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男性に対する性差別 ウィキペディアから
男性差別(だんせいさべつ)とは、男性に対する性差別である。女尊男卑(じょそんだんぴ)と呼ぶ人もいる。対義語は女性差別、または男尊女卑という。男性差別撤廃を目指す思想や運動をマスキュリズムといい、ワレン・ファレルや久米泰介といった研究者が考察を行っている。また、男性解放を目指すメンズリブという運動もある。
男性差別に対する国際的な動きも存在する。例えば1999年以来、毎年11月19日が国際男性デー(International Men's Day)として定められ、男性や少年の健康、ジェンダー関係の改善、男女平等の促進、正しい男性のロールモデルの形成、コミュニティ・家族・結婚・育児への男性の貢献などに焦点をあて、男性差別と少年差別を強調しながら世界各国で活動している[1]。2018年時点で、国際男性デーのイベントは60カ国以上で開催された[1]。
ある制度や慣習が男性差別と言えるのかどうか、という点については様々な立場からの議論がある。
マスキュリストのワレン・ファレルは、性差別は男性から女性への一方向的なものではなく、双方向的なものであり、「どちらの性も抑圧されてきた」としたうえで、女性にとって不利益となる抑圧を女性差別と呼び、男性にとって不利益となる抑圧を男性差別と呼んでいる[2]。ファレルは、男性が一方的に女性を支配しているという想定に反論し、実際には男性支配と女性支配が組み合わさっていると主張する。ファレルは女性差別の存在を否定しているわけではなく、男性差別も同時に存在していると論じ、男性差別について多くの具体例を挙げている。
一方で、社会学者(男性学)の田中俊之は、ファレルの見解について、差別や権力に関する理論的な考察が不十分であり[3]、「なぜそれが男性差別であると言えるのか理論上の説得的な根拠が提示されないまま、次々と、女性差別を助長するような事例の紹介がされる」問題点があると指摘している[4]。
加藤秀一は、一見すると「女性優遇」と思われるような状況についても、「それらがなぜ、何のために行われ、どのような働きをしているのかといった社会的文脈の中に位置づけて」考える必要があると主張している[5]。たとえば女性専用車両は「女性たちに何かプラスをもたらしているわけではなく、せいぜい痴漢被害というマイナスを少しでも埋め合わせてゼロに戻そうとする補償的措置にすぎない」[6]ため、女性を「優遇」しているとは言えないとする[7]。また映画館のレディース・デイは、男女間の賃金格差という社会的文脈を考慮すれば「男性差別」とは言いきれず、「雇用や労働をめぐる男女平等が達成されれば、このようなサービスはおのずと消滅していく」だろうと述べている[8][9]。
女性の方が男性よりも社会福祉や公的扶助を利用しやすいという傾向について、京都大学准教授の丸山里美は、女性は雇用保険や年金の対象にならない低賃金の働き方の人が大半であることから、その利用が認められやすくなっていると論じている[10]。性別役割分業を前提とした近代家族モデルのもとで、男性は賃労働に就くことを期待されるのに対し、女性は家庭での再生産労働を期待され、この結果、労働報酬から保険料を拠出するような保険制度(雇用保険、医療保険、年金など)は男性と結びつき、公的扶助による生活保障は女性と結びつくことになるのだという[11]。さらに公的扶助の受給には社会的スティグマをともなう[12]ため、「保険と扶助のあいだには、序列が存在している」としている[13]。
女性差別撤廃条約第4条において、「男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置」は差別ではないと規定されている。また「母性を保護することを目的とする特別措置」も差別ではないとされている。ただしアファーマティブ・アクションはあくまでも一時的・暫定的なものであるため、「機会および待遇の平等」が実現されたときには、廃止されなければならない[14]。アファーマティブ・アクションの法的根拠として、憲法第14条1項、男女共同参画社会基本法第2条・第8条、男女雇用機会均等法第8条などがある[15]。
アファーマティブ・アクションは「格差是正のための暫定的なものである」という限りにおいて正当化されている。しかし具体的な制度設計のあり方によっては、逆差別やスティグマ化などの問題を引き起こしうる(2018年に発覚した医学部不正入試問題も参照)[16]。差別是正措置にはさまざまな種類があり[17]、実施方法も多様であるため、社会状況に応じた適切な運用が必要だとされている[18]。
アファーマティブ・アクションは、女性の社会参画を促すものである。就労や政治参画における男女格差は、単に女性が不利益を被るだけでなく、男性にも権利侵害や不利益をもたらす[19]。それゆえ女性の社会参画を促す政策は、男性の権利侵害や不利益を解消する側面もあるとされている。
近年は、何が不正な差別であるか、という問いをめぐる哲学的議論が展開されている[20]。たとえばデボラ・ヘルマンによれば、人々の間に区別を付けることが、その一方のグループに属する人々を価値の劣ったものとして貶めることになる場合、その区別は不正な差別である。このとき、何が不正な差別になるのかは社会的文脈によって決まる[21]。ヘルマンはこれを性別に関する差別について当てはめて議論を行っている[22]。
つまり男女間で区別を設けることが必ずしも「男性差別」であるとはかぎらない。とはいえこれまで議論されてきたように、「男性差別」でないとしてもまったく問題がないとはかぎらない。また、「不当である」ということと「差別である」ということは異なる概念である。それゆえ事例を検討するときには、背景にある社会的文脈を考慮しながら、具体的にどのような点に問題があるのか、ということに注目する必要がある。
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