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キーウ近郊のブチャで2022年3月に発生したとされる大量虐殺 ウィキペディアから
ブチャの虐殺(ブチャのぎゃくさつ、ウクライナ語: Бучанська різанина、英語: Bucha massacre)は、ウクライナ侵攻初頭の2022年3月にウクライナのキーウ(キエフ)近郊のブチャとその周辺でロシア軍が民間人を殺害したとされる事件。
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ウクライナの検察当局によると、ウクライナ軍が奪還したブチャを含むキーウ近郊の複数の地域から、計410人の犠牲者が発見されたとした[2][3]。また国際連合人権高等弁務官事務所によると73人の民間人の殺害を確認したとしている[4][5]。ブチャ解放1年後の2023年3月時点で、1400人以上が殺害されたと推計している[1]。
ウクライナのほか欧米や国際人権団体が戦時国際法違反と非難しているが、ロシア連邦政府は関与を否定している[6]。
ロシアは国連安保理事会を開催してキーウ近郊のブチャで行われたロシア政府が言うところの「ウクライナの兵士及び過激派による犯罪行為」を議論することも求めたが、議長国であるイギリスは予定されていたウクライナに関する協議を日程通り開催した。ウクライナ当局はロシア軍が同地域から撤退した後、首都キエフ郊外の町中に数百人の遺体が散乱しているのを発見したことを受け、ロシアによる戦争犯罪の可能性を調査していると発表した[7]。2022年のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、これと同じことがウクライナの他の多くの地域でも観察されており、したがってロシア軍による一貫した慣行であると指摘した。[8]
国連人権理事会が設置した調査委員会は2023年3月、ロシアによる民間人への攻撃や虐殺、それに子どもの連れ去りなど戦争犯罪にあたる行為が確認されたとする報告書を公開した[9]。
ブチャ事件(ブチャじけん)とも呼ばれる[10]。
2月17日にアメリカのバイデン大統領はロシアはウクライナ侵攻を決断したと「確信」していると述べた。ロシアは2022年2月24日にウクライナへの攻撃を開始し、ブチャ住民の証言によれば、ロシア軍は2月27日に同市へ侵攻し[11]、その後約1か月間にわたりブチャを占拠していた[12][13]。ウクライナ軍は激しい抵抗・反撃を行い、ロシア国防省によれば、ロシア軍は3月30日にブチャを完全撤退した[14]。ブチャ市長のアナトリー・フェドルクは4月1日、「3月31日は、私たちの街の歴史に刻まれるだろう。ロシア軍から解放された日として」と述べ、3月31日にブチャを奪還したと発表した[15][16]。その後ウクライナ政府は4月2日、ブチャを含むキーウ州全域をロシア軍から解放したと発表した[12]。その後ブチャに入ったAFP(フランス通信社)などの記者によって、民間人とみられる多数の遺体やそれらを埋葬したとみられる集団墓地が確認された[13]。
ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは4月3日、アメリカ合衆国のテレビネットワークCBSの番組で、ロシア軍による一連の行動はジェノサイドであると主張した[2]。イギリス首相のボリス・ジョンソンは声明で「プーチンとその軍団による新たな戦争犯罪だ」と激しく非難し、経済制裁やウクライナへの軍事支援を強化する考えを示した[2]。一方、ロシア国防省は4月3日、「市民の誰一人としてロシア軍による暴力を受けていない」とロシア軍の関与を一切否定し、殺害された人々の映像や写真は「ウクライナ側による挑発だ」と主張した[2]。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使も4日、ブチャで撮影された遺体はロシア軍撤退前にはなかったと記者団に述べ、「遺体は突然、路上に現れた」「一部は動いていたり息をしたりしていた」「ウクライナ側が情報戦争を仕掛けた」としていた[17]。しかし、アメリカの宇宙技術会社マクサー・テクノロジーズが、ブチャがロシア軍占領下にあった3月半ばに撮影し、4月4日に公開した衛星画像でも民間人と見られる遺体が確認された[17]。『ニューヨーク・タイムズ』は4月1日と2日に撮影された動画と衛星画像を比較し、遺体の多くが少なくとも3週間放置されていたと結論付けた[17]。
4月5日、ゼレンスキー大統領は国際連合安全保障理事会での演説の中で、今回の件は「第二次世界大戦以降、最も恐ろしい戦争犯罪」であるとしてロシアを改めて非難した[18]。また、衛星写真などを基にすることで「全面的かつ透明性のある調査を行うことができる」と語り、虐殺に関与した人物を処罰するため国際刑事裁判所などと協力する意向を表明した[18]。さらに、安保理常任理事国のロシアによる拒否権行使により安全保障理事会が機能していないことについて「拒否権を死をもたらす権利に変えようとしている」と訴え、常任理事国による行使の制限を求めた[19]。国際連合憲章に基づくと、国連総会で投票国の3分の2の合意があればロシアを常任理事国から解任することは可能である[20]。ただしその決議の批准国には全ての常任理事国の賛成が必要であり、当然その投票に拒否権を行使することが可能であるため、現実的には不可能である。
ブチャ解放から一周年の2023年3月31日に開かれた追悼式典で、ウクライナのゼレンスキー大統領は「世界はこの街のことを忘れない。我々はあなた方のことを決して忘れさせない」、また「我々は決して許さない。全ての犯罪者に罰を与える」と演説し、ブチャ解放戦に従軍した兵士を表彰した。
4月4日、ウクライナ国防省情報総局はブチャでの虐殺に関与した可能性があるロシア兵1,600人余りの名簿を公開した[22]。名簿には、氏名や階級、生年月日などが記載されており、ウクライナ政府は戦争犯罪に関わったロシア軍の兵士を今後特定し、追及する姿勢を示した。[23]。ウクライナのボランティア団体であるInformNapalmは、ブチャで撮った部隊の写真をTwitterで公開したヤクート人などからなる極東地域のハバロフスク地方の露中・露朝国境付近に駐屯する、前述の第64独立自動車化狙撃旅団が虐殺に関与したと主張している。なお大半の兵士は「スラヴ系の白人」である[24]。また、ブチャの住民は、ロシア軍ではなく、モスクワから来た年配のロシア人からなるロシア連邦保安庁(FSB)の特殊部隊がブチャに入ってから虐殺が始まったと証言している[25]。ブチャ市長のフェドルクは、ラムザン・カディロフ率いるチェチェン部隊やブリヤート人の関与を指摘した[26]。
4月18日、ロシア大統領府は、プーチン大統領が、ブチャでの虐殺に関与したとされるロシア陸軍の第64独立自動車化狙撃旅団に対し、「親衛隊」の名誉称号を授与する大統領令に署名したと発表した。プーチンは同日付の書簡で、同狙撃旅団が「祖国を防衛し、ロシアの主権と国益を守る」ために示した「特別な功績、偉大な英雄行為と勇気」を称賛した[27][28]。
6月29日、アメリカ合衆国財務省は第64独立自動車化狙撃旅団と第76親衛空挺師団 (ロシア空挺軍)の第234親衛空襲連隊に制裁を科した。第76親衛空挺師団は民間人の処刑や拘留者への殴打に関与し、第234親衛空中機動連隊はブチャの家屋などの民間財産の破壊に直接関与していたとしている[29][30]。
ウクライナの検察は2023年3月31日時点で、関与が疑われるロシア兵約100人のうち35人を起訴済みで、コスティン検事総長は、虐殺が「ウクライナの国家と国民を破壊しようとする戦略の一環」「犯罪者が判決を受けるまで、我々は歩みを止めない」と語った[1]。
ブチャに入ったAFP通信の記者は「静かな並木道に、見渡す限り遺体が散乱していた」と伝えた[31]。記者が確認した約20人の遺体は、いずれもジーンズやスニーカーなどを身に着けており、軍人には見えない服装だった[31]。イギリスのサンデー・タイムズは、ブチャの民家の地下室で、両手両足を縛られ切断された子どもを含む男女18人の遺体が見つかったと報道した[31][32]。遺体の一部は耳が切り取られ、ほかは歯が抜かれていた[33]。キーウ・インディペンデントが発表したレポートには、ロシア兵が道路脇で焼こうとした毛布の下の男性と2、3人の裸の女性の写真が含まれていた[34]。ウクライナ当局は、女性は強姦され遺体は焼かれたと述べた[35]。イギリスの『ガーディアン』は、ロシア軍が移動中にウクライナの子供たちを車両に乗せ、人間の盾として使用したとする目撃証言を報道した[36]。『ガーディアン』によれば、3月5日、逃げようとする2家族が乗った一対の車がチカロヴァ通りに入ったところをロシア兵に発見され、殺害されていた[37]。AP通信は、ブチャ住民の話として、ロシア軍が地下の防空壕に潜入して住民のスマートフォンを調べ、SNSの履歴などから反ロシア的であると判断した人を射殺したり連れ去ったりしたと報道した[2]。
地元の医療関係者によると、3月13日の時点で67人の犠牲者が出ていたという[16]。ロシア軍の撤退前の3月28日付の記事で、ブチャ市長のフェドルクは「第二次世界大戦中にナチスが行った犯罪として聞いたあらゆる恐怖を、ここブチャで目にしている」と述べ、ロシア兵による虐殺があったと指摘している[38]。ブチャ市長のフェドルクは4月3日、民間人約280人を集団墓地に埋葬したと述べた[13]。亡くなった民間人の数は集計中であり、フェドルクによればブチャだけで320人にのぼるという[26]。
12月21日、『ニューヨーク・タイムズ』はヤブロンスカ通り沿いの犠牲者のうち、36人の身元を特定したとする記事を掲載。犠牲者の家族や友人・同僚に取材して人物を特定し、衛星画像・携帯電話のビデオ・SNSの投稿・テキストメッセージから犠牲者の最期の瞬間を辿る内容となっている[39]。関与した22名の兵士も特定している[40]。
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