皇居三の丸尚蔵館
東京都千代田区の皇居東御苑内にある博物館 ウィキペディアから
東京都千代田区の皇居東御苑内にある博物館 ウィキペディアから
皇居三の丸尚蔵館(こうきょさんのまるしょうぞうかん、英: Museum of the Imperial Collections)は、東京都千代田区千代田の皇居東御苑内にある、国立文化財機構が所管する博物館施設。
昭和天皇崩御後の1989年(平成元年)6月に遺族の明仁と香淳皇后[3]から寄贈され国庫に帰属した美術品を保存、研究、公開するための施設として、1992年(平成4年)9月に宮内庁所管の博物館「三の丸尚蔵館」として皇居東御苑内に建設され、1993年(平成5年)11月3日に開館した[4]。開館以後も皇族からの寄贈により収蔵品が度々追加されており、現在の収蔵点数は9,800点[5]。
2019年(平成31年/令和元年)度から収蔵庫と展示室を拡張するために建て替え工事が始まり、2023年(令和5年)年10月に宮内庁から国立文化財機構に移管され、同機構を所管する文化庁が収蔵品の管理を行う体制に改められた。2023年11月3日に建て替えられた第I期棟が開館して施設の正式名称が「皇居三の丸尚蔵館」に改められ、2026年(令和8年)に旧館跡地に第II期棟が完成して全面的に再開館する予定である[6][7][8]。
日本の皇室は、京都御所で儀式の際に用いる屏風や刀剣、歴代天皇の宸筆などの古来代々継承されてきた伝来品のほか、近代以降は東京の皇居宮殿、御所で用いた調度品、華族、財界人、海外の賓客などから献納された美術品、院展などの展覧会で買い上げた美術品など、多くの美術品や文化財を所有していた。こうした皇室所有品は「御物(ぎょぶつ)」と称された。第二次世界大戦直後、かつての皇室財産は相当数が国有財産に移された。正倉院と正倉院宝物は宮内庁の正倉院事務所、京都御所、桂離宮、修学院離宮は宮内庁京都事務所の管理下におかれ、陵墓出土品や古文書・典籍などは宮内庁書陵部の管轄となった。これら以外の、第二次大戦後も天皇の私物にとどまった文化財は引き続き「御物」と呼ばれることになった。
1989年(昭和64年)1月7日、昭和天皇が崩御したことにともない、相続税の納税のため、遺産の範囲を確定する必要が生じた。天皇の晩年には、戦後「御物」と称されたものであっても、国有財産なのか天皇の私物なのかが曖昧になっていたのである。そして「三種の神器」をはじめ、歴代天皇の肖像・宸筆、皇室の儀式に用いる屏風や刀剣類など、皇室にゆかりの深い品は、皇室経済法第7条により、引き続き「御物」として天皇の私物とされた。その一部は相続税の課税対象となっている。残りの絵画、書、工芸品などの美術品類約3,180件(約6,000点)は1989年(平成元年)6月、遺族から国に寄贈された[9]。これらの国有財産となった美術品類を適切な環境で保存研究し、一般に公開する目的をもって1993年(平成5年)に、皇居東御苑内に「三の丸尚蔵館」が開館した[4]。地上2階建て、総床面積約1600平方メートル、1階には約160平方メートルの展示室と売店を設けたほか、約1000平方メートルの収蔵庫を備えている。当初は保存研究を主目的とした収蔵施設として建設を計画し、収蔵品の公開については博物館・美術館への貸出等を行って展示することを検討していたが、皇室の意向もあり当館内に展示室を設けることになったという[10]。
2014年8月、宮内庁が当館に新館を建設する構想を検討していることが明らかとなった。皇居東御苑は平成に入って以降入園者が増加し、2014年7月29日には公開開始以来の入苑者が2500万人を突破[11]、同年には年間の入苑者が初めて100万人を超えた[12]。皇居東御苑入苑者の増加に比例して当館の入館者も増えており、2014年11月15日には開館以来の入館者が500万人に到達、2017年5月28日には600万人を超えた[13]。宮内庁はこうした当館入館者の増加傾向や、皇室からの寄贈品の増加(#収蔵品参照)により収蔵庫が手狭になっている問題[14]を受け、新館を建設し『動植綵絵』30幅が並ぶ程度の展示スペースと新たな収蔵庫の確保をすることを構想した[14][15]。2015年12月、改修と新館建設に関する基本計画がまとまり、2016年1月、宮内庁より公表された。総床面積は既存部分の約3倍となる4800平方メートル、展示室は360平方メートル、収蔵庫は約1800平方メートルに拡張。このほか皇居の概要や皇室の歴史などを紹介するコーナーも新設。完成予定は2022年度と発表された[16]。2017年12月、宮内庁はこの計画を進めるべく、収蔵品の保存や公開の在り方を検討する有識者懇談会を設置した。しかし有識者からは、既存建物の増築や収蔵品の建物内移動などについて宮内庁の計画に否定的な意見が相次いだ。2018年6月、懇談会座長の宮田亮平文化庁長官が宮内庁の西村泰彦次長に反対意見を盛り込んだ提言を手渡した。これを受け、宮内庁は新館建設計画を撤回。既存の建物を取り壊し、大型の新築棟に全面的に建て替える方針を明らかにした[14]。最終的に展示室を従来の約8倍の1300平方メートルに、収蔵庫を従来の約4倍の4000平方メートルに拡張すること、外国人旅行客誘致を名目に建設費には国際観光旅客税(出国税)を充てることが決定された[17][8]。
2019年度から建て替え建設工事が始まり、工事期間中は収蔵品の展示ができないため地方の博物館などに積極的に貸し出されている。2023年11月3日に建て替えられた第I期棟が開館し、博物館の正式名称が「皇居三の丸尚蔵館」に改められた。2026年には旧館跡地に第II期棟が完成し、全面再開館する予定である。新たな施設には複数の展示空間が設けられるため展示品の入れ替えのための休館日がなくなり、皇居では初となるカフェが併設される予定である[6][7][8][18]。
皇族の私有物である御物、御物から国有財産に移されて三の丸尚蔵館が所蔵するようになった美術品、正倉院宝物、書陵部管理品といった宮内庁が管理する文化財は、慣習的に文化財保護法による指定の枠外となっていたため、三の丸尚蔵館の所蔵品は長らく国宝、重要文化財に指定されていなかった。しかしながら2018年(平成30年)6月、宮内庁の三の丸尚蔵館の今後の在り方を検討する有識者会議は「(国民に所蔵品の)価値を分かりやすく示すべきだ」との提言を行った[19]。そして2021年(令和3年)7月、文化庁の文化審議会は絵巻物の『蒙古襲来絵詞』[20]と『春日権現験記絵巻』[21]、狩野永徳の代表作『唐獅子図屏風』[22]、明治時代に京都・相国寺から宮内省が買い上げた伊藤若冲『動植綵絵』30幅[23]、平安中期の書家小野道風の『屏風土代』の計5件を、三の丸尚蔵館所蔵の文化財としては初めて国宝に指定するように文部科学大臣に答申した[24]。同年9月30日、答申通り上記5件が国宝に指定された[25]。
2022年8月23日に宮内庁と文化庁は、当館を2023年10月に宮内庁から国立文化財機構に移管し、同機構を所管する文化庁が収蔵品の管理を行う体制に改めることを発表した。この際、当館を文化財の管理と展示と地方展開に実績のある文化庁とその傘下の国立文化財機構に移管することで、三の丸尚蔵館の収蔵品の保存・展示・調査研究と地方展開などの円滑化と進展が図られると説明された[8]。
開館当初の主な収蔵品は、昭和天皇の遺族に継承された御物を除いて国庫に寄贈された、代々に渡って継承、献納、購入されてきた絵画、書、工芸品などの美術品類約3,180件(約6,000点)であった。その後、1996年(平成8年)に秩父宮妃勢津子の遺品が、2001年(平成13年)に香淳皇后の遺品が、2005年(平成17年)に高松宮妃喜久子の遺品(高松宮家が祭祀を継承した有栖川宮家伝来品を含む)が、2014年(平成26年)3月に三笠宮崇仁親王ゆかりの品を中心とする三笠宮家の所蔵品が、それぞれ寄贈されて追加収蔵された[4]。2014年(平成26年)時点で、約9,800点の美術品類を収蔵している[5]。
本館建て替え計画にあたって有識者らにより提言された報告書によると、2018年時点で収蔵品9,682点のうち2,484点が「優品」に分類され、国宝、重要文化財の候補になるレベルの質を持っているものか、作品が制作された時代、もしくは皇室の歴史と文化との関わりにおいて重要なものであると分類された。なお、この時点では三の丸尚蔵館の収蔵品は慣習的に文化財保護法の枠外であったため、極めて価値が高い文化財であっても国宝や重要文化財に指定されていなく、一部の収蔵品が初めて文化財指定されたのは2021年のことであった(前節参照)。その他の7,139点が美術的、歴史的価値を有し、博物館や美術館で展示することが適当なものであり、残り59点が美術的、歴史的価値が見いだし難く、展示は不適当なものとされた[3]。
収蔵品には、江戸時代以前から禁裏に伝来した品のほか、帝室技芸員に任命された美術家の制作した作品、焼失した皇居の明治宮殿で使用されていた調度、装飾品類、明治以降に旧大名家、旧摂関家や財界人等から皇室に献上された美術品などが含まれる。
主な収蔵品については以下を参照。
また主な収蔵品を以下に列挙する。
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