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『長いお別れ』(ながいおわかれ、原題:The Long Goodbye)は、1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。他の訳題には『ロング・グッドバイ』『長い別れ』(ながいわかれ)がある。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第6作。
長いお別れ The Long Goodbye | ||
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著者 | レイモンド・チャンドラー | |
発行日 |
1953年 1958年(初訳) | |
発行元 |
Houghton Mifflin Harcourt 早川書房 | |
ジャンル | ハードボイルド | |
国 | アメリカ合衆国 | |
ページ数 | 320 | |
前作 | かわいい女 | |
次作 | プレイバック | |
ウィキポータル 文学 | ||
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『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶチャンドラーの長編である。感傷的でクールな独特の文体、台詞、世界観に魅了されるファンは今でも多い。チャンドラーのハードボイルド小説は、長編短編問わず、ほとんどが探偵の一人称による語りだが、特に本作以降ハードボイルド小説というものはこの形式が模倣を超えて定番化したとさえ言え、この形式をとるハードボイルド小説の人気はいまだ衰えていない。「ギムレットには早すぎる」や「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官とさよならを言う方法はまだ発明されていない。」(いずれも清水俊二訳)などのセリフで知られる。
1973年にロバート・アルトマン監督により映画化され(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)、2014年に日本で『ロング・グッドバイ』のタイトルでテレビドラマ化された。
1949年の秋。私立探偵フィリップ・マーロウは、片面に傷を持つ男、テリー・レノックスという酔っぱらいと出会う。どこか品性のあるレノックスに惹かれるものを感じて友人となったマーロウは、毎晩バーを共にするようになる。1950年6月の深夜、レノックスはマーロウの自宅を訪れるとメキシコのティフアナに連れて行って欲しいと頼み込む。詳細は聞かず、言われた通りにメキシコに彼を送り届けたマーロウであったが、ロサンゼルスに戻ると待っていたのは、妻殺しの容疑でレノックスを捜している警官であった。マーロウは殺人の共犯者として逮捕され取り調べを受けるが、レノックスを庇って黙秘を通し、反抗的な態度も手伝って警察から手酷い扱いを受ける。しかし3日目、メキシコからレノックスが自殺した旨の情報が届き、マーロウは釈放される。彼が呆然として家に戻ると「ギムレットを飲んだら、僕のことはすべて忘れてくれ」と書かれたレノックスからの手紙が届いていた。
しばらくしてマーロウは、ある出版社から失踪した人気作家ロジャー・ウェイドの捜索を依頼される。依頼を受けるか迷うマーロウであったが、やがてウェイドはレノックスの隣人であったことを知る。さらに彼の妻アイリーンからも頼まれ、渋々引き受けたマーロウは、アルコール中毒のウェイドを発見し、連れ帰る。その後、見張り役としてウェイド邸に留まることとなったマーロウは、アイリーンから誘惑され、彼女が第二次世界大戦で10年前に亡くなった恋人のことを今も深く愛していることを知る。
マーロウはウェイドに対する仕事の傍らで、レノックスの件についても調査を続ける。彼の交友関係や来歴には不思議なことも多かったが、それ以上のものもなく打ち切りを検討し始める。そんな折、今度はウェイドの死体が発見される。マーロウは自殺とみるが、アイリーンはマーロウが殺したと激しく非難する。そして、レノックスの件でマーロウを脅迫してくるギャングのメネンデス、レノックスの岳父にあたる謎めいた大富豪ハーランなど、くせものが次々とマーロウの前に現れる。
その後、マーロウはレノックスの妻殺しにアイリーンが関わっていることに気づく。やがてマーロウは、レノックスの妻とウェイドを、アイリーンが殺害したという結論を出し、さらにアイリーンの亡き恋人こそレノックスであったと推定する。その推理を突きつけられたアイリーンは何も言わず去り、後日、罪を認める手紙を残して彼女が自殺したとマーロウは知る。
事件や謎はすべて解決したように見えたが、マーロウはなぜか釈然とせず、さらにメネンデスから暴行を受ける。最後にマーロウは、メキシコから来た男の訪問を受ける。男は、レノックスが死んだホテルにいたという。だが、マーロウはこの男こそが、整形して顔を変えたレノックスであると気づく。レノックスは前のように共に酒を飲もうと誘うが、マーロウは拒否し、別れの言葉をかける。
1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では13位に選ばれている(他のチャンドラー作品としては8位に「大いなる眠り」、21位「さらば愛しき女よ」)。日本ではハヤカワミステリーベスト100など、ほとんどのランキングで、チャンドラー作品としては1位を保ち傑作とする人が多い。
村上春樹は『カラマーゾフの兄弟』と『グレート・ギャツビー』と本作を、もっとも影響を受けた作品3作として挙げており、『羊をめぐる冒険』の物語も本作の影響をよく指摘される。長らく日本では清水俊二訳によるものが出版されていたが、2007年には村上春樹、2022年には田口俊樹、翌2023年には市川亮平による翻訳版も出版された。
同じ出版社から刊行されている清水俊二訳の『長いお別れ』と村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』は両方とも流通している。
出版年 | タイトル | 出版社 | 文庫名等 | 訳者 | 巻末 | ページ数 | ISBNコード | カバーデザイン | 備考 |
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1958年10月 | 長いお別れ | 早川書房 | 世界探偵小説全集 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)260 |
清水俊二 | 370 | ||||
1972年6月 | レイモンド・チャンドラー | 早川書房 | 世界ミステリ全集5 | 清水俊二 | 748 | 他に清水訳の 『さらば愛しき女よ』 『プレイバック』を収録 | |||
1976年 4月1日 |
長いお別れ | 早川書房 | ハヤカワ・ミステリ文庫HM 7-1 | 清水俊二 | 清水俊二 「あとがきに代えて」 | 545 | 978-4150704513 | カバーフォーマット:辰巳四郎、 カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン ほか |
電子書籍も刊 2012年 |
2007年 3月8日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | (ハードカバー単行本) | 村上春樹 | 訳者あとがき | 584 | 978-4152088000 | チップ・キッド | |
2009年 3月6日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | Raymond Chandler Collection (軽装版) |
村上春樹 | 訳者あとがき 準古典小説としての『ロング・グッドバイ』 |
711 | 978-4152090102 | 装画 浅野隆広、 カバーデザイン 坂川栄治+田中久子 (坂川事務所) |
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2010年 9月9日 |
ロング・グッドバイ | 早川書房 | ハヤカワ・ミステリ文庫HM 7-11 | 村上春樹 | 訳者あとがき 準古典小説としての『ロング・グッドバイ』 |
645 | 978-4150704612 | 坂川栄治+田中久子 (坂川事務所) |
電子書籍も刊 |
2022年 4月28日 |
長い別れ | 東京創元社 | 創元推理文庫M-チ-1-7 | 田口俊樹 | 訳者あとがき 解説 杉江松恋 |
599 | 978-4-488-13107-4 | カバー装画=Edward Hopper Nighthawks(部分) (C)Alamy/PPS通信社 カバーデザイン=岡本洋平(岡本デザイン室) |
電子書籍も刊 |
2023年 5月30日 |
ザ・ロング・グッドバイ | 小鳥遊書房 | (四六判) | 市川亮平 | 訳者あとがき | 460 | 978-4-867-80018-8 | 装幀 鳴田小夜子 (KOGUMA OFFICE) |
ロスアンジェルスの地図、 邸宅の見取り図等挿絵数点収録 |
ロング・グッドバイ | |
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The Long Goodbye | |
監督 | ロバート・アルトマン |
脚本 | リイ・ブラケット |
原作 |
レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』より |
製作 | ジェリー・ビック |
製作総指揮 | エリオット・カストナー |
出演者 | エリオット・グールド |
音楽 | ジョン・ウィリアムズ |
撮影 | ヴィルモス・スィグモンド |
編集 | ルー・ロンバード |
配給 | ユナイテッド・アーティスツ |
公開 |
1973年3月7日 1974年2月23日 |
上映時間 | 112分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
1973年に監督ロバート・アルトマン、主演エリオット・グールドにより映画化された。邦題は『ロング・グッドバイ』(原題は The Long Goodbye )。
内容は1970代風にアレンジされており、エリオット・グールドが演じる探偵フィリップ・マーロウが友人テリー・レノックスの謎の死をきっかけにある事件に巻き込まれていく。
役名 | 俳優 | 日本語吹替 |
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TBS版 | ||
フィリップ・マーロウ | エリオット・グールド | 森川公也 |
アイリーン・ウェイド | ニーナ・ヴァン・パラント | 小谷野美智子 |
ロジャー・ウェイド | スターリング・ヘイドン | 宮川洋一 |
マーティ・オーガスティン | マーク・ライデル | 青野武 |
ドクター・ヴェリンジャー | ヘンリー・ギブソン | 千葉耕市 |
ハリー | デヴィッド・アーキン | |
テリー・レノックス | ジム・バウトン | |
モーガン | ウォーレン・バーリンジャー | |
ルターニャ・スウィート | ルターニャ・アルダ | |
デイヴ(ソクラテス) | デビッド・キャラダイン | |
チンピラ | アーノルド・シュワルツェネッガー | |
不明 その他 | 日高晤郎 宮下勝 藩恵子 蟹江栄司 仲木隆司 峰恵研 広瀬正志 平林尚三 山岡葉子 葵京子 加川三起 峰あつ子 | |
演出 | 蕨南勝之 | |
翻訳 | 入江敦子 | |
効果 | 遠藤堯雄 桜井俊哉 | |
調整 | ||
制作 | 東北新社 | |
解説 | 荻昌弘 | |
初回放送 | 1978年11月13日 『月曜ロードショー』 |
※日本語吹替は2015年10月7日発売の『吹替の名盤』シリーズ 〈テレビ吹替音声収録〉HDリマスター版DVDに収録)
『ロング・グッドバイ』(英語表記:THE LONG GOODBYE)のタイトルでテレビドラマ化。2014年4月19日より5月17日まで土曜日21:00 - 21:58に、NHKの「土曜ドラマ」枠で放送された。全5話。主演は浅野忠信で、デビュー26年にして初の連続ドラマ主演となる[7][8]。キャッチコピーは「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。」。1950年代の東京を舞台に描かれる。
複数話・単話登場の場合は演者名の横の括弧()内に表記。
NHK 土曜ドラマ | ||
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前番組 | 番組名 | 次番組 |
足尾から来た女
(2014.1.18 - 2014.1.25) |
ロング・グッドバイ
(2014.4.19 - 2014.5.17) |
55歳からのハローライフ
(2014.6.14 - 2014.7.12) |
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