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心理に関する日本の国家資格 ウィキペディアから
公認心理師(こうにんしんりし)とは、「心理に関する支援を要する者の心理状態の観察・分析」・「心理に関する支援を要する者との心理相談による助言・指導」・「心理に関する支援を要する者の関係者との心理相談による助言・指導」・「メンタルヘルスの知識普及のための教育・情報提供」(第2条)を行う、公認心理師法を根拠とする日本の心理職唯一の国家資格である。
公認心理師 | |
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略称 | 心理師 |
実施国 | 日本 |
資格種類 | 国家資格 |
分野 |
医療・保健、福祉、教育その他 ※その他は、司法・矯正、産業等を含む |
認定団体 |
文部科学省・厚生労働省(共管) ※文部科学省の協力を得て、厚生労働省への係官の出向及び「公認心理師制度推進室」設置に伴い、制度全体としては厚生労働省が所管[1][2] |
認定開始年月日 | 2019年2月5日 |
等級・称号 | 公認心理師 |
根拠法令 | 公認心理師法 |
公式サイト |
公認心理師(厚生労働省) 公認心理師(文部科学省) |
特記事項 |
指定試験機関については、平成28年4月1日付けで日本心理研修センターを指定 ※指定登録機関については、平成29年12月11日付けで日本心理研修センターを指定 |
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心理職の国家資格化に関して、関係団体の間で意見集約・合意形成が難しい状況と規制緩和・行政改革の流れの中で政府提案による国家資格化には課題が多いことを背景に、2005年に「臨床心理士及び医療心理師法案」を議員立法として国会に提出する動きがあったが、最終的に関係団体の意見がまとまらなかったため、法案の形にすることができず、国会提出には至らなかった。意見の調整を経た後、2014年の第186回国会に「公認心理師法案」として提出され継続審議となっていたが、第187回国会での衆議院解散に伴い審査未了となり、2015年の第189回国会において改めて提出された。そして、与野党間で協議が整ったことを受けて、衆議院文部科学委員長提出の議員立法として、衆・参ともに全会一致での可決により成立した。衆・参それぞれの委員会では、6項目の付帯決議が全会一致で採択された。
名称独占資格として規定される(第44条第1項)。また、公認心理師の有資格者以外は「心理師」という文字の使用禁止が規定されている(第44条第2項)。しかし、混乱がおこることを避けるため、一般に「心理士」などの「士」の付く既存の民間資格の名称を禁止するというまでには至らないとされている[3][4]。
公認心理師は、特定の分野に限定されない「汎用性」「領域横断性」[5][6]を特長とする心理職国家資格を旨とするものである。そのため、文部科学省と厚生労働省による共管とされ、主務大臣は文部科学大臣と厚生労働大臣と規定されている。
第一八九回 衆第三十八号 公認心理師法案 [成立]
(【第一八九回 衆第二十八号[撤回]】[7]は、実質的な内容の変更を伴わない形式的な修正を【第一八六回 衆第四十三号[廃案]】[8]へ行ったのみとされている)
(委員長提出法案[9]として、与野党合意により、さきに与野党四会派共同で提出した法案[7]の附則[10][11]に、配慮規定[訓示規定][12]を追加)
かつての日本では、心理士、心理カウンセラー(相談員)、心理セラピスト(療法士)などの心理職には国家資格が存在しない一方、民間の心理学関連資格は多数存在した。しかし、欧米諸国[13][14][15]は元より、オーストラリア[16][17][18]や中国・台湾・韓国[19][20][21]でも資格制度の整備や所掌の明確化が既に図られている現状など、国際的観点からも制度の遅れがあることに鑑み、日本における心理職の国家資格創設の必要性は度々取り沙汰されてきた[22]。
公認心理師は、臨床心理士と同様の特性を帯びる一方で、養成期間が2年間(臨床心理士)から6年間(公認心理師)となるなど、いくつかの点で臨床心理士との規定の相違が認められる。ついては、下記に公認心理師、臨床心理士双方の主な規定をまとめ、その同異を示すとともに、メンタルケア先進国である米国臨床心理士[23][24][25]を比較対照群として併記する。
公認心理師 | 臨床心理士 | 米国臨床心理士 | |
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資格区分 | 国家資格 | 公的資格[26] | 州立資格[27] |
資格取得のための 学歴制限 |
文部科学省・厚生労働省令で定める 大学心理学系科目+学士号+大学院心理学科目+修士号取得者 (第7条) |
臨床心理学系修士号取得者、 または医師免許取得者[28] | 臨床心理学系博士号取得者[27][29] |
養成課程 | 文部科学省・厚生労働省令で定める養成学部+養成大学院、または 養成学部+認定施設でプログラムに則った2年以上(標準的には3年間)の実務経験 |
臨床心理士指定大学院[28] | アメリカ心理学会(APA)認証大学院[27][29] |
養成課程の 最短所要期間 |
6年間 [文部科学省・厚生労働省令で定める心理系学部4年+心理系大学院2年] |
2年間 [第1種臨床心理士指定大学院] | 10年間[27][30] [学部4年間+認証大学院5年間+ポスト ドクトラル臨床心理インターン(フルタイム)] |
医師との関係性 | 精神疾患に関する適切な判断力の活用が必要で、 医療機関内や医療分野における活動だけでなく、 学校内や企業内なども含むあらゆる分野の活動でも、 心理状態が深刻で医学的治療を受けているような 心理的支援の対象者に主治医がいると判断された[31][32] 場合に限り、(その主治の)医師からの「指示」を受ける ※「指導」ではなく、より強制力[33][34]のある「指示」を受ける (第42条第2項) |
精神疾患に関する適切な判断力の習得は 必要とせず、心理職としての独立性があり 医師からは「指示」も「指導」も受けない が、必要に応じて医師との「連携」や「協力」は行う[11][35][36] | 精神疾患に関する適切な判断力の習得が 必要で、心理カウンセラーとの役割は明確に 区別され、心理職としての独立性があり 医師からは「指示」も「指導」も受けない [25][37][38][39] |
薬剤の処方行為の有無 | 無 | 無[40] | 有[25][30] ※州によって規定・教育要件が異なり[41][42]、 ニューメキシコ州(2002年3月制定)[43]、 ルイジアナ州(2004年5月制定)[44]、 イリノイ州(2014年6月制定)[45]、 アイオワ州(2016年5月制定)[46]、 アイダホ州(2017年4月制定)[47]において認可[48] |
免許更新の義務の有無 | 無 | 有[28] ※満5年ごとの更新が義務づけ | 有[27][30] ※州によって更新期間が異なる |
平均的・標準的な収入 | 年収は、「300万円以上400万円未満」が最も割合が高いが、 就業形態で分けると、常勤勤務における年収は、「300万円以上400万円未満」と 「400万円以上500万円未満」が約21%と割合が高い一方、 非常勤のみでは「200万円以上300万円未満」の人の割合が一番多い[49][50] ※2020年調査、2021年3月報告(日本公認心理師協会) | 年収300万円台[51] ※法務省、文部科学省などの所管機関では 平均時間給は約5000円前後の水準[52][53][54]だが、 非常勤の就業形態が合計60%以上で、 年収換算の分布は300万円台が最多[51] ※2007年調査、2009年報告 | 年収87,015ドル[55] (調査年平均為替レート換算[56]:約814万円) ※2009年調査、2010年報告 (APA) 平均年間賃金89,290ドル[57] (調査月平均為替レート換算[58]:約959万円) ※2020年5月調査、2021年3月31日報告 (OES) |
所管 | 文部科学省・厚生労働省共管 | 公益財団法人(内閣府所管) | 各州・地方行政区画のLicensing Board ※名称は各州・地方行政区画によって異なる[30][59][60] |
活動領域における 教育分野の扱い |
教育・学校分野も扱う (第2条) | 教育・学校分野も扱う[61] | 教育・学校分野は扱わない[39][62][13] |
「 | (連携等) 第四十二条 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない。 2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。 (経過措置等) 第四十五条 2 この法律に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、文部科学省令・厚生労働省令で定める。 |
」 |
—法案第四章 義務等 |
上述のように、2014年6月に第186回通常国会へ提出した公認心理師法案は、同年秋の第187回臨時国会において継続審議を行うため、衆議院で閉会中審査が議決された[96]。審議においてはいくつかの論点がある中で、法案提出前の各党の文部科学・厚生労働部会等での法案審査や、超党派の法案実務者協議の中で特に反対意見や修正要求が具体的に指摘されることになったのが、法案の第四十二条「連携等」における「医師との関係性」に関する記載についてで、さらに、各関係団体が主張を見解や声明としてリリースした[1][4][11][35]ほか、SNS上においても活発な議論が行われていたこと[170]も踏まえ、これらの論点を下記にて整理する。
第186回通常国会 | |||
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保留 | |||
基本的立場 | 医師からの指示を受ける範囲を 医療機関の外部にまで拡大しようとする記載になっていることについて、 正当性を吟味する[1][4][11][35][170] | ||
主な関係機関 | 衆議院文部科学委員会(委員長:小渕優子、説明者:山下貴司) 公認心理師法案提出者(提出者:河村建夫、鴨下一郎、山下貴司、古屋範子、稲津久、柏倉祐司、井坂信彦、青木愛、吉川元) 超党派の公認心理師法案実務者協議 各党の文部科学・厚生労働部会等での公認心理師法案審査 自由民主党「心理職の国家資格化を推進する議員連盟(会長:河村建夫)」[1][4][11][35][170] | ||
↑ ↑ ↑ | ↑ ↑ ↑ | ||
賛成(法案文の現状維持) | 反対(法案文の記載変更) | ||
基本的立場 | 医療分野以外の全分野でも 心理的支援の対象者に主治医がいる場合に限り、 医師からの指示を受ける[1][4][11][35][170] | 各分野共通で医師とは連携、 医療機関内のみ医師からの指示[1][4][11][35][170] | |
主な関係機関 | 衆議院法制局 厚生労働省 文部科学省 精神科医系団体(精神科七者懇談会)[1][4][11][35][170] | 三団体 日本臨床心理士資格認定協会 日本臨床心理士養成大学院協議会 都道府県臨床心理士会[1][4][11][35][170] | |
主な論点 | 他職種(医療系)の 法的根拠との整合性論 |
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対象者(患者)の保護論 |
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心理学・心理行為と 医学・医行為との同異論 |
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医師からの指示に対する 省令などでの制限担保論 |
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医療分野の事情優先論 |
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心理職国家資格の 創設優先論 |
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心理職国家資格の 必要性認識の有無 |
有[1][4][11][35][170] |
※補足
厚生労働省社会援護局精神・障害保健課による「支援対象に主治の医師があるかどうかを常に確認しなければならないかどうかについて」の説明(2014年4月23日付け)は、下記の通りである。
「 |
1、この定めの趣旨としては、心理状態が深刻であるような者に対して公認心理師が当該支援に係る主治の医師の治療方針に反する支援行為を行うことで状態を悪化させることを避けたいということ。 |
」 |
※参考(補足)
「 |
医療関係職種の業務における3つの行為類型(案) |
」 |
—厚生労働省 |
また、臨床心理士関係4団体の組織概要と倫理、国家資格化への態度等を下記に示す。関係4団体の間で最後まで意見が分かれたのは、法案の第四十二条「連携等」における「医師との関係性」及び第七条「受験資格」についての記載である[12][136][173]。
(社)日本心理臨床学会 | (財)日本臨床心理士資格認定協会 | (社)日本臨床心理士会 | 日本臨床心理士養成大学院協議会 | |
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設立年 | 1982年 | 1988年 | 1989年 | 2001年 |
性格 | 学術団体 | 資格認定団体 | 職能団体 | 養成学校連絡協議団体 |
業務執行 理事 |
11名以内 | 4名以内 | 4名 | なし |
理事 | 34名以内 | 15名以内 | 21名以内 | 20名以内 |
会員 | 約2万7千2百名・社 ※2015年4月現在 | なし | 会員=約1万9千6百名 団体会員=47都道府県臨床心理士会 ※2015年度末現在 | 168大学院 ※2016年4月現在 |
倫理 |
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| なし |
第186回通常国会へ提出した公認心理師法案への最終的な態度 | 理事会で賛成を機関決定 ※平成26年6月21日 | 業務執行理事会は、日本臨床心理士養成大学院協議会理事会と連名で、医師の「指示」を撤廃または「指導」にするよう要望 ※平成26年8月18日 | 理事会で支持を機関決定 ※平成26年7月26日 | 理事会は連名で、医師の「指示」を撤廃または「指導」にするよう要望 ※平成26年8月18日 |
第189回通常国会へ提出した公認心理師法案に対する活動 | 三団体と日本臨床心理士会との連名に基づいた早期実現の要望を推進 ※平成26年9月吉日 | 業務執行理事会は、日本臨床心理士養成大学院協議会理事会と連名で、2点[受験資格(第7条)と主治医の指示(第42条第2項)]の声明を踏まえて審議されることを要望 ※平成27年8月5日 | 5団体の連名に基づいた早期実現の要望を推進 ※平成26年9月吉日 | 2団体の連名で、2点の声明を踏まえて審議されることを要望 ※平成27年8月5日 |
「 | (受験資格) 第七条 試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ、受けることができない。 一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に基づく大学(短期大学を除く。以下同じ。)において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業し、かつ、同法に基づく大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めてその課程を修了した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者 二 学校教育法に基づく大学]おいて心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第二条第一号から第三号までに掲げる行為の業務に従事したもの 三 文部科学大臣及び厚生労働大臣が前二号に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認定した者 |
」 |
—法案第二章 試験 |
与野党協議の結果、衆議院文部科学委員会提出の法案では、附則に下記の条項を追加し、また、衆参両院で下記の附帯決議を採択し、全会一致で成立した。
「 | (受験資格に関する配慮) 第三条 文部科学大臣及び厚生労働大臣は、試験の受験資格に関する第七条第二号の文部科学省令・厚生労働省令を定め、及び同条第三号の認定を行うに当たっては、同条第二号又は第三号に掲げる者が同条第一号に掲げる者と同等以上に臨床心理学を含む心理学その他の科目に関する専門的な知識及び技能を有することとなるよう、同条第二号の文部科学省令・厚生労働省令で定める期間を相当の期間とすることその他の必要な配慮をしなければならない。 |
」 |
—法案附則 |
「 |
|
」 |
—衆議院文部科学委員会 平成二十七年九月二日[129] |
「 |
|
」 |
—参議院文教科学委員会 平成二十七年九月八日[135] |
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