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市町村防災行政無線(しちょうそんぼうさいぎょうせいむせん)は、日本の行政など(主に地方行政)における防災無線の一種。日本国内の市町村および区が、防災行政のために設置・運用するものである。
防災情報を住民に周知することを目的に設置されるシステム。住民に同報を行う放送(同報無線)として整備されるものであり、有線放送電話の放送業務を発展解消したものである。屋外拡声器・戸別受信機を用いて、住民に対して防災情報を一斉放送する。自治体によっては、ケーブルテレビ・コミュニティFMでも放送している[1][2]。広報車を巡回させ拡声アナウンスをする必要がなくなるので導入が相次いだ。
周波数帯は60MHz帯が多く使われており、デジタル方式への移行用として2011年には同じ60MHz帯の中で追加割当てが実施された。ほかにも、MCA無線[3][4][5]・V-Lowマルチメディア放送(i-dio)[6]・ポケットベル波[7]を利用したものや、コミュニティFMの緊急割り込み放送をそのまま流すもの[8]もある。
全国で8割弱の市町村に設置されており[9][10]、特に過去に津波・水害などの大災害のあった地域や東海地震警戒地域、防災関連の補助制度が手厚い原子力関連施設近辺の自治体では整備率が高い。
いずれの方式も、音声帯域は50Hz∼7kHz。
方式 | チャンネル間隔 | アクセス方式 | 送信方式 | 伝送速度 | 音声コーデック | 前方誤り訂正 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
16QAM | 16kHz | TDD(TDM/TDMA) 6チャンネル | 単信・複信・半複信・同報 | 46kbps | S方式[12][13] | 畳み込み符号(符号化率 約1/2) | 高機能でやや高価だが、拡声品質はアナログ方式よりも良い。 |
QPSK Wide | 16kHz | SCPC 1チャンネル | 単信・同報 | 22.5kbps | AMR-WB+ (10kbps) | ターボ符号(符号化率 5/8) | 16QAMよりも安価で、拡声品質はアナログ方式よりも良い |
4値FSK Wide | 16kHz | 9.6kbps | AMR-WB+ (6kbps) | ターボ符号(符号化率 3/4) | 16QAMよりも安価で、拡声品質はアナログ方式と同等 | ||
QPSK | 7.5kHz | 11.25kbps | ターボ符号(符号化率 5/8) |
無線局免許状には無線局の目的として「防災行政事務に関する事項」と記載されているため、放送内容は防災・防犯[14]・行政事務・試験放送に限られる。
放送は「こちらは広報(市町村名)です」や「役場(◯◯課)からお知らせします。」や「こちらは防災(市町村名)です」から始まることが多い。火災の場合はそのときの消防署員や役場職員の判断・自治体にもよるが、「只今、○○地区で□□火災が発生しました。」(最初にサイレン吹鳴や火災発生という文言を入れることもある)が一般的である。さらに、目標物からの方角と距離を放送したり、消防団の出動についての指示(「◯◯分団は直ちに出動してください」など)を行う場合もある。「防災(市町村名)」とアナウンスしたり、役場名から始まる地域もある[注釈 5]。遠方にある屋外スピーカーからの声が重なって聞き取りにくくなるのを防ぐため、語間を大きく空けてゆっくり話すのが特徴であり、機械音声の場合もある。複数のエリアに分割し、放送区域を時間差で切り替える手法もある(時差放送)。一部の市町村では放送内容を、コミュニティFMやケーブルテレビの自主放送(コミュニティ)チャンネルに提供することもある[注釈 6]。
アナログ方式やコミュニティFMでは放送開始前・終了後に、受信機器を操作するための信号が流れるなど、対策が練られている。
移動系防災行政無線は、防災情報の収集や、他の通信手段が途絶した場合に防災担当者間の情報伝達手段を確保する目的で設置されるシステムである。役場などに設置される基地局、山の上等に設置する中継局、移動局(簡単に持ち出しできる携帯型以外に、より大出力の可搬型(半固定型)や自動車搭載の車載型や車から取り外し可能な車携帯型もある)があり、移動局相互間の直接交信も可能である[1][2]。
平時・災害時を通じて、加入電話や携帯電話が使用できない場面で活用できるよう、数多くの市町村で整備されている。災害発生時には防災関係業務に優先して使用されるが、通常時でも役場・出先機関・現場との事務連絡に活用している自治体もある。
周波数帯はアナログ方式では150MHz帯・400MHz帯を使用している。同報系と同じく規制緩和でMCA無線を使用している地方自治体もあるが、2011年の電波法改正により、150MHz帯と400MHz帯を使用している防災無線局は、デジタル化と260MHz帯への周波数変更が進められている。
災害時には救援活動の連絡手段としてスムーズな運用が出来るよう、相互協定を結んでいる自治体もある。ちなみに被災地では、各自治体専用の周波数ではなく、「全国共通波」という、地方公共団体全てに統一で割り当てられている周波数を使用する。
2種類がある[10]。
テレメーター系防災行政無線は、降水量・河川水位・地すべりなどの無人観測所と制御局とを結び、データを収集するものである。周波数帯は70MHz帯・400MHz帯を使用している[2]。同報系防災行政無線のアンサーバック機能を利用して、データを収集するシステムを構築している自治体もある。
市町村合併に伴い、システムの統合が進められているが、問題も生じている。設備の老朽化による更新や、デジタル方式へ移行により改善も見られる。
2003年4月に、総務省において「市町村デジタル同報通信システム推奨規格」(総務省推奨規格)が策定され、同年7月には「市町村デジタル同報通信システム」の標準規格が策定された。
利点
欠点
防災無線は限られた数のスピーカーで全世帯に、かつ屋内にいる人間にも強制的に聞かせるという考えのシステムである性質上、本質的に騒音問題を抱えている。特に防災無線スピーカー設置場所の近隣住民に取っては音量が過剰となり、住民から放送差し止めを求める訴訟も起こされている。ただし、いずれも市町村側の主張が認められ、原告の請求は退けられている。
災害情報にしても必要とする人と必要ないとする人がおり、両者から苦情が来るなど運用が難しいという[21]。
また、音波を使うために市区町村の境界に近い地区では隣接する自治体に聞こえてしまう。
特に緊急性の無い内容の放送を行い、騒音公害となっているケースもある。 鹿児島県阿久根市では、市長である竹原信一が在任中、自身のブログの記述で障害者団体から抗議を受けた際、防災行政無線を用いてマスコミ批判の放送を行った[22]。 感染症対策などでわかりきった内容のことを毎日放送され苦情が来る例もある[23]。
放送設備の点検を兼ねて行われている時報だが、音量が大きいことから苦情が自治体に寄せられることがある[18]。自治体への苦情が寄せられているが対応は役所によりまちまちである。一例では、愛知県飛島村では1日4回時報が鳴らされていたが、苦情を受け1日1回にした[24]。一方、青森県のおいらせ町では毎日朝6時、12時、18時に防災無線が放送され、市民から「眠れない」との苦情が来ているが、「多くの町民に根付いているため変更の予定はない」と回答している[25][26][27]。静岡県富士市では、午前7時にチャイムが鳴り「赤ん坊が起きる」「夜勤明けなのに眠れない」などの苦情が市に寄せられていた。2020年に行われた市の調査でも「なくても困らない」という意見が4割以上との結果出ており、午前7時のチャイムは廃止となった[28]。
一方で、農作業など屋外で作業をしている市民には帰宅の目安となっていることもあり、時報を止めない要望があることもある。千葉県富津市では、児童の見守りの告知に代わり、2022年6月末日で午後6時の時報を取りやめる予定だった。しかし時報を続けるよう市民からの要望があり、継続されることが決まった[18]。
屋内では放送が聞き取りづらく、また難聴の高齢者や聴覚障害者には伝わりにくい。大雨災害においても激しい雨音に放送音声がかき消され、情報が伝わらないケースが報告される[29]。埼玉県吉川市では、2015年9月10日に中川の氾濫に伴い避難情報を無線で呼びかけたが、内容が聞き取れなかったという電話が市役所に殺到した[21]。
宮城県名取市閖上地区は、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に伴う津波により大きな被害を出したが、名取市が設置した防災無線は故障して機能しなかった。家族が津波の犠牲になったのは、防災行政無線が故障していたためとして、2014年、犠牲者の遺族が名取市を仙台地方裁判所に提訴したが2018年に敗訴。遺族側は仙台高等裁判所に控訴したが、2020年3月11日、遺族と名取市との間で和解が成立した。和解内容は、市が遺憾の意を表明すること、検証結果の報告書を展示すること、賠償金は発生しないことなどであった[30]。
アナログのトーン方式を使用している場合、伝送使用周波数とキーとなる重畳音声周波数が割り出せれば、電波ジャックが可能であった。詳細は杉並区防災無線電波ジャック事件の項を参照。
アナログ方式の場合、春~夏にかけて発生するスポラディックE層(Eスポ)による電波の反射で、同じ周波数・システムを使用している遠方の防災無線が混信して放送され、混乱を招いた事例がある。
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