Loading AI tools
ヒガシキリギリスとニシキリギリスの総称 ウィキペディアから
キリギリス(螽蟖、螽斯、蛬)とは、バッタ目キリギリス科キリギリス属に分類される昆虫のうち、日本の本州から九州地方に分布する種群すなわち、ヒガシキリギリスとニシキリギリスの総称。[1]あるいはそれらを同一種と見なし、亜種や型を認めない場合の標準和名である。
キリギリス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Japanese katydid | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
日本では鳴く虫の代表のひとつとしてその名がよく知られている。かつてキリギリスの和名で知られたものは東北地方から九州地方まで分布するが、2000年代以降、それらは少なくともヒガシキリギリス(青森県〜岡山県)とニシキリギリス(近畿地方〜九州地方)の2種に分けるべきだと考えられている。更に細かく分けられる可能性もあるが未だ結論は出ていない。
成虫の頭〜翅端までの長さはヒガシキリギリスがオス25.5 – 36.0mm、メス24.5 – 37.0、ニシキリギリスがオス29.0 – 37.0mm、メス30.0 – 39.5mmで、ともにメスの方がやや大きい。
緑色を基調とする緑色型と、褐色を基調とする褐色型がある。
翅の長さも個体群によって長短の変異がある。左前翅が上になっている。一般にヒガシキリギリスでは翅が短く側面に黒斑が多く、ニシキリギリスでは翅が長く黒斑は1列程度か、あるいは全くない。ともに触角は長く、前脚には脚の直径より長い棘が列生する。オスは前翅に発音器をもち、メスは腹端に長い産卵器をもつ。
成虫の頭から翅端までの長さはおよそ24 – 40mmほどで、生育環境により緑色の個体と褐色の個体が生じる。若齢幼虫は全身が緑色で頭部が大きい。
年1化で、成虫は夏に現れ、草むらなどに生息して他の昆虫などを捕えて食べる。
21世紀初頭では、日本列島には少なくとも4種のキリギリス属 Gampsocleis の昆虫が生息すると考えられている。
しかし、そのうち北海道のハネナガキリギリスと沖縄のオキナワキリギリスを除いたもの、すなわち青森県から鹿児島県の地域に分布するものは、20世紀末までただ1種のみであると見なされていた。その標準和名がキリギリスであり、学名はこの類としては日本で最も早く記載された G. buergeri (de Haan, 1843) が用いられて来た。
ところが、1990年代に日本のバッタ目の研究が盛んになり始めると、それまで「キリギリス G. buergeri」と一まとめにされていたものにも、地域ごとに様々な特徴をもつ個体群が存在することが知られるようになった。なかでも東日本と西日本とに分かれる広い分布域をもつ2群は明らかな別種と見なされ、1997年にそれぞれヒガシキリギリスとニシキリギリスと名付けられた[2]。また従来の学名 buergeri は、長崎産の標本に基づいて記載されたと推定されることから、これをニシキリギリスに対してのみ用い、ヒガシキリギリスにはかつて buergeri のシノニムとされていた mikado という種小名が宛てられるようになり[3]、その結果、従来のキリギリスという種の概念や、標準和名としてのキリギリスという名は使用されない傾向になった。
2006年に発行された日本初の網羅的なバッタ目図鑑である『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』などに従えば、従来キリギリスとされていたものは以下のように分類される。このように20世紀末期から急速に細分されるようになったが、分類に欠かせない分子系統解析などが十分に行われていないこともあり、日本のキリギリス種群の分類には未解明の部分も多い。
本州西部(近畿・中国)、四国、九州に分布。以下の地理的変異があるとされる。
青森県 〜 岡山県(淡路島も含む)に分布。近畿地方ではニシキリギリスを取り巻くように分布している。以下の地理的変異があるとされる。
真夏の河原や草原で鳴いている昆虫としてよく知られるが、山間部にも生息している。縄張りを持つため、複数の個体が密集して生息することは無い。
生息場所は日当たりのよい草原だが、トノサマバッタなどより草丈が高い草原を好む。丈高いススキやセイタカアワダチソウの茂みに潜み、「…チョッ、ギーーッチョッ」と大きな声で鳴く。危険を感じると、擬死により落下して落葉の下に潜ろうとしたり、茂みの深い方へ深い方へ、下へ下へと素早く逃げ進んでいく性質を持つ。無闇に跳びはねて草上に姿を曝したりすることは少ない。とりわけメスは鳴かないため居場所を特定できず、採集には労苦を伴う。体色も緑と茶のまだらもようで、鳴き声はすれども姿は見えずということが多い。こちらが近づくと足音を聞いて鳴くのをやめるので見つけるのはむずかしい。捕虫に成功しても後脚が折れたり切れたりしやすく、また鋭い大あごで手にかみついてくるので注意が必要。このように臆病であるため、飼育下でもその環境に慣れるまではケースの蓋の裏などの物陰にすぐに隠れてしまう。
卵は3月 – 4月に地中で孵化、地上に脱出した初齢幼虫は、草本上で生活を始める。初齢では体が小さいため、おもにイネ科草本植物の種子や花粉を食べて成長するが、成長するにつれ、チョウ目の幼虫や小型の他の直翅目なども捕食するようになる。共食いもする。自らの陣取っている草本を中心とする縄張りを持ち、侵入してくる同種同性個体及び他種に対しては激しく攻撃を仕掛け、可能なら捕食する。肉食は不可欠であり、動物性タンパク質を摂らなければ幼虫はうまく成長できず、またメスは産卵に支障を来す。飼育下でも、幼虫に植物性の餌だけを与えていると、元気に見えてもある日突然死亡するというパターンがよく見られる。削り節やドッグフード等を与えるとガツガツとむさぼり、腹部がパンパンに膨れあがる様子が観察できる。
春から初夏にかけて、林縁のハルジオン、ヒメジョオン、タンポポ等の花上に静止している幼虫をよく見かけるが、彼らは花粉を食べつつ、訪花してくる他の昆虫を待ちかまえている。
前脚と中脚に生えている多数のトゲは、そういった獲物をとらえて逃がさないための適応である。肉食性が強いヤブキリ、ウマオイなどはこのトゲが発達しており、逆に草食のクツワムシは発達していない。幼虫はいろいろな動植物を食べ、脱皮を繰り返しながら大きくなるが、大きくなるにつれメスの尾部には長い産卵管が目立つようになる。
脱皮及び羽化には困難が伴い、特に長い後ろ脚を抜くのには時間を要し、脱皮完了には1時間位を要する。この間風に晒されて失敗することや、同種含む肉食性の外敵に喰われて死亡する個体もいる。このため比較的風の少ない、外敵の目に付きにくい夜間を選んで脱皮をすることが多く、特に明け方近くによく行われる。脱皮の姿勢は6本の脚で草の茎などにぶら下がり、頭をやや斜め下に向けた姿勢になって行う。バッタやコオロギなどでは水平面でも行われるが、キリギリスは長い脚が災いして脱皮の姿勢が限られてくるようである。
脱皮後しばらく体が固まるまでじっとしているが、動けるようになるとまず自分の抜け殻を食べる。これは草食中心のクツワムシにも見られる行動で、栄養補給のためだといわれるが別に食べなくても正常に成長する。
人間がキリギリスを捕らえようとすると、幼虫は跳ねて逃げるが、成虫はしばしば擬死してポトリと地面に落ち、下草や落ち葉の下に潜ろうとする。
早い地方では6月下旬ごろから成虫に羽化する。スズムシ等コオロギ上科の昆虫と異なり、オスの成虫は後翅を取り去る事はない。オスは前翅をこすり合わせて「チョン・ギーッ」と鳴く。活発に鳴くのは概ね日照量の豊富な快晴時に限られ、日が陰ったり、夕刻以降は原則として鳴かない。鳴いたとしても不規則で、次の声を発するまで時間をあける。
メスは尾端の長大な産卵管を地面に突き刺して産卵する。キリギリス亜科の孵化のメカニズムは不明な点が多く、適切な温度の上下が適切な回数加わらないと休眠プロセスが完了せず孵化しない。また、孵化が産卵の翌年のことも有れば、最大4年後になることもある。これらの点と激しい共食いによって多頭飼育が殆ど不可能なことから、日本で伝統的に親しまれてきた直翅目昆虫でありながら、スズムシと違って累代繁殖飼育方法が確立していない。
野生下の成虫の寿命は生活環境にもよるが、平均2か月程度である。遅くとも11月には全ての野生個体が死亡する。ただ、良好な飼育下では翌年初頭まで生存することもある。老化した成虫は付節が壊死して垂直面歩行能力が失われ、オスは鳴き声も弱々しくなる。
繁殖の終わった成虫は冬を越すことなく死んでしまう。
キリギリスは古くから日本人によって観賞用に飼育されてきた歴史を持つ。古典『虫愛づる姫君』にも登場する(今日のコオロギとしてではなく、「バッタ」によく似た緑色の虫として)。
いわゆる「虫売り」という行商ビジネスは江戸時代中期に確立するが、キリギリスはスズムシ、マツムシと並ぶ彼ら「虫売り」の代表的商品の一つであった。当時、コオロギ科以外で唯一商品価値を持つ「鳴く虫」であったキリギリスは竹製のカゴ「ギスかご」に入れて販売されており、そのカゴが縁側や店先につるされてキリギリスが鳴き声を響かせるのは、江戸の夏の風物詩であった。時代は移り、カゴも竹製ではなくポリエステル製が多くなりはしたが、デパートや夜店でキリギリスが販売されるのは、1980年代初頭までよく見られた光景である。大きな河川敷や野原では、小銭稼ぎの「ギッチョ採りのおじさん」が21世紀に入った今でも時折見られる。
これらは江戸時代の文化というより江戸文化であり、現在でも昆虫マニア的動機付けではなく伝統的娯楽としてキリギリスを飼う風習が伝播継承されている地域は関東一円がおもであるという。従って、「ギスかご」に入れられ飼われてきたキリギリスは、ヒガシキリギリスということになる。
ただ、狭い「ギスかご」に入れてキュウリやナスだけ与えるという伝統的飼育手法は拙劣というべきで、それらの野菜に含まれる最低限の水分により短期間生存させておくに過ぎなかった。長期飼育技術において古くからより進歩していたのはむしろ中国であり、穀類や小昆虫といったタンパク源を与えて晩秋までコンスタントに生存させることができていた。
現在の日本では飼育技術も大幅に進歩し、プラスチック水槽を飼育ケースとし、野菜よりも穀類、イネ科草本の穂、観賞魚用のペレット、ドッグフード等を豊富に与え、飲み水も別途用意することで、長期間キリギリスを健康に生存させることが可能になっている。とりわけメスは延命効果が顕著で、飼育環境が良好であれば、正月を迎えることすらある。
同属の種は互いによく似ており分類は難しいが、それぞれの分布域が異なるため生息地から判断できることが多い。またヤブキリ属やカラフトキリギリス属などにもよく似たものがある。
古典に見える「きりぎりす」はキリギリスではなくコオロギを指している。
機織虫(はたおりむし)、機織女(はたおりめ)、ぎす、ぎっちょなど[4]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.