打ち・クイークェグと出会い、ともに捕鯨船 ピークォド号に乗り込んだ。
出航のあと甲板に現れた船長 のエイハブは、かつてモビィ・ディックと渾名される白いマッコウクジラ に片足を食いちぎられ、鯨骨製の義足 を装着していた。片足を奪った「白鯨」に対するエイハブ船長の復讐心は、モビィ・ディックを悪魔の化身とみなし、報復に執念を燃やす狂気と化していた。エイハブの狂った復讐心は、エイハブを諌める冷静な一等航海士スターバック、常にパイプを離さない陽気な二等航海士のスタッブ、高級船員の末席でまじめな三等航海士フラスク、銛打ちの黒人ダグーやクイークェグ、インディアンのタシテゴなど、多様な人種構成の乗組員にも伝染し、乗組員一同は、白鯨に報復を誓う。
数年にわたる捜索の末、ピークォド号は日本 沖でモビィ・ディックを発見・追跡する。白鯨と死闘の末にエイハブは海底に引きずり込まれ、損傷したピークォド号も沈没する。イシュメイルのみが生き残り、棺桶を改造した救命ブイにすがって漂流の末、他の捕鯨船に救い上げられる。
イシュメイル
この物語の語り部。放浪の水夫だが捕鯨船乗組みは初めて。ピークォド号では見張り担当。
エイハブ
捕鯨船ピークォド号の船長。かつて白鯨に片足を奪われ、それ以来復讐心を胸に抱いている。歳の離れた妻と子供を港に残して出港する。
クイークェグ
南太平洋のとある島の、西洋人から人食い人種と呼ばれる部族出身の銛打ち。イシュメイルの友人。キリスト教の文明世界に憧れて故郷を訪れた捕鯨船に乗り込むがすぐに幻滅し、故郷の信仰を守りながら放浪している。ピークォド号に乗り込んでからはスターバックの専属となる。
スターバック
捕鯨船ピークォド号の一等航海士。ナンタケット 出身のクエーカー教徒 。
スタッブ
同二等航海士。コッド岬 出身。
フラスク
同三等航海士。マーサズ・ヴィニヤード 出身。
ダグー
黒人の銛打ち。フラスクの専属の部下。
タシテゴ
ネイティブアメリカンの銛打ち。マーサズ・ヴィニヤード 出身。スタッブの専属の部下。
フェダラー
謎めいた東洋人。拝火教徒 。エイハブ直属の銛打ち。
ピップ
黒人の少年。シップキーパー(捕鯨作業中に本船に残る留守番役。船番)。
パース
ピークォド号乗組みの鍛冶屋。
イライジャ
ナンタケットの波止場にいた謎の男。
海の野獣 (英語版 ) (1926年)
ミラード・ウエッブ (英語版 ) 監督、ジョン・バリモア 主演。サイレント映画 。ただし、原作が余りに暗く難解なため、大幅にアレンジされた。足を失う前のエイハブの姿が描かれ、エイハブが愛するエスターという美女や彼の舎弟デレックなど原作に存在しない人物が登場する。更にラストはエイハブが白鯨を倒し、エスターと結ばれるハッピーエンドとなっている。
海の巨人 (英語版 ) (1930年)[注 2]
トーキー 。こちらも原作をアレンジしていたと言われている。
白鯨 (1956年)
3度目の映画化で、ジョン・ヒューストン 監督、グレゴリー・ペック 主演。『白鯨』という邦題が初めて映画にも使われた。原作に忠実に作られたが、前2作に比べて興行的に大失敗となった。暗く難解な原作を再現したため、観客が作品のストーリーや雰囲気に付いて行けなかったのが敗因と言われる。しかしその後、『ジョーズ 』などの海洋パニック映画 の原点として再評価された。権利関連は主演のペックが所有していた[注 3] 。
白鯨伝説 (1997年)
出﨑統 監督のTVシリーズ。原作を大幅にアレンジしたSFアニメ 作品。
モビー・ディック (英語版 ) (1998年)[注 4]
フランク・ロッダム (英語版 ) 監督のTVシリーズ。主演はパトリック・スチュワート 。
バトルフィールド・アビス (2010年)
トゥリー・ストークス (英語版 ) 監督のアメリカの映画作品 。
白鯨 MOBY DICK (英語版 ) (2011年)[注 5]
マーク・バーカー (英語版 ) 監督の全2話のTVシリーズ。前編は『冒険者たち』、後編は『因縁の対決』の日本語タイトルがつけられている。
白鯨との闘い (2015年)
ロン・ハワード 監督のアメリカの映画作品 。厳密には小説作品としての『白鯨』の映画化ではなく、『白鯨』の物語のモデルとなった1820年の捕鯨船エセックス号に起こった襲撃事件(マッコウクジラによって船首に穴を開けられ沈没、乗組員21名のうち生存者は8名のみ)を調査したナサニエル・フィルブリック (英語版 ) (Nathaniel Philbrick) のノン・フィクション『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇 (英語版 ) 』(“In the Heart of the Sea-The Tragedy of the Whaleship Essex-”) を映画化した作品である。
上記以外にも、『トムとジェリー 』に「白いくじら 」(Dicky Moe、1962年7月1日)のエピソードがある他、舞台を中世ファンタジー世界に置き換えたアメリカ映画 『エイジ・オブ・ザ・ドラゴン (英語版 ) 』(2011年)がある。
白鯨「モビィ・ディック」のモデルは、実在した白いマッコウクジラの「モカ・ディック 」だとされる[6] 。
本作には聖書のエピソードが数々登場し、エイハブ (Ahab) とイシュメエル (Ishmael) の名も旧約聖書 の登場人物、イスラエル 王アハブ 、そして、アブラハム の庶子イシュマエル に因む。
作中、船が目指す海域として「Japanese sea」「coast of Japan」という表記が使われるが、これは日本海 や日本近海という意味ではなく太平洋 でマッコウクジラ が多く生息するハワイ ・小笠原諸島 ・釧路 [ 要曖昧さ回避 ] を結んだ三角形の海域「ジャパン・グラウンド(Japan grounds)」を指す当時の捕鯨関係者による呼称である[7] 。また補給の問題に関連して日本の鎖国 について言及されている(条約港 を参照)。海図を確認する場面で『Niphon』の表記が登場しており、当時はこの表記も使われていたことが確認できる。
実際にピークォド号のモデルとなった19世紀 の捕鯨船ツー・ブラザーズ号はハワイの近海で発見された。2008年から行われたNOAA (アメリカ海洋大気圏局)の調査により、2011年に発見された残骸はハワイのホノルル から約1,000キロの浅瀬にあり、船の索具、錨 2基や捕った鯨の脂を融かす器具3点のほか調理器具[9] が含まれている[注 6] 。
コーヒー チェーン店「スターバックス 」の名前は、本作の一等航海士スターバックに由来する[11] [12] [13] 。スターバック は当時のナンタケット島でよく見られた姓で、鯨取りのスターバック[注 7] は言うなればパン屋のベーカー氏、といったニュアンスである。なお135章からなる作品中に、コーヒーという単語がスターバックとともに登場するのはただ1箇所で、油を切らして無心にきた捕鯨船の船長が手にしていた油差しをコーヒーポットと誤認する場面である。スターバックとコーヒーに特段の関連はない。
フィリップ・ホセ・ファーマー 、チャイナ・ミエヴィル 、夢枕獏 などが本作のパスティーシュ 小説を書いている。
原書
Moby-Dick (1851年) アメリカ版
Melville, H. (1851a). The Whale . London: Richard Bentley - 全3巻 (第1巻 viii+312頁;第2巻 iv+303頁;第3巻 iv+328頁) いわゆる英国版。1851年10月18日発行。
Melville, H. (1851b). Moby-Dick, or The Whale . New York: Harper and Brothers xxiii+総635頁。いわゆる米国版。出版日は1851年11月14日と推定される。
Melville, H. (1979). Moby-Dick, or The Whale . Moser, Barry(木版画挿絵). San Francisco: Arion Press . http://www.arionpress.com/catalog/006.htm 2017年6月5日 閲覧。 - B・モーザーによる木版画100点を挿絵に採用した総部数265部の限定版で250部を頒布。愛書家団体Grolier Club が上位100冊に数えるなど、20世紀最高のアメリカの出版物として認められている[16] 。
Melville, H. (1988). “109 Ahab and Starbuck in the Cabin” (e). Moby-Dick, or The Whale . Northwestern-Newberry Edition of the Writings of Herman Melville. 6 . エバンストン : ノースウェスタン大学 出版会. ISBN 9780810102682 . https://books.google.co.jp/books?id=mccZA9jAhfgC&pg=PA899&lpg=PA899&dq=Niphon%E3%80%80Moby&source=bl&ots=mRfWrhWPU-&sig=KfDwww74gf2KWbv2cbCPCHzkqyU&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwiDwcv3vdTfAhVMdXAKHZ3HBqMQ6AEwBnoECAEQAQ#v=onepage&q=Niphon%E3%80%80Moby&f=false 2019年1月4日 閲覧。 - アパラタス全文を付録した研究書。記述は他の版に引用されている。総1048頁。
Melville, H. (2009). Moby-Dick . Kent, Rockwell(挿絵). The Folio Society . オリジナル の2017-02-20時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170220120757/http://www.foliosociety.com:80/book/MBY/moby-dick 2017年6月5日 閲覧。 - 限定出版、Rockwell Kent による挿絵281点入り。
日本語訳
初完訳版は阿部知二訳で、1941年に第一部が、1949年に再版と続編が出版、のち旧岩波文庫版や各社「世界文学全集 」で刊行。 1950年代に、富田彬訳、宮西豊逸訳、田中西二郎訳も出版。現行の文庫判 は、改版と新訳版が出ている。
注釈
日本で影響を受けて書かれた作品に宇能鴻一郎 の『鯨神 』[2] があり、共通点、相違点については、渡辺利雄 『アメリカ文学に触発された日本の小説』参照。
『ジョーズ』の脚本には「鮫狩りのクイントが映画館で『白鯨』を観て、それを嘲笑う」というエピソードがあり、権利を所有するペックに許可を求めたところ、「『白鯨』を嘲笑うことではなく、単に『白鯨』が気に入っていないから、今更世間に著されるのは嫌だ」として断ったとスピルバーグ は語っていることから、作品の出来に満足していなかったことが窺える[5]
A・スターバックがアメリカ合衆国の魚類漁業委員会に提出した捕鯨業界の報告書パートIV(1875年)を「長官報告 付録A. 海の漁業 (アメリカの捕鯨)」(1876年)に改版、後に『アメリカ鯨漁業の歴史— その初期の発端から1876年まで』(仮訳)に改題するとオンラインで公開している[14] [15] 。
出典
2012年8月22日発売「ジョーズ コレクターズ・エディション」の特典映像より。
オンライン版あらすじ - Fogus, Michelle (2012年), Quicklet on Howard Schultz's Pour Your Heart into It:How Starbucks Built a Company One Cup at a Time (CliffNotes-like Book Summary and Analysis) , Hyperink, ISBN 9781614646778 , OCLC 968098627 。
マイクロフィッシュ版1式 (8 x 13 cm)、768頁 Starbuck, Alexander (1970). History of the American whale fishery, from its earliest inception to the year 1876 . Library of American civilization. Chicago: Library Resources. OCLC 970934005 . LAC 11647
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