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1962年に公開された日本の映画 ウィキペディアから
『妖星ゴラス』(ようせいゴラス)は、1962年(昭和37年)3月21日に公開された日本の特撮映画[11][13]。製作、配給は東宝[5]。カラー、東宝スコープ、多元磁気立体音響[出典 5]。同時上映は『紅の空』[出典 6]。
謎の燃える怪星ゴラスと地球との衝突を回避するため、地球の公転軌道を変えようと奮闘する人々を描く[3][17]。制作背景には、ソ連によるボストーク1号の有人宇宙飛行の成功など、宇宙開発に注目が集まっていた世相に乗っている[出典 7][注釈 2]。
円谷英二による東宝特撮映画50本目の集大成を目指して、構想3年、制作費3億8,000万円、撮影日数300日、特撮パートが全体の3分の1を占める超大作として製作された[出典 8]。従来の特撮映画では、物を破壊するシーンに特撮を用いることが主であったが、本作品ではジェットパイプ基地の建設描写に注力していることが特徴である[25]。
本編では、宇宙飛行士の地上での生活や宇宙船を巡る社会情勢などを描いており、宇宙飛行士が当たり前の職業として存在している近未来を表現している[26]。
脚本を担当した木村武は、本作品は怪獣映画の「怪獣」を「妖星」に置き換えたものであり、脚本は型どおりでも見せ場のあり方が変わったと述べている[27]。脚本第1稿での仮題は『地球大改造』[28]。
本作品について田中は、ハードSFに真っ向から挑戦した力作であったが、怪獣映画ほどの興行にはならなかったと述懐している[29]。
2018年6月には日本映画専門チャンネルの特集「東宝特撮王国」の1つとして、HDリマスター版が放送された[30][31]。
SF作家の山本弘が2009年に発表したSF小説『地球移動作戦』は、この作品へのオマージュとして書かれた小説である[32]。
1979年[出典 9][注釈 3]9月29日午後8時、土星探査の任務を負った日本の宇宙船JX-1・隼号が、富士山麓宇宙港から打ち上げられた[21]。しばらくして、パロマー天文台は質量が地球の6,000倍あるという黒色矮星・ゴラスを発見したと発表する。隼号の艇長・園田は最もゴラスに近い位置にいることを鑑み、急遽その探査に任務を変更するが、超引力に飲み込まれ、引力圏内に捉えられてしまう[12][21]。脱出不可能と判断した園田は「地球からの観測データは誤っている」と最後まで観測を続け、データを送信した隼号はゴラスへ衝突して大破し、クルー全員が殉職する。
隼号の遭難はクリスマスに湧く日本に衝撃を与え、最後に送信されたデータから導き出された「ゴラスは大きさこそ地球の4分の3だが、今の進路を保てば2年半後に地球に衝突する」という結論は、世界中に衝撃を与えた[12]。
日本宇宙物理学会の田沢博士と河野博士は事態を危惧するが、政府も対策に本腰を入れようとせず[21]、またこれを自分の問題として捉える人々も少なかった。隼号の姉妹艇JX-2・鳳号の若いクルーたちは「先輩たちに続け」と意気込むが、ゴラスの再観測が重要ゆえに打ち上げは莫大な予算を要するという現実に直面する。
思うに任せぬ中、田沢と河野は園田の孫・速男の「ゴラスを爆破するか地球が逃げるか、その2つしかないじゃないか」という言葉に活路を見出し、国連科学会議で「重水素ならびに三重水素を利用したロケット推進装置を南極に設置し、100日間で地球を40万キロメートル移動させて軌道を変える」という「地球移動計画」を提案する[12][21]。当初は疑問視されるが、アメリカやソ連も似たような研究を行っていたことから、南極に結集した世界中の技術によって巨大ジェットパイプが建造されていく[21]。工事現場で落盤が発生するなどの事故でタイムロスも生じ始めるが、多くの人々による尽力で作業は続けられた。
そのころ、国連の要請を受けて日本が打ち上げた鳳号がゴラスに接近する[21]。カプセル1号でゴラスに肉薄した金井の観測の結果、ゴラスの質量は地球の6,200倍に増加しており、もはや爆破は不可能という結論が出される[21]。地球を救う術は前述の計画のみとなる一方、金井は接近時のショックで記憶喪失となってしまう[12][21]。
完成したジェットパイプ基地のジェット噴射は、地球を計算通りの速度で動かし始める。世界が歓喜する中、田沢は「ゴラスの質量増加が続けば現在の施設だけでは追いつかなくなる」との不安を抱え、国連への追加投資を巡って河野と対立する。その間も、ゴラスは彗星や土星の輪を飲み込みながら地球に接近していく。さらには、南極に眠っていた巨大生物・マグマが突如目覚め、施設の一部に損傷を与える[12][21]。田沢らによってマグマは葬り去られるが、復旧作業も含めて72時間というタイムロスが生じる[21]。
そしてゴラスと地球が最接近する1982年2月[出典 10]、人々の尽力によってタイムロスは減るが、それでも36時間分の移動距離が足りない。地球の各地ではゴラスの引力によって天変地異が発生し、富士山麓宇宙港の宇宙船が次々と地中に飲み込まれ、東京などの都市群はおろかジェットパイプも水没してしまうが[21]、誰もが絶望する寸前で移動は成功し、ゴラスとの衝突は回避されるのであった[12]。
直径は地球の4分の3だが、質量は地球の6千倍におよぶ[1][37]超重力を持つ黒色矮星[14][16]。表面温度は1千度以上[14]。
外見はセイウチに似ているが血液成分は太古の巨大爬虫類に分類されるという設定[出典 15][注釈 5]。巨大な牙を武器とする[1]。南極の地底で眠っていたところ、妖星ゴラスを回避するために建設された原子力ジェットパイプ基地の熱で温暖になったことで目覚め、地震を引き起こして南極計画の基地の装置の一部を破壊した。その後、調査に来た国連所属のVTOL機のレーザー砲によって倒される[出典 16]。
監督の本多猪四郎は撮影に入る前、助監督の梶田興治とともに1か月近く東京大学理学部天文学科へ通い、畑中武夫率いる畑中教室の堀源一郎に、「地球移動」という荒唐無稽な設定の科学的考証(後年における「SF考証」か「SF設定」)を依頼した[出典 31]。大きいとはいえ有限の質量を持つ物体であることに変わりはなく、非常に大きな力が必要ではあるが、それが必要に見合った十分な力であればニュートンの運動方程式に従って軌道は変わるため、地球の質量の概算値を元に、必要な力・運動量・エネルギーは算出できる。堀は完全に実行可能と仮定してそれらを算出したが、劇中の「月がゴラスに吸い込まれる」という描写について「月が吸い込まれた時点で地球も吸い込まれているはず」として[出典 32]、映画的なフィクションであることを理解したうえで「興行でこの話題が出る際には必ずこの部分は“嘘”である、との注釈を入れて欲しい」と条件を付けた[60]。特技監督の円谷英二は、完成当時のインタビューで「ある程度の嘘は仕方がない」としつつ「まったくの嘘ではダメだ」と述べている[124]。
劇中で黒板に示される地球移動にかかるエネルギーなどの計算式は、上記の依頼にもとづいた検証の際に堀が自ら書いたものである[出典 33]。
南極を砕氷船が進むシーンでの氷原は、当時最新の素材だった発泡スチロールで作られている[69]。また、ラストの水没した国会議事堂や大阪城のシーンは、ビル群のセットを荒川に持ち込んで撮影されている[125][注釈 16]。ビルなどの構造物のほとんどが木製で水に浮きやすかったため、撮影中によく流された。東京タワーは展望台からより下のみ、国会議事堂は上部のみ制作された[13]。
落盤事故のシーンは、着色した土とおがくずを台に積み、トラックでワイヤーを引いて下に落としている[74]。断崖部分は作画合成による[74]。また、有楽町駅や勝鬨橋の水没シーンはセットで撮影され、従来のタンクに貯めた水を流す手法ではなく、プールの水を溢れさせる手法も用いられた[20]。
金井役の久保明は、宇宙遊泳の訓練シーンの撮影で二瓶正典とともにワイヤーで吊られ苦労した旨を語っている[129]。
撮影時、足を骨折していた出演者の佐原健二は降板を覚悟して監督の本多に会ったが、彼は「ケン坊(佐原)の役は誰にも代わりはできないと思っているから」と慰留し、本番でも佐原の歩くシーンを極力減らすなど配慮して撮影を乗り切った[130]。
基地建設シーンでは、セットの前で本職の溶接技師が作業を行い、リアリティを与えている[8]。
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