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昆虫綱の目の一つ ウィキペディアから
カマキリ(蟷螂、鎌切、英名:mantis)は、昆虫綱カマキリ目(蟷螂目、学名:Mantodea)に分類される昆虫の総称。前脚が鎌状に変化し、他の昆虫などの小動物を捕食する肉食性の昆虫である。漢字表記は螳螂、蟷螂(とうろう)、鎌切。
カマキリ目(蟷螂目) | |||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Mantodea Burmeister, 1838 | |||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||
カマキリ目(蟷螂目) | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
Mantis | |||||||||||||||
科 | |||||||||||||||
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名前の由来は、「鎌切」という表記があることからわかるように、「鎌で切る」から「鎌切り」となったという説と、「カマキリ」は、「鎌をつけたキリギリス」の意味であって、「キリ」はヤブキリ、クサキリ、ササキリなどのキリギリスの仲間の名に含まれる「キリ」と同じであるという説がある。
分類法によっては、ゴキブリやシロアリなどとともに網翅目(もうしもく、Dictyoptera)とすることもある(そのとき、カマキリ類はカマキリ亜目になる)。かつてはバッタやキリギリスなどと同じバッタ目(直翅目、Orthoptera)に分類することもあったが、現在ではこれらとはそれほど近縁でないとされている。カマキリに似たカマキリモドキという昆虫がいるが、全く別の系統であるアミメカゲロウ目(脈翅目)に分類される[1]。また、カマキリに似た前脚をもつミズカマキリも、全く別の系統であるカメムシ目(半翅目)に属す[2]。ほかにもハエ目に属するミナミカマバエ[3]、カマキリバエ[4]も、カマキリに似た前脚をもち他の昆虫を捕食している。これらは収斂進化の例とされている。
全世界で2,000種前後といわれるが、研究者によって1,800-4,000種の開きがある。特に熱帯、亜熱帯地方に種類数が多い。体は前後に細長い。6本の脚のうち、前脚(前肢)は先端を除く大半が鎌状(亜鋏状)に変化し、多数の棘がある。頭部は逆三角形であり、2つの複眼と大顎が発達する。前胸は長く、頭部と前胸の境目は柔らかいので、頭部だけを広角に動かすことができる。触角は毛髪状で細長く、中脚と後脚も細長い。偏光を識別できる[5]。
成虫には細長い前翅と扇形に広がる後翅があるが、多くのカマキリは飛行が苦手であり、短距離を直線的に飛ぶのが精一杯である。翅を扇状に広げて威嚇に使うことが多い。地上性のカマキリには翅が退化したものもいて、これらは飛ぶことができない。オス(雄)は身体が細身で体重が軽い。また、オスのオオカマキリなどはほとんどが褐色型(茶色)で緑色型(緑色)のオスはとてもめずらしいとされている。なお、ハラビロカマキリは雌雄ともに緑色型が一般的である。
オスのカマキリは飛翔性が高く、よく飛んで移動する。しかし、メス(雌)はオスよりも太目であって身体が頑強で重いので、オスのような飛翔行動をすることはなく、翅はもっぱら威嚇のために使用される。
カマキリの体腔内に寄生する寄生虫としてハリガネムシが知られる。充分成長したハリガネムシは寄生主を水辺へと誘導し、水を感知すると産卵のために体内から脱出する。誘導には偏光を識別できる視覚を利用している[5]。そのため、カマキリの成虫を水で濡らすとハリガネムシが体をくねらせて姿を現すことがある。ハリガネムシが脱出したカマキリは急激に衰弱し、死ぬこともある。草上に棲むオオカマキリにはあまり見られないが、樹上に棲むハラビロカマキリやヒメカマキリの成虫にはハリガネムシの寄生がよく見られる。
食性は肉食性で、自身より小さい昆虫や小動物を捕食するが、大きさによってはスズメバチやキリギリス、ショウリョウバッタ、オニヤンマなどの大型肉食昆虫や、ヘビ、クモ、オタマジャクシ、カエル、トカゲ、ヤモリ、ミミズ、小鳥[6]、ねずみ、メダカ、熱帯魚、小魚、ナメクジなどの昆虫以外の様々な小動物を捕食することもある。また、獲物が少ない環境では共食いすることもある。捕食するのは生き餌に限られ、死んで動かないものは基本的に食べない(動かないものを獲物としてほぼ認識しない。飼育下では、餌を動かすことによってカマキリが興味をもてば掴んで食べる)。捕食の際は鎌状の前脚で獲物を捕えて押さえつけ、大顎でかじって食べる。食後は前脚を念入りに舐めて掃除する。
獲物を狙う時には、体を中脚と後脚で支え、左右の前脚を揃えて胸部に付けるように折りたたむ独特の姿勢をとって、じっと動かずに待ち伏せする。一方で天敵や自身よりも大きい相手に遭遇した場合は身を大きく反らして翅を広げ、前脚の鎌を大きく振り上げて威嚇体勢をとることがある。獲物を捕らえる際に体を左右に動かして獲物との距離を測ることが多い。獲物や捕食者に見つからないように何かに擬態した色合いや形態をしていることが多い。一般には茶色か緑色の体色で、植物の枝や細長い葉に似たものが多いが、熱帯地方ではカラフルな花びらに擬態するハナカマキリ、地面の落ち葉に擬態するカレハカマキリ、木の肌に擬態するキノハダカマキリもいる。
カマキリ類では、同じ種類でも体の小さいオスが体の大きいメスに共食いされてしまう場合がある。稀であるが交尾の際も共食いが行われ、オスはメスに不用意に近づくと、交尾前に食べられてしまうので、オスはメスに見つからないよう慎重に近づいて交尾まで持ち込む。飼育環境下では交尾前に食べられてしまうこともあるが、自然環境下では一般的に交尾の最中(もしくは交尾後)、メスはオスを頭から生殖器まで食べる(必ずしも食べられるわけではなく、逃げ延びるオスもいる)。
一般に報告されている共食いは、飼育下で高密度に個体が存在したり餌が不足したりした場合のものであり、このような人工的な飼育環境に一般的に起こる共食いと、交尾時の共食いとが混同されがちである。交尾時の共食いも、メスが自分より小さくて動くものを餌とする習性に従っているにすぎないと見られているが、詳しいことは未だ研究中である。
共食いをしやすいかどうかの傾向は、種によって大きく異なる。極端な種においてはオスはメスに頭部を食べられた刺激で精子をメスの体内に送り込むものがあるが、ほとんどの種のオスは頭部や上半身を失っても交尾が可能なだけであり、自ら進んで捕食されたりすることはない。日本産のカマキリ類ではその傾向が弱く、自然状態でメスがオスを進んで共食いすることはあまり見られないとも言われる。ただし、秋が深まって捕食昆虫が少なくなると他の個体も重要な餌となってくる。
オスがメスに食べられた場合は、その栄養でメスに食べられなかった場合よりも多くの子供が生まれると言えるが、カマキリのオスは生涯に複数回の交尾が可能なので、一匹のメスに食べられて自分の子孫の栄養となることが、自分の子孫をより多く残すために必ずしも有利とは限らない。オスがメスから逃げ切って別のメスと交尾することによって、複数のメスからより多くの子孫を残せるという場合もある。
カマキリは、卵 - 幼虫 - 成虫という不完全変態を行うグループである[7]。
メスは交尾後に多数の卵を比較的大きな卵鞘(らんしょう)の中に産み付ける。卵鞘は卵と同時に分泌される粘液が泡立って形成される。大きさや形は種によって決まっている。1つの卵鞘には数百個前後の卵が含まれ、1頭のメスが生涯に数個程度の卵鞘を産む種が多い。卵は卵鞘内で多数の気泡に包まれ、外部からの衝撃や暑さ寒さから守られる。卵鞘は「螵蛸」「䗚蟭[8]」(おおじがふぐり)という別名をもち、これは「老人の陰嚢」の意味である。伝承上では、カマキリは雪が積もるであろう高さより上に卵鞘を産むとして、積雪を予測する力があるとされた。工学博士の酒井與喜夫は事実であるとして、私費を投じて研究を行っている[9]。一方で、昆虫学研究者の安藤喜一は、カマキリの卵鞘は野外では大半が雪に埋もれているが生存可能であり、酒井の研究は「補正と称して実際のカマキリの卵の高さを積雪深に合うように調整している」ものであり、積雪量予測は誤りであるとしている[10][11][12]。昆虫写真家の海野和男も雪に埋もれるカマキリの卵を観察していることから、その説に疑問をもっている[13][14]。
卵から孵化した幼虫は薄い皮をかぶった前幼虫(ぜんようちゅう)という形態であり、脚や触角は全て薄皮の内側にたたまれている。前幼虫は体をくねらせながら卵鞘の外に現れ、外に出ると同時に薄皮を脱ぎ捨てる最初の脱皮を行う。
前幼虫からの脱皮を終えた幼虫は、体長数ミリメートル程度しかないことと翅がないことを除けば成虫とよく似た形態をしている。1齢幼虫はまずタカラダニ、トビムシ、アブラムシなど手近な小動物を捕食するが、この段階ではアリは恐ろしい天敵の一つである。体が大きくなるとショウジョウバエなどを捕食できるようになり、天敵だったアリも逆に獲物の一つとなる。このようにして、ひとつの卵鞘から孵化した数百匹の幼虫も、脱皮に失敗したり、天敵に食べられたりなどの影響で、成虫になれるのはわずか数匹だけである。種類や環境にもよるが、幼虫は1日1匹の割合で獲物を捕食し、成虫になるまでに数回の脱皮を行う。充分に成長した幼虫は羽化して成虫となる。成虫の寿命は数か月ほどだが、この間にも獲物を捕食して卵巣など体組織の成熟を図る。
日本には、カマキリ科、コブヒナカマキリ科、ハナカマキリ科に属する3科が生息している。種数については、厳密な分類が進んでいないこともあり、文献によって差があるが、およそ10~15種程度とされている。
Tenodera sinensis Saussure, 1871
Tenodera aridifoliaと同所的に生息し、外見的特徴が極めて似ているため、判別は非常に難しい。上述したように、以前は Tenodera aridifoliaと亜種の関係にあるとされていた。英語ではChinese mantisという名前で区別されることがある。『日本産直翅類標準図鑑』や『学研の図鑑LIVE(ライブ)昆虫 新版』では、オオカマキリの学名にTenodera sinensisを用いており[16][17]、「オオカマキリ」という標準和名に対応する種はT.sinensisであるという風潮がある[18]。
複眼は大きく横または上方に突き出す。複眼の間には複眼よりも小さな突起がある。
日本産と同様に草や枯葉に擬態し、緑色や茶色の体色をしたものがほとんど。一部には、通常のカマキリとは異なる体型であって、鮮やかな花や枯れ枝、落ち葉に擬態した種類が存在する。
カマキリの特殊な姿や行動は、古くから多くの人間に観察されていて、前脚を持ち上げて待ち伏せする姿を祈っているようだと見て、日本では俗に拝み虫(おがみむし)とも呼ばれる。また斧虫(おのむし)ともいう[28]。
カマキリ類の学名は、ギリシア語の名前 mántis に由来し、mántis は、「予言者」の意味でもある。これは、英名のmantis、mantidの元にもなっている。英語では、praying(祈る) mantisとも呼ばれる。また、さらにはその生態から同音語のpreying(捕食する) mantisとの混乱も見られる。
韓詩外伝に「蟷螂の斧(とうろうのおの)」という故事がある。斉国の君主だった荘公はある日、馬車で出かけたが、道の真ん中に一匹のカマキリがいて、逃げださず前足をふりあげて馬車に向かってきた。荘公はその勇気を賞して、わざわざ車の向きを変えさせ、カマキリをよけて通ったという。国君が一匹の虫に道を譲ったこの故事は日本に伝来し、カマキリは勇気ある虫とされ、戦国期の兜には、カマキリの立物を取りつけたものがある[29]。現在の日本では意味が転じ、己の無力を知らない無謀さを揶揄する場合に用いる。祇園祭では「蟷螂の斧」の故事を元とした「蟷螂山」という山鉾があり、からくり仕掛けで動くカマキリが載っている。
肉食性のうえ、共食いもするので、単独飼育が基本である。オオカマキリやチョウセンカマキリなどの大型種は、特に累代飼育が難しい。野生下においては、関東以西ではオス個体は10月の中旬〜下旬頃、メス個体は11月の上旬〜下旬まで見られる。飼育下では、餌やり・温度管理をすればメス個体の場合12月下旬頃までは飼育できる。大人の指でも、はね除け、傷つけてしまうほどの強い力と好戦的な性質をもつ。
死んで動かない餌は食べない。餌が動かないでいると顔を近づけて観察し、前脚で触って生きているかどうかを確認する。飼育において購入することのできる主な生き餌は、ヨーロッパイエコオロギ・フタホシコオロギ・ミールワームなど。ただし、死んでいても動けば餌と認識するようであり、ソーセージやハム、ゆで卵や鰹節やするめ、キャットフードやドッグフード、かまぼこやちくわ、カニカマや魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品、魚や生肉の切り身などを、ピンセットや割り箸などで口元で動かせば捕食する。また、意外ではあるが甘いものも好きなようで、昆虫ゼリーやマシュマロ等の人工飼料や洋菓子、ヨーグルト等の乳製品、みかんやりんご、スイカ等の果物も食する。ただし、昆虫ゼリーや果物は餌というよりも、水分補給の代用として食しているようである。
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