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ガンダムシリーズに登場する架空の兵器 ウィキペディアから
シナンジュ(Sinanju)は、「ガンダムシリーズ」に登場する架空の兵器。有人操縦式の人型ロボット兵器「モビルスーツ(MS)」。初出は2007年より発表された小説『機動戦士ガンダムUC』。
作中に登場する軍事勢力「ネオ・ジオン軍」の残党「袖付き」の首魁「フル・フロンタル」の専用機。特殊能力者「ニュータイプ」の操縦を前提とした高性能MSで、赤い機体色に金色の装飾、背中に備えた翼状の推進器が特徴。元々は作品の主役MS「ユニコーンガンダム」のプロトタイプとして「地球連邦軍」が開発した機体だったが、裏取引の末「袖付き」の手に渡りフロンタル専用機として改修された。改修前の姿は「シナンジュ・スタイン」と呼称され、短編小説『機動戦士ガンダムUC 戦後の戦争』や劇場アニメ『機動戦士ガンダムNT』などに登場する。アニメ版『機動戦士ガンダムUC』の最終決戦などには、シナンジュをコア・ユニットとした巨大モビルアーマー(MA)「ネオ・ジオング」が登場し、劇場アニメ『機動戦士ガンダムNT』にもシナンジュ・スタインをコア・ユニットとした巨大MA「IIネオ・ジオング」が登場する。
メカニックデザインはカトキハジメによる。これまでのライバル機となる敵MSは大きくて重いイメージであり、『機動戦士ガンダムUC』の時代ではすでにサザビーやα・アジールが登場しているため、同じイメージの延長線上でデザインしても2 - 3番手になってしまう。また、ユニコーンガンダムと同様に映像化や模型化をひとまず考えないでデザインできる機会でもあり、チャレンジ的な意味合いも込めて頭身の高いスマートなプロポーションに、ジオン系MS特有のラインをさらに推し進めた曲線でまとめ上げていったとのこと[1]。
原作小説『ガンダムUC』の著者である福井晴敏は、同作品におけるライバル機体としての存在意義について、ユニコーンガンダムが「可能性の獣」なら本機は現実を突き付けて絶望へと誘う「可能性の破壊者」であると位置付けている。搭乗者のフル・フロンタルというキャラクター自体が「シャアを彷彿とさせる仮面キャラが『ガンダム』に出る」という保守的な発想から生まれており、ネオ・ジオンという改革派のトップであるにもかかわらず後ろ向きな大人に対して、閉塞した世界を変えていこうとする主人公(バナージ・リンクス)が組み伏せるのか、あるいはその逆なのかを両機の対決に象徴させたと語っている[1]。
地球連邦宇宙軍再編計画「UC計画」の一環として、アナハイム・エレクトロニクスがサイコフレームの限界性能とデータ収集を目的に開発した[2]試作MS「シナンジュ・スタイン」をネオ・ジオン残党軍「袖付き」が強奪し、これを改修し完全な実戦機体として完成させたもの[3][注釈 1]が本機体であるとされる。かつて同社が開発したMSN-04 サザビー、RX-93 νガンダムと同じく、機体の駆動式内骨格「ムーバブルフレーム」の一部にパイロットの脳波に反応する特殊構造材「サイコフレーム」を採用したニュータイプ専用機とされる[4][注釈 2]。サザビーなどと比べてスマートな体形なのは、技術進歩によるサイコフレームの多用化の実現によってサイコミュ装置の小型化が可能となり、それに伴って機体サイズの小型化が成功したためとされる[6]。
ユニコーンガンダムの「NT-D」発動時(デストロイモード)の実験機としての側面も持っており[2]、この機体(厳密には後述のスタイン)で検証されたデータを基にユニコーンガンダムが開発された経緯があり、そのことから同機とは言わば“兄弟機”の関係にあるが、宇宙世紀0094年にアナハイム社から「袖付き」に強奪(実際には強奪に偽装して譲渡)され、ユニコーンガンダムと刃を交えることとなる。強奪後は「袖付き」を象徴して率いるフラッグシップ機たるべく、全身の外装をジオン風に一新し、真紅の塗装と金色のエングレーブが施され、ネオ・ジオン軍のエンブレムをそのまま具現化したような[7]姿となった。この装飾は「袖付き」の雑多な勢力の寄り合い所帯をまとめる意匠であると同時に、シナンジュや親衛隊機、その他のエース機の当該部分にはガンダリウム系の新合金が採用され、一般機より装甲が強化されている[8]と設定されている。性能面でも、操縦者であるフル・フロンタルの操縦技術に合わせた操縦系統の改良や、更なる推力の強化が行われた。これらの「袖付き」独自の強化改修も相まって、MS単体の戦闘能力はユニコーンガンダムと互角[9][注釈 1]にまで引き上げられ、フロンタルの卓越した技量を体現する性能を実現するに至り、作中では単機で戦況を左右するほどの戦闘力を見せ、完成機であるユニコーンガンダムとも互角以上の戦いを繰り広げた[10]。
ネオ・ジオン残党軍「袖付き」の首魁であるフル・フロンタルが搭乗し、真紅に染め上げられた機体が青い残光によって彗星の如く軌道を描きながら戦場を高速移動するその姿から、パイロットのフロンタルと共に「赤い彗星の再来」と渾名され、総帥シャア・アズナブルを失い士気の低下したネオ・ジオンの崇拝と士気高揚の対象となり、地球連邦軍からは脅威の対象として恐れられていたとされる。
ファンネルなどの直接的な武装としてのサイコミュ兵装は持たないが、ニュータイプパイロットの思考波をMS内部のサイコフレームに感受させ、パイロットの脳内操縦イメージを機体の挙動へダイレクトに反映させるサイコミュ思考操縦システム「インテンション・オートマチック・システム」を搭載しており[11][12]、MS単体の機体制動・追従性・機動性を極限にまで突き詰めて設計されており、通常の手動操作を凌駕する反応速度と動作精度を誇る。これによりサイコミュによる直接的な兵装なしに機動性のみで当代随一の機体として完成した[13][注釈 1]。操縦補助以外にも、開発側が意図していなかった機能として、乗り手の意思を汲み取るこのシステムを搭載する「UC計画」によって誕生した3機(ユニコーン、バンシィ[注釈 3]、シナンジュ[注釈 4])は、パイロットのニュータイプ能力に呼応し、サイコフレームが最大共振すると、第二次ネオ・ジオン抗争時のνガンダムと同様に、虹色の光の力場「サイコ・フィールド」を機体から発し、他のMSとは一線を画する超常的な力を見せた。
元々はサイコフレームをメインフレームに据えたMSの、一般パイロットの操縦では計測不可能な限界値を取得するべく、機械上での試験運用を目的とした実証実験機で、驚異的な機動力と追従性を誇るも、発生する加速度(G負荷)によるパイロットへの肉体的負荷は殺人的なレベル[注釈 5]で、なおかつインテンション・オートマチック・システム制御のサイコミュによる精神的負荷もあるため、一般パイロットにはまず乗りこなせない“極めて端的な[14]”MSであったとされている。その限界値を突き詰めた設計ゆえ、人間が乗り込む機動兵器としては欠陥機とも言えるMSであったが、実際には人を超えた「ある者」に向けて造られていたとされる[15]。強奪に偽装した譲渡という形でネオ・ジオン残党軍「袖付き」の手に渡り、「赤い彗星の再来」と渾名され、ニュータイプとしてもMSパイロットとしても高い能力を誇るフロンタルが操縦することで、あくまで理論上であったそのポテンシャルを、作中の戦闘にて遺憾なく発揮することとなった[16]。
バックパックと両脚脹脛の左右側面に備えたフレキシブル・スラスターと、全身に配された多数のスラスター群により、いかなる姿勢においても高い機動力を発揮する。背面の推力偏向スラスターは猛禽類の大きな翼を想起させるような形状になっており、最大出力時には羽ばたくような挙動を行う。背面の推力偏向スラスターの下部には、サザビーのものよりも大型のプロペラントタンクが配置されており、戦闘ではこれを意図的に切り離すことで囮としても利用した。その高機動性は、インダストリアル7から脱出したネェル・アーガマを攻撃する際、周囲の無数のスペースデブリをまったく意に介することなく高速移動しながら戦闘していることからも窺える。フレキシブル・スラスターの進化と可動域の拡大により機動性能は更なる強化を遂げ、スタインで実証テストを重ねた後に段階的に行う予定であった「超高機動モード」への移行を一足飛びに導入した[8][17][注釈 1]シナンジュは、通常のMSには実現不能なアクロバティックな機動戦闘を行うに到った。
本来スタインはあくまで実験機であったこともあり、装甲の耐弾性には不安があった[18][注釈 1]が、シナンジュの装甲は耐ビーム・コーティングが一般的なMSの2層構造より3層も多い5層構造へと強化されている[19][注釈 1]。ネオ・ジオン残党軍を実質的に牽引するフル・フロンタルがフラッグシップ機として搭乗することもあり、パイロットの生存性を高めるためコックピット・ブロックは全面をルナ・チタニウムX系の材料で覆ったことで、スタインより遥かに防御力は向上し実戦機として充分な強固な装甲を有した[20][注釈 1]。また、シナンジュとその直属の親衛隊機やエース・パイロット機の、袖や襟のような装飾のエングレービング部分は、ガンダリウム系の新合金(ルナ・チタニウムXとする説もあり[21][注釈 1])が採用され、一般機より装甲が強化されているとする説もある[8]。
小説版における、バナージ・リンクスの駆るユニコーンガンダムとの最終決戦では、フロンタルの高いニュータイプ能力にシナンジュのサイコフレームが呼応し、兄弟機であるユニコーンと同様に機体から虹色に輝く光を発する[22]。対峙する2機から放たれる虹色のサイコ・フィールドのぶつかり合いによって、サイコフレームを搭載していないMSでは介入不可能なほどの力場を発生させる[22]など、超常的な戦闘を繰り広げた。その決戦の終盤では、巨大な亡霊のような禍々しいオーラでその身を包むまでに到り、フル・フロンタルの思念によって物理法則を悉く捻じ曲げる[23]という常識を超越した力で、ユニコーンとバンシィの2機を驚異させた。激闘の末、バナージに「亡霊は暗黒に帰れ!」と断じられながらユニコーンの両腕のビーム・トンファーで機体を貫かれ、数百メートルにも至る最大出力を超えた巨大な光刃により撃墜された[24]。
アニメ版では、映像化に際してこのオーラを巨大な機体として具現化したいとの案から[25]、シナンジュをコア・ユニットとした巨大MA「ネオ・ジオング」が登場することとなったため、このシーンは無くなった。トレーディングカードゲーム『ガンダムウォーネグザ』では、アニメ版では見られなかった小説版の最終決戦におけるこの姿が、「シナンジュ(サイコ・フィールド)」としてイラストカード化されている[23]。
PlayStation 3専用ゲームソフト『機動戦士ガンダムUC』のダウンロードコンテンツ「episode 0:戦後の戦争」、および同ゲームソフトの特装版に同梱された作者福井晴敏書き下ろしの小説『機動戦士ガンダムUC 戦後の戦争』に登場し『UC-MSV』に分類されているMS。
開発コードは「スタイン01」で、名称の「スタイン(stein)」はドイツ語で「石」を指し、宝石の“原石”を意味している。本機があくまで“原石”でしかない、という開発者の揶揄によって付けられた。塗装はライト・グレーと濃紺を基調とする。
量産型νガンダムとは近い時期に、異なる系統で開発されたサイコフレーム搭載機[28]であり、「UC計画」におけるサイコフレームの強度・追従性の実験機として開発された試作MS。シナンジュが「袖付き」でフロンタル専用機として改修される以前の姿で、白いカラーリングと頭部の顔部分はどこかガンダムを彷彿とさせるデザインとなっている[29]。機体強度や耐久性テストを目的とした実証実験機で、様々な限界性能を計測機器上でテストすることを主目的に設計されている上、サイコミュ思考操縦システム「インテンション・オートマチック・システム」の採用もあり、パイロットへの肉体的・精神的な負荷は尋常ではないレベルに達しており、人が直接搭乗しての操縦を想定していないはずの機体だった[30]。だが、その実は人を超えた能力を持つ「ある者」に向けて開発されたと設定されている[31]。
全身にサイコフレームが採用された[29]、フルサイコフレーム[32]の機体であり、パイロットを選ぶ仕様となっている[29]。
本機は複数機が存在する[33]。『UC』の前日談に当たる短編小説『機動戦士ガンダムUC 戦後の戦争』では「スタイン01」のMSコンテナが2つあることが描写されており[34]、PlayStation 3専用ゲームソフト『機動戦士ガンダムUC』のダウンロードコンテンツ「episode 0:戦後の戦争」でも、「袖付き」がもう1つのMSコンテナを運び出す描写がある。
νガンダムと、サザビーを開発したアナハイム・エレクトロニクス社の2つの別チームが統合された特別編成のチームで開発された[9][注釈 1]。「袖付き」による改修後と比較して、本来「ユニコーンガンダム0号機」とでも呼べる出自の経緯もあり、連邦系MSの特徴とも言える直線的なシルエット、およびデュアルタイプのセンサー(アニメ版において、シナンジュがモノアイセンサーを損傷した際、スタインの頃にツインアイセンサーがあった位置にサブセンサーが作動している)など、いわゆるガンダムタイプに近い姿・顔立ちが確認できる。スタインにもガンダムタイプと同じくV字型の頭部アンテナの取り付けが予定されており、取り付け用ソケットが額部分に存在するが、試作が遅れ実現には至らなかった[35][注釈 1]。取り付け時の姿は『モビルスーツアーカイブ MSN-06S シナンジュ』にイラストが掲載されている[36][注釈 1]。中央情報局のカルロス・クレイグによれば「あの機体がネオ・ジオンの手に渡れば、戦力のバランスシートが狂って再び戦争が起こる」とまで危惧するほどのMSであり、カルロスは命懸けで当MSがネオ・ジオンの手に渡るのを阻止しようとした。それほどまでの性能を秘めるとされるMSではあるものの、あくまで実験機であり、ネオ・ジオンの領袖フル・フロンタルも強奪直後に操縦した際には「テスト機というだけあって操作系が硬い。磨く前の“原石”のようなもの」と評しており、彼の高いパイロット技能に伴った調整と更なる改良が必須とされた。
漫画『機動戦士ガンダムUC MSV 楔』では「袖付き」による強奪後、フロンタル専用機とするための強化改修の前に実施された、最終稼働確認と改修後(シナンジュ)の専用武装との適合試験が描かれている。その際「操縦に“クセ”がない」という理由から、テストパイロットに適任とされたワークラッハ・バナム少尉が搭乗する。常人には過敏すぎて機体をデッキから出すことすらままならないため、操作系の反応レベルを大幅に落とした状態で運用される。基本動作のあと、ビーム・ライフル、ロケット・バズーカ、ビーム・アックス、シールドの適合試験をおこなう。試験責任者のゴティ・ハヤミ中尉によれば、本機のインテンション・オートマチック・システムは「私たち凡人には扱いようもない代物」と説明しているが、試験中にワークラッハを妬むミノッコ中尉が不用意に煽ったことで、ワークラッハの感情の高まりに同システムが呼応、勝手に動作しミノッコのギラ・ズールのコックピットを殴りつけ、ビーム・ライフルで撃ち抜いてしまう。これを見ていたフロンタルは、ゴティが「こうなるように演出していた」のではないかと指摘するが、彼女を責めることはなく、「(シナンジュへの強化改修を)君に任せて正解だった」と告げる。この件はあくまで試験中の事故として処理されるが、ワークラッハは収監される(漫画『機動戦士ガンダム U.C.0096 ラスト・サン』より)。
アニメ版『UC』ではシナンジュによるネェル・アーガマ襲撃の際、アルベルト・ビストが提供したシナンジュの機体データ画像が登場するが、スタインともシナンジュともデザインが若干異なる。これは、アナハイム・エレクトロニクス社と地球連邦軍の情報部が作成した「改修された後を予測した仮定のデータ」に過ぎなかったためと言われている[37]。OVAシリーズをテレビフォーマットに再編集したテレビシリーズ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』の前期エンディングの映像にも、このデータ画像が登場している。『モビルスーツアーカイブ MSN-06S シナンジュ』には、このデータ画像に基づいたカラーイラストも掲載されている[38][注釈 1]。
デザインしたカトキハジメによると、シナンジュとその改修前の当機はHi-νガンダムの機体レイアウトを意識してデザインしたとのこと[39]。
宇宙世紀0097年を舞台とするアニメーション映画『機動戦士ガンダムNT』に登場(型式番号:MSN-06S-2)。スペックの数値はすべて通常のシナンジュ・スタインと同一である[42]。
「袖付き」に強奪された「スタイン01」のユニット2ケースのうち、残る1ユニットを運用したもの[33]。シナンジュへと改修されたフロンタル機のように改装を施されることなく、塗装もそのままだが、プロペラントタンクはシナンジュと同様のものへと大型化され[43]、袖と胸部には「袖付き」の意匠が加えられている[43]。パイロットはジオン共和国軍のゾルタン・アッカネン大尉。ゾルタン隊が「袖付き」を装うのは、フェネクス捕獲にまつわる一連の作戦を「袖付き」の手によるものと偽装するためである[43]。
ユニコーンガンダム3号機 フェネクスの捕獲作戦「不死鳥狩り」の際に、新サイド6のコロニー「メーティス」で同じ目的で行動していた連邦軍シェザール隊のナラティブガンダム B装備と遭遇戦になるが、コロニー内でも躊躇することなくハイ・ビーム・ライフルを発砲し、コロニーおよび住民に多大な損害を与える。
メカニックデザインはシナンジュ同様カトキによる。デザインの発端は、アニメ版『UC』ではストーリーを担当した小説版著者の福井が、小説版『UC』の最終決戦でシナンジュが全身にまとった「巨大な亡霊のようなオーラ」を映像化に際して機体として具現化できないかと提案したことによる[25]。福井としては、シナンジュがスカートとスーツの追加装甲を装着したような通常のMSより一回り大きい程度のイメージだったが[25]、アニメ版『UC』監督である古橋一浩からの、作品の最後を飾る強敵として、挑みかかる若いふたりを上から目線の「不動の構え」でいなす「仏様」のような神々しい機体にしたいという案[44]と、ノイエ・ジールやα・アジールといったジオン系大型機動兵器の系譜を考えると、これくらいの大きさは必要だというカトキの案から、全高100メートルを超える規格外の巨体という設定になった[25]。結果的にカトキは、ユニコーンとバンシィが2機がかりでも苦戦する構図がすんなりできたことに加え、最終エピソードを象徴するサプライズ機体になったのではないかとOVA完結後に語っている[45]。
古橋は、バナージとフロンタルがアムロとララァのように「刻」を形象として垣間見るシーンは、初期稿では実際にタイムトラベルする構想であったとしている。初期稿のシナリオや絵コンテからもそれがうかがえ、万物の存在を許さぬ虚無の世界に到ったことが原因で、ユニコーンとネオ・ジオングの2機が崩壊していくシーンもあった。だがストーリー担当の福井に、実際にタイムトラベルするのではなく、あくまで「宇宙の記憶」をフラッシュバックとして見ているような精神的なイメージに留めてほしいとの要望を受けたことで、決定稿では改訂された[46]という経緯がある。これについて福井は、サイコフレームを便利に使いすぎており、『ガンダム』の世界でそれを出すのは難しいため、あくまで「ふたりの精神的なもの」としてもらったと述べている[47]。そのため、アニメ中ではユニコーンとネオ・ジオングが虚無の世界で崩壊していくシーンは削除され、後述のユニコーンによる「ソフトチェストタッチ」の影響で、物理的に崩壊する展開に変更されている。他にも初期稿には、ユニコーンがコロニーレーザーの相殺に挑んだ際、1回きりの奇跡であることをより強調するため、ネオ・ジオングのサイコフレームの残骸がユニコーンの周囲に集まり、サイコ・フィールドの発生を助ける構想もあったが、演出上うまく見せる方法が浮かばず不採用にしたことも語っており[46]、こちらも初期稿の絵コンテには残っている。
設定協力の関西リョウジによると、この機体を「袖付き」のみで作れたはずがなく、ユニコーンガンダムへの抑止力としてアナハイムから譲渡されたイメージとしている[48]。機体名は、当初シナンジュにドイツ語を合わせた案を考えていたが、シナリオ打ち合わせで脚本家のむとうやすゆきが仮称として書いた「ネオ・ジオング」が好評で、そのまま採用されたという[48]。アニメ版の続編である『機動戦士ガンダムNT』にも同型機であるIIネオ・ジオングが登場し、同作品では脚本を担当した福井は、天界から力を得ている同機は今の世には行き過ぎたいわゆる「オーパーツ」であり、天界の力が噴き出してしまった特異点のような存在であるとイメージを述べている[49]。
その他アニメ版『UC』では、福井からの案で、ユニコーンとネオ・ジオングが虚無の世界を垣間見た後に現実へと帰還する際に、富野由悠季監督のアニメ作品『伝説巨神イデオン』の主人公メカ「イデオン」の兵器「イデオンソード」と同じ効果音が挿入されている[50]。
OVA版『機動戦士ガンダムUC』の最終章episode 7に初登場。「袖付き」がフル・フロンタルのために設計・開発した、シナンジュをコア・ユニットとする拠点攻略用巨大MA(モビルアーマー)。一年戦争での最終決戦の際にシャアが搭乗したMSジオングの名称と機体コンセプトを踏襲し、脚部を排除した純粋な宙域専用機として完成した。全高100mを超えるハル(外殻)・ユニットを組み合わせた独特な機体構成になっており、インテンション・オートマチック・システムを搭載したシナンジュを管制中枢として据える事で、多数の大型サイコミュ兵器を備えた規格外の巨体の運用をフロンタルの単独操縦で実現している[52]。この独特な機体構成は、追従性など機動性能にのみ作用していたシナンジュのサイコフレームとインテンション・オートマチック・システムの力を最大限に引き出すための方策であり[53]、いわばハル・ユニットはシナンジュ専用に誂えられたサイコミュ増幅兵器、あるいは機能増幅装置[54]。であるとも言える[55]。
シナンジュのサイコフレームを基点とした新技術のサイコミュ兵器や、巨大MA特有の大火力の多彩な兵装を多数備え、コア・ユニットのシナンジュだけでなく、そのパイロットであるフロンタルの驚異的なニュータイプ能力と卓越した操縦技術まで鑑みて造られた本機は、すべてが成立することで初めて“想像を絶する”力を生み出すことができる[55]。機体の堅牢性も非常に高く、最終装甲のみならず肩部コンテナを展開させた際に露見する内部躯体も同様の高い防御力を誇り、並の兵器で本機を撃破することは極めて困難とされる[55]。機動性においても、大型ブースターで構成されるスラスター群は戦艦クラスの莫大な推力を有し、巨体に不釣り合いな機動性を本機に与えている。ただし、既存の大型機と同様に運動性能は低く、接近戦に適した機体とはいい難かった[56]。
しかし以上のような基本スペック以上に、基幹技術であるサイコシャードによってユニコーンガンダムが発揮する超常的な力と同様の現象を人為的に引き起こせるその性能から、「他機体を掌握しイメージを具現化する最強のサイコミュマシン」と評されている[50]。このサイコシャード発生器を始め、フル・フロンタルが基礎設計をしたネオ・ジオングのコア技術は、ジオン共和国(サイド3)にとってはブラックボックスであり、彼の死後も解析できなかった[57]。このためジオン共和国内において、当機体は「シャアの亡霊に取り憑かれたフロンタルが“この世ならざる知識”で造り出した」とも噂されている[57]。
元々は連邦軍から強奪した機体であるシナンジュを技術基点とし、かつこれだけ巨大な機動兵器を「袖付き」の戦備状況で新たに用意できたことは、多くの矛盾を孕んでいるが、これは一部技術提供、生産をアナハイム・エレクトロニクス社側が行い、「UC計画」本来の目的遂行における障害を排除するためのカウンターパワーとして「袖付き」へ供給されたとの説がある[55]。また他に、第二次ネオ・ジオン抗争に戦線投入を目指し宇宙世紀0093年3月には約60%まで完成していたという大型MAのβ・アジールを解体して本機開発の資材に流用したという説もある[58][注釈 1]ともされている。その設計思想にはジオングやα・アジール以外にも、ノイエ・ジール[58][注釈 1]やサイコガンダムMk-II[59][注釈 1]などの過去のネオ・ジオンの大型機動兵器のデータも参考にされたとも言われている。
アニメ版『UC』作中では、立ちはだかったシルヴァ・バレトをその絶対的な力で圧倒し機能停止させた。その後も、その多彩かつ圧倒的な火力の武装を用い、ユニコーンガンダムとバンシィ・ノルンを2機同時に相手取り追い詰める。その最終決戦の最中、ユニコーンとネオ・ジオングのサイコフレームが共鳴し、“刻”を形象として垣間見る、という人智を超えた現象まで引き起こした(実際にタイムトラベルした訳ではなく、“宇宙の記憶”を精神的イメージとしてフラッシュして垣間見たとの事)[46][47][44]。最後は、“刻”の最果ての虚無の世界を目の当たりにしても「それでも…それでも!」と抗おうとするバナージの熱意に呼応したユニコーンが全身から発した“暖かな光”[67]によって、ユニコーンを握り潰そうとしていたアームユニット4基を灰状に分解され、本体にもその“暖かな光”をユニコーンの「ソフトチェストタッチ[68]」によって注ぎ込まれると、搭乗していたフロンタルの中の「残留思念」が浄化され、それに連動してネオ・ジオングも浄化されるように崩壊し灰塵となった。これは、バナージが自身の想いを言葉ではなく“熱”によってフロンタルに伝えようとして取った行動であったが、結果バナージの想いと、その想いを受け容れたフロンタルの心境の変化が、ネオ・ジオングの全身のサイコフレームに作用して、その機体を崩壊に到らしめる結果となった[50][69][70][71]。
この機体は、アニメ版の最終章オリジナルのサプライズ機体として初登場したため、小説版『UC』の最終決戦には登場しない。だが、作者福井晴敏書き下ろしの外伝小説『機動戦士ガンダムUC 不死鳥狩り』にて、小説版の世界観でも「存在していたが、フロンタルの下に届かなかった」という設定が追加されることになった。
前述の通り当機体は、その性能のすべてを完全に引き出すには、コア・ユニットにシナンジュを据えフル・フロンタルが操縦することを前提として開発された兵器だが、この作品ではフロンタルの下への運搬中に発生した戦闘にて、サイコミュ搭載機であるヤクト・ドーガ(アニメ版にも登場した黄土色の「袖付き」仕様)を、臨時のコア・ユニットに代用することで起動を成功させ、ユニコーンガンダム3号機「フェネクス」と交戦した。この時、ヤクト・ドーガには「袖付き」の強化人間パイロットが搭乗していたが、ネオ・ジオングの代用コアになってからは、その場にいないネオ・ジオングの本来の主であるフル・フロンタルの虚無を機体に投影させるための“装置”に成り果てた。
作中、フェネクスにその意思を宿したリタ・ベルナルによると、ネオ・ジオングがその真の主の手に渡り真価を発揮すれば、“刻”を可視化するなど、やがては時空をも操り世界の理すら破壊しかねない危険性を秘めた「今の人の世界に存在してはならないもの」であるとまで断じており[72]、幼馴染であった地球連邦軍シェザール隊のヨナ・バシュタ中尉に、フェネクスの力を用いてのネオ・ジオング本来の主の下に届く前の破壊、という使命を託した。 まだ完全な状態ではないにもかかわらず、フロンタルの虚無を投影しフェネクスを圧倒するネオ・ジオングだったが、ヨナはリタの助力でサイコフレームを最大共振させ緑色に発光させるフェネクスで懐にまで接近、代用コアを担うヤクト・ドーガの胸部装甲に右の掌で接触し、波紋状のサイコ・フィールドをネオ・ジオングの隅々に伝搬させた[73]。するとネオ・ジオングの巨躯は身悶えするような挙動を起こし、背後のサイコシャードが自壊し始めた。それらの破片はフェネクスに隷属するように背中に集積し、全長100メートルを超える巨大な虹色に輝く翼を形成、その翼にネオ・ジオングが全体を優しく包み込まれると、フロンタルの虚無は退散しネオ・ジオングはヤクト・ドーガと共に浄化されるように内側から瓦解し灰塵となった[73]。
IIネオ・ジオング II NEO ZEONG | |
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型式番号 | NZ-999 |
全高 | 116.0m |
本体重量 | 151.5[74] |
全備重量 | 328.6t[74] |
装甲材質 | ガンダリウム合金 |
出力 | 35,660kw〜計測不能 |
推力 | 28,827,500kg〜計測不能 |
センサー 有効半径 | 23,600m〜計測不能[74] |
武装 | 有線式大型ファンネル・ビット×30 肩部大型メガ粒子砲×6 腰部Iフィールド・ジェネレーター×4 大口径ハイメガ粒子砲×1 サイコシャード発生器×8 ロケット・バズーカ×2 60mmバルカン砲×2 ビーム・サーベル×2 シールド×1 ビーム・ライフル×2 大型ビーム・アックス×2 グレネード・ランチャー×1[注釈 7] |
搭乗者 | ゾルタン・アッカネン |
宇宙世紀0097年を舞台とする劇場アニメ『機動戦士ガンダムNT』に登場。機体名称の読みは「セカンド ネオ・ジオング[75]」。スペックの数値は、重量およびセンサー有効半径を除きネオ・ジオングと変わらない[74]。
「袖付き」の首魁フル・フロンタルが設計し、地球連邦に接収されていた試作機で、ルオ商会のミシェル・ルオとジオン共和国のモナハン・バハロの裏取引により、ジオン共和国へと横流しされた[29]。機体はネオ・ジオングの予備パーツより組み上げられている。本作では小説『不死鳥狩り』での描写を踏まえ、コア・ユニットはサイコミュ搭載機であれば必ずしもシナンジュである必要はないと設定されており[43][注釈 8]、劇中ではジオン共和国軍のゾルタン・アッカネン大尉が搭乗するシナンジュ・スタインのほか、『NT』の主人公であるヨナ・バシュタが搭乗するナラティブガンダムをコア・ユニットとして合体する場面もある。ウェポンベイの前面ハッチはオミットされ、新たに赤い塗装の施されたフレームが肩部ウェポンベイ正面に追加されている。また、マニピュレーターのみに組み込まれていた有線式誘導機能が腕部にも追加されている[76]。
大森倖三による『NT』の漫画版劇中におけるゾルタンの主張によれば、IIネオ・ジオングはネオ・ジオングの不完全なコピーではなく「本当の姿」とされる[77]。
武装・装備は基本的にネオ・ジオングと同一であるが、劇中では両腕部の各5本の指先(ファンネル・ビット)から長大なビーム刃を発生させており、小説版によれば「新たな装備」であるビーム・ソードとされる[78]。
『NT』の監督である吉沢俊一によれば、肩部にアクセントとして追加された赤い塗装は、歌舞伎の隈取や、生物的な血管をイメージした装飾とされる[79]。また『UC』のネオ・ジオングが「不動の山」というイメージで描かれ[79]、どっしりと居座って動かない演出がされていたのに対し、IIネオ・ジオングは『機動戦士ガンダム』でのジオングの活躍を踏襲し、大胆に飛び回り暴れ回るという方向性で演出したと述べている[79]。
ゾルタンが指揮する部隊の母艦「グルトップ」に搭載されるが、大型であるため艦底前部に追加されたケージに積載される。
新サイド6のコロニー「メーティス」での戦闘において、ゾルタンが本機の使用を要請したため、グルトップがコロニーに接近。しかし、NT-Dを発動したナラティブガンダム B装備に搭乗するヨナ・バシュタの叫びに呼応するように無人で起動。ケージを破壊し、コロニーの外壁に穴を開けて内部に侵入、ゾルタンのシナンジュ・スタインではなくナラティブガンダムを引き寄せ合体する。ヨナの怒りに任せて指先の砲門からビームを発射しようとし、コロニーが吹き飛ばされそうになるが、ユニコーンガンダム3号機 フェネクスの導きによって合体は解除され、未遂に終わる。制御システムの復旧した本機は、シナンジュ・スタインに先導されてグルトップへ帰投する。
その後、紆余曲折を経て「ゼネラル・レビル」を旗艦とする連邦軍艦隊を迎え撃つため、ゾルタンはシナンジュ・スタインと本機を合体させ出撃。新サイド6のヘリウム3備蓄基地近傍でジェガンやリゼルを多数撃破する。さらに、サイコシャードを形成し、サイコ・フィールドによって巨大なヘリウム3のガスタンクを包み込んで連邦軍艦隊に向けて押し出し、ヘリウム3を核融合反応臨界状態にして、更には核融合爆発を引き起こし、艦隊を壊滅させている。
生き残った数機のジェガンが、現れたフェネクスに導かれて抵抗を試みるも、IIネオ・ジオングはサイコミュ・ジャックによって彼らのコントロールを奪い、逆にフェネクスを追い詰める“生きた盾”とする。
攻防の末、フェネクスへとファンネル・ビットのケーブルを絡みつかせて捕らえた瞬間、ヨナのナラティブガンダム C装備が助けに入り、フェネクスとサイコフレームを共振させた同機の腕から放出されるサイコ・フィールドによって、本機のアーム・ユニット2基が分解される。激昂するゾルタンはふたたびサイコシャードの力によって、1基の貯蔵タンクを核融合反応爆発させ、フェネクスとナラティブ二機のガンダムを追い詰めている。
ダメージを受けたフェネクスをふたたびファンネル・ビットで捕らえ、基地のすべてのタンクを核融合爆発させるために必要なエネルギーを吸収しつつ、ナラティブガンダムには次いで参戦してきたイアゴ・ハーカナのジェスタをサイコミュ・ジャックして撃墜せんとする。そんな中、またもや新たに介入してきたミシェル・ルオらの乗るベースジャバーの捨て身の特攻により、ケーブルを切断され再度苛立つゾルタン。怒りのビーム・ソードによって、ミシェルの命がナラティブガンダムの周囲に展開したサイコ・フィールド・バリアーを叩き割り、撃破するも、ヨナ・バシュタにはコア・ファイターで脱出され、フェネクスに搭乗されてしまう。
青い燐光を振り撒くデストロイモードに“変身”したフェネクスの、サイコ・フィールドの影響で100メートル以上[80]にも膨張・強化されたビーム・トンファーによって残りのアーム・ユニットを切り落とされ、次の瞬間にはサイコシャードすらも真っ二つにされてしまう。ゾルタンは全武装を失ったハルユニットを捨てて、ビーム・ナギナタを手にしたシナンジュ・スタインで特攻をかけるも、フェネクスには通じず、カウンターで突き込まれたビーム・トンファーのメガ粒子の中へと消えていく。
しかしサイコシャードも、機体も、肉体さえも失ってなおゾルタンの憎悪は、基地に残る多数のタンクを臨界状態にまで持ち込むが、フェネクスから発する巨大な翼のような虹色の光が周辺宙域を包み込むんだことで、反応臨界は基底状態へと鎮まり、残っていたハルユニットの残骸も溶けるように消えていくのだった。
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