次の日ハミルトンは、友人でフェロー数学者であったジョン・グレイヴスへ宛てて、彼の発見へと至る一連の道筋をしたためた書簡を記している。この書簡は後に London, Edinburgh, and Dublin Philosophical Magazine and Journal of Science, vol. xxv (1844), pp.489-95.[10]で公表されている。この中でハミルトンは、
And here there dawned on me the notion that we must admit, in some sense, a fourth dimension of space for the purpose of calculating with triples ... An electric circuit seemed to close, and a spark flashed forth.
と述べている。ハミルトンは、これらの乗法規則を備えた四つ組を quaternion と呼び、残りの人生の大半をその研究と教育にささげた。ハミルトンによる取り扱い(英語版)は、四元数の代数的性質を強調する現代的なアプローチよりも幾何学的なものである。ハミルトンは "quaternionists" の学校を設立し、数々の本で四元数の普及を図った。最後にして最長の本が Elements of Quaternions(『四元数原論』)で800ページにも及ぶ(出版されたのは彼の死後少ししてからである)。
P.R.ジラールのエッセイ The quaternion group and modern physics[13](「四元数群と現代物理学」)は、四元数の物理学における役割について論じている。それは現代代数学において "数々の物理的な共変性の群:SO(3)、ローレンツ群、一般相対性群、クリフォード代数 SU(2) および共形群などが容易く四元数群に関連付けられることを示している"。ジラールは群の表現論を議論し、結晶学に関するいくつかの空間群を表現することから始めて、続いて剛体運動の運動学、その後トーマス歳差(英語版)を含む特殊相対論のローレンツ群の表現に「複四元数」(complex quaternion)(双四元数(英語版))を用いている。ジラールはマクスウェルの方程式を四元数変数のポテンシャル函数を用いて一本の微分方程式に表したルドヴィク・シルバースタイン(英語版)をはじめとする5人の著者を引いている。一般相対性を考慮してルンゲ=レンツベクトルを表し、またクリフォード代数の例としてクリフォード複四元数(分解型双四元数(英語版))に言及した。最後にジラールは、複四元数の逆数を使って時空の共形写像について述べている。50にも及ぶ参考文献には、アレクサンダー・マクファーレン(英語版)および四元数学会におけるジラール自身の広報も含まれている。また、1999年にジラールはアインシュタインの一般相対性の方程式が如何にして四元数に直結するクリフォード代数を用いて定式化されるかを示している[14]。
四元数についてのより個人的な見解をジョアキム・ランベック(英語版)が1995年に書いている。エッセイ If Hamilton had prevailed: quaternions in physics(「もしハミルトンが勝利していたら:物理学における四元数」)には "My own interest as a graduate student was raised by the inspiring book by Silberstein"(院生としての私の興味はシルバースタインの本に刺激を受けて生じた)とある。ランベックは He concluded by stating "I firmly believe that quaternions can supply a shortcut for pure mathematicians who wish to familiarize themselves with certain aspects of theoretical physics."[15](「私は四元数が、理論物理学のある種の側面に習熟しようと望む純粋数学者へ、近道を与えるものと堅く信じる」)と述べることによって結論を下している。
集合としては、四元数全体 H は実数体上の4次元数ベクトル空間ℝ4 に等しい。H には3種類の演算(加法、スカラー乗法、四元数の乗法)が入る。H の二元の和は、R4 の元としての和で定義され、同様に H の元の実数倍も R4 におけるスカラー倍として定義される。H の二元の積を定めるには、まず R4 の基底を決めなければならないが、その元を通例 1, i, j, k と記す。H の各元はこれら基底元の線型結合で表される。つまり
四元数全体のなす集合 H は実数体上の 4次元ベクトル空間を成す(実数全体は 1次元、複素数全体は 2次元、八元数全体は 8次元である)。四元数は加法と、結合的で分配的な乗法を持つが、その乗法は可換でない。従って四元数の全体 H は実数体上の非可換結合多元環である。H には複素数体 ℂ の複製が含まれるが、H は C 上の結合多元環にはならない。
四元数は除法が可能であるから、H は多元体(乗法が可換でないことを除けば可換体と同様の構造)である。実数体上の有限次元結合的多元体は非常に少なく、フロベニウスの定理はそれが R, C, H のちょうど3種類であることを述べるものである。また、四元数のノルムにより四元数の全体はノルム多元環となるが、実数体上のノルム多元体もまた非常に限られ、フルヴィッツの定理(英語版)はそれが R, C, H, O の四種類(O は八元数全体)であることを述べる。四元数全体はまた、合成代数や単位的バナッハ環の一例でもある。
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Q8 の乗積表
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基底元の積は別の基底元に符号を付けたものになるから、集合 {±1, ±i, ±j, ±k} はその乗法に関して群を成す。この群は四元数群と呼ばれ、Q8 で表す[19]。Q8 の実係数群環RQ8 は環であり、また R 上の 8次元ベクトル空間でもあり、Q8 の各元を基底ベクトルに持つ。四元数体 H は RQ8 を 1 + (−1), i + (−i), j + (−j), k + (−k) で生成するイデアルで割った剰余環になっている。ここで、生成元となっている各差の第一項は基底元 1, i, j, k のそれぞれ一つであり、第二項は残りの基底元 −1, −i, −j, −k のそれぞれ一つであって、これらは 1, i, j, k の(群環の加法に関する)加法的逆元でないことに注意(剰余環、つまり H の中では加法逆元になる)。
本節では i, j, k を H の虚基底ベクトル[20]と R3 の基底の両方の意味で用いる。i, j, k を一斉にそれぞれ −i, −j, −k に取り替えることはベクトルを加法的逆元(マイナス)へ写すので、ベクトルの加法的逆元をとることと四元数の共軛をとることとは同じ意味になることに注目しよう。これを以って、四元数の共軛を「空間反転」(spatial inverse) と呼ぶことがある。
H における −1 の平方根のこのような同定はハミルトンが与えている[22]が、他の文献では触れられないことがよくある。1971年にサム・パーリスは −1 の平方根の成す球面について、米国数学教師評議会(英語版)出版の「代数学における歴史的話題」(Historical Topics in Algebra p.39) において3ページを割いて触れている。より近くでは、イアン・ポーティアス(英語版)の本「クリフォード代数と古典群」(Clifford Algebras and the Classical Groups Cambridge, 1995, proposition 8.13, p.60) にこの球面についての記述があり、また Conway & Smith (2003) のp.40には「任意の虚数単位を i, それに直交する虚数単位の一つを j, それらの積を k」("any imaginary unit may be called iTemplate:, and perpendicular one j, and their product k") として、この球面についての別な言明がある。
各四元数が H のどの部分複素数平面に含まれるかという関係性は、可換部分環族の言葉を使っても同定し書き表すことができる。具体的に言えば、二つの四元数 p と q が可換 (pq = qp) となるのはそれらが H の同じ部分複素数平面上にあるときに限られるだから、四元数全体の成す環の可換部分環を全て求めたければ、そこに複素数平面の合併として H の prófile が生じる。この可換部分環を求める方法は、分解型四元数(英語版)全体や実二次正方行列全体の性質を知るのにも利用できる。
「共軛(きょうやく)」あるいは「共軛変換(英語版)」という言葉は、上で述べた意味以外にも、適当な非零元 r によって元 a を rar-1 へ写す変換(内部自己同型)の意味にも使われる。この変換の意味で与えられた元に共軛な元の全体は、実部が等しく、かつベクトル部のノルムも等しい(従って、共軛四元数はこの変換の意味でも共軛元である)。
a, b, c, d が何れも整数となるかまたは何れも分母が2の既約分数である有理数となる四元数 a + bi + cj + dk 全体の成す集合を A とする。集合 A は環(実は整域)であり、また束であって、フルヴィッツ整数環と呼ばれる。この環は 24 個の単位四元数を持ち、それらは正24胞体(シュレーフリ記号で {3,4,3})の頂点になっている。
F を標数が 2 でない体とし、a, b を F の元とする。(1, i, j, ij) を基底とし、i2 = a, j2 = b, ij = −ji(従って (ij)2 = −ab)を満たす F 上の四次元単位的結合多元環が定義できる。これらは四元数環と呼ばれ、a, b の選び方に依り F 上の 2次正方行列に同型であるか、さもなくば F 上の多元体を成す。
四元数体 H は「本質的に」唯一の(非自明な)中心的単純環である。これは実数体上の任意の中心的単純環は R または H の何れかにブラウアー同値(森田同値)であるという意味である。明確に述べれば、R のブラウアー群は、R および H をそれぞれの代表元とする二つの同値類からなる。ここで、ブラウアー群というのは中心的単純環全体の成す集合を、一方の中心的単純環が他方の中心的単純環の上の全行列環となるという同値関係で割って得られるものであった。アルティン・ウェダーバーンの定理(のウェダーバーンの部分)によって、任意の中心的単純環は何らかの斜体上の行列環となるから、従って四元数体が実数体上で唯一の非自明な多元体であることが分かる。
Robert E. Bradley, Charles Edward Sandifer(2007).Leonhard Euler: life, work and legacy.p.193.ISBN0-444-52728-1.https://books.google.com/books?id=75vJL_Y-PvsC&pg=PA193. 著者らはヴィルヘルム・ブラシュケが1959年に唱えた「四元数を初めて同定したのはオイラーで、それは1748年の5月4日のゴールドバッハへ向けた書簡においてである」("the quaternions were first identified by L. Euler in a letter to Goldbach written on May 4, 1748,") という主張に言及し「この書簡においてオイラーが四元数を『同定した』というのは如何にもナンセンスで… この主張は馬鹿げている」("it makes no sense whatsoever to say that Euler "identified" the quaternions in this letter... this claim is absurd.") と評している。
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