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医療機器の一つ ウィキペディアから
人工臓器 (じんこうぞうき、Artificial Organs)は、患者が極力通常の生活に復帰できるよう、臓器の機能的代替物として人体にインプラントないしは接続される医療機器である。代替される機能に制限はないが、致命的なものであることが多い。
固定された電源、フィルター、化学的な処理装置などと接続されていないことが人工臓器の特徴であるとの考え方もあり、定期的な充電や、消耗品の交換を必要とする機器も人工臓器に分類すべきでないとの意見もある。この立場によれば、例えば人工透析装置は腎臓の機能的代替物であり人体に接続される医療機器であるが、人工臓器ではないということになる。
日本人工臓器学会では「病んだ臓器の代行を目的として開発されたもの」[1] としており、透析装置は人工臓器に含まれるとの立場をとっている。
心臓、肺、肝臓、腎臓などの機能が損なわれると種々の病気になり、重い場合には生命の危機に晒される。人工臓器は、このように病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、様々な治療を通じて機能補助に用いられている。
人工臓器には材料工学や電子工学等の機械技術を用いたものや、組織工学(英Tissue Engineering)を用いたものがある。前者の例として人工心臓、後者の例として培養皮膚が挙げられる。
損傷した器官を補綴する器具のうち、四肢に関する物の歴史は極めて古く、最古の義肢についての記録は紀元前12世紀に成立したリグ・ヴェーダである[2]。 古代エジプト人は義肢についての先駆者であり、紀元前10世紀頃の新王国時代の遺体から木製の爪先が見つかっている[3]。 もう一つの古い記録はヘロドトスの書き残した、紀元前5世紀頃の予言者ヘゲシストラトスである。スパルタの捕虜であった彼は、逃げ出すため自ら脚を切断したのち、木製の義足を用いたとされている[4]。 一方、現在のような体内埋込み型の医療機器は比較的新しく、第二次世界大戦後のことである。埋込み型の器具は異物反応のため実現困難であると考えられていたが、イギリスの医師ハロルド・リドリーが飛行士の治療からスピットファイア戦闘機の風防が異物反応を起こさないことを見出し、1949年に眼内レンズを開発した。これが埋込み型医療機器の端緒である。
1950年代に血管や人工関節などの埋込み型器具が、合成樹脂や金属を用いて作り出された。しかし、異物反応によって人工臓器の機能が損なわれたり、凝固反応によって血栓が出来たりするなど、長期にわたる使用には問題があった。その後、材料工学の進展に伴い生体適合性に優れた材料が生まれた。例えば、人工骨であり、初期の埋め込み型人工骨はステンレスやアルミナといった金属材料を使ったものであった。これらの材料は骨と機械的強度が大きく異なる為、数年から10年に一度、外科的検査またはレントゲン検査によって、体内に埋め込まれた人工骨を検査し、場合によっては取り替える等、患者に負担をかける治療方法となっていた。しかし、1980年代にリン酸カルシウムという骨の組成に近い素材を用いる事によって人工骨の周りに生体組織が定着しやすくなった。この事によって、人工骨を用いた医療を患者が安心して受けられるようになった。
セラミックス製の人工骨やインプラント治療で用いられる歯科材料、更には機械式の補助人工心臓等がこれにあたる。他の例としては、心臓疾患の患者に直接埋め込んでしまう心臓ペースメーカーや、白内障の悪化によって水晶体を除去された患者の眼球に直接埋め込む人工水晶体等もこれにあたる。
更に近年、臨床試験が完了して実用化されている人工臓器としては、電子工学技術と脳の聴神経との接続によって耳の聞こえない人に聴覚を与える人工内耳も挙げられる。また、多点電極を用いて視覚中枢へ電気刺激を行う事によって目の見えない人に視力を与える人工視覚システム(人工網膜、人工眼)の実用化に向けて研究開発が進んでいる。
近年では、体力の衰えや不慮の事故等によって生じた機能障害を補助する事を目的として、機械とコンピュータ技術を組み合わせた、人工肢や人工腕、更には補助装置等も実用化に向けた開発が進んでいる。これまでは、自分の意思で義手や義足を動かす事が出来なかったが、運動神経系から生じる微量な電気信号をキャッチする事ができるセンサーの開発等によって、自分の意思で義手や義足を動かす事が可能になった。無論の事ではあるが、今後は感覚神経系とのフィードバック等も考慮に入れた人工肢や人工腕等の開発も進むものと思われる。これによって、失われた感覚等を取り戻せる可能性もある。
更にこれらから一歩進んで、脳神経機能そのものを制御する試みも開始されている。例えば、日本の東北大学では、ペルティエ素子と経皮エネルギー伝送システムの組み合わせによる脳神経機能後期機能制御装置の開発を進めている[5] [6]。このシステムは、てんかんなどの脳神経系における病的発作に対し、完全に無侵襲的に対応できる点で特徴をなす。
代替するべき器官や部位に対して、生きた細胞を用いて新たに組織を形成する事によって生まれた人工臓器の事である。この種の人工臓器を生み出す技術は組織工学と呼ばれており、医学の研究者のみならず、細胞や遺伝子を扱う分子生物学の研究者、プラスチックや高分子材料を扱う材料工学の研究者などが、学問領域の枠を超えて学際的な研究開発を行う事によって生まれた技術である。
皮膚、血管 [7]、 骨、気管 [8] [9]、 食道、膣 [10]、 軟骨 [11] といった器官、組織が2014年時点、人工的な処置により少なくとも部分的な機能の再生が実現している。
また、2014年時点、肺 [12]、 腎臓 [13]、 肝臓 [14] の再生が実験動物で報告されている。
また、iPS細胞を使って人工的に臓器をつくる試みもなされており、世界中の製薬会社、研究機関の研究者がしのぎを削っている。「iPS細胞#臓器作製」参照。
細胞を半透膜で包み小さなカプセルにして、それを移植する治療も試みられている。主に膵臓のランゲルハンス島の細胞を包み、糖尿病の治療に使われるなどが考えられている。「カプセル化細胞」を参照。
現代医療において、臓器移植の占める役割は無視できないが、生命倫理における脳死の問題、臓器移植を待つ患者に対し、臓器提供の意思を表明するドナーの数が不足しているという事実がある。このような状況下にあって、臓器移植による免疫不全のリスクや、異物が人体の免疫系に与えるリスクを抑えつつ、臓器移植によってしか救う事の出来ない患者の為に、人工臓器の開発が進められている状況となっている。
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