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ラッシュ時(ラッシュじ、ラッシュどき、英語: Rush hour)とは、道路や交通機関の利用者(通勤・通学者など)が増え、混雑する時間帯のこと。主に、平日の朝と夕である。「ラッシュ」「通勤ラッシュ」「ラッシュアワー」とも呼ばれる。
多くの鉄道路線・バス路線・道路では、通常は朝は企業や学校へ向かう都心方面の列車・バス・道路が通勤・通学客によって混雑し、夕方・夜間には企業や学校から帰宅する郊外方面の列車・バス・道路が混雑する。この混雑を迎える時間帯が「ラッシュ時」と呼ばれる時間帯である。
ラッシュ時は日中よりも利用客が多いため交通事業者側の増収につながると誤解される場合も多いが、定期券利用者が多く、ラッシュ時のために新たな車両や設備、係員を準備する必要があるなど、事業者側にも多くの支出や投資を伴う。設備の容量の水準をラッシュ時に合わせると、ラッシュ時以外の時間帯では過剰となりうる[注 1]。
どの都市圏であっても、朝は郊外から都心方面へ向かう列車やバスが通勤・通学客によって、夕・夜間は都心から郊外方面へ向かう列車やバスが帰宅客によってそれぞれ混雑する。東京圏の鉄道路線では、朝のラッシュ時は上り線が、夜のラッシュ時は下り線が混雑する。
都心方向は出勤・始業時間が集中する平日の7時台 - 9時台に[1]、郊外方向は帰宅時間が集中する18時台 - 20時台に混雑のピークを迎え、それぞれラッシュ時と呼ばれる。朝のラッシュ時と夕・夜間のラッシュ時を区別し、前者を「朝ラッシュ時」「通勤ラッシュ」、後者を「夕(ゆう)ラッシュ時」「夜(よる)ラッシュ時」「帰宅ラッシュ」と分けて呼ぶこともある。
朝ラッシュ時は、時間帯が短い分、企業や学校の出社・始業時刻が短時間に集中するため、通勤・通学客が集中して混雑度が最も高くなる。一方で夕ラッシュ時は企業や学校の退社・終業時刻が分散するため、混雑度は日中より高く、朝より低い程度になるものの、時間帯は朝ラッシュ時よりも長くなる。特に金曜日の深夜は、宴会やコンパ等などにより終電間際でも激しく混雑することが多い。
ラッシュ時は乗降人員が格段に多く、必然的に停車時分を平常時より長く設定する必要があり、表定速度は低下する。輸送力を確保するために運転間隔を平常時より短縮していることから、駆け込み乗車や扉挟みによる再開閉の対応等で生じた僅かな遅延が後続列車に波及しやすい。遅延が生じた場合、先行列車との運転間隔が広がることによって次駅の乗車人員と停車時分が増加し、当該列車の混雑率が上昇するのは避けられない。運転本数が多いラッシュ時では、停車時分の増加は更なる遅延を招くだけでなく、後続列車の駅間停車を発生させる原因にもなり、最悪の場合ダイヤ乱れが生じることになる。
東京メトロでは遅延が生じた時の対策として、先行列車を駅に長時間停車させる運転間隔の調整を行い、既に遅延している後続列車に乗客が集中するのを防止している。バスについても、渋滞が生じることを前提としたラッシュ時のダイヤでは、路外に設置された停留所で時間調整を行う路線がある。
ラッシュ時以外の混雑しない時間帯については、朝ラッシュ時より前の時間帯を「早朝(時間帯)」、朝ラッシュ時と夕ラッシュ時の間の時間帯を「日中(時間帯)」または「データイム」、夜ラッシュ時の後の時間帯を「夜間・深夜(時間帯)」と呼ぶことが多い。JR西日本のアーバンネットワークでは、大阪駅基準で22時以降を「深夜時間帯」と定義している。
欧米では朝ラッシュ時でも畳めば新聞が読める程度なのに対し、高度経済成長期の日本の鉄道(特に東京大都市圏の鉄道)は乗車率300%を超えることが日常であった状況から「寿司詰め」「通勤地獄」「殺人的混雑」と評され、特に新宿駅の朝ラッシュは世界的にも有名であった。鉄道会社ではドアから乗客がはみ出さないように車内に押し込む『押し屋』と呼ばれる職員を配置するなどの対応を取っていた。2005年に東急田園都市線でパナソニックがノートパソコンの耐圧性テストを行った際に100kgの圧力を記録するなど[2][3]、乗客に大きな負荷がかかっている。
現在は輸送力増強はもとより、時差通勤や在宅ワークの促進等の各種対策、さらには団塊の世代の引退をはじめとする労働人口の減少によってラッシュ時の混雑は緩和されており、東京圏でも2009年度以降は平均混雑率が170%を下回っている。しかし、ピーク時の混雑率が200%程度になる路線も未だ現存している。このような日本のラッシュ時の様子について、海外から写真家が撮影に訪れることもある[4]。
東京圏31区間、大阪圏20区間、名古屋圏8区間の最混雑区間における平均混雑率の推移は下表のとおりである[5]。
年度 | 東京圏 | 大阪圏 | 名古屋圏 |
---|---|---|---|
1975年(昭和50年) | 221 | 199 | 205 |
1980年(昭和55年) | 214 | 188 | 204 |
1985年(昭和60年) | 212 | 187 | 192 |
1989年(平成元年) | 202 | 168 | 175 |
1990年(平成 | 2年)203 | 171 | 183 |
1991年(平成 | 3年)200 | 168 | 182 |
1992年(平成 | 4年)201 | 167 | 182 |
1993年(平成 | 5年)197 | 166 | 173 |
1994年(平成 | 6年)194 | ||
1995年(平成 | 7年)192 | 157 | 165 |
1996年(平成 | 8年)189 | 151 | 163 |
1997年(平成 | 9年)186 | 149 | 162 |
1998年(平成10年) | 183 | 147 | 157 |
1999年(平成11年) | 180 | 144 | 153 |
2000年(平成12年) | 175 | 144 | 150 |
2001年(平成13年) | 175 | 142 | 149 |
2002年(平成14年) | 173 | 138 | 147 |
2003年(平成15年) | 171 | 137 | 146 |
2004年(平成16年) | 171 | 134 | 147 |
2005年(平成17年) | 170 | 134 | 146 |
2006年(平成18年) | 170 | 136 | 145 |
2007年(平成19年) | 171 | 133 | 146 |
2008年(平成20年) | 171 | 130 | 139 |
2009年(平成21年) | 167 | 127 | 137 |
2010年(平成22年) | 166 | 124 | 135 |
2011年(平成23年) | 164 | 123 | 127 |
2012年(平成24年) | 165 | 122 | 130 |
2013年(平成25年) | 165 | 124 | 131 |
2014年(平成26年) | 165 | 123 | 131 |
2015年(平成27年) | 164 | 124 | 134 |
2016年(平成28年) | 165 | 125 | 130 |
2017年(平成29年) | 163 | 125 | 131 |
2018年(平成30年) | 163 | 126 | 132 |
2019年(令和元年) | 163 | 126 | 132 |
2020年(令和 | 2年)107 | 103 | 104 |
都市圏 | 鉄道事業者(現) | 路線 | 1970年 | 1980年 | 1990年 | 2000年 | 2010年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
東京圏 | JR東日本 | 東海道線 | 261 | 256 | 225 | 208 | 188 |
横須賀線 | 311 | 224 | 245 | 190 | 193 | ||
中央線快速電車 | 256 | 259 | 255 | 218 | 194 | ||
京浜東北線 | 251 | 250 | 277 | 233 | 195 | ||
常磐快速線 | - | 269 | 221 | 205 | 171 | ||
総武線各駅停車 | 257 | 263 | 247 | 215 | 203 | ||
東武鉄道 | 伊勢崎線 (東武スカイツリーライン) | 236 | 185 | 195 | 152 | 140 | |
西武鉄道 | 池袋線 | 224 | 234 | 209 | 169 | 165 | |
京王電鉄 | 京王線 | 224 | 202 | 192 | 168 | 165 | |
東急電鉄 | 田園都市線 | - | 231 | 197 | 196 | 182 | |
小田急電鉄 | 小田原線 | 232 | 205 | 201 | 190 | 188 | |
東京メトロ | 銀座線 | 234 | 236 | 196 | 173 | 160 | |
丸ノ内線 | 277 | 201 | 216 | 160 | 153 | ||
日比谷線 | 243 | 223 | 211 | 173 | 154 | ||
東西線 | - | 230 | 196 | 197 | 196 | ||
有楽町線 | - | 210 | 209 | 176 | 168 | ||
千代田線 | - | 255 | 217 | 192 | 179 | ||
大阪圏 | JR西日本 | 大阪環状線 | 274 | 232 | 177 | 175 | 129 |
片町線 | 225 | 246 | 172 | 144 | 129 | ||
近畿日本鉄道 | 奈良線 | 194 | 192 | 172 | 151 | 137 | |
南海電気鉄道 | 南海本線 | 215 | 183 | 174 | 134 | 117 | |
京阪電気鉄道 | 京阪本線 | 223 | 186 | 173 | 145 | 113 | |
阪急電鉄 | 神戸本線 | 208 | 191 | 159 | 145 | 137 | |
Osaka Metro | 御堂筋線 | 221 | 222 | 206 | 156 | 143 | |
名古屋圏 | 名古屋市営地下鉄 | 東山線 | 239 | 265 | 236 | 184 | 147 |
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
首都圏近郊においては先述の通り、朝方上り列車が混雑し、夕方下り列車が混雑するのが通例であるが、朝方下り方面が混雑し、夜上り方面が混雑する路線もある。一例として、都心と羽田空港を結ぶ東京モノレール羽田空港線は、朝ラッシュ時の最混雑区間がモノレール浜松町駅から天王洲アイル駅までとなっている。
具体的には、以下の2つの場合がある。
日本の鉄道ではラッシュ時の混雑を緩和するため、ラッシュ時には列車の増発や車両の増結やラッシュ時に対応した列車種別の変更などがなされる。
バスでも、ラッシュ時には増便がなされたり、急行バスが運行される系統もある。区間運行便や高校生・大学生などの通学など、需要を限定したノンストップの直通系統も存在する。
鉄道においては、上記のような増発や増結がなされてもなお混雑の解消に至らず、増発や増結が物理的に不可能となることもある。そのため、車両や施設そのものの改良がなされることがある。
道路が渋滞し定時運行が問題となるバス路線の走行する道路においては、センターラインの移動、バスの専用または優先車両通行帯(いわゆるバスレーン)の設置、右折レーンのない道路での右折禁止、人が集中する道路や駅前への車両進入禁止などが行われ、バスをスムーズに運行するための措置がとられることもある。バスレーンは大都市に比較的多いが、大都市以外にも設置されている場所もある。
道路については、交通容量が鉄道より小さく、ラッシュ時の渋滞への対策が必要となる。一般には、バイパスや高速道路の新設、拡幅、交差点の立体化などによって、交通容量の増加が図られる。このほか、ラッシュ時に日本で取られている方策としては、交通容量に余力がある高速道路への転換を促し一般道路の混雑を緩和するために朝夕通勤時間帯に実施されているETC通勤割引(参考:ETC割引制度)、ラッシュ時の交通量変化に対応して渋滞する方向の道路の青信号時間を長くするなど信号の鳴動時間変更、通勤手当制度や社内規則の運用、ノーカーデーの実施などによるマイカー通勤の自粛・禁止などがある。
国土交通省や各交通機関では、ラッシュ時を避けたオフピーク通勤を呼びかけている。これに呼応して、フレックスタイム制を実施している職場もある。
混雑する時間帯については、国によって差異が見られる。特に夕方のラッシュについては、残業や飲み会の慣習などの違いから、比較的ピーク時間帯が早い都市(17・18時台に下り線が集中的に混雑)が多く、東京のように深夜まで混雑が続く都市は例外的である。
1970年代頃のフランスでは1日に4回のラッシュ時があった。これは当時昼休みが2時間程度と比較的長く、朝・夕方の他に昼休みの開始前後と終了前後にも路線バスや地下鉄が混雑することがあったからである。ただし、混雑度は夕方ラッシュ時よりやや低い。
アメリカなどの利用客が少ない路線では、朝夕の通勤・通学時の運行が主で、日中や休日に運行本数が極端に減るか、あるいは全く運行されない路線も多い。
先進国の都市で比較すれば、東京の鉄道の混雑は突出している。ニューヨーク・ロンドン・パリといった大都市圏でも、東京と比べれば列車の混雑度合いは小さく、混雑区間も都心部近辺に限定されている。ただし、車両故障などによる遅延・運休、治安の悪化などの諸問題が見られる路線が多い。
世界全体にみると、定量的な比較は難しいが、ラッシュ時には乗客が車体の屋根にあふれるほどの超混雑[注 5]になっている鉄道路線も存在する[7]。
世界で最も混雑する鉄道としてはインドのムンバイ近郊鉄道がしばしば取り上げられ、9両編成の電車に定員の3倍に達する5,000人が乗車しているとされる。ムンバイ近郊鉄道においては、無理に乗車した乗客が列車から落下したり、ホーム間を移動するため線路に立ち入ったりしたことにより、1日に平均で12人が死亡している[8]。またインド国内の鉄道は夏期休暇(4月から5月)の始めと終わりの時期になると、里帰りやUターン客などで時間帯に関係なく混雑する。
列車の増発、増結、停車駅の少ない快速列車の運転などは、世界的に共通してみられる。しかし、着席サービスの提供を優先する都市が多く、少なくとも乗車時間が30分を超える近郊路線では、最大限に座席を確保することが基本になっている都市が多い。例えばフランス、アメリカなどでは、ラッシュ時の需要のために総2階建車両が導入され、多人数が着席できるようになっており、パリのRERには3扉2階建という構造の電車もある。短距離の地下鉄などでは、路線によって異なるが、フランス、ドイツなど、座席数の多いクロスシートを導入している都市も少なくない。日本のように一つの車両に最大限に乗客を詰め込むことを原則としている事例は珍しい。
この他、アメリカ・イギリス・オランダなどでは、ラッシュ時以外の運賃を割安にすることで混雑を平準化するという方策がとられている。
世界的なモータリゼーションの進展により、ラッシュ時の道路が車の身動きができないほどの猛烈な混雑に見舞われる都市は多い。マイカーの輸送力は公共交通機関に比べて遥かに劣るため、比較的小規模な都市でも混雑問題が深刻化する。走っている自動車の台数を低減させるためにアメリカやオーストラリアでは相乗りなどを勧めている。
また、鉄道路線やライトレール・路面電車を新設(復活)したり、バスレーンの設置や、途中駅・バス停に駐車場を設置することで自動車から鉄道・バスに乗り換えて郊外から都心へ向かうパークアンドライドを促進するなどの施策も見られる。ロンドン、シンガポールなど、大都市中心部への自動車の乗り入れによる交通渋滞を防ぐために都心部への乗り入れ車両から料金を徴収するロードプライシングが採用されている都市もある。
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