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虫垂に炎症が起きている状態 ウィキペディアから
虫垂炎(ちゅうすいえん、英: appendicitis、略してアッペ)は、虫垂に炎症が起きている状態である。急性症[1] と慢性症[2] に分類される。
何らかの原因で虫垂内部で細菌が増殖し炎症を起こした状態である。炎症が進行すると虫垂は壊死を起こして穿孔し、膿汁や腸液が腹腔内へ流れ出して腹膜炎を起こし、敗血症により死に至ることもある。
原因は様々であり、明らかにならない事も多いが、ウイルス感染や糞石などの異物によってリンパ小節が腫大、バリウム[3] や異物による内腔の閉塞によって生じる血流停滞が細菌の増殖を招き粘膜を傷つけ炎症に繋がる[4]。例えば、蟯虫迷入[5]、植物の種子[1]、魚骨刺入[1][6]、肺癌虫垂転移[7]、誤飲した乳歯[8]、義歯[9] などの報告がある。
若年者から高齢者まで幅広く発症する。男女差はみられない。が、男女とも10代から20代の発症が他の年齢層より若干多い。理由は未解明であるが、急性虫垂炎の発症数には「夏に多く冬は少ない」とする季節変動があると報告されている[4]。
途上国よりも先進国での発症者が多いとする報告がされているが、調査対象の医療機関のサンプル数が少ないため有意な調査とは言えないとの指摘がある[4]。
右下腹部痛がよく知られているが、典型的にはまず心窩部(みぞおち付近)に痛みが出て、時間の経過とともに右下腹部へと移動していくことが多い。その他の主な症状としては、食欲不振、嘔気、発熱などがある。希な合併症として腸腰筋膿瘍[11]。
診断学の世界では、虫垂炎の病態生理は次のように理解されている。まず虫垂に異物などが貯留し、細菌が繁殖することで管腔内圧が上昇し、心窩部の鈍痛という形で関連痛が発生する。さらに腸管粘膜に炎症が起こると、右下腹部の鈍痛という形で内臓痛が発生する。さらに進行すると炎症が管腔の内側から外側、すなわち臓側腹膜に波及する。腸管の動きなどで臓側腹膜が壁側腹膜と接触し、炎症が壁側腹膜に波及すると右下腹部の鋭い痛みとして体性痛が発生する。この頃には、反跳痛(ブルンベルグ徴候)といった腹膜刺激症状が出現する。これは概念上の話であり、炎症が激しくなり組織障害が強くなれば、関連痛、内臓痛、体性痛という順に進行していく。
虫垂炎に特異的な所見はない。炎症反応が指標となる[16]。
虫垂の腫大や、周囲脂肪組織の濃度上昇がみられ、一般的に多くの病院で診断に用いられている。造影剤を用いる造影CT検査ではより正確であり、感度、特異度ともに98%であり、正診率は高い。
比較的解像度の良好な最新の超音波検査機器では虫垂の形態評価に関して極めて有用である。しかし、超音波検査は、虫垂が盲腸の背側に隠れると描出できない、機器の精度・検査技術の技量に大きく左右される、などの理由で正確な診断に至らないこともある。近年、小児の虫垂炎診断においてCTによる検査が減少する一方、エコー検査が増加したが、臨床的な転機に変わりがないことが報告されている[17]。
虫垂炎はありふれた疾患であるが、正確な診断は非常に難しい。腹痛を起こす疾患は数限りなくあり、右下腹部痛だけとっても腸炎、大腸憩室症、卵巣炎、卵管炎、さらには単なる便秘なども考えなくてはならない。超音波検査やCTで炎症性に腫大した虫垂が描出されれば診断はほぼ確定するが、すべての症例にみられるわけではない。したがって、虫垂炎の診断はあらゆる情報を総合的に判断した結果“最も可能性の高い疾患”として下されることになる。
乳幼児や老人では病状の割に症状や炎症所見が弱いことが多く、診断や治療が遅れる原因になる。感染に対する生体反応が弱いためと考えられる。
妊婦では子宮に圧迫されて虫垂が本来の位置から移動しており、典型的な症状が出ないことがある。また炎症が限局せず重症化する傾向にある。
Alvarado スコア[18] も(頭文字を取りMANTRELS スコアとも呼ばれる)が診断の際によく用いられる。10点満点のうち、6点以上で急性虫垂炎を疑う。7点以上の場合、感度は76.3%、特異度は78.8%という報告がある。
極端に太っている人も診断が困難な傾向にあり、俗に「相撲取りが盲腸になると命取り」などと言われる。これは1938年(昭和13年)12月4日に横綱の玉錦三右エ門が、さらに1971年(昭和46年)10月11日に同じく横綱の玉の海正洋が、それぞれ現役のまま入院先の病院で開腹手術後間もなく死亡するという衝撃的な事件が起きてから、特に有名になっている。玉錦は虫垂炎にかかっていながら病気の可能性を考えず、医者に診せた方がいいと言われても信じず発見が遅れた結果、こじらせて腹膜炎を起こした。化膿箇所の除去手術は受けたものの、医師が指示した療養に本人が全く従わず、術後に腹膜炎がさらに悪化して死に至った。玉の海も虫垂炎を腹膜炎の一歩手前位までこじらせていながら、ずっと薬で痛みを散らし続けていた。除去手術は成功したが、術後約1週間が経った頃に退院を翌日に控えていながら術後肺血栓を併発して急死した。力士は腹部の筋肉や脂肪が厚いことから手術が困難であり、しかも肥満体の患者は術後に血栓症を起こしやすいと言われているが、当時そのことは知られていなかった。皮肉にも玉の海は玉錦の孫弟子(玉錦→玉乃海→玉の海)である。
多彩な疾患の症状として下腹部痛が生じるため多岐に渡る。
炎症が軽度であれば絶食・輸液管理を行い、セフェム系抗菌薬投与を行うことで回復することも多い[21][22]。このような治療は俗に「盲腸を散らす」と呼ばれる。
炎症が高度になる場合などは虫垂切除術を勧められるが、その判断基準はケースバイケースである。一般的に虫垂炎は外科学で扱う古典的な疾患であるくらいに手術の方が確実で2時間ほどの施術で早く、しかもほとんど副作用の無い治療法である。よって炎症の度合いと手術のリスクを天秤にかけ、それに患者本人の希望を入れて決定される。
一般的に手術的加療を考慮するポイントは次のとおりである。
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