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1992年に日本で開発された超電導電磁推進の実験船 ウィキペディアから
ヤマト1(ヤマトワン)[注 2]とは、1992年(平成4年)6月16日神戸港において、世界で初めて超電導を利用した電磁推進によって有人自力航行に成功した実験船である[1]。
神戸海洋博物館で野外展示されていたヤマト1(2006年) | |
基本情報 | |
---|---|
船舶番号 | 133000 |
信号符字 | JG5168 |
船籍港 | 東京都 |
船歴 | |
起工 | 1989年 |
進水 | 1991年2月 |
処女航海 | 1992年6月16日 |
性能諸元 | |
総トン数 | 185トン |
全長 | 30.0 m |
型幅 | 10.39 m |
深さ(型) | 2.50 m |
計画最大速力 | 8ノット(時速15 km) |
定員 | 10名(乗員3名、その他7名) |
船殻材質 | アルミニウム合金 |
超伝導電磁石 性能諸元 | |
形式 | 6連環内部磁場型超伝導電磁石
×2基 |
コイル 性能諸元 | |
中心磁界 単体 | 3.5テスラ(T) |
中心磁界 6連環 | 4.0テスラ(T) |
磁界有効長 | 3.000 mm |
冷却方式 | 液体ヘリウム浸漬冷却 |
クライオスタット[注 1] 性能諸元 | |
外径 | 1.850 mm |
全長 | 5.400 mm |
常温ボア | 260 mm |
重量 | 15トン以下 |
熱侵入量 | 7 ワット以下 |
船名である「ヤマト」とは、日本を表すヤマトに由来する[2]。
神戸海洋博物館にて船体と推進装置内部の超伝導電磁石が野外展示されていたが、船体は2016年度に撤去された[3][4]。右舷側推進装置は船の科学館に屋外展示されている。
昭和末期当時世界の造船量50%を超えるシェアを誇り「造船王国」と呼ばれた日本ではあったが、コンテナ船、LNG船、ホバークラフトやジェットフォイルと言った付加価値の高い船舶は国外製が多く、船の「心臓」であるエンジンなども海外製やライセンス生産などに頼らなければならない実情があった。また1985年(昭和60年)当時、日本造船業界は海運不況の煽りを受け軒並み業績が低迷し、それに伴い研究開発なども沈滞傾向であった。そこで、のち「ヤマト1開発研究委員会」委員長となる笹川陽平が国内造船業に問題提起すると共に、経験の浅い技術者養成なども視野に入れた計画を立案する[2]。
通常、船舶はスクリュープロペラを有している。ジェットスキーなどウォータージェット推進器を用いた船舶もジェット噴射構造内部にインペラ[注 3]と呼ばれる小型高速回転プロペラを利用し、海水を高圧にて噴射することによって推力に変えている。これに対し「ヤマト1」は一切の回転系推力発生器を使用せず、かわりに、超伝導電磁石を利用し強力な磁場を作り出し、磁場中の海水に電流を流してローレンツ力により海水を噴射するウォータージェット推進方式を採用している。これによりスクリューや内燃機などが不要になりほぼ無音航行が可能であり、また不快な振動が無く環境性能も高い。(静粛性が高い。航行により波きり音は発生する。)構造特性からプロペラ部分のスペースが不要になる事により自由度が高い船尾設計が可能になり、船殻を貫通する構造物が無い為に海水が船体内部に侵入しない、スクリューを高速回転させる事で発生するキャビテーションが発生しないなどの利点がある。
推進装置は2基搭載されているが、それぞれ別のメーカーにて製造された。右舷推進器は東芝が担当し、左舷推進器は三菱重工が担当した[注 4]。また、船殻は専門工業デザイナーに依頼された[注 5]。
実験船ではあるが、試験航行に関して通常の海域を航行するため海事関係法令の適用[注 6]を受けなければならない。そこで開発当初からこれが考慮され設計されている。運輸省(現・国土交通省)検査官による基準検査を受け合格したため、船舶国籍証明書、船舶検査証書の交付が行なわれている。
国内外での関心が高く、処女航海日には多くの関係者や海外の軍関係者、造船関係招待者が神戸を訪れている。その他、ロイター通信やワシントン・ポストなどの紙面を飾った。
しかし最終結果として、ヤマト1はディーゼルエンジンで発電し超伝導電磁石の電磁推進力で進む、推進周りの機構だけで30メートルある船体のほとんどを占め、乗員含め定員10名、衝撃に弱く、起動できるまでの予冷に10日以上かかり、液体ヘリウムが大量に必要で、航行すると塩素が発生する、淡水では推進できず汽水域では速度が安定しない、最高速度も自転車相当の船であった。その技術的先進性とは裏腹に、超電導電磁推進船は高コストでエネルギー損失が大きく、従来のディーゼルエンジンとプロペラでそのまま推進したほうが安価かつ効率的であることがヤマト1で示されてしまって以降、電磁推進ならではの静粛性が重要視される潜水艦などの一部の軍事関連の推進装置の研究を除いては[5]、国内外での実用的な超電導電磁推進船の開発計画はない。
ヤマト1は試験航行後の展示保管場所候補として東京と神戸が挙げられたが、検討の結果、神戸市に対し無償譲与することとなった。
1996年より神戸海洋博物館で野外展示されていたが、2016年11月に撤去された。2017年3月頃に解体が完了した。
電磁推進は、海水中の電流と磁場によりフレミング左手の法則で示される方向に発生するローレンツ力を利用して船を動かす方法である[6]。例えば、電磁石により海水中に上下方向の磁場を発生させ、船体に設けた一対の電極により海水に船体左右方向の電流を流すことで、船の推進力を得ることができる。ローレンツ力ベクトルは磁場と電流の外積で表され、海水電流のジュールロスは電流の2乗に比例するため、同じ推力を得ようとするとき磁束密度が大きいほど推進効率は高くなる[7]。
電磁推進原理は古くから知られており、1961年に米国人であるW.A.Riceにより特許が取得されている。その後マサチューセッツ工科大学で高速船研究を行なっていたR. A. Doragh とウェスティングハウス・エレクトリックの技術者であるS.Wayが、既に電磁推進船の研究を行なっていた。またR. A. Doragh は研究結果から船を推進させるに十分な力を発生させるには、超伝導電磁石ではなければならないと結論した。
日本においては、1976年に神戸商船大学(現・神戸大学海事科学部)の佐治吉郎教授が超伝導に着目し、世界で初めて模型船SEMD-1での実験に成功しており、本船はその発展とも言える。
電磁推進方式は磁場の種類と範囲で分類される[7]。種類には、磁場が変化しない直流磁場方式と、時間変化する交流磁場方式がある。範囲については、船体外の海水にローレンツ力を発生させる外部磁場方式と、船体内流路の海水を駆動する内部磁場方式がある。
交流磁場方式は海水中に電流を流す必要が無く、電極の信頼性や塩素発生の問題を避けることができる一方、誘導方式であるためエネルギ変換効率を高くすることが難しい[7]。磁場が変化することによるヒステリシスロスなどの損失は、推進効率の低下だけでなく、熱としてクエンチの原因ともなるため、磁束密度を上げる上での技術的リスクがある。
外部磁場方式は先行研究で実績があったが、設計時に磁場の分布と推進性能が予測し易く、漏洩磁場抑制にもメリットのある内部磁場方式が採用された[8] 。そのため、ヤマト1は直流内部磁場方式となった。ヤマト1設計にあたっては漏洩磁場による船体外の係船設備など磁性体構造物との相互作用を予測し、問題のないレベルであることが確認されている[9]。
超電導コイルは、まずガスHe循環により常温から20ケルビン(K)まで温度を低下させ、20K到達後、液体Heの注液により約4Kまで冷却された。熱応力による破壊を避けるため、装置内で40K以上の温度差が発生しないよう監視しながら段階的に温度を低下させ、初期冷却試験ではガスHe循環開始から液体He注液まで15日かかっている。液体He注液に要した時間は約36~48時間である。 曳引力は、三菱重工神戸造船所第6岸壁のボラードと実験船を直径10mmのテトロントエル索により接続し、ロードセルにより計測された。推進装置の運転条件は、磁束密度1T及び2T、海水通電電流最大約2000A。磁束密度2T、電流2000Aのとき曳引力約7500N(文献[10]グラフ読み)、同条件の速度試験[11]では約5.3ノットが得られている。[10][12][11]
運輸技術審議会諮問第18号に対する答申「チャレンジシップ21計画」では、超電導電磁推進船実用化の主な課題として推進効率と小型軽量化の2項目がリストアップされている[13]
この他、以下の課題がある。
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