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人間の性に関連する行動において、精神医学における病理的な精神疾患と診断される症状 ウィキペディアから
性的倒錯(せいてきとうさく)、パラフィリア(英語: paraphilia)は、人間の性に関連する行動において、精神医学における病理的な精神疾患と診断される症状を指す。以前は性的嗜好障害(せいてきしこうしょうがい)[1]あるいは性嗜好異常(せいしこういじょう)とも呼ばれた。なお2013年に出版されたDSM-5の日本語版では、パラフィリア障害群という用語を採用し、それ以前のDSM-IVでは性嗜好異常である。
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広義には、繰り返し起こる強烈な性的空想や衝動を特徴とする非規範的な性行動(セクシュアリティ)のことで[2]、その多くは性道徳や社会通念から逸脱しているとみなされる。ただし、性道徳や社会通念は抽象的な概念であることから、その基準や境界線は時代や文化、個人の価値観によって多様な解釈や定義が存在している。また、それらの多様な解釈や定義が偏見や差別の原因となる場合がある。
この記事にて主として解説するのは、精神医学において、パラフィリア症群としてまとめられている精神障害の一分類である。従ってその診断には診断基準を満たしていることが必要である。
現在、各国で通用する英単語のパラフィリア (Paraphilia)の語源は、ギリシア語の前置詞で「横」や「脇」を意味するパラ (ギリシア語:παρά 、英:para)と、古代ギリシア語の名詞で「愛」を意味する フィリア (古代ギリシア語:φιλíα、英:philia)を合わせた単語で、直訳すると「横に逸れた愛」といった意味を持つ。病理学的な専門用語として客観的かつ中立的に表現し、偏見や差別を防止する目的で使用されるようになった造語である。
日本の精神医学界では、昭和時代の初期頃まで一部で変態性欲(英:Sexual perversion)などと呼ばれていた。1886年にドイツの精神医学者のクラフト・エビングが著した『Psychopathia Sexualis』が、日本では1913年に『変態性慾心理』の翻訳刊行されている[3]。しかし、異常性が強調されてしまう言葉であることから、客観性や中立性を表現できる病理学的な専門用語が求められるようになり、英語圏で普及していたパラフィリアを意訳した性的倒錯(せいてきとうさく)という言葉が大正時代頃から次第に普及するようになった。
さらに「倒錯」や「逸脱」といった言葉でも一般的には誤解を招きやすく、客観性や中立性に欠ける表現になりかねないとの配慮から、アメリカ精神医学会(APA)や世界保健機関(WHO)などで使用されている、障害であることを積極的に意味する精神障害や、前述したパラフィリアなどの専門用語を積極的に使用する方が望ましいとの意見もある。
国連のWHOが定めている精神疾患に関する分類『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD-11)では「パラフィリア症群」は以下の内容で特徴づけられると説明されている[4]。関連して「個人的な機能障害を伴わない社会的逸脱または葛藤だけのものは精神疾患に含めない」という方針がある[4]。
- 持続的かつ強烈な非典型的性的興奮パターンを有する。
- そのパターンは、同意能力のないあるいは同意を拒む者を対象とする。
- もしくは、そのパターンは、自身に著しい苦痛をあたえる。ただし、それはその興奮パターン自体によるものであり、単にその興奮パターンが他者から拒絶されること、または他者から拒絶されるのを恐れることによる二次的なものではない。
- もしくは、そのパターンは、たとえ相手の同意があったとしても自身か相手に傷害・死亡に至る重大なリスクを生じさせる。
アメリカ精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版改定版(DSM-IV-TR)では、「性嗜好異常(Paraphilia)」である。性嗜好異常の項目では、すべての性嗜好異常に共通する第一段階における診断規準が記述されている。精神疾患であると診断する為の条件として、少なくとも以下の2点を同時に満たすことが必要と定義されている。なお2013年に出版されたDSM-5の日本語版では、「パラフィリア障害群」という用語を採用している。
(1)当人が自分の性的嗜好によって、心的な葛藤や苦痛を持ち、健康な生活を送ることが困難であること。
(2)当人の人生における困難に加えて、その周囲の人々、交際相手や、所属する地域社会などにおいて、他の人々の健全な生活に対し問題を引き起こし、社会的に受け入れがたい行動等を抑制できないこと。
従って、これらを同時に満たしていない場合は、精神疾患としての性的倒錯とは診断されない。
例として、当人が自身の性行動に葛藤や苦痛を持たず、日常生活に支障がなければ、(1)の条件を満たしていないのでパラフィリアとは診断されない。また、当人が葛藤や苦痛を持っていても、第三者や社会秩序にとって脅威や問題がない場合は、(2)の条件を満たしていないのでパラフィリアとは診断されない。
さらに、当人が何らかの性行動の特徴を持っていたとしても葛藤や苦痛がなく、第三者や社会秩序にとっても具体的な問題が生じていない場合は(1)と(2)の両方を満たしていないので、精神疾患としては診断されない。
以下、各国の医療機関で準拠することの多い世界保健機関(WHO)やアメリカ精神医学会(APA)が定義した、精神疾患としてのパラフィリアの分類を挙げる。
国連の世界保健機関(WHO)が定める『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD)の第11版では、以下がパラフィリア症群の分類として定義されている[4]。以前は「性嗜好障害」という項目があった。しかし、2019年の「ICD-11」からは「性嗜好障害」という言葉を使わずに「パラフィリア症群」という言葉を用い、「フェティシズム」の用語はカテゴリから消えた[4]。
アメリカ精神医学会(APA)が定める『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版改定版(DSM-5)では、以下がパラフィリア障害群の分類として定義されている[5]。
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パラフィリアの主な類型を挙げる。
最終目標が性交(セックス)ではなく、何らかの嗜好や倒錯した行為が認められる症状が「性目標倒錯(せいもくひょうとうさく)」である。後述の「性対象倒錯」と併発している場合も多く、厳密な区分は困難である。
最終目標は性交(セックス)にあるが、その相手や対象、状況などに何らかの嗜好や倒錯の認められる症状が「性対象倒錯(せいたいしょうとうさく)」である。前述の「性目標倒錯」と併発している場合も多く、厳密な区分は困難である。便宜的に「人物」「年齢」「物体」「状況」「その他」の5つに分類して挙げる。
主に人物、または身体の部位や状態に関連するものを挙げる。なお、身体の特定の部位(パーツ、英語:Parts)への性的関心は、広義に「パーシャリズム(英語:Partialism)」と言う。
主に年齢に関連するものを挙げる。なお、特定の年齢の人物に対する場合もあれば、年齢差そのものの場合もある。また、年齢や性別の定義は医療機関によって多少の差異が存在する。
主に物体に関連するものを挙げる。それらの物体を伴う(例えば着用しているような)人物に対する性行為の場合もあれば、物体そのものに対する性行為の場合もある。なお、物体そのものへの性行動は、広義に「オブジェクト・セクシャリティー(対物性愛)英語:Object sexuality」と言う。
主に状況や環境に関連するものを挙げる。なお、それらの状況に遭遇した人物に対する性行為の場合もあれば、状況そのものに対する性行為の場合もある。:
パラフィリアは人間の性に関わる精神疾患であるが、時代や文化と共に定義や分類が変化し続けている。例として、かつて同性愛は性的倒錯であるとみなされていた。しかし、1973年にはアメリカ精神医学会(APA)の『精神障害の診断と統計マニュアル』第2版(DSM-II)改訂7版から、同性愛が削除され、1990年には世界保健機関(WHO)の『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10)では「同性愛は治療対象にならない」として削除されている。これを受け、1994年には日本においても厚生省(現厚生労働省)が準拠を表明している。
ドーパミン受容体パーシャルアゴニスト作用を有する抗精神病薬のアリピプラゾール(エビリファイ)を服薬することによって異常性欲や性的倒錯を発症することがある。患者は通常、罪悪感のためにこれらに言及するのは困難とされる[6][7]。アメリカ食品医薬品局(FDA)は添付文書で黒枠警告をしている[8]。
RNR原則の下、構造化されたアセスメントをした上で、認知行動療法 (CBT) と、自己統制モデル (SRM)、グッドライフ・モデル (GLM) という介入理論を組み合わせ、包括的にアプローチする[9]。
支援者は、クライエントの尊厳と価値を受け入れ肯定し(歓迎の姿勢)、ニーズに耳を傾けて支援を行っていく。性に関する悩みを抱えたクライエントも、他のクライエントと同じように生きていく悩みを持っている人として受け入れることが大切である[9]。
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