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鳥のこと、羽あるいは翼のある、二足歩行で吸熱、産卵をする脊椎動物 ウィキペディアから
鳥類(ちょうるい、Aves)あるいは鳥(とり)は、竜弓類に属する脊椎動物の一群である。
鳥類 Aves | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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現存している鳥類およそ30の分類目のうち、 代表的な18種を示す。(クリックして拡大) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Aves Linnaeus, 1758[3] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
鳥 鳥類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Bird | |||||||||||||||||||||||||||||||||
下位分類群 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
飛行を得意とした動物である。現生鳥類 (Modern birds) はくちばしを持つ卵生の脊椎動物であり、一般的には(つまり以下の項目は当てはまらない種や齢が現生する)体表が羽毛で覆われた恒温動物で、歯はなく、前肢が翼になって、飛翔のための適応が顕著であり、二足歩行を行う[6]。後述の通り、本綱を爬虫綱竜盤目獣脚亜目に分類し、綱および目を廃止するとする説もある。[要出典]
現存する鳥類は約1万種であり[7](これまでの各分類に基づき、8600種[4]や、9000種[5]などとしているものもある)、四肢動物のなかでは最も種類の豊富な綱(分類目)となっている。現存している鳥類の大きさはマメハチドリの5cmからダチョウの2.75mにおよび、体重はマメハチドリが2g[8]、ダチョウは100kgである[9]。化石記録によれば、鳥類は1億5000万年から2億年前ごろのジュラ紀の間に、獣脚類恐竜から進化したことが示されている[10][11]。そして最も初期の鳥類としてかつて広く扱われていたのが、中生代ジュラ紀後期の始祖鳥 (Archaeopteryx) で、およそ1億5000万年前である[12]。現在では多数の古生物学者が、鳥類を約6550万年前のK-Pg境界絶滅イベントを生き延びた、恐竜の唯一の系統群であると見なしている。
現生鳥類の特徴は、羽毛があり、歯のないくちばしを持つこと、硬い殻を持つ卵を産むこと、高い代謝率、二心房二心室の心臓、そして軽量ながら強靭な骨格を持つことである[6]。翼は前肢が進化したもので、ほとんどの鳥がこの翼を用いて飛ぶことができるが、平胸類(走鳥類)や、ペンギン類、いくつかの島嶼に適応した固有種などでは翼が退化して飛べなくなっている。それでも現存する鳥類のすべての種が翼を持つが[6]、数百年前に絶滅してしまったモア類のように、完全に翼を失った例もある[13]。また鳥類は飛翔することに高度に適応した、独特な消化器や呼吸器を持っている。また、ヒトとともに二足歩行ができる2大生物とも言える。
ある種の鳥類、とりわけカラス類やオウム類は最も知能の高い動物種のひとつであり、多くの種において道具を加工して使用することが観察されており、また、さまざまな社会的な種が、世代間の知識の文化的伝達を示している。
鳥類は北極から南極に至る地球上の広範囲の生態系に生息している。また、多くの種が毎年長距離の渡りを行い、さらに多くが不規則な短距離の移動を行っている。
鳥類は社会的であり、視覚的な信号や、地鳴き (call)、さえずり (song) などの聴覚的な伝達行動を取り、そして協同繁殖や捕食(狩り)行動、群れ形成 (flocking)、モビング(mobbing、偽攻撃、捕食者に対して群れをなして騒ぎ撃退する行動)などの社会的行動に加わる[14]。大多数の種は社会的に一夫一婦であり、この関係は通常1回の繁殖期ごととなる。なかには数年にわたるのもあるが、生涯続くものは稀である。一夫多妻(複数の雌)や、稀に一妻多夫(複数の雄)の繁殖システムを持つ種も存在する。卵は通常、巣に産卵され、親鳥によって抱卵される。ほとんどの鳥類は孵化後、しばらく続けて親鳥が雛(ひな)の世話をする。
多くの種が経済的重要性を担っており、ほとんどは狩猟対象もしくは家禽であるが、なかにはペットとして、とりわけ鳴禽類やオウム類のように人気のある種もある。それ以外にも、グアノ(鳥糞石)が肥料にするために採取される。鳥類は、宗教からポピュラー音楽の歌詞にいたるまで、人間のあらゆる文化面によく登場する。しかし、分かっているだけで約130種の鳥が、17世紀以降の人間の活動によって絶滅し[15][16]、さらにそれ以前には数百種以上が絶滅している。保全への取り組みが進められてはいるが、現在約1200種の鳥が、人的活動によって絶滅の危機に瀕している。
鳥類は、系統分類では恐竜の一系統である獣脚類に分類される[17]。さらに獣脚類の中でも、ドロマエオサウルス科やオヴィラプトロサウルス類を含む手盗類の仲間であるとされる[18][19]。
現代古生物学における定説では、鳥類(鳥翼類)は、ドロマエオサウルス類やトロオドン類を含むデイノニコサウルス類 (Deinonychosauria) に最も近縁で[20]、これらは原鳥類 (Paraves) と呼ばれるグループを構成する。原鳥類の基部には、ドロマエオサウルス科のミクロラプトル(ミクロラプトル・グイ、Microraptor gui)[21]など、滑空または飛行していた可能性があると形態から考えられている種が位置している。デイノニコサウルス類で最も基部のものは非常に小型であり、原鳥類の祖先が、樹上性または滑空可能、あるいはその両方であった可能性を示唆している[22][23]。2014年には、獣脚類恐竜から鳥類への進化の詳細に関する研究が報告されている[10][11]。
現生の動物で鳥に最も近縁な動物はワニである。ワニ、鳥、(鳥以外の)恐竜はいずれも主竜類に分類される。
鳥類の起源をめぐっては多くの論争があった。恐竜よりも原始的な主竜類から進化したのではないか、鳥盤類恐竜の方が近縁なのではないか、といったものである[24]。鳥盤類と現生鳥類は、骨盤の構造がよく似ているが、鳥類は竜盤類に属する獣脚類恐竜が起源であると考えられているので、鳥盤類と鳥類の類似性は無関係に進化したものとされる[25]。事実、鳥類に似た骨盤の構造は、特異な獣脚類として知られるテリジノサウルス科において3度獲得されている。
一部の少数派の研究者は、鳥類が恐竜から進化したのではなく、ロンギスクアマのような初期の爬虫類から進化したと主張しており[26]、代表的な人物にノースカロライナ大学の鳥類古生物学者アラン・フェドゥーシアがいる。これを発展させて、「鳥類こそ恐竜の起源である」とする「恐竜鳥類起源説(BCF理論)」を唱える研究者もいたが、このような説にはほとんどの古生物学者が反対しており[27]、反論が多い。またこの説の根拠とされ、俗に「プロトアビス」と称された、最初期の恐竜に似たラウィスクス類の生物も、鳥はおろかマニラプトル類との直接の関係も全くなかったことが判明している。
鳥類 (Avis) は、古くは現在より広い意味で用いられていた。例えば、鳥類は現生鳥類と始祖鳥 (Archaeopteryx lithographica) の最も近い共通祖先の子孫のすべてと定義されていた[28]。この広義の定義では、始祖鳥は最も古い鳥類 (Avis) ということになる。
しかし、鳥類に近縁な非鳥類型獣脚類の化石が発見されるたびに、明瞭だった鳥類と非鳥類の区別が曖昧になった[29]。1990年代以降の中国東北部の遼寧省での発見によって、多くの小形獣脚類に羽毛があったことが明らかになったことがこれに拍車をかけた[30][31]。
そこでジャック・ゴーティエは、鳥類 (Avis) を現生鳥類のみからなるクラウングループとして定義し直した。この定義は現在、多くの科学者に用いられている。この定義では鳥類 (Avis) と今鳥亜綱 (Neornithes) の範囲が一致する。
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簡略化した基礎鳥類 (Basal bird) の系統発生 キアッペ (Chiappe)、2007 に基づく[32] |
また、鳥類から外された化石種の大半は、鳥類と共に 鳥翼類[33] (Avialae[34])に位置づけられた[35]。これはひとつには、始祖鳥の系統的位置に残る不確かさの問題を回避するためである。
鳥翼類の最古の化石は、約1億6千万年前のジュラ紀後期(オックスフォーディアン)に遡る。中国の髫髻山層で発見されたもので、アンキオルニス (Anchiornis huxleyi)、シャオティンギア (Xiaotingia zhengi)、および アウロルニス (Aurornis xui) などがある。
始祖鳥 (Archaeopteryx) はその少し後の年代、約1億5500万年前のジュラ紀のドイツの地層で発見された。最初に発見されたミッシングリンク(移行化石)のひとつとして有名であり、この化石は19世紀後期において進化論が支持される根拠となった[36]。始祖鳥は、従来爬虫類の特徴とされてきた、歯、鉤爪のある指、長いトカゲに似た尾といった特徴を持ちながら、現生鳥類と同様の風切羽を持つ翼も併せ持つ生物がいたことを示す最初の化石となった[37]。始祖鳥は、現生鳥類の直接の祖先であるとは考えられていないが、おそらくはそれに近縁であったとされる[38]。
これらの初期鳥翼類の多くは、死ぬまで接地せず宙に向かっていた可能性のある第2趾の大きな爪や、空中制動に用い得る後肢の翼など、現生鳥類とは異なる解剖学的特徴を共有していた。これらの特徴は現生鳥類の祖先にも見られたかもしれないが、進化の過程で失われた。
近年の研究では、初期の鳥翼類は、肉食であった始祖鳥や羽毛恐竜とは異なり、雑食性であったことが示唆されている[39]。
白亜紀になると、鳥翼類は大きく形態的多様性を増した[32]。翼の鉤爪や歯などの原始形質を維持したグループも多かったが、歯は現生鳥類(新顎類)をはじめとした多くのグループで独立に失われていった。始祖鳥やジェホロルニスのような最も初期のものでは、祖先に由来する、骨の通った長い尾が見られたが[32]、より進化した鳥翼類である尾端骨類[33] (Pygostylia) では、尾が尾端骨の出現と共に短くなっていった。
尾の短い鳥翼類の系統のうち、最初に多様化を遂げたのが反鳥類 (Enantiornithes) である。学名は「逆さの鳥」を意味し、肩甲骨の構造が現生鳥類のものと反転していることに由来している。反鳥類は生態系において多様なニッチを占め[32]、渉禽のように砂浜で餌をあさるものや、魚を捕食するものから、樹上に棲むもの、種子を食べるものがいた。反鳥類は白亜紀に繁栄したものの、中生代の終わりに恐竜と共に絶滅した。
次に多様化を遂げた真鳥類 (Euornithes) は、半水生で、魚や小型の水生生物を食べるのに特化していた。 陸上や樹上で繁栄したエナンティオルニス類とは異なり、初期の真鳥類の大半は枝などに止まる能力を発達させなかった、渉禽類に似たものや、水泳・潜水を行うものなどがあった。
そうしたものの中には、カモメ類に似たイクチオルニス属の他[40]、海洋での魚の捕食に非常によく適応したヘスペロルニスがあり、これは飛翔する能力を失って主に水中で生活していた[32]。また、初期の真鳥類はまた、発達した竜骨突起のある胸骨、歯のない嘴になった顎など、現生鳥類的な多くの特性を発達させた(ただし、現生鳥類以外では、大半は嘴より後ろに歯を備えていた)。真鳥類の中には、尾端骨で扇状の尾羽を自由に制御できた最初の鳥類もおり、後肢の羽が担っていた空中制動の役割を受け継ぎ、後肢が無毛になるきっかけとなった可能性がある。
すべての現生鳥類は鳥類 (ちょうるい、Avis) すなわち今鳥亜綱[41](こんちょうあこう、Neornithes)に位置づけられる。
頭骨のモザイク進化に関する研究により、すべての今鳥亜綱の最も新しい共通の祖先は、カギハシオオハシモズに似た嘴とニシコウライウグイスに似た頭骨を持っていたことがわかった。両種は小型でよく飛ぶ、林冠で採餌する雑食性鳥類であり、共通祖先についても同様であると考えられる。
今鳥亜綱は古顎類と新顎類に分けられる。この2つの分類群は上目として扱われることが多いが[42]、リブジーやZusiは区として扱っている[17]。
古顎類 (Palaeognathae) は従来、胸骨に竜骨突起を残すシギダチョウ類と、竜骨突起を喪失した飛べない平胸類(走鳥類〈ダチョウ類〉)に分けられてきたが、平胸類の単系統性が分子系統により否定された[43]。
新顎類 (Neognathae) はキジカモ類 (Galloanserae) と新鳥類[33][44] (Neoaves) に分けられる。キジカモ類にはカモ目(カモ類、ガン類、ハクチョウ類、サケビドリ類)とキジ目(キジ、ライチョウ類、ツカツクリ類、ホウカンチョウ科など)が含まれる。新顎類の多様化は、中生代のうちに起こっていたことが、白亜紀後期のカモ科ヴェガヴィス (Vegavis) の発見によって明らかになっている[45]。また、8500万年前のAustinornis lentus がキジ目に属するという説もある。
分岐の起こった年代についてはまだ盛んに議論されている。今鳥亜綱が白亜紀に進化したこと、他の新顎類からキジカモ類が分岐したのがK-T境界絶滅イベントの以前であることについては意見が一致しているが、キジカモ類以外の新顎類の適応放散も恐竜の絶滅以前だったのかどうかは異なる見解がある[46]。これは、適応放散の推定年代結果が手法によって異なるためである。化石記録では第三紀、DNA分岐年代推定は白亜紀の適応放散を示唆している[46][47]。
既知の現生鳥類の種数はおよそ9700種以上[9]、9930種[48]から1万530種[7]となる。鳥類の現生種のうち、古顎類は0.5%、キジカモ類は4.5%を占めるにすぎず、新鳥類に種の95%が含まれる。
鳥類の分類は議論の絶えない分野である。鳥類の分類体系の中で最も古いものは、1676年の『鳥類学』Ornithologiaeにおいてフランシス・ウィラビイとジョン・レイによって示されたものである[49][50]。
カール・フォン・リンネは1758年に、現在に繋がる生物の分類体系を発表しているが、鳥類の分類はウィラビイとレイのものを元にしている[51]。
シブリーとアールキストの『シブリー・アールキスト鳥類分類』Phylogeny and Classification of Birds (1990) は、鳥類の分類における画期的な業績である[52]。この分類は、かつては目の位置づけが正確であることを示唆する証拠が多いと考えられていたが[53]、2000年代後半に明らかになった分子系統により、いくつかの目分類は大幅な修正を受けた。
Ericson et al. (2006)[46]は、新鳥類 (Neoaves) が2つの姉妹群CoronavesとMetavesに分かれるとした。Hackett et al. (2008)[55]にも弱く支持されたが、異論もある[56]。
以下の分類は国際鳥類学会 (IOC) に基づく。目和名は山崎・亀谷[57]に準拠。目レベルまでの系統は完全には解かれていないが、以下のような分類群が提案された(ただしlandbirds〈陸鳥〉は正式な分類群ではない)。
伝統的な目分類に対する修正により、上表はほぼ系統分類となっている。これらの修正は、初期の分子系統分類 シブリーら (1990) や、より新しい形態系統分類 Livezey & Zusi (2007) などと共通点は少ない[55]。有望なレトロポゾンによるものや[59]、近年の複数の研究 (Hackett, 2008[55]; Mayr 2011[56]) でも支持されている。
以下の系統樹は Braun & Kimball (2021)[60] に基づく。目和名は山崎・亀谷[57]に準拠。
鳥類 |
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Aves |
鳥類の生活と繁殖は、ほとんどの陸上生息地で営まれており、これらは7大陸すべてで見ることができる。その南限はユキドリの繁殖地で、南極大陸の内陸 440 km (300 mi)におよぶ[65]。最も高い鳥類の多様性は熱帯地方で起こっている。以前には、この高い多様性は熱帯でのより高い種分化の変化率によるものと考えられていたが、近年の研究では、高緯度地方の高い種分化の比率が、熱帯よりも大きい絶滅率によって、相殺されていることがわかった[66]。鳥類のさまざまな科が、世界中の海洋での生活にも適応しており、たとえば、ある種の海鳥は繁殖のときにだけ上陸し[67]、また、あるペンギン類は 300 m (1,000 ft)以上潜水した記録を持ち[68]、ときに500 m (1,600 ft)以上潜水して採餌するとされる[69]。
鳥類のなかには、人為的に移入された地域で、繁殖個体群を確立した種がいくつもある。これらの移入のなかには計画的になされたものもあり、たとえばコウライキジは、狩猟鳥として世界中に移入された[70]。そのほか偶発的なものとしては、飼育下から逃げ出し(かご抜け)、北アメリカの複数の都市で野生化したオキナインコの安定個体群の確立のような例もある[71]。また、アマサギ[72]、キバラカラカラ[73]、モモイロインコ[74]などのように、耕作によって新たに作られた生息に適した地域に、元来の分布域をはるかに超えて自然分布を拡大していった種もある。
ほかの脊椎動物に比較して、鳥類は数多くの特異な適応を示す体制(ボディプラン) を持っており、そのほとんどは飛翔を助けるためのものである。
骨格は非常に軽量な骨から構成されている。含気骨には大きな空気の満たされた空洞(含気腔)があり、呼吸器と結合している[75][76]。成鳥の頭骨は癒合しており縫合線がみられない[77]。眼窩は大きく、骨中隔で隔てられている。脊椎には、頸(首)椎、胸椎、腰椎、尾椎の部位があり、頸椎は可動性が非常に高く、きわめて柔軟であるが、関節は胸椎 (thoracic vertebrae) 前部で減り、後部の脊椎骨にはない[78]。脊椎の最後のいくつかは骨盤と融合して複合仙骨を形成する[79]。飛べない鳥類をのぞいて、肋骨は平坦になっており、胸骨は飛翔のための筋肉を結合するために、船の竜骨のような形状をしている。前肢は翼へと修正されている[80]。
鳥類の消化器系は独特である。まず食べたものを一時的に貯蔵するための素嚢(そのう)がある。素嚢の役割は種類によって異なり、食いだめをする種類や素嚢から吐き戻した食物や素嚢から分泌される素嚢乳を雛鳥に餌として与える種類がいるほかダチョウ類のように素嚢を持たない種類もいる[81]。 素嚢に蓄えられた食物は胃に送られるが、胃は前胃と筋胃の二つに分かれている。前胃は腺胃とも呼ばれ、内壁に多数の消化腺があり、消化酵素および酸性分泌物を出す。筋胃は砂嚢(さのう)とも呼ばれ、筋肉が発達しているほか、飲み込んだ砂粒が入っており、この筋胃で食物をすりつぶすことで、歯のないことを補っている[82][83]。ほとんどの鳥類は、飛翔を助けるため、すばやく消化することに高度に適応している[84]。渡りを行う鳥のなかには、腸の蛋白質といった、その体のいろいろな部分からの蛋白質を、渡りの間の補助的なエネルギー源として使用するようになっているものがある[85]。
鳥類は爬虫類と同様に、基本的には尿酸排泄性である。すなわち、その腎臓は血液中の窒素廃棄物を抽出して、これを尿素もしくはアンモニアではなく、尿酸として尿管を経由して腸に排出する。鳥類には膀胱ないし外部尿道孔がなく(ただしダチョウは例外である)、このため尿酸は半固体の廃棄物として、糞と一緒に排泄される[86][87][88]。ただしハチドリのような鳥類は、条件的アンモニア排泄性であり、ほとんどの窒素廃棄物をアンモニアとして排出することができる[89]。さらに鳥類は、哺乳類がクレアチニンを排泄するのに対して、クレアチンを排泄する[90]。この物質は、ほかの腸の産生物と同じように総排出腔から出る[91][92]。総排出腔は多目的の開口部で、排泄物はこれを通して排出され、鳥が交尾するときにはそれぞれの総排出腔を接触させ、そして雌はそこから卵を産む。これに加えて、多くの種がペリット(ペレット、pellet)の吐き戻しを行う[93]。
鳥類の雌性生殖器は、多くの種で生殖時期に左側だけが発達し、繁殖期を過ぎると一時的に退縮し次の繁殖期に再度発達する(左側に何かしらの障害が発生した場合は右側が発達、タカ目など一部の鳥類は両側が発達)[94][95]。
鳥類は、すべての動物群のなかで、最も複雑な呼吸器を持ったグループのひとつである[90]。鳥が息を吸うとき、新鮮な空気の75%が肺を迂回して、後部気嚢に直接流れ込み、これを空気で満たす。後部気嚢とは、肺から広がって骨のなかの気室(含気腔)に繋がっている気嚢のグループである。残りの25%の空気は直接肺に行く。鳥が息を吐くときには、使われた空気が肺から排出され、同時に、後部気嚢に蓄えられていた新鮮な空気が肺に送り込まれる。このようにして、鳥類の肺には息を吸うときにも吐くときにも、常時新鮮な空気が供給されている[96]。鳥の声は、鳴管を使って作り出されている。鳴管は筋肉質の鼓室であり、気管の下部末端から分岐し、複数の鼓形膜が組み合わされている[97][98]。
鳥類の心臓は、哺乳類と同じく4室(二心房二心室)あり[99]、右側の大動脈弓より体循環が起こるが、哺乳類では鳥類と異なり左側の大動脈弓による[90][100]。下大静脈は、腎門脈系を経由して、四肢からの血流を受け取る。哺乳類とは異なり、鳥類の赤血球には核がある[101][102]。ニワトリの血糖値は210-240mg/dlであり、鳥類は哺乳類に比べて2-3倍の血糖値を示す[103]
神経系は、鳥類の体の大きさから見ると相対的に大きい[104]。脳において最も発達しているのは、飛翔に関連した機能を司る部位であり、小脳が運動を調節する一方、大脳が行動パターンや航法、繁殖行動、営巣、記憶などの行動を司る。特に、カラス類や、インコ・オウム類は、人間の2〜8歳児ほどの知能を持つと考えられている。
ほとんどの鳥が貧弱な嗅覚しか持たないが、顕著な例外としてキーウィ類[105]、コンドル類[106]およびミズナギドリ目[107]の鳥などがあげられる。鳥類の視覚システムは一般に高度に発達している。水鳥は特別に柔軟なレンズを持つことで、空気中の視覚と水中の視覚を両立させている[108]。なかには2つの中心窩を持つ種もいる[109]。鳥類は4色型色覚であり、赤、緑、青の錐体細胞と同じように、紫外線 (UV) に感度のある錐体細胞を網膜に持っている。これによりかれらは紫外線を見分けることができ、それは求愛行動にも関係する。多くの鳥類は、紫外線による羽衣(うい)の模様を示すが、これはヒトの目には見えない。すなわち、ヒトの肉眼では雌雄が同じに見えるような鳥でも、その羽毛に紫外線を反射する斑の存在によって見分けられる。雄のアオガラの羽毛には、紫外線を反射する冠状の斑があり、求愛行動の際にはポーズを取り、その頸部の羽毛を立てることでディスプレイを行う[110]。紫外線はまた、餌を採ることにも使用されている。チョウゲンボウの仲間は、齧歯類が地上に残した紫外線を反射する尿の痕跡を見つけることで獲物を探すことが証明されている[111]。鳥類のまぶたは、瞬きには使用されない。そのかわりに目は、水平方向に移動する3番目のまぶたである瞬膜によって潤滑されている[112]。また、多くの水鳥において、瞬膜は目を覆うコンタクトレンズのような働きをする[113]。鳥類の網膜は、櫛状体(櫛状突起、pecten)と呼ばれる扇状の血液供給システムを持っている[114]。ほとんどの鳥は眼球を動かすことができないが、カワウのような例外もある[115]。鳥類のうち、目をその頭部の側面に持つものは広い視野 (visual field) を持ち、フクロウのように頭部の前面に両目があるものは、双眼視覚を持ち、被写界深度を見積もることができる[116]。鳥類の耳には外側の耳介はなく、耳羽(じう)という羽毛に覆われているが[117]、フクロウ類のトラフズク属、ミミズク、コノハズク属ような鳥では、頭部の羽毛が耳のように見える房(羽角、うかく)を形成する。内耳には蝸牛(かぎゅう)があるが、哺乳類のような螺旋状ではない[118]。
数種の鳥類は、捕食者に対して化学的防御を用いることができる。一部のミズナギドリ目の鳥は、攻撃者に対して不快な油状の胃液 (Stomach oil) を吐き出すことができ[119]、また、ニューギニア産の数種のピトフーイ(ピトフィ)類(モリモズ類)の数種は、その皮膚や羽毛などに強力な神経毒を持っており[120][121]、これは寄生虫に対する防御と考えられている[122]。
鳥類には2つの性別、すなわち雄と雌がある。鳥類の性は、哺乳類が持っているXとYの染色体ではなく、ZとWの性染色体によって決定される。雄の鳥は、2つのZ染色体 (ZZ) を持ち、雌の鳥はW染色体とZ染色体 (WZ) を持っている[123]。鳥類のほとんどすべての種において、個々の性別は受精の際に決定される。しかしながら、最近の研究によって、ヤブツカツクリでは、孵化中の温度が高いほど、雌に対する雄の性比が高くなったことから、温度依存性決定 (Temperature-dependent sex determination) が証明された[124]。
羽毛は(現在では真の鳥類であるとは考えられていない恐竜の一部にも存在するが)、鳥類に特有の特徴である。羽毛によって飛翔が可能になり、断熱によって体温調節を助け、そしてディスプレイやカモフラージュ、情報伝達にも使用される[125]。羽毛にはいくつもの種類があり、それぞれが、個々のさまざまな目的に応じて機能している。羽毛は皮膚に付属した上皮成長物であり、羽域(羽区、pterylae)と呼ばれる、皮膚の特定の領域にのみ生ずる[126]。これらの羽域の分布パターン(羽区分布、pterylosis)は分類学や系統学で使用されている。鳥の体における羽毛の配列や外観を総称して、羽衣と呼ぶ[126]。羽衣は、同一種のなかでも、年齢、社会的地位[127]、性別によって変化することがある[128]。
羽衣は定期的に生え変わっている(換羽)。鳥の標準的な羽衣は、繁殖期のあとに換羽したものであり、非繁殖羽 (Non-breeding plumage) として知られている。あるいはハンフリー・パークスの用語 (Humphrey-Parkes terminology) によれば「基本」羽 ("basic" plumage) である。繁殖羽、あるいは基本羽の変化したものは、ハンフリー・パークスの用語法によれば「交換」羽 ("alternate" plumages) として知られる[129]。ほとんどの種で、換羽は年1回起こるが、なかには年2回換羽するものもあり、また、大型の猛禽類は、何年かに1回だけ生え変わるものもある。換羽のパターンは種ごとに異なる。スズメ目の鳥に見られる一般的なパターンは、初列風切が外側に向かって(遠心性換羽)、次列風切は内側に向かって(求心性換羽)[126]、そして尾羽が中央から外側に向かって生え変わっていく(遠心性換羽)[130][131]。スズメ目の鳥では、風切羽は、最も内側の初列風切から始まり、一度に左右1枚ずつ生え変わる。初列風切の内側半分(6番目の第5羽)が生え変わると、最も外側の三列風切が抜け始める。最も内側の三列風切が換羽したあと、次列風切が最も外側から抜け始め、これがより内側の羽毛へと進行していく。初列雨覆は、それが覆っている初列風切の換羽に合わせて生え変わる[126][132]。ハクチョウ類[133]、ガン類、カモ類といった種は、すべての風切羽が一度に抜け、一時的に飛ぶことができなくなるほか[134]アビ類[133]、ヘビウ類、フラミンゴ類、ツル類、クイナ類、ウミスズメ類にもこのような種がある[126]。一般的な様式として、尾羽の脱落と生え変わりは、最も内側の一対から始まる[132]。しかし、キジ科のセッケイ類においては、外側尾羽の中心から換羽が始まり、双方向への進行が見られる[130]。キツツキ類やキバシリ類の尾羽では、遠心性換羽は少し変更され、これらの換羽は内側から2番目の一対の尾羽から始まり、そして一対の中央尾羽で終わる。これによって木をよじ登るのための尾羽の機能を維持している[132][135]。営巣に先立って、ほとんどの鳥類の雌は、腹に近い羽毛を失うことで、皮膚の露出した抱卵斑を得る。この部分の皮膚は血管がよく発達し、鳥の抱卵の助けになる[136][137]。
羽毛はメンテナンスが必要であり、鳥類は毎日、羽繕いや手入れを行い、かれらは日常の9%前後をこの作業に費やしている[138]。くちばしは、羽毛から異物のかけらを払い出すだけではなく、尾腺からの蝋のような分泌物を塗ることにも使われる。この分泌物は羽毛の柔軟性を守り、抗菌薬としても働き、羽毛を劣化させる細菌の成長を阻害する[139]。この作用は、アリの分泌するギ酸によって補われているとされ、鳥類は羽毛の寄生虫を取り除くために、蟻浴として知られている行動を通してこれを得ると考えられている[140]。
鳥類においては、羽毛が紫外線の皮膚への到達を妨げている。鳥類は、皮膚から皮脂を分泌し、羽毛を羽繕いすることによって口からビタミンDを摂取しているとの説もある。この説は毛皮を有する哺乳類にも該当する[141]。
鳥類の鱗(うろこ)は、くちばしや、鉤爪、蹴爪と同じくケラチンから作られている。鱗は主に趾(あしゆび)や跗蹠(ふしょ)に見られるが、種によっては踵(かかと)のずっと上の部位まで見られるものもある。カワセミ類やキツツキ類を除いて、大部分の鳥の鱗はほとんど重なっていない。鳥類の鱗は、爬虫類や哺乳類のものと相同性であると考えられている[142]。
ほとんどの鳥は飛翔することができ、このことが鳥類を、他のほとんどすべての脊椎動物の綱から際立たせている。飛翔はほとんどの種の鳥にとって第一の移動手段であり、繁殖、採餌、そして捕食者からの回避と脱出に用いられる。鳥類は、飛行翼として機能するように修正された前肢(翼)ばかりではなく[143]、軽量な骨格構造や[144]、2つの大きな飛翔のための筋肉(飛翔筋、鳥の全体重の20%以上を占める[145])である大胸筋と烏口上筋(うこうじょうきん)といった飛行のためのさまざまな適応が見られる[146]。これに付随して、胸骨に竜骨突起(竜骨稜)が発達すること、脊椎骨や腰骨が癒合すること、尾椎の癒合による尾端骨なども飛翔への適応の一部をなしている[79]。短い消化管は体内に蓄積する食物を少なくし、尿酸による排出も排出物の蓄積を減らすことで体の軽量化に貢献する。なお、羽毛や気嚢などは飛行能力の発達に先立って恐竜が持っていたと考えられ、これらは前適応の例である。
翼の形状と大きさは、一般的に鳥の飛翔のタイプによって決まる[147]。多くの鳥は、力の必要な羽ばたきによる飛翔と、よりエネルギー要求の低い帆翔(ソアリング、soaring)による飛翔を組み合わせている。
多くの絶滅種であったような飛べない鳥は、約60種が現存している[148]。飛行能力の消滅は、隔絶された島嶼の鳥類にしばしば起きるが、おそらくこれは限られた資源と、陸棲の捕食者の不在による[149]。ペンギン類は飛行こそしないが、ウミスズメ類、ミズナギドリ類、カワガラス類など、飛翔する鳥類が翼を使って水中を泳ぐ場合と同様の筋肉を使い、水中を「飛行」する[150]。
鳥類はほとんどが昼行性であるが、たとえばフクロウ目やヨタカ目の多くの種は、夜行性ないし薄明薄暮性(薄明の時間帯に活動する)であり、渉禽類には潮の干満にあわせて、昼夜に関わりなく採餌する種が多く存在する[151]。
鳥類の食餌は多彩であり、多くの場合、蜜や果実、植物、種子、屍肉、他の鳥を含むさまざまな小動物などが含まれる[152]。鳥には歯がないことから、その消化器系は、丸のみにした、咀嚼されていない食物を処理することに適応している[153]。
鳥類には、さまざまな食料において食物ないし餌を得るために、多くの方法を用いる「広食性(多食性)」(ゼネラリスト)と呼ばれるもののほか、特定の食料に時間と労力を集中させるか、単一の方法で食物を得る「狭食性(単食性)」(スペシャリスト)と呼ばれるものがいる[90]。鳥類の採餌方法は種によって異なる。鳥類の多くは、昆虫や無脊椎動物、果実、または種子を採る (gleaning)。なかには枝から急襲して昆虫を狩るものもある。害虫を狙うような種は、有益な「生物的防除」と見なされ、生物的防除プログラムにおいては、それらの生息が奨励されている[154]。ハチドリ類、タイヨウチョウ類、ヒインコ類のような、とりわけ花蜜を採食するものは、特別に適応したブラシ状の舌を持ち、多くの場合くちばしの形状が共適応した花に適するようにデザインされている[155]。キーウィや渉禽類は、その長いくちばしを探針として使い、無脊椎動物を探す。シギ・チドリ類の間でくちばしの長さと採餌の方法に違いがあることによって、生態的地位(生態的ニッチ)の分離が生じている[156][157]。アビ類、潜水ガモ類 (Diving duck)、ペンギン類、ウミスズメ類などは、水中で翼ないし足を推進器として使い、その獲物を追いかけるが[67]、それに対してカツオドリ類やカワセミ類、アジサシ類のような飛翔型の捕食者は、獲物に狙いをつけて空中から水に飛び込む。フラミンゴ類、クジラドリ類 (Prion) のうちの3種、そしてカモ類の一部は濾過摂食を行う[158][159]。ガン類やカモ類は基本的に草食動物である。
グンカンドリ類、カモメ類[160]、トウゾクカモメ類[161]など一部の種は、盗み寄生(ほかの鳥から食料になるものを奪い取ること)を行う。盗み寄生による食料はいずれの種においても、食料の主要な部分というよりは、むしろ狩猟による収穫を補うものであると考えられている。アオツラカツオドリから餌を盗むオオグンカンドリについての研究によれば、奪った餌の割合はかれらの食物のうち多くても40%、平均ではわずか5%と見積もられている[162]。他の鳥類には腐肉食のものがある。なかにはコンドルのように、屍肉に特化したものもあり、また一方ではカモメやカラス、あるいは他の猛禽類のような日和見的に屍肉を利用するものもある[163]。なお一部の鳥類では雛に対して授乳を行う事が知られている。これは哺乳類の授乳とは異なり、食道の一部からミルクを出しているが、こうした行動は先祖である恐竜から受け継いだものかもしれない[164]。
排泄方法と、汗腺の欠如によって、鳥類の水分に対する生理的要求は軽減されてはいるが、それでも多くの鳥にとって水は必要である[165]。ある種の砂漠の鳥は、その食物に含まれる水分だけで、必要とする水をすべて得ることができる。さらにかれらはこれ以外にも、体温の上昇を許容して蒸散冷却(浅速呼吸)による水分の損失を抑えるといった適応を行っていると考えられている[166]。海鳥は海水を飲むことができ、頭蓋内部に塩類腺を持っている。この塩類腺によって過剰な塩分を、鼻孔から排出する[167]。
ほとんどの鳥は水を飲む際に、そのくちばしで水をすくい取り、そして水がのどを流れ落ちるように、頸を上にそらせる。一部の種、ことに乾燥した地域に生息するハト科やカエデチョウ科、ネズミドリ科、ミフウズラ科、ノガン科などに属する種は、水をすする能力があり、その頭を後ろに傾ける必要がない[168]。砂漠性の鳥の一部は水源に依存し、特にサケイ科の鳥は、毎日水たまりに集まってくることで有名である。営巣しているサケイ類や、チドリ科の多くの鳥は、その腹の羽毛に水を含ませて、雛に運ぶ[169]。なかには、巣の雛に飲ませる水を、自分の素嚢に入れて運び、あるいは、餌と一緒に吐き戻す鳥もある。ハト科、フラミンゴ目やペンギン目の鳥は、素嚢乳と呼ばれる栄養分を含んだ液体を分泌して、これを雛に与えるような適応を行っている[170]。
たくさんの種の鳥類が、季節ごとの気温の地域差を利用するために渡りをおこない、これによって食料供給や繁殖地の確保の最適化を図っている。これらの渡りの行動は、それぞれのグループによって異なっている。通常、天候条件とともに日長の変化をきっかけとして、多くの陸鳥、海鳥、渉禽類および水鳥が毎年、長距離の渡りに乗り出して行く。これらの鳥類を特徴づけているのは、かれらが繁殖期を温暖な地域、ないしは北極または南極の極地方で過ごし、そうでない時期を熱帯地方か、あるいは反対の半球で過ごすことである。渡りに先立って、鳥たちは体脂肪と栄養の蓄積を大幅に増やし、また一部の体組織の大きさを縮小させる[85][171]。渡りは、特に食料補給なしに砂漠や大洋を横断する必要がある鳥たちにとって、多くのエネルギーを必要とする。陸棲の小鳥はおよそ2,500 km (1,600 mi) 前後の飛翔持続距離を持ち、シギ・チドリ類は4,000 km (2,500 mi)を飛ぶことができるとされ[172]、オオソリハシシギは11,000 km (6,800 mi)の距離を飛び続ける能力がある[173][174][175]。海鳥も長距離の渡りを行い、なかでも最も長距離の周期的な渡りを行うのがハイイロミズナギドリである。かれらはニュージーランドやチリで営巣し、日本やアラスカ、カリフォルニア沖の北太平洋で、餌を採って北半球の夏を過ごす。この季節的な周回移動は、総距離 64,000 km (39,800 mi) にもおよぶ[176][177]。このほかの海鳥では、繁殖期が過ぎると分散して広い範囲を移動するが、渡りのルートを持たない。南極海で営巣するアホウドリは、繁殖期と繁殖期の間に、しばしば極周回の移動を行っている[178]。
悪天候を避けたり、食料を得たりするのに必要なだけの、より短い移動を行う鳥もいる。北方のアトリ類のような大発生する種は、そのようなグループのひとつであり、ある年にはある場所でごく普通に見られたものが、次の年には全くいなくなったりする。この種の渡りは、通常、食料入手の容易さに関連している[179]。高緯度地方にいた個体が、同種の鳥がすでにいる分布域に移動するように、分布域内でのさらに短距離の渡りをする種もいる。そしてほかのものは、個体群の一部分だけが移動する部分的な渡りを行う[180]。部分的な渡りは、地域によって、鳥類の渡り行動の大きなパーセンテージを占めることがある。オーストラリアでの調査によれば、非スズメ目の鳥でその44%が、またスズメ目の鳥でその32%が、部分的な渡りを行っていることがわかっている[181]。高さの移動は、短距離の渡りのひとつの形態で、繁殖期を高地で過ごし、準最適の条件下では、より高度の低い地域に移動するような鳥に見られる。この行動のきっかけは気温の変化であることが最も多く、通常の縄張りが、食料不足によって生息に適さなくなるときに起こるのが普通である[182]。また一部の種は放浪性である場合もあり、決まった縄張りを持たず、気候や食料の得やすさに応じて移動する。インコ科の大部分は渡りもしないが定住性でもなく、分散的か、突発的か、放浪性か、あるいは小規模で不規則な渡りをするか、そのいずれかとみなされている[183]。
鳥類が、膨大な距離を超えて、正確な位置に戻ってくる能力を持っていることは以前から知られていた。1950年代に行われた実験では、ボストンで放されたマンクスミズナギドリは、13日後に5,150 km (3,200 mi) の距離を越えて、ウェールズ州スコーマー島にあったもとの集団繁殖地(コロニー)に帰還した[184]。鳥は渡りの間、さまざまな方法を使って航行している。昼行性の渡り鳥の場合、日中の航行には太陽が用いられ、夜間は恒星がコンパスとして使用される。太陽を用いる鳥は、体内時計を利用して日中の太陽の移動を補正している[185]。恒星によるコンパスでは、その方向は、北極星を取り囲む星座の位置に依存している[186]。ある種の鳥たちは特殊な光受容体による地球の地磁気を検知する能力によってこれらの航法をバックアップしている[187]。
鳥類は、基本的に視覚的信号と聴覚信号を使ってコミュニケーションを行う。これらの信号は、異種の間(種間)の場合も、同一種内(種内)の場合もある。
鳥類は、ときには社会的な優位性を判断したり、主張するために羽衣を使用することがあり[188]、また、性淘汰の起こった種のなかでは、繁殖可能な状態にあることを示すために使われることもある。あるいはまた、ジャノメドリに見られるように、親鳥が幼い雛を守るため、大型捕食者の擬態をしてタカ類などを脅かし追い払うために羽衣が使われることもある[189]。羽衣のバリエーションはまた、特に異種間において、種の識別を可能にする。鳥類相互の視覚的コミュニケーションには、羽繕いや羽毛の位置の調整(整羽)、突つき、あるいは他のさまざまな行動のような、信号としてではない動作から発展したと考えられる、儀式化されたディスプレイが含まれる。これらのディスプレイは、攻撃ないし服従の信号である場合もあるし、またつがい(ペア)関係の形成に寄与する場合もある[90]。最も精巧なディスプレイは、求愛の際に行われる。このいわゆる“ダンス”は多くの場合、なし得るいくつもの動作を構成要素とする複雑な組み合わせによって構成されており[190]、雄の繁殖の成功は、そのようなディスプレイの出来栄えに左右されることもある[191]。
鳴管によって発せられる鳥類の地鳴きやさえずりは、鳥類が音によってコミュニケーションを行う際の主要な手段である。このコミュニケーションは、非常に複雑になる場合がある。なかには鳴管の両側をそれぞれ独立して機能させることができる種もあり、これによって2つの異なるさえずりを同時に発声することを可能にしている[98]。
鳴き声はさまざまな目的に使用される。たとえばつがい相手の誘引や[192]、可能性のあるつがい相手の値踏み[193]、つがいの形成、縄張りの主張と維持[192]、他の個体の識別(たとえば親鳥が集団繁殖地(コロニー)で雛を探すとき、また繁殖期の初めにつがい相手が再会するとき)[194]、あるいは、捕食者らしきものの接近をほかの鳥へ警告したり、またときには脅威の性質に関する一定の情報である場合もある[195][196]。また一部の鳥類は、機械的に発生させた音を聴覚的コミュニケーションに使用する。オオジシギや[197]、ニュージーランド産のジシギ Coenocorypha などは、その羽毛に空気を通して振動させる[198]。この尾羽で音を発するディスプレイ・フライトは、ほとんどのジシギ類で見られる[198][199]。またキツツキ類は縄張りでドラミングを行い[84]、ヤシオウムはドラミングのために道具を使う[200]。
ある鳥類は、縄張りでの生活や、小さな家族群での生活を基本とするが、そうではない鳥は大きな群れ (Flock) を形成することがある。群れをつくることの大きな利点は、数が多いことによる安全性 (Safety in numbers) であり、そして採餌効率の向上である[90]。捕食者に対する防御は、樹林のような閉じた生息地ではことのほか重要である。そこでは待ち伏せ型の捕食者 (Ambush predator) が一般的であり、複数の目による監視によって有効な早期警戒態勢を準備することができる。このことから、通常は多くの種の少数の個体から構成される数多くの混群 (Mixed-species flock) の形成に繋がっている。こういった群れは、群集による安全性をもたらすが、資源を得るための潜在的な競争を増やす[202]。群れを形成することの代償には、社会的地位が低い鳥に対する、より優位な鳥によるいじめや、特定の条件下での採餌効率の低下などがある[203]。
鳥類は、ときに鳥類以外の種と関連をなすこともある。上空から急降下して潜水し捕食するタイプの海鳥は、魚群を海面に押し上げてくれるイルカやマグロの群れに加わる[204]。サイチョウ類は、コビトマングースと相利共生的な関係にある。かれらは一緒に餌を探し、猛禽や、そのほかの捕食者の接近を互いに警告しあう[205]。
鳥類の一日における活動時の高い代謝率は、これ以外の時間の休息によって補われている。眠る鳥は、警戒睡眠 (vigilant sleep) として知られるタイプの睡眠をしばしば取る。このタイプの睡眠では、素早く目を開く「一瞥」 (peeks) がその間に組み入れられ、これによってかれらは異常に対して鋭敏になり、脅威から素早く逃れられる[206]。アマツバメ類は、飛翔中に睡眠を取ることができると考えられており[207]、レーダー観測では、その飛翔中の休息の際、かれらは風上に向かうように自分の方向を定めることを示している[208]。それは、おそらくは飛翔中であっても可能であるような、ある種の睡眠が存在する可能性を示唆している[209]。また、一部の鳥類では、同時に脳の一方の半球 (hemisphere) が、徐波睡眠 (SWS) に入る能力が証明されている(半球睡眠)。鳥類はこの能力を、群れの外側に対し、その位置に応じて働かせる傾向がある。これは、眠っている脳半球の反対側の目が群れの外側を見張ることによって、捕食者に対する警戒を可能にする。こういった適応はまた、海棲哺乳類においても知られている[210]。鳥が集団でねぐらに集まることは一般的であり、それは体熱の損失を抑え、捕食者に関連する危険を減らすためである[211]。ねぐらの場所は、多くの場合、体温調節や安全性を考慮して選択される[212]。
多くの鳥類は、睡眠の際にその頭部を背に折り曲げて、くちばしを背の羽毛のなかに差し込むが、そのほか胸の羽毛のなかにくちばしを納める鳥もある。多くの鳥類は一本脚で休み、なかには特に寒冷な気候において、両脚を羽毛のなかに引き込むものもある。木に止まるスズメ目の鳥には、腱のロック機構が備わっており、睡眠中に止まり木の上に留まるのに役立っている。ウズラ類やキジ類といった多くの陸禽が木に止まる。インコ類のうち、サトウチョウ属 (Loriculus) などいくつかに属する鳥は、逆さまにぶら下がって休む[213]。ハチドリのなかには、夜間、代謝率の低下を伴う休眠状態になるものがある[214]。この生理学的適応は、ズクヨタカ類やヨタカ類、モリツバメ類など、100種近いほかの鳥類にも見られる。ただ1種、プアーウィルヨタカは、冬眠状態に入ることさえある[215]。鳥類は汗腺を持たないが、日陰に移動したり、水のなかにいたり、あえぎ呼吸(パンティング、panting)をしたり、表面積を大きくしたり、喉をはためかせたりしてその体を冷却し、あるいはまた、Urohidrosis(冷却のメカニズムとして自分の脚の鱗の部分に糞をする行動)のような特別な行動をすることによって、自身を冷却することがある。
鳥類の種の95%は、社会的に一夫一婦である。これらの種のつがいは、最低でもその繁殖期の間か、場合によっては数年ないし配偶者が死ぬまで続く[217]。一夫一婦は、雄による世話および両親による子育てが可能となり、雌が育雛(いくすう)の成功のために雄の手助けが必要である種にとってきわめて重要である[218]。多くの社会的に一夫一婦である種において、配偶者以外との交尾(婚外関係)は一般的である[219]。雌にとって、婚外交尾による利点は、その子により良い遺伝子を得られることや、配偶者による不妊の可能性に対して保険をかけることなどがある[220]。婚外交尾に関わった種の雄は、かれらの作った子の親子関係を裏付けるために、その相手をしっかりと保護する[221]。
これ以外の配偶システムとしては、一夫多妻、一妻多夫、複婚、それに乱婚(多夫多妻)もある[222][223]。複婚の一種である一夫多妻の配偶システムは、雌が雄の手助けなしで哺育を行うことができる場合に生ずる[224][225]。なかには環境に応じてさまざまな配偶システムを採用する種もある。
繁殖には、通常何らかの形の求愛ディスプレイを伴い、一般的には雄によって演じられる[226]。ほとんどのディスプレイは比較的単純であり、ある種のさえずりを伴う。しかしながら、なかにはきわめて精巧なディスプレイもある。種によっては、翼や尾を鳴らす、ダンスや曲技飛翔、あるいは共同のレッキング (lekking) などがある。通常、雌がパートナーの選択を行うが[227]、しかし、一妻多夫のヒレアシシギ類では、これが逆転し、羽衣の地味な雄が鮮やかな色の雌を選択する[228]。求愛給餌 (courtship feeding)、くちばし触れ合い (billing)、互いの羽繕いなどは、通常、鳥がつがいになり交尾したのち、配偶者間で行われている[84]。
同性愛の行動は、数多くの鳥類の種の雄または雌で観察されており、これには交尾、つがいの形成、雛の共同哺育などがある[229]。
多くの鳥類が、繁殖期になると、ほかの同種の鳥からその縄張りを活発に防御する。縄張りの維持は、雛のための食料源の保持を意味するからである。海鳥やアマツバメ類のように、採食の縄張りを守ることのできない種は、多くの場合、かわりに集団繁殖地(コロニー、colony)で繁殖する。これは捕食者からの防御手段であると考えられている。集団繁殖を行う鳥は小さな営巣場所を守り、営巣場所をめぐってほかの同種ないし異種との競争が激しくなることがある[230]。
すべての鳥類は、体外卵として、主に炭酸カルシウムで形成された硬い卵殻を持つ有羊膜卵を産む[231]。穴や巣穴に営巣する種は、白色ないし淡色の卵を産む傾向があり、一方、開放型の巣を作るものは、迷彩色の卵を産む。ただし、この傾向には多くの例外が存在する。地上に営巣するヨタカ類は淡色の卵を産み、カモフラージュは、かわりにかれらの羽衣により行われる。托卵の仮親にされる種は、托卵された卵を見つけだす可能性を向上させるために、さまざまな色の卵を産む。それによって托卵する側の雌は、その卵を仮親の卵に合わせることになる[232]。
鳥類は通常、巣のなかで産卵する。ほとんどの種は、椀形、ドーム形、皿形、窪み、塚(マウンド)、あるいは穴といったような[233]、ある程度精巧な巣を作る[234]。しかしながら、なかにはきわめて原始的なものもある。たとえばアホウドリ類の巣は、地面のかき跡以上のものではない。ほとんどの鳥は、捕食されることを避けるため、その巣を覆いのある、隠れた場所に作る。しかし、大型鳥類やコロニーを形成する鳥など、より防御力の高い鳥類は、さらに開放的な巣を作ることがある。営巣においてある種の鳥は、雛の生存を高めるために、寄生虫を減らす毒素を持つ植物による植物性素材を探し[235]、また、羽毛は巣の断熱材としてよく用いられる[234]。鳥類のなかには巣を持たない種もあり、崖に営巣するウミガラスは、その卵をむきだしの岩の上に生む。また、コウテイペンギンの雄は、卵をその足と体の間に保持する。巣の欠如は、地上に営巣する種で、孵化する雛が早成性 (Precocial) である場合において、特に多く見られる。
抱卵は、雛の孵化のために温度を最適化するものであり、通常は最後の卵が産み落とされたあとに始まる[236]。一夫一婦の種における抱卵の務めは、雌雄で共有されることが多いのに対し、一夫多妻の種では、片方の親(雌)が抱卵の全責務を負う。親鳥の体熱は、卵を抱いている鳥の腹ないし胸の皮膚が露出した部分である抱卵斑を通して卵に伝わる。抱卵はエネルギー的要求の高い行為であり、たとえば成鳥のアホウドリは、抱卵に1日あたり体重の約83グラム (2.9 oz)を失っていく[237]。ツカツクリ類の卵を孵すための熱は、太陽、植物の腐食もしくは火山性の熱源による[238]。抱卵期間は、キツツキ類、カッコウ類、スズメ目の鳥のおよそ10日から、アホウドリ類やキーウィ類の80-90日におよぶ[239]。
孵化の時点で雛の成長の度合いは、その種によって、晩成から早成までの範囲がある。晩成性 (Altricial) の雛はいわゆる「留巣性」であり、小さく生まれてくる傾向があり、目が開いておらず、動くことができず、羽毛を持たない。孵化した時点で動くことができ、羽毛が生えそろっている早成性の雛を「離巣性」と呼ぶ。晩成性の雛は、体温調節のための助けが必要であり、早成性の雛よりも長い期間にわたって、親鳥からの給餌を受けなくてはならない。この両極のいずれでもないような雛を、半早成性 (Semi-precocial) もしくは半晩成性 (Semi-altricial) と呼ぶ。
親鳥による雛の世話の期間と性質は、その分類目や種の間で大きく異なる。ある極端な例として、ツカツクリ類の親鳥の世話は、孵化の時点で終了する。孵化したばかりの雛は、親鳥の助けなしに巣である塚(マウンド)のなかから自身を掘り起し、また直ちに自活することができる[240]。それとは反対に、多くの海鳥は、親鳥の世話する期間が長期にわたり、最も長いものはオオグンカンドリで、その雛は巣立つまでに6か月かかり、さらに14か月にわたって親鳥から給餌を受ける[241]
ある種においては、両方の親鳥が雛の世話と巣立ちに関わるが、そのほか、一方の親鳥だけがその世話を務めるものもある。また種によっては、雛の養育を、同種のほかの仲間(ヘルパー、helper、通常は、前回の繁殖のときの子といった繁殖つがいの近親)が手助けする場合もある[242]。このような代理育雛は、とりわけカラス類やカササギフエガラス、オーストラリアムシクイ類などのカラス小目の種で一般的であるが[243]、ミドリイワサザイやアカトビのように、異なる種の鳥においても観察されている。ほとんどの動物群において、雄が子の世話をすることは稀である。しかしながら、鳥類においてはきわめて一般的であり、ほかの脊椎動物群に比べて非常に多い[90]。縄張りや営巣地の防御、抱卵、雛への給餌などは、多くの場合分担して行われるが、ときに一方が、特定の責務すべてないしそのほとんどを受け持つような分業が生ずることもある[244]。
雛が巣立つタイミングは、実にさまざまである。ウミスズメのようなウミスズメ属の雛は、陸性の捕食者から逃れるために、孵化したその夜にも(孵化後1-3日)巣を離れ、親鳥について海に出る[245]。ほかにも、カモ類のように早いうちにその雛を巣から遠くに移動させる種がある。ほとんどの種において、雛は飛ぶことができる直前、あるいはその直後に巣を離れる。巣立ったあとの親鳥による世話の度合はさまざまである。アホウドリ類の雛は自分で巣を離れ、それ以上の助けは受けないが[246]、一方、ほかの種においては巣立ち後も、ある程度補助的な給餌を続ける。雛はまた、最初の渡りの際にその親鳥についていくこともある[247]。
托卵とは、卵を産むものが、その卵の世話を別の個体の抱卵に託すことをいい、ほかのどの種類の生物よりも、鳥類の間でより一般的である[248]。托卵する鳥がその卵をほかの鳥類の巣に産んだあと、多くの場合、卵は仮親(卵を託された親)に受け入れられ、仮親の雛を犠牲にして育てられる。托卵には、自分の子を育てることができないことから、その卵を必ず異種の鳥の巣に産まなければならない真性托卵(種間托卵)と、自分で子を育てることができるにもかかわらず繁殖の結果を向上させるため、ときに同種の巣にその卵を産むことのある条件的托卵(種内托卵)がある[249]。ミツオシエ類、ムクドリモドキ類、テンニンチョウ類、カモ類(ズグロガモ)など、約100種の鳥が真性托卵を行うが、そのなかで最も有名なのがカッコウ類である。托卵する種のなかには、その仮親の雛より前に孵化するよう適応したものがあり[248]、これによって仮親の卵を巣の外に押し出して壊すことや、仮親の雛を殺すことが可能になる。このことは、巣に運ばれる食料すべてが托卵の雛に与えられることを確実にする[250]。
鳥類は、広範囲にわたる生態的地位を占めている[201]。ある種の鳥類は広食性(多食性)であるが、他方、その生息地ないし食餌の要件において高度に特化した鳥類もある。たとえば森林のような単一の生息環境においても、それぞれ異なる鳥類によって占められる生態的ニッチはさまざまであり、ある種は林冠で採餌し、別のものは樹冠の下で、またそのほかに林床で採餌する種もある。森林の鳥は、食虫性であったり、果食性、蜜食性であったりする。水鳥は、一般に魚を採食したり、植物を食べたり、あるいはほかの鳥から奪い取る海賊行動(盗賊的寄生)すなわち盗み寄生により採餌する。猛禽類は、哺乳類ないしほかの鳥類の捕食に特化し、ハゲワシ類は腐肉食に特化している。Avivore は、鳥類の捕食に特化した動物たちである。
ある種の蜜食性の鳥類は、重要な受粉媒介者であり、また多くの果食性の鳥類が、種子の散布において重要な役割を果たしている[251]。植物と受粉する鳥類は共進化していることが多く[252]、なかには花の主な受粉者が、その蜜を得ることができる唯一の種である場合もある[253]。
鳥類は、島嶼の生態系に対して重要な役割を演ずることが多い。鳥類はよく、哺乳類がいない諸島におよぶ。これらの島々では、一般に大型動物によって演じられる生態的役割を、鳥類が果たすこともある。たとえばニュージーランドでは、ニュージーランドバト(マオリ語: kererū)やハシブトホオダレムクドリ(マオリ語: Kōkako)が今日そうであるように、モア類が主要な草食者であった[251]。今日、ニュージーランドの植物は、絶滅したモアから自身を守るために進化した防御的な適応を保持している[254]。海鳥の営巣もまた、島嶼やその周囲の海域の生態系に影響を与えることがある。これは主に大量のグアノ(鳥糞石)の集積により、その地域の土壌[255]、および周辺海域が豊かになることによる[256]。
鳥類生態野外調査 (Avian ecology field methods) の手段として、個体数の集計(カウント)、巣の監視活動(モニタリング)、捕獲と標識調査(マーキング)など、さまざまな方法が用いられている。
鳥類は非常によく見られ、一般的な動物群であることから、人類はヒトの黎明期から鳥類との関係を持ってきた[257]。ときにこうした関係は、ボラナ族 (Borana) のようなアフリカの民族とミツオシエ類の間における協同のハチミツ採集のように、相利共生のものもある。他方、イエスズメのような種が人間の活動から恩恵を得ているように、片利共生のこともある[258]。何種もの鳥類が、商業的に深刻な農業害鳥とされており[259]、また航空上の危険をもたらす場合もある[260]。人間の活動が鳥類にとって有害な場合もあり、たくさんの種の鳥類が絶滅の危機にさらされている(狩猟、鉛中毒、農薬、轢死、それに家畜のネコやイヌによる捕食が一般的死因である)。
鳥類は媒介者として、オウム病、サルモネラ症、カンピロバクター症、マイコバクテリア(鳥結核症)、鳥インフルエンザ、ジアルジア症、クリプトスポリジウム症などの疾患を、遠距離を介して広めることがある。これらのなかには、ヒトによって媒介され得る人獣共通感染症もある[261]。
食肉や採卵のために飼育された鳥類は、家禽と呼ばれ、人間によって消費される動物性タンパク質の最大の供給源であり、2003年には全世界で約 7600万トンの家禽と[262]、6100万トンの卵が生産された[263]。家禽の消費においては、ニワトリが大部分を占めるが、シチメンチョウ、ガン、カモも比較的一般である。また鳥類の多くの種が、食用のために狩猟の対象となる。鳥類の狩猟(ハンティング)は、きわめて未開発の地域を除いて、主に娯楽的活動である。南・北アメリカにおける最も重要な狩猟鳥は水鳥であるが[264]、これ以外にも広くキジ類、ウズラ類、ヤマウズラ類 (Partridge)、シチメンチョウ類、ライチョウ類[265]、ハト類、タシギ類 (Snipe)、ヤマシギ類 (Woodcock) などが狩猟の対象となっている。またオーストラリアやニュージーランドでは、マトンバード猟(海鳥であるミズナギドリ類の雛〈マトンバード、Mutton Bird〉を、季節的に食用のため捕獲すること)も一般的である[266]。マトンバード猟のような狩猟は維持され得るが、狩猟は数多くの種を絶滅あるいは絶滅の危険にさらすことに繋がる[265]。
ほかに鳥類から得られる商業的に価値のある製品としては、衣類や寝具の断熱材として用いられる羽毛(特にガン・カモ類の綿羽)や、リン、窒素の貴重な供給源となる海鳥の糞(グアノ、鳥糞石)などがある。太平洋戦争(1879年-1884年)は、ときに硝石戦争(グアノ戦争)とも呼ばれ、一部では鳥糞石の鉱床の権益をめぐって戦いが行われた[267]。
鳥類は、人間によってペットとして、また実用的な目的のために飼われている。オウム類やムクドリ類のような色彩豊かな鳥類は、飼育下で繁殖させたりペットとして飼われたりするが、こういった行為が、一部の絶滅危惧種の違法な取引に結びついている[268]。ハヤブサ類およびウ類は、長きにわたってそれぞれ狩猟や漁業に使われてきた。伝書鳩は、少なくとも西暦1年から使われており、その重要性は第二次世界大戦まで続いた。今日ではそのような活動は、趣味、娯楽、観光[269]、あるいは鳩レースといったスポーツがより一般的である。
鷹狩を行う鷹匠は、狩りも行うが、空港やメガソーラー、海苔等の養殖場などで害鳥の追い払いなども行う[270][271][272]。
アマチュアの鳥愛好家(バーダー、より一般にはバードウォッチャーと呼ばれる)は何百万人にものぼる[273]。自宅所有者のなかには、住居近くに鳥の餌台(バードフィーダー)を設置して、さまざまな種の鳥を引き寄せようとする者が多くいる。鳥類への給餌 (Bird feeding) は数百万ドル産業にまで成長しており、たとえばイギリスの家庭のおよそ75%が、冬季中に鳥類のために何らかの餌を与えるとされる。
鳥類は、伝承、宗教、そして大衆文化において突出した、多様な役割を演じている[274]。宗教において、鳥類は神の使いあるいは司祭や指導者として見られることもある。たとえばマケマケ信仰では、イースター島の鳥人(タンガタ・マヌ)が首長としての役目[275]、また2羽のワタリガラスであるフギンとムニンの場合には、かれらは北欧の神オーディンの耳に情報をささやく[276]。古代イタリアのいくつかの文明、特にエトルリアやローマの宗教において、司祭は占い(鳥卜、augury)に従事し、あるいは「吉兆」"auspicious" という単語の由来となった「鳥を観察する人、予言者」 "auspex" (アウグル、augur、鳥卜官)が、事象を予言するために鳥の活動を観察しながら、鳥たちの言葉を通訳した[277]。鳥類はまた、ヨナ(ヘブライ語: יוֹנָה、鳩〈はと〉)が、伝統的にハト類を連想させる恐怖、服従、哀悼、そして美を形象化するように、宗教的象徴として見られることもある[278]。鳥類は、インドのドラヴィダ人によって母なる大地のように考えられているインドクジャクの場合のように、かれら自身が神格化扱いされることもある[279]。一部にはまた、伝説の鳥ロックや、マオリの伝説的な鳥ポウアカイ (Pouākai) など、人をさらうことができるほど巨大な鳥として、怪物と考えられてきた鳥もある[280]。
鳥類は、先史時代より文化や芸術の主題に取り上げられており、それらは早期の洞窟壁画にも描かれている[281]。のちに鳥類は、ムガル帝国やペルシアの皇帝の孔雀の玉座に見られるように、宗教且つ象徴的デザインのなかで使われるようになった[282]。鳥類に対する科学的関心の到来によって、たくさんの鳥類の絵画が書籍のために委託された。これらの鳥類画家のなかで最も有名なのがジョン・ジェームズ・オーデュボンであった。北アメリカの鳥類を描いた『アメリカの鳥類』 The Birds of America (1827–1839) はヨーロッパで商業的大成功を収め、のちに彼の名は、全米オーデュボン協会 (National Audubon Society) に引継がれている[283]。鳥類はまた、詩文においても重要な象徴である。たとえばホメーロスはその作品『オデュッセイア』にサヨナキドリ(ナイチンゲール)を取り入れており、カトゥルスは作品『Catullus 2』のなかで、スズメをエロティックな象徴として扱っている[284]。サミュエル・テイラー・コールリッジの『老水夫行』 The Rime of the Ancient Mariner では、アホウドリと水夫との関係が中心的テーマであり、ここからアホウドリが「重荷」を意味する隠喩表現 'Albatross' へと繋がった[285]。そのほか鳥類に由来する英語の隠喩には、たとえばハゲタカファンド (vulture fund) やハゲタカ投資家 (vulture investor) などがあり、ハゲワシ類の屍肉食から来た表現である[286]。
さまざまな種の鳥類に対する認識は、文化によってしばしば異なる。フクロウ類は、アフリカの一部では不運、ウイッチクラフト(魔女術)、そして死と結びつけられているが[287]、ヨーロッパでは広く賢者とも見なされている[288]。ヤツガシラは、古代エジプトでは神聖視されており、ペルシアでは美徳の象徴とされたが、一方ヨーロッパでは広く泥棒であるとされ、スカンディナヴィアでは戦争の先駆けと考えられた[289]。
人間の活動は、ツバメやホシムクドリなど、ごく一部の種の拡大を許すものであったが、そのほかの多くの種においては、個体数の減少ないし絶滅を引き起こしている。1600年以来およそ130種(128種[16]ないし131種[15]、以前の分類では約80種[290][291])の鳥類が絶滅してしまったが、人間が引き起こした最も劇的な鳥類の絶滅は、メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの島嶼への人間の入植に伴って起きたもので、750から1000種を根絶してしまったと推定されている[292]。島嶼の鳥類は、外界から隔絶した環境に適応した固有種(当然個体数は少ない)が多く、それらの種は人間や人間の持ち込んだネコなどの家畜などの外来種、およびそれらが引き起こす環境の変化に対して、非常に脆弱である。多くの鳥類が世界規模で個体数を減らしており、2009年には、バードライフ・インターナショナルと国際自然保護連合 (IUCN) によって1227種が絶滅危惧種のリストに掲げられた[293][294]。
鳥類への人間による脅威として、最も一般的にあげられるのが、生息地の喪失(生息環境の破壊、Habitat destruction)である[295]。このほかの脅威としては、乱獲や、構造物との衝突、あるいは延縄漁業の混獲などの突発的な死亡[296]、環境汚染(原油流出や殺虫剤の使用など)、持ち込まれた外来種による競合や捕食[297]、それに気候変動などがある[298]。
政府や保護活動団体は、鳥類を保護するために働いており、生息地の保護および回復(生息域内保全)させる法律を通過させること、あるいは再移入のための飼育個体による安定個体群の確立(生息域外保全)を図るなどの活動を行っている。このようなプロジェクトのなかには、いくつか成功を収めたものもあり、ある研究では、環境保全活動によってカリフォルニアコンドルやノーフォークインコなど、そのままでは1994年から2004年の間に絶滅してしまったはずの鳥類16種が救われたと推定している[299]。
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