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有触毛亜目
深海遊泳性のタコが属する頭足類の分類群 ウィキペディアから
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有触毛亜目(ゆうしょくもうあもく、Cirrata)は、現生のタコ類(頭足綱八腕形目)を大別するうちの1亜目であり、腕に吸盤だけでなく触毛の列を持つタコからなる[1]。有触毛類(ゆうしょくもうるい、英: cirrates, cirrate octopods[2])とも呼ばれる[3][4]。
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名称
階級はふつう亜目に置かれ、有毛亜目(ゆうもうあもく)[5]および触毛亜目(しょくもうあもく)[6]とも呼ばれる。また、外套膜に鰭を持つことから、有鰭亜目[7](ゆうきあもく、有鰭類[4]、finned octopods[2])とも呼ばれる。ヒゲダコ亜目とも呼ばれることもある[8]。
学名は研究者によりさまざまなものが用いられる。瀧 (1935)、土屋 (2002) や 佐々木 (2010) では、Cirrata Grimpe, 1916 が用いられる。Strugnell et al. (2013) でも Cirrata の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。Sanchez et al. (2018) でも目の階級に置かれ、Cirromorphida という学名が用いられる。Kröger et al. (2011) では Cirroctopoda Young, 1989 が用いられる。
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形態
要約
視点
体は寒天質で、触毛列や肉鰭を持ち、広い傘膜によって特徴づけられる[9][1][2]。腕の吸盤列(sucker row)は1列[6]。
最大のものは全長4 m に達する[2]。一般に性的二形は小さく、交接腕も欠くが、一部の種では雄の吸盤が大きくなる[2]。
触毛

有触毛亜目の8本の腕には吸盤列が1列に並び、その両側に触毛(しょくもう、cirrus, pl. cirri)が生え、触毛列をなす[9][6][10]。
触毛は長く伸びた、肉質で指状の突起である[10]。触毛で小さな獲物を操作したり、餌を口に運ぶために水流を生み出したりする[11]。触毛には化学受容器を持ち、光の届かない深海で餌を探すのに用いていると考えられている[11]。
なお、ムカシダコ亜目 Palaeoctopoda に属する白亜紀の化石種ムカシダコ Palaeoctopus newboldii も触毛を持ち、吸盤列が1列である[6]。ほかの形質と合わせて、有触毛亜目と無触毛亜目の中間的形質をもつ祖先型と言われる[6]。
肉鰭

有触毛亜目には肉鰭(にくき、fin[12])があり、外套膜の背側側方に1対具える[6][13]。肉鰭は単に鰭とも呼ばれ[14]、俗に「ミミ(耳)」と呼ばれる[15]。肉鰭は筋肉からなり、水中で機動力を生み出す器官である[14]。これはイカにも見られるが、無触毛亜目のタコでは欠く[16]。
肉鰭は支持軟骨(しじなんこつ、fin cartilage)により支えられる[17][13][1]。スタイレット[18](棒状軟骨、stylet[19])とも呼ばれるが、この用語は無触毛亜目の持つ直線的なものに限定して用いることもある[20]。支持軟骨は軟骨質の内在性の貝殻(内殻)であるとされ[6]、「貝殻 shell」と言及されるが、軟骨を形成する組織はほかの軟体動物の貝殻を分泌する腺と相同ではないと考えられている[2]。
ヒゲダコ科は鞍型の支持軟骨を持つ[2]。メンダコ科、Grimpoteuthidae、Stauroteuthis では U字型の、Cirroctopus では V字型の支持軟骨を持つ[2]。
傘膜
各腕は傘膜(さんまく、web, interbrachial membrane, umbrella)と呼ばれる進展した皮膚によって連結される[21][22]。
ヒゲダコ科の傘膜は明瞭な2層が区別でき[2]、一次的な傘膜(primary web)を連結する狭い膜である二次的な傘膜(secondary web)を持つ[23]。一方、Opisthoteuthoidea 上科では傘膜は1層で、二次膜を欠く[2]。
内部形態
全ての種で墨汁嚢を欠く[6][8][2]。また、腸の血洞を欠く[6]。
輸卵管は、無触毛亜目のタコでは対になるのに対し[24]、有触毛亜目のタコでは単一で[25]、左側にのみ残存する[26][2][注釈 1]。
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生態
いずれも深海棲で[1]、ヒゲダコ科のヒゲダコ属 Cirrothauma、Stauroteuthis、Cirroteuthis は深海遊泳性(abyssopelagic、または底棲遊泳性 benthopelagic[27])である[28]。メンダコ属 Opisthoteuthis は漸深層底棲性(bathybenthic)であるように[28]、残りの属(Opisthoteuthoidea 上科)は底棲生である[27]。
ヒゲダコ科は、内在性の貝殻に支えられた大きな鰭と薄い傘膜が発達するため主に鰭と傘膜を動かして泳ぐ[17]。メンダコ属は、短い鰭と厚い傘膜を持ち、頑丈な腕による移動を行う[17]。ジュウモンジダコ属では、両者の中間的な形質を持ち、海底に生息するとともに鰭を使った遊泳を行う[17]。傘膜を翻して腕の口側を外に向け、外套膜を覆うような行動も知られている[29]。
深海棲の有触毛亜目では天敵となる捕食者の記録は少ないが、これは食べられていないというわけではなく、顎板から種を見分けるのが難しいためであると考えられている[17]。南アフリカで漁獲されたアカシュモクザメ Sphyrna lewini の胃内容物から、おそらくジュウモンジダコ属と思われる深海棲タコが記録されている[17]。
浅海の底生のタコを多く含む無触毛亜目に比べると、捕食行動は少ない[30]。ジュウモンジダコ属では、Grimpoteuthis boylei の胃内容物から、多毛類やカイアシ類、端脚類や等脚類などの甲殻類を捕食していることが分かっている[31]。ヒゲダコ科は吸盤が退化し、歯舌や後唾腺も欠くため、微小物食性であると考えられている[32]。
腎嚢にはニハイチュウ類が寄生しており、メンダコからはメンダコニハイチュウ Dicyemennea umbraculum Furuya, 2009 が見つかる[33]。
ヒカリジュウモンジダコ Stauroteuthis syrtensis では、雌雄ともに吸盤に発光器(photophore)を持つという報告がある[34][35][25]。刺激により、比較的明るい青緑色(最大波長 470 nm)の発光を行う[36][35]。光は1–2秒おきに点滅したり、5分間発光し続けることもある[35]。雌雄ともに発光するのはタコで唯一である[35]。
系統関係
要約
視点
Sanchez et al. (2018) による分子系統解析の結果、有触毛亜目は側系統群であることが示唆されていたが[37][注釈 2]、Verhoeff (2023) では再び単系統性が支持されている[27]。
Verhoeff (2023) による 16S rRNA遺伝子の配列に基づく分子系統樹を示す。
八腕形目 |
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Octopoda |
分類史
これまで、有触毛亜目の属は研究者によって様々な異なる科に分類されてきた[27]。
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下位分類
要約
視点
Verhoeff (2023) による分類体系を示す。種と学名の著者は主に Hochberg et al. (2016) に基づく。
- 上科 Cirroteuthoidea Verhoeff, 2023
- ヒゲダコ科[9][38][1](ヒゲナガダコ科[6]) Cirroteuthidae Keferstein, 1866
- ヒゲダコ属[39] Cirrothauma Chun, 1911
- ヒゲナガダコ[40][9](メクラダコ[6][9]) Cirrothauma murrayi Chun, 1911
- Cirrothauma magna (Hoyle, 1885)
- Cirroteuthis Eschricht, 1836
- Cirroteuthis muelleri Eschricht, 1836
カナダ海盆で観察された Cirroteuthis muelleri
- Cirroteuthis muelleri Eschricht, 1836
- Stauroteuthis Verrill, 1879[注釈 6]
- ヒカリジュウモンジダコ[35][8] Stauroteuthis syrtensis Verrill, 1879
- Stauroteuthis gilchristi (Robson, 1924)
- ヒゲダコ属[39] Cirrothauma Chun, 1911
- ヒゲダコ科[9][38][1](ヒゲナガダコ科[6]) Cirroteuthidae Keferstein, 1866
- 上科 Opisthoteuthoidea Verhoeff, 2023
- メンダコ科[42][43][1] Opisthoteuthidae Verrill, 1896
- メンダコ属 Opisthoteuthis Verrill, 1883
- Opisthoteuthis agassizii Verrill, 1883
- オオクラゲダコ[44][43][40] Opisthoteuthis albatrossi (Sasaki, 1920)
- Opisthoteuthis borealis Collins, 2005
- Opisthoteuthis bruuni (Voss, 1982)
- オオメンダコ[45][43][40] Opisthoteuthis californiana Berry, 1949
ファラロン湾にて撮影されたオオメンダコ Opisthoteuthis californiana - Opisthoteuthis calypso Villanueva, Collins, Sánchez and Voss, 2002
- Opisthoteuthis chathamensis O'Shea, 1999
- メンダコ[42][43][40] Opisthoteuthis depressa Ijima and Ikeda, 1895
- Opisthoteuthis dongshaensis Lu, 2010
- Opisthoteuthis extensa Thiele In Chun, 1915
- Opisthoteuthis grimaldii (Joubin, 1903)
- Opisthoteuthis hardyi Villanueva, Collins, Sánchez and Voss, 2002
- センベイダコ[46][43][40] Opisthoteuthis japonica Iw.Taki, 1962
- Opisthoteuthis massyae (Grimpe, 1920)
- Opisthoteuthis medusoides Thiele In Chun, 1915
- Opisthoteuthis mero O'Shea, 1999
- Opisthoteuthis persephone Berry, 1918
- Opisthoteuthis philipii Oommen, 1976
- Opisthoteuthis pluto Berry, 1918
- Opisthoteuthis robsoni O'Shea, 1999
- メンダコ属 Opisthoteuthis Verrill, 1883
- 科 Grimpoteuthididae O'Shea, 1999[注釈 7]
- ジュウモンジダコ属[8] Grimpoteuthis Verrill, 1883
- Grimpoteuthis abyssicola O'Shea, 1999
- Grimpoteuthis bathynectes Voss & Pearcy, 1990
- Grimpoteuthis boylei Collins, 2003
- Grimpoteuthis challengeri Collins, 2003
- Grimpoteuthis discoveryi Collins, 2003
Grimpoteuthis discoveryi - ジュウモンジダコ[41][43] Grimpoteuthis hippocrepium (Hoyle, 1904)
- Grimpoteuthis imperator Ziegler & Sagorny, 2021[49]
- Grimpoteuthis innominata (O'Shea, 1999)[注釈 8]
- Grimpoteuthis meangensis (Hoyle, 1885)
- Grimpoteuthis megaptera (Verrill, 1885)
- Grimpoteuthis pacifica (Hoyle, 1885)
- Grimpoteuthis plena (Verrill, 1885)
- Grimpoteuthis tuftsi Voss & Pearcy, 1990
- Grimpoteuthis umbellata (P. Fischer, 1884)
- Grimpoteuthis wuelkeri (Grimpe, 1920)
- Luteuthis O'Shea, 1999
- Luteuthis dentatus O'Shea, 1999
- Luteuthis shuishi O'Shea & Lu, 1999
- Cryptoteuthis Collins, 2004
- Cryptoteuthis brevibracchiata Collins, 2004
- ジュウモンジダコ属[8] Grimpoteuthis Verrill, 1883
- 科 Cirroctopodidae Collins & Villanueva, 2008
Cirroctopus の液浸標本。 - Cirroctopus Naef, 1923
- Cirroctopus glacialis (Robson, 1930)
- Cirroctopus antarctica (Kubodera & Okutani, 1986)
- Cirroctopus hochbergi O'Shea, 1999
- Cirroctopus mawsoni (Berry, 1917)
- Cirroctopus Naef, 1923
- メンダコ科[42][43][1] Opisthoteuthidae Verrill, 1896
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人間との関わり

有触毛亜目のタコの飼育例は少ないが、メンダコやオオメンダコではごく短期間であるものの、水族館で飼育されることがある[51][52][53][54]。
また、メンダコは人気が高く、衣服や日用品のデザインのほか、ぬいぐるみなど様々なグッズにも用いられる[55][56][57][58]。オオメンダコは、2003年のディズニー映画『ファインディング・ニモ』のキャラクター「パール」のモデルとなっている[59][60]。
脚注
参考文献
Wikiwand - on
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