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海賊 ウィキペディアから
ソマリア沖の海賊(ソマリアおきのかいぞく、英: Piracy in Somali、ソマリア海賊問題とも)とは、アデン湾とインド洋のソマリア周辺海域で発生し国際海運の障害となっている海賊。1990年代初期にソマリア内戦が始まった頃から目立つようになり、近年に活動が活発化して、スエズ運河・紅海を経由し地中海とインド洋を往来する年間約2万隻の商船にとって大きな脅威となっている。
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なお、一口にソマリア沖というが、事件の多くはアデン湾で発生し、2008年にいたっては、そのほとんどがアラビア半島のイエメン沿岸というべき海域であった[1]。
1991年以降、ソマリアには中央政府が存在せず、一部地域を除き、治安が不安定の状態が続いている。これに伴い、ソマリランドとプントランドが面するアデン湾は海賊行為が多発するようになった。国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)の調査によれば2001年にインド洋側でも海賊による襲撃が報告されるようになり[2]、2005年にいたって多発し、インドネシア周辺海域に次いで海賊行為が多い海域として急浮上した[3]。以来2007年まで上位5海域に位置づけられ、沿岸から最遠で390海里まで達するソマリア拠点の海賊によってアデン湾も含むソマリア周辺海域は船舶航行にとって非常に危険なものとなっている。
国際海事局によれば2008年に人質になった船員は約580名におよび、保険料率の引き上げやソマリア海域を通過する船舶への船員の乗り組み拒否、時間と輸送費のかさむ喜望峰回りへの迂回[4]などが起きている。世界金融危機 (2007年-)に端を発する世界的な景気後退と相まって海運業界にも影響が出ている。[5]
海賊は主にAK-47など小銃や携帯型ロケットランチャーで武装、高速ボート数船で貨物船・タンカーを襲撃し乗っ取りをしている。速度が出るように改造された小型の漁船が用いられることもあるため、漁船と海賊の区別がしにくいと言われる上に、拘束された際に海賊が漁師を自称することもある。
海賊事案の発生状況は、海上保安庁が発する「航行警報」により知ることができる。
2008年6月と12月に国連安全保障理事会で決議がなされたことを機に多くの国が船舶警備のために海軍艦艇を派遣するようになり、海賊を武力鎮圧する事例が増えた。
2009年3月以降、各国が派遣した警護艦艇がアデン湾に多いため、海賊による被害がアデン湾海域からインド洋西部海域に移動しつつある[6]。インド洋西部に海賊の行動範囲が広がった影響で、2009年ごろからはこの海域でマグロ漁を行っていた台湾や中国の漁船が海賊に拿捕されるようになった[7]。
2013年4月には、ソマリアの海賊による、海運保険料率の引き上げ、民間による警備費、警備のための各国の軍事費の増加などにより、世界貿易コストが180億ドル押し上げられており、世界銀行の報告書ではソマリアの政治システムを支援して海賊を根絶する必要があると報告されていることが報道された[8]。
2013年頃からソマリア沖及びアデン湾での海賊発生件数は激減し、2014年以降は目立った被害も発生していない[9]。2017年3月13日、数年ぶりにタンカーが乗っ取られる事件が発生し、2012年以来の大型船舶の被害として報道された[10]。タンカーを乗っ取った海賊に対して、プントランドの海洋警察が説得を行い、同月16日までにタンカーとスリランカ人乗組員8人が解放されている[11]。
また、喜代村の社長である木村清がこの海域がキハダマグロの良い漁場であることに目をつけ、海賊らをはじめとした現地の住民に漁船を与えたうえでマグロ漁の方法を教え、さらにソマリア国内にマグロの流通設備を整えた結果、海賊からマグロ漁師などへの転向も進んだ[12]、という話があるが一部デマであることがのちに報道された。実際には船は寄贈はしたが流通設備はODAであったものを利用している。また海賊らしき人に技術的指導は行ったが実際に元海賊とは確認されていない[13]。
しかしながら、ソマリア、イエメンのEEZでイランの大規模な違法漁業がおこなわれたり[14]、隣国ではイエメン内戦が勃発するなど依然同地は多くの問題を抱えており、2020年に至っても5月17日アデン湾で英国籍ケミカルタンカーが襲われるなど未だ根絶には至っていない[15]。しかし年々発生件数は減少しており、2023年1月にはソマリアの海賊による襲撃が大幅に減少したことを理由に、インド洋高危険地域(Indian Ocean High Risk Area, HRA)が国際海事局によって解除された。その一方でソマリアの海賊は依然としてアデン湾地域で攻撃を行う能力と資源を保有しているとされ[16][17]、2022年、日本に於いても自衛隊による海賊対策の活動期限が1年延長された[18]。
海賊たちはもともと漁業に従事していた漁民であった者が多い。モハメド・シアド・バーレ政権時代には欧州や日本がソマリアの漁船や漁港の整備に対して援助を行っていた。マグロなどソマリア船の漁獲のほとんどは、魚を食べる習慣の少ないソマリア国内ではなく海外への輸出へと回し、外貨獲得の手段としていた[19]が、1991年のバーレ政権崩壊後は内戦と機能しない暫定政府(無政府状態)が要因で魚の輸出が困難となった。さらに、管理のされていないソマリア近海に外国船、特に欧州の船団が侵入して魚の乱獲を行ったため、漁民の生活は一層困窮した[20]。
1990年代に軍部と欧米の企業が結んだ「沿岸に産業廃棄物の投棄を認める」という内容の条約に基づき、産廃が投棄されるようになる。そのなかに他では処理が難しい放射性物質が多量に含まれていたため、漁師を中心とする地域住民数万人が発病。地域住民の生活を支えていた漁業もできなくなった[21]。この結果、困窮した漁民がやむなく自ら武装して漁場を防衛するようになり、一部が海賊に走ってそれが拡大したものとする分析がある。
一方で高速船の使用・武装の程度・訓練状況に見られる海賊の態様は漁民の困窮とかけ離れたものであり、武装集団が海賊を始めたという意見もある[22]。この見解によれば、海賊は元漁民であるとされるが、極めて良く組織化されており、もともとはプントランドの有力氏族がイギリスの民間軍事会社ハートセキュリティ社の指導の下で創設した私設海上警備隊の構成員で、この組織がアフガニスタンから流入する麻薬や小火器をパキスタンカラチ港からインド洋・ソマリアを経由し他のアフリカ諸国やイエメンに対して密輸しており、この密輸組織がやがて海賊化した経緯があるという[22]。
2005年ごろから海賊に乗り出す組織はあったが、2007年以降海賊行為の成功率の高さと身代金の高さに目をつけた漁民らが組織的に海賊行為を行うようになり、地方軍閥までが海賊行為に参入し海賊たちから利益を吸収している[23]。
ソマリアの海賊たちには内戦に関わる政治的動機やイスラム過激派などの宗教的動機は見られず、物資押収や殺戮ではなく人質の属する船会社などから身代金を取ることが主な目的である。海賊たちは人質に銃を突き付けるなどの荒々しい行為を行うこともあるが、金銭と交換可能な取引材料である人質に対しての暴力や虐待などはない[24]。海賊は、2008年時点では人質にパスタや肉などの食事を与え一応生命を保証しており、たばこや酒などの嗜好品も与えている[25]。2008年4月にフランス軍が制圧した海賊のヨットからは人質に対する虐待や強姦を禁じる「規則書」が発見されている[26]。
ソマリア海賊を監視している東アフリカ船員援助計画(Seafarers' Assistance Programme)によれば、2008年時点で最低5つの海賊団と1000人の武装したメンバーがこの地域に存在する[27]。海賊団内部では、海や船を熟知し船の操縦ができる元漁民が海賊のリーダーとなり、火器の扱いに慣れている元民兵が襲撃を担当し、GPSなどを使える元技術者が機械を担当しているとされる[28]。武器の調達はイエメンからの輸入も行うが、モガディシオ市などソマリアの国内にあふれている武器も集めている。船会社からの身代金は米ドル紙幣で受け取っており、ヘリコプターから包みに入れた紙幣を指定海域へ投下する、紙幣を防水スーツケースに入れて小舟で流す、投下された現金の横取りを防ぐため身代金受け取り専門業者が海賊のもとまで運ぶ、などの方法で受け渡しがなされる[29]。
エイルなどソマリアの海岸の町には拘束された貨物船などが停泊させられており、市内には海賊を相手にする会計士、運転手、建築業、人質への食事供給業者など様々なサービス企業が成立している。海賊らは身代金で豪邸を建て、その暮らしぶりは現地の憧れとなっている[30]。武装した海賊の往来や酒の消費の増加で港周辺が物騒になり住民の生活が脅かされる一方で[28]、内戦後失業状態になっていた住民にとっては海賊周辺ビジネスで大きな収入を得る恩恵にあずかっている[28]。他方、海運業界周辺には、海賊と船会社などの間で人質解放交渉と身代金値切り交渉を行う警備会社、海賊被害に対して交渉費用や身代金などをカバーする保険を提供する保険会社も登場している[26]。
2008年11月22日にはソマリアのイスラム法廷会議傘下のイスラム原理主義勢力の一派が、海賊に乗っ取られたサウジアラビア籍タンカー「シリウス・スター」号(en)の救出に乗り出す事態に至り[31]、海賊と原理主義勢力の間で対立も起こっている。
各国が、自国の船舶による通商貿易を保護するため海軍を派遣しており、海賊との海戦が頻発している。各国海軍は、海賊に対し圧倒的な軍事力を有しているものの、国内の法整備が不十分であり、海賊を討伐するまでには至っていない。
日本の対応としては、自衛隊の派遣、および周辺国への海上警備力の強化に重点を置いている。自衛隊は、陸海空の部隊をソマリア沖およびジブチなどの周辺国に展開している。また、イエメンの要請に応じ巡視船や巡視艇を供与する方向である。
以下の派遣状況は2009年時点のものである。
派遣国 | 同盟形態 | 派遣形態 | 人員 | 艦船 | 航空機および地上部隊 | 経費 (百万米ドル) | 開始時期 | 終了時期 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アメリカ合衆国 | NATO | DDG-96 ベインブリッジ FFG-40 ハリバートン LHD-4 ボクサー | ジブチに航空基地あり | 250 | ||||
イギリス | NATO | 各種4隻 F-238 ノーサンバーランド F-85 カンバーランドなど | ||||||
イタリア | NATO | 240 | F-570 マエストラーレ[100] | |||||
イラン | SCO | 独自 | 72 アルボルズ 422 ブシェール | 1 | ||||
インド | SCO | 独自 | D60 マイソール F-44 タバール | 1 | ||||
オーストラリア | CTF-150 | FFH-154 パラマタ | ||||||
オランダ | NATO | F-802 デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン | 1 | |||||
カナダ | NATO | 240 | FFH-338 ウィニペグ | 2009年3月 | ||||
ギリシャ | NATO | F-454 プサラ | ||||||
サウジアラビア | 独自[101] | |||||||
スウェーデン | NATO | 152 | K11 ストックホルム K12 マルメ A264 トゥロースシォー(支援艦)[102] | |||||
スペイン | NATO | F-82 ヴィクトリア | P-3E 1機 | |||||
シンガポール | CTF-151 | エンデュランス級強襲揚陸艦1隻 ヘリコプター2機[103] | ||||||
韓国 | 独自 | 300 | DDH-976 文武大王 | 1 | 2009年3月13日 | |||
中国 | SCO | 独自 | 167 深圳 570 黄山 887 微山湖[104] | 2008年12月22日 | ||||
デンマーク | NATO | |||||||
トルコ | NATO | 263 | F-491 ギレスン | |||||
日本 | 独自 CTF-150 | 400 | ソマリア沖海賊の対策部隊派遣(第1次) DD-113 さざなみ DD-106 さみだれ 自衛隊インド洋派遣(新テロ特措法第5次) DD-108 あけぼの AOE-423 ときわ | P-3C 2機 | 2009年3月14日 | |||
ニュージーランド | CTF-150 | フリゲート1隻 | ||||||
パキスタン | SCO | CTF-150 | フリゲート1隻 | |||||
フランス | NATO | F-713 アコニト F-730 フロレアル F795 コマンダン・デュキン 他 | アトランティック哨戒機 1機 ジブチに陸軍2個連隊駐留 | |||||
マレーシア | 独自 | フリゲート レキウ 多目的支援艦 マハワングサ 輸送艦 スリ・インデラ・プラ | 3 | |||||
ロシア | SCO | 独自 | 大型対潜艦 アドミラル・チャバネンコ 大型海上給油艦セルゲイ・オシポフ | 2009年11月30日 |
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