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国際共同開発の戦闘機 ウィキペディアから
ユーロファイター タイフーン(Eurofighter Typhoon)は、NATO加盟国のうちイギリス、ドイツ(計画開始当時は西ドイツ)、イタリア、スペインのヨーロッパ4か国が共同開発した戦闘機。デルタ翼とコックピット前方にカナード(前翼)を備え、カナードデルタ(canard-delta)と呼ばれる形式の機体構成をもつマルチロール機である。
1970年代、アメリカ合衆国やヨーロッパの各国空軍には、冷戦で対峙するソ連空軍やソ連防空軍の新型戦闘機の登場に際し、自国の戦闘機が陳腐化し始めたという認識が生まれた。1977年までにフランスはSEPECAT ジャギュアの代替、西ドイツ(当時)はF-104の代替、イギリスはジャギュアとホーカー・シドレー ハリアーの代替を検討していた[2][3]。
イギリス空軍はジャギュアやハリアーより多くの搭載量を持ち、低コストで空対空戦闘能力に秀で、かつ、ハリアーのように短距離で離陸が可能な戦闘機を望み、AST(Air Staff Target)396計画を発動した。しかし、一機種の戦闘機にあまりに多くの性能を要求しすぎていると分析されたため、計画は見直された。1972年に空対空戦闘能力に絞った戦闘機として仕様書AST 403を発行し、ブリティッシュ・エアロスペースでP.106Bが設計された。西ドイツのメッサーシュミット・ベルコウ・ブロームは西ドイツ空軍(当時)から出されたTKF-90(Taktisches Kampfflugzeug 1990、戦術戦闘機1990)計画の条件に合う制空戦闘機の開発を行っていた[2]。
それぞれ独自の開発が進んでいた状況であったが、1979年にイギリスと西ドイツの間で共同開発の協定が結ばれた。引き続きイギリス側はブリティッシュ・エアロスペース、ドイツ側はメッサーシュミット・ベルコウ・ブロームが設計を担当した。この計画は当初ECF(European Collaborative Fighter)と名付けられ、後にECA(European Combat Aircraft)とプログラム名は変更された[4]。両国とも冷戦の軍事支出による予算の制約があったことから、他国の参加が求められ、フランスとの協議によりダッソーを基幹に参加が決まった[2]。
フランスは開発費用の拠出に消極的であったことが1980年の政府間協議において問題化した。西ドイツのTKF-90やイギリスのP.106Bは1981年までに開発が中止された。ブリティッシュ・エアロスペースは独自に輸出向けとしてP.106Bを基にP.110を設計したが、顧客は現れなかった。しかし、TKF-90とP.110のコンセプトを取り入れたパナヴィア トーネードのモックアップが1982年にファーンボロー国際航空ショーにおいて公開された。その後、フランスが後のダッソー ラファールとなるACX(Avion de Combat Expérimental)の開発を開始したため、イギリスはEAP(Experimental Aircraft Program)の開発を開始し、EAPの開発費援助を受けるため1983年5月にイタリアのアエリタリアと契約した[2]。
1983年にイギリス、フランス、西ドイツ、イタリアに加えてスペインの5か国でEAPを基にした設計に合意がなされ、詳細の協議が始まった。しかし、イギリスとスペインがマルチロール機を希望していたのに対し、西ドイツとイタリアは制空戦闘機を希望していた。これらの設計にはSTOL性能や視程外射程(BVR)戦闘能力も含まれ、F/EFA(Future European Fighter Aircraft)と称した。1985年8月の会議で議論は行き詰まり、F/EFAとは別にイギリス、ドイツ、イタリアの3か国で新たなEFA(European Fighter Aircraft)プログラムが立ち上げられた[4]。
1986年6月にスペインがEFAへ参加し、イギリスと西ドイツにそれぞれ33%、イタリア21%、スペイン13%の作業分担が合意された[4]。生産は1992年開始を目指した。計画は1987年9月に正式な仕様が発行された。フランスはF-8E(クルセイダー)の後継となる艦載機としても運用したい思惑から小型で軽量な機体を望み、多用途性を重視した他国との間で空虚重量をどうするか(9,500kg以上か否か)の溝が埋まらず、またパワープラントに自国産のスネクマ M88を採用することを最後まで妥協せず、1985年8月15日に共同開発計画から脱退した[2][3][注 1]。
1986年に計画を管理するユーロファイター社とパワープラントのEJ200の開発を管理するユーロジェット・ターボ社が設立され、EAPの成果を認めたユーロファイター社は1987年以降の試験に資金を提供する事を決定した。運用開始時期は当初計画の1990年代前半から1997年に延びたものの開発はこのまま順調に進むと思われた。
ベルリンの壁崩壊に続くドイツ再統一で、東ドイツ地域のインフラ整備に多額の資金が必要となったことにより、1992年にドイツが開発コスト問題から計画の脱退を示唆。この動きに対し、複数の代替案が検討されたが、代替案の全てが今まで以上のコストがかかるか、仮想敵機であるソ連/ロシア製のMiG-29やSu-27に能力面で劣るものばかりであった。同年年末に開発参加国の国防相会議が開催され従来の計画を維持することを確認した。方針維持の要因として、これまでに投入された資金が無駄になること、外国製戦闘機の導入を行っても大幅なコストの削減ができないこと、参加国の航空機産業からの圧力があった。
計画の推進が確認された後に、政治的な理由から想定運用開始時期を遅らせ2000年からの運用としたため、機体名称の変更が行われた。名称はEFAからEF(Eurofighter)-2000に変更され、1998年9月には輸出市場向けの機体の愛称をタイフーン(Typhoon)とすることが決まった。
ただし、第二次世界大戦において対ドイツ戦に活躍したイギリス空軍の戦闘爆撃機「ホーカー タイフーン」を想起させることから、特にドイツでこの名称に抵抗があり、計画参加4か国でタイフーンを正式名称としているのはイギリスのみである[5]。他国では単にユーロファイターと呼ばれている。なおBAEシステムズの日本語公式ウェブサイトでは、ユーロファイター・タイフーンと表記されている。
イタリアとドイツの単座型と複座型は機体ごとのナンバーで識別している。2002年夏から量産が開始された。アフターバーナーなしで超音速飛行を可能としており、機体構成などが他の4.5世代型のヨーロッパ製戦闘機と共通する点が多い。
『ロンドン・イブニング・スタンダード』2004年5月24日付に飛行制限問題が掲載され、コンピューターおよびディスプレイの問題で悪天候時の高機動運動が危険であると報じられた。
2008年8月20日付イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』は、「イギリス国防省が発注したユーロファイターの一部が財政難で購入が難しい、しかしキャンセルすると膨大な違約金が発生するため、日本を始め、サウジアラビア、インドなど数ヶ国に購入を打診している」と報じた。しかし、BAEシステムズは2008年国際航空宇宙展で「(日本とは)ライセンス生産を前提とした提案活動を行っており、同紙の報道は誤りである」と強調した。また、この時、ブラックボックスも設けないことを明らかにしていた。さらに会場で配られた資料によれば、三菱重工業・三菱電機・IHIとの間でライセンス生産に向けた話し合いが行われていると明記されていた。
2011年10月10日付の『産経新聞』において、技術開示や、日本国内でのライセンス生産の容認、日本国産兵装の搭載が可能であるなど、日本に最も好条件であり、防衛産業維持、リスク分散の面からもユーロファイターを選定するべきという趣旨の記事が掲載された。
2014年10月1日、ドイツ国防省が後部胴体に欠陥が見つかったため、納入の見合わせおよび同型機の年間飛行時間を現行の3,000時間から1,500時間に減らす決定をしたことが報じられた[6]。この欠陥は、リベットの穴の位置が基準にあっておらず研磨も不十分というものだった。
クロースカップルド・デルタ翼はデジタル・コンピュータに常時制御されていて、操縦者の命令に従い安全な飛行姿勢が維持できる範囲内で最適化され、超音速飛行時だけでなく低速時でも安定性が確保される。ただし、カナード翼はコクピット前方下面に設けられているため、パイロットの下方視界を著しく妨げる。よって地上では下方視界確保のため前傾状態にすることが多い。一般にライバルとされている、ラファールやグリペンのカナード翼がコックピット後方に設けられている点で、対照的である。このため空力学的には通常の無尾翼デルタ翼と変わらず、最大仰角はF-16以下に留まっている。
操縦者は耐Gスーツと加圧呼吸装置で長時間9Gに耐えられる。これにより急激な速度変化や旋回が可能となった。人体と機体が耐えられる限界は9Gである。なお、従来機ではこの荷重に数秒しか耐えられない。
装備するユーロジェット EJ200は小型で大出力、高推力重量比、低燃費といった特色を併せ持っており、F-22と同様に、アフターバーナーを使用しなくても超音速飛行が可能でありスーパークルーズ性能を備える。空虚重量でマッハ1.5、全備重量でマッハ1.3を発揮できる。
トランシェ1・2が搭載するレーダーのCAPTOR(キャプター)は、ユーロレーダー社製の多モードパルス・ドップラー・レーダー(メカニカルスキャン方式)[7]。アンテナ直径約70cm[7]。チャンネル数:3チャンネル[8]。戦闘機レベルの大きさの目標については約160km、大型目標では約320kmの探知能力があり、同時に20個の目標の追跡ができるという[9][10]。
トランシェ3では、フロントエンドを改良したアクティブフェーズドアレイレーダー方式のキャプターEが搭載される予定であるが、導入国間に意見の相違がある為、当初計画の約45%に当るトランシェ3Aにおける搭載は見送られる見通し[11]。デモンストレーション用のキャプターEは2007年5月より飛行試験を開始しており、探索距離など、巡航ミサイルのような小型目標やステルス性のある目標を探知する能力に資する性能向上を目指すといわれる[8]。しかし、開発用レーダーの飛行試験は予定より2年遅れた2016年7月に開始され実用化は遅れており[12]、量産品はクウェート向けの機体から本格的に装備が始まる予定。
防御支援サブシステム(DASS; Defensive Aids Subsystem)は以下の各機器により構成される[13]。
各種システムを統合化する防御支援コンピュータ(DAC)は、機体の全周をカバーする各センサーにより探知した脅威の内容を判断し、自動的に最も適切な方法で対処するようになっている[13]。
タイフーンの自己防御システムは、キャノピー下の両側と主翼後縁付け根のレーザー警戒装置、主翼前縁付け根と垂直安定板内のミサイル接近警報装置、主翼両端の筒の中にECM装置とESM装置を備え、イギリス向けの機体は右側筒の標準のECM装置を外して曳航式デコイ2基を内蔵するECM装置に変更している。
PIRATE(IRST)は、探知走査中にも追跡機能を持つ。さらに空中と地表上の両目標への対処能力を有し、航法用にも前方監視赤外線画像を利用でき[13]、情報は操縦席のヘッドアップディスプレイや多機能表示装置、ヘルメット装着式表示装置などの、いずれにも表示させる事ができる[14]。ユーロファーストが開発したこの装置は、戦闘機サイズの目標が発する赤外線を145kmの距離で探知でき、複数目標の同時処理も可能[15]。
ドイツは機体の価格を引き下げるためにこの装備を搭載しておらず、ドイツが組み立てを行ったオーストリア空軍機にも搭載されていない[16]。
ユーロファイター タイフーンは、多機能情報伝達システム(MIDS)のMIDS-LVT(1)端末を搭載しており、北大西洋条約機構(NATO)の新しい標準的戦術データ・リンクであるリンク 16(TADIL J)のネットワークに参加することができる。リンク 16は、海軍用のリンク 11と空軍用のリンク 4を統合する新しい規格であり、航空自衛隊やアメリカ軍の作戦機、早期警戒管制機、地上レーダーサイトに加えて、イージス艦や航空母艦やパトリオット地対空ミサイル部隊など他軍種の部隊との情報共有をも実現するもので、その情報を元に効率的な統合作戦行動を可能とする[9][17]。データリンク情報はコックピット内にある3基のMFD(多機能ディスプレイ)に表示される[9]。
一部のメディアではタイフーンがヨーロッパ製であるため、アメリカ軍との共同作戦が難しいといった報道があるが、アメリカ軍との連携に問題は発生していない[9]。
VTASとは、HOTASの概念が導入された、各種スイッチ類が付いたスロットルレバーと操縦桿、そして直接音声入力(DVI)によって構成され、パイロットの作業効率を上げるための装置である[13]。
DVIは音声で以下のシステムの操作を行える[13][18]。
DVIは1970年代から研究されていたが、機械による人間の音声の識別が難しいことや個人の発音の癖などを解決することができず、実用化に至らなかった。ユーロファイターでは音声で操作できる機能を限定し、予め録音した操縦者の音声を操作に割り当てることで、原語や発音の癖を問わず、このシステムを実現した初の戦闘機となった[18]。
JHMCSに該当するもので、ヘルメット自体に多くのセンサーが付けられ、パイロットは機体の各種センサー、電子機器類が取得した情報を融合してラスタースキャン型バイザーに投影して見ることが可能で[19]、オフボアサイト照準能力の他、夜間飛行の際にPIRATEの映像を映し出せる。両脇には夜間飛行用の暗視スコープを搭載可能。炭素繊維複合材が使用されており重量が2kg以下と軽く、パイロットへの負担が少ない。2010年7月より、各国空軍に納入され始めた[14]。「ストライカー」の別名でも呼ばれる。
2014年7月18日、ストライカーIIが公開された。ストライカー IIは完全にデジタル化されており、光学・慣性技術によって優れたトラッキング機能を持つ。ヘルメットには暗視装置(解像度1600x1200、フレームレート60Hz)が内蔵されており別途装着していた暗視スコープを不要とすることでパイロットの首への負担を軽減し快適性を高めている。映像の調整は自動化されて日光の変化にシームレスに対応できるようになったほか、デジタルズーム機能などが新たに追加された[20][21]。ストライカーIIには開発が中止されたF-35の代替ヘルメットの技術が生かされているとされている[22]。
BAEシステムズ社のマーケティング資料では、本機がアメリカ製の最新戦闘機F-22には空戦能力の点では劣ると認めた上で、F-22とF-35の両機それぞれの得意分野である空中戦闘能力と対地攻撃能力の両方を1機種でカバーできる、フォース・ミックスの観点でも優れた戦闘機として各国軍への宣伝を行なっている。また、タイフーンは、対空対地両方の装備をした上で作戦中に、敵航空戦力の迎撃を受けた場合でもその状態のまま反撃を行うことが可能としている。これは、航空作戦時に敵の航空機による攻撃を受けた場合には、爆装を放棄し自機の迎撃を行うしかない既存機よりも大きなメリットであるとしている。一般的なマルチロール機では、出撃してから任務が変更されると、兵器の換装のため帰投する必要が多いが、この機体ではその必要がない。ユーロファイター社は、このような多用途性と作戦能力を発展させた運用を「スウィング・ロール能力」と称している[23][24]。
低翼機であるが、双発機ながら空気取込口が胴体直下にあることもあって、主翼下のグランドクリアランスが広い。翼端を除いて13ものハードポイントがあり、大推力に裏打ちされた7.5トンの兵装搭載容量を持つため、攻撃機としての能力が高い。一方で、スイス空軍による評価試験では対地攻撃能力はラファールに及ばないと評価されている[25]。
トランシェ1ブロック5からはPIRATE(受動式赤外線探知装置)を装備し、胴体下にイスラエルのラファエル社製、ライトニングIII目標指示ポッドを搭載できる。
また、空対空ミサイルを6発装備した状態で超音速巡航飛行が可能[7]とされ、空対空装備時にマッハ0.9からマッハ1.5へアフターバーナーを使用し加速する場合、所要時間はF-35の2/3で済み、マッハ1.5における維持旋回率はF-35の二倍とされる[9]。空対空装備時における推力重量比は1.13[9]。
イングランド北西部において2005年に行われた共同訓練中に、タイフーン複座機に2機のF-15Eが襲いかかったものの、ドッグファイトでタイフーンに撃退されたという説がある[9]。
イギリス防衛評価研究所(DERA)の試算をもとに、改良型Su-27(Su-27M相当)と撃墜対被撃墜比率を比較するとタイフーンは3から4.5対1の割合で有利である[26]。
前方からのRCS低減のみを配慮したと言われる機体は、電波吸収材の多用により、トーネードに比べレーダー反射断面積(RCS)が4分の1以下に減少した[7]。BAESの評価では正面からのRCSの値は最新型F/A-18E/Fやラファールよりも小さく、ステルス機に次ぐという評価もある[27]。最近の報道では機体のRCSは一般的な中小型戦闘機の20%、もしくはそれを下回る数値である1m2以下だと推定されている[9]。また、2010年時点の情報によれば、0.05-0.1m2とも言われている[28]。
イギリス空軍のユーロファイター タイフーンFGR4は、2008年5-6月にアメリカ合衆国ネバダ州ネリス空軍基地で行われた共同演習「グリーンフラッグウエスト」に参加し、アメリカ空軍やアメリカ陸軍地上部隊との共同作戦をこなしていることから、BAEシステムズ社は、タイフーンのアメリカ軍兵器システムとの相互運用性について問題はないとしている[7]。
また、2011年2月2日には、駐日英国大使館におけるユーロファイター説明会において、デイビッド・ウォレン駐日英国大使は、「ユーロファイターはアメリカ軍との定期的な合同演習で完全な相互運用性が実証されている」と述べ、同機がアメリカ軍との相互運用性で問題が無いことをイギリス政府として公式に認めている[29]。
小型の機体に出力の大きなエンジンを備え、高速での格闘戦闘でも有利な性能を備える[7]。制空仕様の場合には中/長距離空対空ミサイルを6発、短距離空対空ミサイルを2発、外部燃料タンク3つを同時に搭載できる[7]。
トランシェ1ブロック5よりレーザー誘導爆弾の運用能力が付加され、トランシェ2ブロック15から巡航ミサイルや対装甲ミサイル、超音速で爆撃可能な各種航空爆弾の運用を可能にする計画がある[13]。
BAEシステムズが日本への売り込みを図った際、空対艦ミサイルを最大6発搭載できるだけでなく、外部燃料タンクと各種ミサイルを同時に積載できる為、遠距離の海上脅威に対する任務遂行中に航空脅威に遭遇しても対応可能であるなど、日本が重点を置く対艦任務の性能を強調していた[30]。
開発国向けの量産機数合計620機は3段階に分けて生産され、各段階に向けたスパイラル方式での近代化が行なわれる。それぞれの段階はトランシェ(Tranche:フランス語で"区分"の意)と呼ばれ、1から3までの各トランシェ内でもその初期型から後期型までの仕様の違いに応じてブロック数で表される。トランシェは発注段階の区分であり、仕様の違いではない[7]。
従ってトランシェ数のみによって機体の能力を決め付けるのは必ずしも妥当ではない。また、ブロックについても改修をすることにより、その後のブロックと同等の能力を得ることが可能で、例としてイギリス空軍が取得したトランシェ1 ブロック2/2Bは、その後の改修により、ブロック5と同様の能力を付与され攻撃、偵察も可能な多目的機となっている[7]。
2005年3月までの総生産機数148機。
2005年12月17日に開発参加4か国合計で236機の導入契約を締結。これに加えトランシェ1でオーストリアの分を各国で計15機調達が減った分トランシェ2が15機増産される。また、イギリスは自国の調達分のうち24機をサウジアラビア空軍に譲っている。
対地攻撃能力を完全実装したタイプで、開発参加4か国合計で236機を調達する予定であった。2009年7月の会議において、3Aと3Bの二種に分けて調達することが決定した[9]。この決定と同時に合計112機のトランシェ3Aの調達を確定させたが、残りの3Bのオーダーについては各国における防衛費削減を原因として不確定さが増している。イギリスは3Bの調達を予定しておらず[32]、さらに、調達を急いでいたサウジアラビアへ自国のトランシェ2の調達枠24機分を譲り、その代替として既に注文を確定させたトランシェ3A 40機のうち24機をあてるとしている[33]。
ユーロファイター2020とは、『ユーロファイター・ワールド』2011年2月号で掲載されたコンセプトであり次のような改良が盛り込まれている[35]。
ドイツ空軍がトランシェ1の代替機として調達するモデル。トランシェ3Aをベースにアップデートを行ったものとされる。2020年11月11日単座30機、複座8機で計38機の調達契約を締結した[36]。
配備後に施されたアップグレードには、以下のようなものがある[37]。
ドイツ空軍がトーネードECRの後継機として配備予定の電子戦機型。EKは、「Elektronischer Kampala」の意味[39]。2023年11月29日にドイツ連邦議会でエアバスによるユーロファイター15機の改造が承認され[40]、エアバスからは11月30日に開発が発表された[41]。
アメリカのノースロップ・グラマン製AGM-88E AARGM対レーダーミサイル、スウェーデンのSAAB製Arexis電子戦システムを装備し、2030年までにトーネードECRに代わって敵防空網制圧(SEAD)任務を担う[39][40]。
タイフーンの競合はF-35、F/A-18E/F、Su-27などの高価格な高性能機であるが、F-16、ミラージュ2000、ラファール、グリペンなどのローコストの軽量戦闘機とも比較されている。価格は、F-16よりは高く、F/A-18E/FやF-15Eよりは安い価格が示されているとされるが[7]、情報は少ない。2005年にサウジアラビアが当時のレートで約1兆2,000億円で約72機(諸説あり)購入したことから、当時の価格は1機100億円以上であったと憶測されている。インドMMRCA商戦においてのラファールのライセンス生産提案価格が約189億にあたり、タイフーンはその22%増と発表されているために一機約230億で提案されていたものと思われる。また2015年のクウェート販売価格は、一機あたり3億2,100万ドル(約350億円)となっている。
ハードウェアが旧型のため、トランシェ2以降へのアップグレードが難しく余剰となったトランシェ1仕様機を再整備することで、ローコスト機を利用する国にも積極的に提案されている。
イギリス(イギリス空軍)
出典: エンジン、推力重量比以外は後述の一部を除き全て『軍事研究』[7]を単位変更。
但し、近似値の正確な数値、空虚重量、ヤード・ポンド法単位の数値はDOPPELADLER.COM[92]、Air Force Technology[93]による。
諸元
性能
現在3機が退役の上展示されている。
型名 | 番号 | 機体写真 | 国名 | 所有者 | 公開状況 | 保存状態 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
S タイフーン DA-1 | 98-29 (ドイツ空軍) | ドイツ | ドイツ博物館(シュライスハイム航空館) | 公開 | 静態展示 | ||
T タイフーン DA-2 | ZH588 (イギリス空軍) | イギリス | イギリス空軍博物館ロンドン館 | 公開 | 静態展示 | ||
T タイフーン DA-4 | ZH590 (イギリス空軍) | イギリス | ダックスフォード帝国戦争博物館 | 公開 | 静態展示 |
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