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生体を切開するなど侵襲的な方法で行う医療技術 ウィキペディアから
手術(しゅじゅつ、英語: surgical operation)とは、外科的機器やメスなどを用いて患部を切開し、あるいは低侵襲である内視鏡やカテーテル治療など用い、治療的処置を施すこと[1]。通称、略称としてオペとも呼ばれる(独: Operationに由来)。
手術とは、用手的に創傷あるいは疾患を制御する治療法であり、生体に侵襲を加えるものをいう。手術は外科医師が担当することが多い。体調不良で内科を受診した際に手術が必要になった場合、今後の受診は外科に引き継がれる。
手術の目的は、病態の制御および失われた機能の回復である。直接的ではなく間接的に治療に繋がる手術もある。
大きな病院では、個々の患者に対する治療戦略は、関連分野の専門家が参加するカンファレンスで合議的に検討される。手術は侵襲とリスクを伴うため、それに見合った治療効果が見込めない場合は他の治療法が推奨される。数十年前はひとりの外科医師が独断で判断を下すなどということが行われていた時代もあったが、こうしたやりかたは問題を生じさせがちなので次第に減ってきた。
主に以上の点をもとに手術の妥当性が検討される。
検討結果は原則としてすべて患者本人に伝えられる。患者はその情報をもとに、どのような手術を受けるのか、あるいは別の治療法を希望するのか、自らの意志で選択することが求められる。近年日本でもインフォームド・コンセントが必要だとの理解が普及し、医師がじっくり説明をし、患者十分に理解できた上で、手術を受けるのか あるいは 受けないのか、原則的に自らの意志で最終決断を下すべきだとされている。またひとつの病院による説明だけでは偏りや判断ミスが入っている可能性もあるので、念のため他の医師の説明や意見も聞くこと、つまりセカンド・オピニオンを求めることも一般的になりつつある。
手術に際しては安全性を高めるため、可能な限り全身状態を良好に保つことが必要である。原則的には手術前に入院のうえ全身状態の管理を行ったうえで手術を行うが、これには例外もあり、近年白内障手術や腹腔鏡下胆嚢摘出術など比較的侵襲の小さい手術(低侵襲手術)については日帰り手術が行われている。
手術を行う医師、術中全身管理を行う麻酔科の医師、手術に関わる看護師らによって患者と手術に対する評価が行われ、周術期管理計画が立てられる。
全身麻酔が予定されている場合は、麻酔導入時の誤嚥を予防するため、手術前の一定期間は絶飲食となる。また腹腔内の手術などでは腸管内の清浄化を目的に下剤が投与される。手術部位の剃毛がかつては行われていたが、剃毛により皮膚感染が増加することが明らかになり、一部の例外を除いて現在では行われていない。手術室へ入る直前に、気道分泌の抑制、鎮痛、手術に対する緊張の緩和を目的に、抗コリン薬、鎮痛薬、鎮静薬が投与される(これらを前投薬と呼ぶ)場合があったが、最近ではなるべく行わない方向へと進んでいる。
手術を行うための部屋を手術室と言う。 なお手術室のことをアメリカ英語で operating room と呼ぶことから、その省略形であるOR(オー・アール)、あるいは、日本語との混交で「オペ室」と呼ぶ場合がある。
欧米の病院では、一般に、それぞれの診療科に手術室のセクションがある。 日本の病院では、一般に、手術室は中央集中型であり中央手術部として一カ所にまとめられている。
手術室を含む手術エリアは清潔区域のため、入室する際は外来菌をなるべく少なくする目的から、スタッフは術衣に着替え、靴を履き替え、帽子とサージカルマスクを着用する。術衣の色は術野の赤色ばかりを見て色残像が生じることを考慮して一般に「緑」ないしは「青」がほとんどである。
患者は病棟のストレッチャー(担架)から手術室内のストレッチャーへ移し変えられる。症状によっては歩行で入室可能な場合もある。
執刀に先立って麻酔が施行される。麻酔の主な目的は、有害な反射の抑制と疼痛のコントロールであり、麻酔担当の医師が術者とは別に付くのが原則である(局所麻酔の手術では術者が麻酔管理を兼ねることもある)。手術において麻酔担当医は患者の全身状態を管理しており、呼吸・循環の管理から体温の調節、薬剤投与、輸液の調節、出血量の監視、輸血に至るまであらゆる処置を一手に担う。また必要に応じて術者にもこれらの情報を提供し、安全な手術が行えるようサポートする。
外来菌による感染を防ぐため、手術は無菌の領域(清潔野)を形成して行われる。手術操作に関わるスタッフも清潔野に触れる部分(上肢・前胸部・腹部)は無菌でなければならない。そのため、術者である医師、助手を務める医師、内回り(器械出し)の看護師等全員が、手ないし腕の洗浄を行い、滅菌ガウンを着用し、滅菌手袋を装着する。
手術用手洗いはまず、指先から肘に至るまでを滅菌水と消毒液を用いて念入りに洗浄する。手術用手洗いの目的は、手指に付着している病原菌の除去である。手術用手洗いの仕方は各施設ごとに若干個性があり、古典的には滅菌ブラシを用いた擦り洗いであるが、皮膚保護などを理由に簡便な揉み手洗いを行っている施設もある。
手術用手洗いの後、滅菌されたガウンを着る。手術用手洗いを行った手が再び汚染されないように、介助者の手を借りて着用する。その後に滅菌手袋を装着する。手袋には一般手袋とヨード配合の抗菌手袋が存在する。また、手袋に生じた穿孔による手術部位感染を低減するため、手袋の二重化(二重手袋)を行う事例もある[4]。
麻酔管理の医師や、外回りの看護師、ME(臨床工学技士)等、清潔野に直接関わらない者は手洗いは行わない。
切開を行う部位を中心に、ポビドンヨードないしはアルコールによる十分な消毒が行われる。消毒が終わると、消毒した部分の周囲を滅菌されたシーツ(ドレープ)で覆い、清潔野を形成する。
こうして手術を行う環境が整ったら執刀が開始される。執刀に参加する医師は、例えば一般的な開腹や開胸手術の場合は3 - 4人程度である。大学病院や大病院であると4人 - 5人程度、人手の少ない病院だと2人で行うこともある。また手術介助の看護師が参加する。
まず術者(執刀医師)によって皮膚にメスが入れられる。術者は術前の計画に沿って手術を進行する。実際の所見が術前の予想と異なる場合(例:予想より進行していた、腫瘍の癒着が強固)があり、術中の判断で計画(術式)が変更、追加されることもある。ただしこの術中の計画変更、追加については患者にあらかじめ可能性として説明されていることが望ましい。術中に偶然発見された全く別の疾患については、たとえ医学的に妥当性があったとしても、本人(もしくは代理人)の同意なしには治療を行うべきでないというのが2021年現在主流の考え方である。しかし、一般的には多く行われ、事後同意という形式を取っている場合も多い。
手術操作終了後、術後の癒着防止、細菌や遺残癌細胞の除去などを目的に、温めた生理食塩水による術野の洗浄が行われる。また切開創の直下は術後高頻度に癒着を起こすが、主に繰り返し開腹を行う可能性がある帝王切開などで癒着防止のシート材が使用されている。創を閉鎖する前には、手術で使われた器具やガーゼ、針などの体内遺残を防ぐため、主に手術補助の看護師によって入念な数合わせが行われる。これが合わない場合は創を閉鎖せず、体内に遺残物がないと確認できるまで探し続けるのが原則である。また人的ミスも考慮して、術後すぐに手術部分のX線写真を撮影し、遺残物がないか確認することも多い。
創閉鎖後、滅菌シーツ(ドレープ)が取り外され、麻酔薬の投与が中止され、患者は麻酔から回復する。
手術後に最終術式がどうなったか判断され、記録される。
術後、手術のダメージから回復するまで治療は継続される。手術創の処置が行われ、点滴や投薬で全身状態の改善が図られる。術後合併症の予防には細心の注意が払われるが、不幸にも発症した場合には対症療法が行われる。
手術器具は診療科により、施設により、さらには術者により多彩を極め、その呼び名も様々である。ここでは最も基本的な器具につき解説する。
手術の合併症の主なものは、創感染、感染症、痛みなど[5]。合併症は手術をする部位によってさまざまである[5]。これらは医師から事前に説明があり、患者が同意書に署名した上で手術が行われる。
創感染とは手術の創を縫った部分(縫合部)で細菌などによる感染が起きることであり[5]、縫ったあたりが赤く腫れて膿が出たり、痛んだり、発熱などの症状が出る[5]。もし創感染が起きたら、抜糸、皮膚切開で膿を出す、抗生物質の投与などが行われる[5]。
患者は手術後は寝ていることが多く痛みもあり肺の奥の痰を思うように出せなくなることがあるが、痰を出せずにいると、本来なら痰とともに体外に出されるはずの菌が肺にとどまり、肺炎を起こしてしまうことがある[5]。手術後は意識的に痰を出すことが大切である[5]。
手術中は痛み止めと麻酔のおかげで痛みは無いが、手術後に麻酔が切れると創(切った箇所)が痛むことはある[5]。痛くなった場合は、痛み止めの薬が処方される[5]。患者は痛みをがまんする必要はなく、看護師や医師に痛いことを伝え、痛み止めを処方してもらえばよい[5]。
英国での大規模な後ろ向き研究で、平日の手術と週末の手術の死亡率に大きな差異が出ることが分かっており、これを「週末効果(weekend effect)」と呼んでいる。さらに平日の中でも週末に向かうほど手術での死亡率は高くなる「平日効果(weekday effect)」(英インペリアル・カレッジ・ロンドン公衆衛生学部のP. Aylinらが、2013年5月28日発行の英医学誌「BMJ」に発表)が知られている。手術を受けた曜日による死亡リスクを、月曜日を基準にして、火曜日が7%増に対して金曜日は44%増、土曜・日曜日は82%増と、週末に向かうほど上昇していた。特に死亡リスクが高い5つの術式(食道・胃切除術、直腸・結腸切除術、冠動脈バイパス術、腹部大動脈瘤)では腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術以外の4術式で、週末に向かうほどリスクが増大。土曜・日曜日は月曜日の2-3倍になった。一方、死亡リスクが低い術式では「平日効果」は見られなかった[6][7]。
日本でも広島大学の今岡洸輝らは、StageI~III大腸がんの待機的手術を対象とした多施設共同による後ろ向き解析で、手術を金曜日に受けた患者は金曜日以外に受けた患者より術後合併症の発生率が高く、術後入院期間も長いことがわかった。この研究結果は、Journal of Surgical Research誌2024年4月号に掲載された[7]。
割合としては、2011年のイギリスでの調査では、90%のイギリス人医師が手術中に音楽を聴いている[10]。2021年の医学系SNSのFigure 1と音楽配信アプリSpotifyの共同調査では、外科医と外科研修医の90%が手術中に音楽を聴いており、ロックとポップスが最も人気が高く、「音楽が手術室の緊張を和らげ、外科チーム全体をリラックスさせることで集中力を高めるのに役立った」とコメントしている[11]。
ジャンルについては、2018年にハイデルベルク大学医学部の学生82人に行った腹腔鏡検査などの外科手術のパフォーマンスに音楽ジャンルが与える影響が見られたが、音楽を聴いている状態の方がパフォーマンスが優位に高く、ラジオのミックス音楽やロックなどと比べてクラシック音楽やヒップホップを聴いている状態が高いパフォーマンスを発揮したとされた[12]。
2009年から2018年までの英語の論文を横断的に調査した結果では、ルーチン作業において注意散漫になる悪影響があるものの、患者や医療チームのストレス緩和などの良い影響の方が有意に高いとしている。この調査した結果では、クラシック音楽を低音量から中音量で流すと、正確性とスピードの両方が向上したとされている[13]。
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