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自然界における火災 ウィキペディアから
山火事(やまかじ、英語:wildfire)とは、自然界における火災の日本語での総称。山でなく、平坦な土地の森林や草原で発生・延焼する場合も含み、その対象に応じて森林火災(しんりんかさい)、山林火災(さんりんかさい)、林野火災(りんやかさい)、原野火災(げんやかさい)などともいう[1]。乾燥や強風といった条件が重なると火災旋風に発展することもある[2]。
地球温暖化により頻度および規模が増大しており各地で大きな被害を出しているほか、山火事の多発が地球の大気中で温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)を増やしたり、北極と南極の氷や永久凍土の融解を促したりして温暖化を加速させる一因になっている[3][4]。
落雷や火山噴火などによる自然発火。特に落雷による山火事は1975年以降、毎年2‐5%のペースで増加している[5]。病害虫による立ち枯れや熱波などで乾燥した樹木の枯れ枝や枯れ葉は、摩擦により発火を起こすことが報告されている[6][7][8]。
猛禽のトビ、フエナキトビ、チャイロハヤブサは、雷などで自然発火した火を別のところに運び延焼を起こし、逃げる小動物を狩る習性がありファイアホーク(Firehawk)と呼ばれる[9]。
人間の手によるたき火、野焼き(火入れ)、焼畑農業、ゴミなどの野外焼却、タバコの不始末、火遊びなどによる失火、あるいは放火等が主因である[10][11][12]。
その他、電力会社が敷設する電線のショートによる発火、航空機の墜落、蒸気機関車の煙突から出る火の粉による火災もある(「物的損害」も参照)[13][14]。
アメリカ合衆国の2017年調査では気候変動によって件数と範囲が増加傾向にあることが示された。 イーストアングリア大学などの研究チームが2020年に発表した分析でも、地球温暖化が山火事の激化要因であることが示唆されている[15]。過去40年間で山火事の発生件数は10倍以上に膨れ上がっており、その背景は地球温暖化の進行で山が高温、乾燥状態になるためと分析されている[15]。
国連気候変動枠組み条約のフィゲレス事務局長は、 気候変動と山火事の関連性について「もちろん、確実にある。いまだ(二つの間の)直接的なつながりは解明していないが、明らかなのは、現代の科学が熱波が増加しており、それが今後も続くと示していることだ」と答えた[16]。
航空機やヘリコプターによる散水や消火弾の投下、消防車による放水の他に、樹木を帯状に伐採して防火帯を形成して自然鎮火を待つといった方法がある。
アメリカ合衆国やオーストラリアなどでは、落雷などにより自然に発生した山火事は自然のサイクルの一現象としてとらえ、人命に影響しない限りむやみに消火しないといった方策をとる場合もある。またロシアには、地元当局に森林火災の消火を義務づけないことを決めた政令を定めている[17]。これは 消火のための予算不足が理由で、火災が人家などに危害を及ぼさず、消火にかかる費用が森林消失で予想される損失を上回る場合は、地元自治体は火災を監視するだけで、消火しなくてもよいとしている。
航空機を用いて、空から消火活動を行う。 広大な森林や険しい山が多い国では、林野火災の現場まで消防車がたどり着けないことが多く、空中消火専門の消防隊が存在している。国によっては消防隊ではなく軍隊、警察や国境警備隊、山林を管轄する機関、民間企業などが行っていることもある。
アメリカ、ロシア、カナダで組織されている、遠隔地の山火事の現場にパラシュートで降下し、初期対応を行う消防士のこと。スモークジャンパーと呼ばれる。隊員は現地に到着後、難燃剤の散布、木を切り倒して防火帯を作るなどの作業にあたる[20]。
ヘリコプターで火災現場に人員を輸送し、迅速な消火活動を行う部隊。ヘリタックと呼ばれる。ヘリコプターは乗組員を乗せて出発し、隊員は火災現場近くで降下、地上でチェーンソーなどの機材を用いて防火帯を構築する。
速やかな消火と消火活動の強化を目的として、火を意図的につけて消火する方法。大規模火災において、通常の消火方法では消火不能と判断された場合に最終的手段として使用される[21]。火災進行方向にある可燃物の事前焼却を目的とするバーン・アウト、火災進行方向の変更を目的とするバック・ファイア(迎え火)、バックファイアの拡大を促進するカウンター・ファイアと呼ばれる消火方法がある[21]。
通常は地上の消防隊員により着火されるが、アメリカでは燃料タンクを吊り下げたヘリコプターを用いて、空中から着火することもある[22][23]。
高温の炎と大量の煙によって死亡する。2023年のハワイ・マウイ島山火事では114人の死亡が確認され、アメリカ国内の山火事としては過去100年で最悪の被害となっている[29][30]。
2019年のオーストラリア森林火災では、危険とされる基準値の11倍に達する大気汚染が生じ、多くの住民が目や呼吸器の苦痛を訴え衛生担当者が懸念を表明する事態となった。煙は学校へも到達し、子どもたちは早退させられた。この汚染は一ヶ月以上継続している[32]。
アメリカ・カリフォルニア州では山火事による煙で、一時世界で最も大気が汚染された都市となった[33]。
炎は家屋に延焼し住居や車、家畜などの財産が焼失する。2023年のハワイ・マウイ島山火事では2,200棟以上の建物が損壊、 経済的な損失額は30億ドル(約4億円)から75億ドル(約1兆875億円)の間とも推定されている[34][35]。
山に生息する野生の動植物への影響は大きく、2019年のオーストラリア山火事では約4億8000万の哺乳類、鳥類、爬虫類が死んだと推定されている[36]。豪政府のレイ環境相は「地域に生息するコアラの30%以上が死んだ可能性がある」と発言、地元メディアは最大8000頭のコアラ死亡の可能性を報じている[37]。また川も灰で汚染されることで、大量の魚が死滅する[38][39]。
樹木の焼失により山の吸水・保水能力は低下し、降雨を吸収することが出来なくなる。それによって土砂が流出しやすくなり、大雨のたびに洪水、土砂くずれ、土石流へと連鎖する[40]。
山火事によるオゾン層の破壊が指摘されている[41]。 米マサチューセッツ工科大学などの研究チームは、大規模な山火事がオゾン層を破壊する可能性があると英科学誌ネイチャーで発表。「温暖化によって頻繁に激しい山火事が起きれば、オゾン層の回復を遅らせる可能性がある」と警鐘を鳴らしている[42]。
以上のように甚大な被害を引き起こすため、戦争時には、戦術の一つとして敵国内に山火事を引き起こすことが試みられることもある。第二次世界大戦において、日本軍はアメリカに大規模な山火事を起こすためオレゴン州の山林に焼夷弾を投下した。
日本の法律では、山火事を生じさせた場合以下の法律により処分される可能性がある。
アメリカ合衆国では、オレゴン州の森林に花火を投げ入れて約194平方キロ以上の森林が焼失する大規模な山火事の発端となった少年(当時15歳)に対し、36661万ドル(約40億円)を賠償するよう求める判決が出た[45]。 また少年には、5年間の保護観察と、林野当局と一緒に1920時間の奉仕活動が課されている[45]。
カリフォルニア州で2017年と2018年に発生し、100人が死亡した山火事では、大手電力会社PG&Eの老朽化した電気設備が火災の原因とされた。同社は被害者から300億ドル超えの請求を受けるとして会社再生法を申請[46]。その後総額135億ドル(約1兆4600億円)の賠償金を支払うことで和解した[47]。
日本国内では立木等の被害に対して賠償を求められた例がある。高知県内の国有林に小型機が墜落、7‐8haのスギ林が燃えた例では、所有者の国が搭乗者の遺族に対して4,500万円の損害賠償を求める訴訟を起こした[48]。
山火事が頻発するような地域に生える植物には山火事に適応した形態や生態を持つものがある。防火として典型的なものでは樹皮を厚くし枝や表面が燃えても枝が下から生える胴ぶきするものがある。また、地下部の温度は地上部に比べて上がらないことから、地上部が焼損しても生き残れるように地下部に栄養を蓄えるリグノチューバをもつもの、地上部が損傷しても残った根や幹から芽を出して再生する萌芽再生の能力を高めたものなども知られる。
また、親となる植物の個体が焼損しても次世代に託す仕組みをもつものがあり、火災の熱で果実が割れて種子を散布したり、火災による温度上昇を地中で休眠中の種子が感知して発芽に至るような仕組みをもつものがある。山火事直後の土壌は競合する植物や病原菌が少なく、苗木にとって好適な環境であるため自身の生存ではなく次世代に託す戦略を持つ植物も多い。地中海沿岸やオーストラリアに成立する森林は硬葉樹林と呼ばれ、夏季の乾燥と山火事の多さが特徴である。
菌類ではマツ類に寄生するツチクラゲ(Rhizina undulata)の胞子が山火事後などの地温が高温の時に発芽することが知られている。また。アミガサタケ属(Morchella)のうち、北米産の一部の種では山火事の後に豊作になるといい、灰によって土壌がアルカリ性に傾くことなどが原因として考えられている。
そのほかにも、山火事で焼けた枯れ木に卵を産む虫タマムシやキクイムシと、その虫の幼虫を餌にする鳥セグロミユビゲラが繁殖しやすい[59]。
山に生息する動物は焦げた匂いを嫌うが、これは山火事から離れるためとされる[60][61]。
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